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21.ナジェの夢

「取り敢えず屋敷に戻りましょう」


 ハニカ様がそう言って私の手を取り、レニも頷きながら私を促す。それに応えて一歩を踏み出すと、足首にズキッと痛みが走った。


 さっきは腕の傷に気を取られて気づかなかったけど、きっと狼から逃げたあのときに足を挫いたんだ。これ以上2人には心配も迷惑も掛けたくなくて、なんとか気力を振り絞って歩いた。


 お屋敷の中は騒然としていた。


「これじゃあもう今日はお開きですよね」

 レニは溜息をつく。


「ええ、我々も馬車を呼びましょう」

 ハニカ様が近くに居たメイドに馬車の用意をするように伝えている。



 そんな周囲の様子を感じ取りながらも、足が痛すぎてもう立っていられそうにない。なんとか我慢しなくちゃという私の理性も虚しく、その場に崩れ落ちそうになった。


 その瞬間、どこから現れたのか、気づいたらナジェの手が私の身体をしっかりと支えてくれた。


「あ、ありが」


 言い終わる前にナジェは私を抱き上げて歩き出す。



「え?! ちょっと……!」


 私の焦る様子を気に留めることもなくナジェは何も言わずに歩き続け、レニとハニカ様の唖然とした表情が遠ざかって行く。



 気づけば馬車の前まで来ていた。ナジェが手配してくれたらしいその馬車に乗り込み、ようやく私は座れ……なかった。


 彼はそのまま私を離してくれず、抱きかかえたまま座り馬車は出発した。


 な、何だろうこの状況は……!心の中はとても焦ってるんだけど、この体勢は物凄く気まずいんだけど、なぜか降ろしてほしいなんて言えない空気だ。


 彼の顔を窺い見ても、いまいち感情が読み取れない。ナジェっていつもそう。あまり思っていることを表に出さないから勘違いされがちだけど、時折見せる子供っぽいところとか、優しいところがまたいいのよね。


 ううん違う、そういうことじゃなくて!いや、それにしても近い!顔が近いよ!


 私が一人、脳内会話を繰り広げているとナジェがぼそっと呟いた。


「悪かった」


 えっ?なんでナジェが謝るの?


 自分の感情がうまく言葉にならなくて何も言えずにいると、彼はまるで壊れ物を扱うように私の髪にそっと触れた。


「やはりお前は小さいな」


 そう言ってこちらを見つめるこの甘い空気にますます何も言えない。最早ドキドキを通り越している。ナジェってこんなキャラだったっけ……?




 そんな状況にも関わらず、その日、色々あり過ぎた私は彼の優しさと温もりに安心してしまったのか、襲ってきた強烈な睡魔に勝てなかった。



◇◇◇



 次の日の朝、自分の部屋のベッドで目覚めた私は焦ったなんてものじゃない。なんで寝ちゃったの私……!


 治癒魔法をかけられると、浄化作用が働いて一定時間眠くなるということは魔道士の常識らしく、以前ラガの街から帰った後にレニが教えてくれていた。


 だから昨日も当然といえば当然なのだけど、ナジェにお礼も言えずあの状況で眠りこけたなんて恥ずかしすぎる……。


 それにしても変な夢まで見てしまった。ナジェに優しく頭を撫でられ、そっと額にキスをされた夢だ。


 わ、私そんな夢を見るほど心底彼に惚れてしまったの?


 恥ずかしくて思わずベッドの中でジタバタすると、挫いた足が治っていることに気づいた。きっとナジェが魔法で治してくれたのだろう。だから余計に目が覚めなかったわけだ。


 冷静になってみると、昨日はあのまま目が覚めなくてよかったのかもしれない。自分の気持ちに気づいてしまった以上、これから彼とどう接していいのかよく分からない。



 彼はああ見えてとても責任感が強いから。昨日の謝罪の言葉も、きっと自分の婚約者の家で私があんな怪我をしたことに責任を感じているのだろう。


 いや、その怪我だってレニとナジェが魔法で治してくれたんだから、もうなんてことないのだけれど。


 ふうっと息をついて落ち着きを取り戻す。そういえば本当はレニの家に帰って着替えるはずだったんだ。


 気づけばドレスはきちんとハンガーに掛けられて、アクセサリーはドレッサーに綺麗に並べて置いてある。


 どうやらナジェが、王宮のメイドさんを手配して着替えさせてくれようだった。


 このエメラルド塔では、日常生活は基本的に自分のことは自分で行うのが通常だが、必要なときにはいつでも王宮のメイドさんにお手伝いを頼めるのだ。



 そうこうしている内に食事を届けてくれるメイドさんがやってきて、研究所の方はお休みして、2、3日部屋で安静にするようにとの伝言を受け取ってしまった。


 治癒魔法のおかげで身体は全然平気だったけど、みんなに心配をかけてしまったこともあり、私は大人しく従うことにして部屋で休んでいた。


 うーん、しかし暇だなあ。


 手持ち無沙汰になり退屈してきたところで、部屋にノックの音が響いた。


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