25.お詫び
翌朝、いつものように研究室に行くと、難しい顔をしながら手にしている紙を見つめるハニカ様とレニが話し込んでいた。2人の周囲には豪華な包装がされている沢山のプレゼントが取り囲んでいる。
「おはようございます」
声を掛けると、2人はあっという顔をしてこちらに向き直る。その様子が不思議でさらに問いかけた。
「どうかしたんですか?」
答えにくそうにしているハニカ様を、レニが促す。
「副所長、これは行かないわけにはいかないですから」
「そうですね……」
ハニカ様は気が向かないといった風だったが、私の方へと向き直り話し始めた。
「実はですね、ヴェルナー侯爵令嬢から先日の夜会の件のお詫びが届いたのです」
ああ、このプレゼントの山はそういうことなのか。
「それで……リシャ様とエメラルド塔の我々を王宮のお茶会へとお招きしたいと」
そう言ってこちらに見せるその紙は、先日貰った夜会の招待状と似たものだった。だが封蝋に押されている紋章が以前貰ったものとは少し違った。これは金色に輝き凄く豪華な雰囲気が漂っている。
「これは王宮からのお知らせです。国王陛下の許可を得た催しとなってしまっているので行かざるを得ません」
ハニカ様はそう言って少し沈んだ表情になった。
えっ…………今度こそ絶対に断れないのね。
見かねたレニが続きを話す。
「所長はこれを見てすぐに王太子殿下のところへ出向かれたの。殿下に抗議してるかもしれないけど、おそらく覆すことは難しいと思うから」
そう言って苦笑いから、少しピリっとした表情に変えて続ける。
「今度は何も起きないように私と副所長が絶対リシャの傍を離れないからね!」
ハニカ様も深く頷く。
「あ、うん。ありがとう」
「まあ、会場はすぐ隣の王宮の庭園だから、何かを仕掛けようもないと思うんだけどね。きっと所長も殿下にお願いして警備を強化してくれると思うし」
レニはそこまで言ってから、少し笑って呟く。
「あの様子じゃ、殿下を脅して蟻の一匹も見逃さないような態勢を整えるでしょうし……ふふ」
ん?脅す?
何か不穏な言葉が聞こえたような気がするけど、レニがこうなったときは元に戻るまでそっとしておくに限る。
あれ、でも大切な疑問が湧いてきた。
「どうしよう、またドレスとか着なくちゃいけないのかな?」
この前の夜会を思い出す。ドレスやアクセサリーで着飾るのは楽しかったけれど、あのとき実はウエストが窮屈すぎて辛かった。お茶会といえば美味しいお菓子がつきものだろうから、あの格好だとあんまり食べられない気がしてちょっと残念なのだけど……。
「ううん。今回はエメラルド塔の魔道士たちへの労いの会という名目でもあるから、このローブが正装になるのよ。これに正装用のマントを羽織るの。あとで王宮から届くと思うわ」
よかった!それならほぼ普段通りの格好でいいんだ。
「じゃあ、動きやすいね。王宮のお茶会ならきっと美味しいスイーツがたくさん出るんだよね?」
スイーツを思い浮かべて目を輝かせていると、レニとハニカ様が顔を見合わせた。
「もう、リシャったら」
呆れ顔でそう言うレニの隣ではハニカ様がニコニコ笑っていた。




