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1.星の輝く夜に



「いたたた……」


 ズキズキする頭の痛みを抱えながら、ひたすら夜道を歩く。


 うう、体は怠いし頭は痛いし、ツイてない……。

 ほんと最近ツイてないことだらけ!


 そう心の中で叫んだ瞬間、再び頭にズキッと痛みが走る。


 うっ!さすがに飲みすぎた〜。

 これは完全に二日酔いだ。


 昨日、仕事から帰ってきてちょっとだけのつもりが、しこたまワインを飲んでしまった。


 休日前だから羽目を外したくなったというだけじゃなく、私はかなり落ち込んでいたのだ。


 だって、お昼休みに若い後輩たちが私の陰口言ってるの聞いちゃったんだもん……。

 色気も取り柄もないアラサーで可哀想とか、仕事と家の往復で彼氏作るのも大変そうとかなんとか……!


 アラサーだろうがアラフォーだろうがアラフィフだろうがそれ以上だろうが、いいじゃない!

 私だって頑張って生きてるんだから……!



 ――――でも、確かに、会社と家の往復の毎日でいつの間にか30歳になって、このままでいいのかな、という漠然とした思いはある。


 なんか、もっと他に自分に相応しい居場所があるんじゃないか、やるべきことがあるんじゃないか、なんて思ったりする。


 と、まあ、そんなことを考えながら飲んでたものだから、ついつい飲みすぎちゃった。


 折角仕事帰りに買ってきた乙女ゲームの新作もまだ手付かずのままだ。


 ふう、思い出したらまた落ち込んできちゃったな。



 感傷に浸るように辺りを見回すと、近くにはお洒落な洋風の建物が立っていて、中から賑やかな音が聞こえてくる。


 なんだかゲームに出てきそうな酒場みたいだ。


 周囲をまばらに歩いている人はみんな背が高くて彫りの深い顔の人たちばかりなんだもの。

 

 ああ、あの人は美しい金髪ね。

 あっちに立ってる女の人なんか、ブルーの綺麗な髪色が輝いて色気たっぷり。


 いいなあ、私なんか万年黒髪ロングの童顔で色気のいの字もないよ。


 そんな謎の落ち込みを抱えて天を仰ぐと満天の星。


 その中でも一際目立つ金色とブルーの色をした星が、まるで寄り添うように輝いているのが目に映る。



 すごい綺麗……!


 都会と違って高層ビルも派手なネオンもないからこんなに星が綺麗に見えるのね。


 ああ、あの金色とブルー色をした星まではっきりと見えるんだもの。





 ……って、ここは何処?!?!


 何?!金色とブルー色の星って!


 髪色が金色とかブルーとかピンクの人しかいないし。


 建物全部洋風だし。


 みんな彫りの深い顔だし。


 微かに聞こえてくる周囲の人たちが話してる言葉、日本語じゃない……。


 


 あ、あれ?そもそも私、ワインを飲んでから寝落ちしたんだよね?

 それなのにまだ辺りは夜で、外にいるなんておかしくない?!

 

 しかも、ここ日本じゃなさそうだし……!



 パニックになりそうな頭を抱えたその時だった。


「おい!」


 そう言って後ろから伸びてきた手に腕を掴まれる。


「はい?」


 反射的に返事をして声の主へ振り向くと、そこには見知らぬ外国人の男性が居て私を見てニヤッと笑った。


「あんた、珍しい髪色しているな」



 げっ、なんかこの人、危険な香りがする!


「ちょっと来いよ」


 そう言って、そのまま私を引っ張っていこうとする。


「何ですか? やめてください」


「いいから来い!」


 あれ?明らかに日本語じゃないのに、意味がわかるし話せてる。


 その事実に気づき少し冷静になれた。



 いやいや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。


 この変な男から逃げなくちゃ!



 私が大声を出して抵抗していると、わあわあと喚いている私たちに気づいた男女のカップルが助けに入ってくれた。


 男はチッと舌打ちをして酒場らしき建物に入って行く。





「ありがとうございました」


 助けてくれたカップルにお礼を言うと、女性が煙草に火をつけながら言った。


「あんた珍しい格好してるね。何処から来たの?」


 あ、言われてみれば普通のシンプルなニットにフレアスカートの私は周囲の人を見渡す限り、完全に浮いていた。


「あ、えーと……」

 返答に詰まり曖昧な返事をする。


「ラガの街か? なら早く帰んな。ここにいたら勘違いされるよ」



 何と勘違いされるんだろう。


 ふと疑問に思ったが、目の前の女性や周囲にまばらに立っている女性たちの艶かしい色気や露出の高い服装を見て、質問を飲み込んだ。



 そ、そっか。


 ここでフラフラしてた私もいけなかったのね。

 うん、早々に立ち去ろう。

 


「あ、はい。ありがとうございました」


 私がそう言うと、女性は胸元からスカーフを取り出してこちらへ差し出した。


「その頭、目立つから隠した方がいいよ」


 !

 確かに、黒髪の人が一人もいないし、さっきの男もやけに髪色に引っ掛かってた。


 なんとなく従った方がいいような気がして、差し出されたスカーフを受け取りありがたく女性の好意に甘えた。


「ラガの街ならこっちの道から行くと近いから」


「はい。本当にありがとうございます」


 お礼をして、女性の指差した方向へ歩き出す。





 はあ、何でこんなことになっちゃったんだろう。


 スカーフを被った私は溜め息をつきながらとぼとぼ歩く。



 行く当てなんてないよ〜!


 あの女性は『ラガの街』って言ってたよね。

 街なら何かしら家に帰る手掛かりがあるかな。


 まずはここが何処なのかわからなくちゃ帰り様がないもの。



 そうしてしばらく歩くと、別の街らしき景色が見えてきた。

 ここがラガの街かな?


 そう思い見渡してみると、先ほどいた場所よりも明るさがまばらで活気がない。


 なんかさっきと大違いだな……。


 周囲を歩いている人も覇気がなくて、服装が質素だ。



 とりあえず、誰かに聞いてみよう。

 そう思い、近くを通った女性に声を掛けた。


「あの、」


 そう声をかけると、私が最後まで言い切る前に女性は急にふらりとその場に崩れ落ちる。



 えっ?!何?


 慌ててしゃがみ込み女性の顔を見るとひどく青ざめた顔をしている。



 もしかして貧血とか?

 それとも風邪で高熱出してるとか?!


 額に手を当ててみるが、熱はない。



「あの、大丈夫ですか? 聞こえますか?!」


 女性の肩を支えて声を掛けるがあまり反応がない。



 どうしちゃったんだろう……!

 


 女性の肩を抱いて慌てふためく私の前に、スッと大きな影が立ち塞がった。



「どうした?」


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