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26.人魚の涙

 その後は特にいつもと変わったこともなく、あっという間にお茶会の当日になった。


 レニは私を安心させようと『大丈夫、私が絶対に離れないから。副所長も全力を尽くしてくれるはずだし、所長はあの夜会以来、ティナ様の警戒をして動向を監視しつつリシャに何も起きないように気を配っているのよ』ということを教えてくれた。



 そもそも、聖女として召喚されてきた異国民は人々から期待をかけられることも多いがそれ以上に敵も多い。それは扉について調べていくうちに過去の聖女様たちの活躍を知ると同時に分かったことである。

 奇跡を起こす聖女を妬んだり、その力を利用しようとする不届きな者も多く存在したようだ。



 歴代の聖女様はみんな苦労してきたのね……。私なんか何もできない仮聖女なのに、レニやナジェやハニカ様を始めとして、エメラルド塔の人たちにこんなに良くしてもらえるとは、なんてありがたいことなんだろう。



 お茶会は午後3時からの予定だ。それまではいつも通りに仕事をして今日の分を終えた。もうすぐ時間になる。他の魔道士たちは準備に駆り出されているので、今はナジェとハニカ様とレニの4人で待機している。


 安全を考えて、定刻直前に4人で向かおうということだった。




 そこへ魔道士の一人が顔を見せた。


「どうだ?」

 ナジェが魔道士に問いかける。


「はい、今日まで観察を続けて、ならず者への接触も傭兵を雇うような素振りもなく、特に怪しい動きはありませんでした。現在、侯爵邸を出て王宮に向かっているようです」


 魔道士はきびきびと答える。


「?」


 私の不思議そうな顔を見たナジェはさらっと答えた。


「令嬢に怪しい動きがないか探らせた」



 そうだったんだ。



 そして魔道士は少し様子を変えて「関係あるかわかりませんが」と前置きをしてから話し始めた。


「一つだけ気になったことですが、昨日、人目を避けるように買い物に出ていました」



「人目を避けて買い物?」

 レニが目を鋭く光らせて言う。


「何を買った?」

 すかさずナジェが聞いた。



「人魚の涙です」


 その魔道士が何故か少し恥ずかしそうに答えると、ナジェとハニカ様とレニの3人は一斉に頭を抱えた。



 私は彼らのその反応も、人魚の涙という意味もよくわからず、みんなの様子を見ているしかなかった。どういうことだろう。


 レニがいつもとは違う引き攣った顔で、独り言のように呟く。

「もしかして、所長に飲ませる気じゃ……」



 どうしても気になって思わず聞いてみる。

「飲み物なの?」


「媚薬よ」


「びやく……?!」


「人魚の涙を飲んだ後、一番最初に顔を見た人に恋い焦がれてしまうっていう、ある意味劇薬ね」


 レニが溜め息交じりに言ったその言葉にナジェとハニカ様もはあ、と息をついた。



「まさか、惚れ薬とは……まあリシャへ攻撃的じゃなくてよかった」


 レニは呆れたように言ったけれど、いや、それもよくないでしょ!



 だって、ナジェのそんな行動を目の前で見せられてしまうなんて、私にしてみれば相当な破壊力を持った攻撃だわ。そんなことみんなには言えないけど……。


 そんな焦りや不安で、うまく言葉が出てこない内に王宮のメイドさんが私たちを呼びにきてしまった。


「ヴェルナー侯爵令嬢がお着きになりました」

 それを聞いてナジェは背筋をピンと伸ばして私の手を取った。


「では行こう」


 えっ?!もう行くの?何か対策しなくていいの?!どうするの?!


 私の動揺をよそに3人とも涼しい顔で歩き出していた。


 えーん!行きたくないよ〜!!


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