17.奪われる訳にはいかないの(ティナ視点)
私には手に入らないものなどない。
これまで欲しいものは何でも手に入れてきたのだ。少し時間がかかっても、お父様に言えば全てが揃った。
そのための努力だって惜しまなかった。人一倍教養を学び、朝から晩まで完璧な淑女になるために努力を重ねてきたのだ。私は誰よりも美しく、優位に立っていなければいけない。
周囲の男性達は私が美しく着飾り、笑顔を振り撒けばなんでもしてくれた。求婚してくる者たちだって絶えない。
そんな私が手にできないものなどこの世に存在するわけがないのだ。
それなのに、あの方はひたすら想いをぶつける私に目もくれず、いつも私をさり気なく避けた。
それでも私はあの人の婚約者だと周囲に誇示してきた。私を避けるけれど拒絶なんてしないもの。きっと確かなきっかけが必要なだけ。
私にはそうする権利があるし、それを邪魔する者などいなかった。
そう、あの日までは。
噴水の前のベンチに腰掛けて、楽しそうに笑い合っているあの2人を見たときに私の心は不協な音を立てた。
あの方のあんな優しそうな顔、見たことがない。
夕暮れのエメラルド塔で見かけたときもそうだった。
女性をエスコートして歩くなんて、見たことがない。それがたとえ義務だとしてもあの方は拒むはずなのだ。
それなのに、あの女を大事そうに、その手を取って歩いていた。
無論、私でさえ受けたことのないそれをあの女は手に入れたのだ。
突然現れた異国の女。
あの女だけは絶対に許してはならない。
私の邪魔をする者は決して許さない……!
この会場に現れたあの女を見るあの方の顔。
髪を一房掬い取って唇を落とした表情を見て瞬時に悟った。
このままでは駄目だわ、絶対に。
あの女に、私達の寄り添う姿を見せるだけで十分だと思っていたけれど、今日の計画だけでは足りないわ。
私は気を取り直して目の前にいる3人の令嬢たちに声を掛けた。
「貴女たち、以前話しておいた作戦に少し手を加えるわ。今から1階の庭園にあの女を誘導して私の姿を見せたら、女を“白の扉”へ誘導しなさい」
白の扉を解錠しておくよう、執事に話しておかなければ。
令嬢達はハッとした顔をして一瞬息を潜めたが、何も言わせないように一人ひとりを見つめる。
私の顔を見て、それ以上何かを言う者はいない。
「わかりましたわ、ティナ様」
皆、口々にそう言って頷いた。
そう、それでいいの。
これ以上あの女に、あの方を奪われる訳にはいかないの。