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16.ティナの策略

 ひとしきりの感動を終えたところで、部屋のドアがノックされた後、一人のメイドさんが入って来た。


「ユリウス・ハニカ様がお迎えに来られました」


「さすがは副所長、時間ぴったりね」

 レニがパチンと指を鳴らして讃える。


 侍女のマリアさんにお礼を言って、私たちは玄関へ向かった。




 そこには正装したハニカ様が待っていた。いつも美しいけれど、その倍以上に輝いていて近寄り難い。


 ぼうっと突っ立ている私に気づいたハニカ様は足早にこちらへやって来る。



「リシャ様……」


 あまりにもまじまじと私を見つめるのでなんだか恥ずかしくなってしまう。



 ハニカ様はもじもじしている私の手を取り、甲にそっと唇を落とした。


 ?!


 あ、こ、コレってよく貴族男性がするやつだよね。夜会へ向けての儀式だよね、きっと。慣れないと変に意識しちゃいそう。



「とても綺麗です」


 ハニカ様の美しい所作と甘やかな視線にドキドキしながらも、なんとか年上の余裕を保ち笑顔を繕った。


「ハニカ様もとっても素敵です」


「ありがとうございます」


 美しい笑顔を浮かべながらそう言って、さり気なく私の手を自分の腕に回して歩き出しエスコートしてくれた。動きの一つひとつが優雅だ。



 会場までの馬車は私たちと、レニとエスコート役のお兄さんの4人。


 レニのお兄さんはこれまた気さくで優しい素敵な人だったので、道中は緊張が解けて楽しく過ごせた。





 会場であるヴェルナー侯爵家に着くと、もう既に沢山の人が集まっている。


 見渡す限りの煌びやかな装いの人々を眺めながら、なんだか場違いなような気がして気後れしてしまう。


 ハニカ様の優しい笑顔が隣になかったら、きっと居た堪れずに帰ってしまっていたかもしれない。




 お屋敷の中に入ると、レニやハニカ様はすれ違う人々としきりに挨拶を交わして忙しそうだ。


 一通りの挨拶が終わると、レニはお兄さんとダンスを踊りにステージのあるフロアへ。ハニカ様はダンスが出来ない私を気遣って飲み物を取りに行ってくれた。



 手持ち無沙汰になってキョロキョロ会場内を見回していると、軽食やスイーツが置いてある一角を発見した。



 美味しそう!


 貴族のパーティーで出るスイーツってどんなのがあるんだろう。



 興味を惹かれて凝視していると、その近くに立つ煌びやかなドレスに身を包んだ美女と長身の美しい男性が目に入った。



 ナジェとティナ様だ……。



 思わず目を離せないでいると、ナジェがふとこちらに顔を上げて私の視線に気づいてしまったようだった。彼は私を視界に捉えたその瞬間、こちらに向かってスタスタと歩き始めた。


 えっ?こっちに来てる?


 私は驚きながらも、どんどん近づいてくるナジェから目が離せなかった。魔道士のローブ姿とはまた違い、正装したナジェは想像以上に魅力的だった。



 なんかおかしい私。胸のドキドキが止まらない。しかもナジェが近づいて来る程に鼓動が早く大きくなってくる。



 ついに目の前に着いたナジェは私をじっと見つめる。


「リシャ……」


 な、なんだろう、このさっきのハニカ様と同じような反応。



 さっとナジェの手が動いたので、私はてっきり先ほどのような“夜会へ向けての儀式”が行われるのかと思い手を差し出そうとした。


 すると、ナジェのその手は私の髪を一房掬い取り、そこへ静かに唇を落とした。



 な、なななな何?!


 これは一体どういうシチュエーションなのだろう。


 彼の顔を見上げると熱のこもった甘やかな視線とぶつかり、私の心臓は壊れそうなほど、鼓動が早く大きくなってくる。


 どうしよう、何か話さなきゃ私、変になりそう……!




「婚約者を一人にしちゃダメじゃない」


 いつもとは全く違う雰囲気にどうしたらいいのか分からず、やっと作れた笑顔で言ったその言葉に一瞬ナジェの顔が曇った気がした。



 えっ?なんだろう、この反応……。



 ナジェが口を開きかけた瞬間に、ちょうど横から歩いてきた人たちに間を塞がれ、なんとなく逸れてしまった。



 私は焦り、人混みをかき分けてナジェを探そうとしたが、もう一度思い直してその先へ進むことをやめた。


 ……これでいい。これ以上話してはいけない気がする。深追いするのはやめておこう。

 



 私は深呼吸をして気持ちを落ち着けて、彼のいた方向から目を背けハニカ様を探すことにした。


 どこまで飲み物取りに行っちゃったのかな。






 周囲を見回しながら探していると、3人の令嬢が近づいてきた。


「ごきげんよう、リシャ様」


 あ、私のこと知ってるんだ。エメラルド塔の関係者かな。


「初めまして」


「魔法研究所の副所長様なら1階の庭園でお待ちですわよ」


 3人の中でリーダー格のような令嬢がにっこり笑って教えてくれた。


「そうですか、ありがとうございます」


「ご案内いたしますわ」


 丁寧な言動で私を誘導してくれて、悪い人では無さそうなので安心した。貴族の人って本当に優雅だなあ。




 1階に降りて庭園へと繋がる道を歩いていると、一人の令嬢が「きゃ!」と小さく叫んだ。


「皆様ご覧になって!」


 高揚した様子をしながら小声で言う彼女が示す方向を見てみると、2階のテラスにいるティナ様とナジェの姿が目に入った。



 少し離れているので声までは聞こえないが、お酒に酔ったのかフラついたティナ様がナジェの体に寄りかかり身を預けた。


 彼の表情までは見えなかったが、そのシチュエーションだけ見ればまさに甘い恋人同士のそれだ。




 なんか、あんまり見ていたくないな……。


 そう思ったその瞬間、ティナ様の背中に手を回すナジェの姿を見て私の思考は一瞬にして停止した。


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