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2.ワインなんかもう飲まない



 目の前に現れたのはローブを纏った背の高い男性だった。


 フードを目深に被っていて顔はよく見えないが、その声音からは粗雑な気配は感じられない。



 さっきの男とは違って、きっと心配して声をかけてくれてるんだよね?


「あ、この女性が急に倒れてしまって」


 すると、ローブの男性は腰を落として倒れた女性の様子を伺った。


「ふむ……持病はありそうだが、致命的なものではなさそうだ。すぐに家に連れて帰って休ませれば大丈夫だろう」


 え?手をかざしたりしただけでわかるのかな。

 ゲームの中の魔法使いでもあるまいし……。



 呆然と考えていると、若い青年が声を上げてこちらに近づいてくる。


「あっ! 母さん!」



 それは女性の家族で、帰りが遅かったため心配になり探していたところだったらしい。


 意識を取り戻した女性は私たちにお礼を言って家族に支えられながら帰って行った。




「はあ、よかった……」


 溜め息混じりに呟くと、こちらに顔を向けて隣に立つローブの男性と目が合った気がした。


「あっ……」


 なんか気まずいな。

 ここは一旦離れてまた違う人に聞いてみよう。


「ありがとうございました。ではこれで、」


 そう言って勢いよく歩き出そうとした瞬間、胃の奥から猛烈な何かが込み上げてくる衝動に耐えきれず、体が揺れた。


「うっ……」

 や、やばい、吐きそう……!


 そうだ、私二日酔いだったんだ……!



 その瞬間、思わずしゃがみ込みそうになった私を、ローブの男性が力強く支えそのまま横抱きにされた。



 えっ?!



「大丈夫か? 顔色が良くない。お前こそ体調が悪いのではないか?」


 彼は真剣な声でそう言って、私の顔を覗き込んでいる。


 その瞳は美しいサファイアブルー色をしていた。


 フードの影になって顔の全体像はよく見えないけれど、確実に美青年であることだけはわかった。


 私をがっしりと支えてくれる逞しい腕や胸板の感触が体に伝わってきてドキンと心臓が跳ねる。



 ど、どうしよう。



 そんな私の様子に気づくこともなく、彼はふと小さく呟いた。


「小さいな……。女とはこんなに小さな生き物なのか」



 えっ?


 あ、あなたが大きすぎるだけなんじゃ、と思ったけどなんとなく口に出さずにいた。



 彼が本当に不思議そうにしてたから。

 

 こんなに美しい顔立ちなら沢山の女性が寄ってきそうなのに、女性とのお付き合いをあまりしたことがないのかな。



「大丈夫か?」

 心配そうにこちらを覗き込む瞳に私は言葉を返せずにいた。



 だって…………、こんなに親身になってくれる人に『ただの二日酔いです』なんてすごく言いづらい……!!



 考えあぐねてモジモジしていた瞬間、頭に被せていたスカーフがはらりと落ちる。


 彼は露わになった私の髪を見た瞬間、固まった。




 や、やばい!この髪色ってこの辺りでは普通じゃないのよね。

 先ほどの出来事を思い出し、嫌な予感が掠める。


 とはいえ、この人はそんな変な人ではなさそうだけど……。



 ううん、知り合ったばかりでこの人のこと何も知らないもの。

 用心するに越したことはないよね……!



「まさか! ……いやそれにしても予兆は見られなかったはずだが」


 彼は考えを巡らすように何かをぶつぶつと呟いている。



 ちょうどいい!

 この隙に逃げなくちゃ!


 そう思い、彼の手から逃げようとしたその瞬間、先ほどよりも盛大に頭にズキッと痛みが走る。



 ああ、もう私、絶対ワインなんか飲まない……!


 そんな後悔の念とともに、不覚にも寝落ちするように彼の腕の中でそのまま意識を失ってしまったのだった。

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