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12.スピン親子

 スピンと話をしているうちに、かなり時間が経ったことに気づく。


 さすがにナジェがもう戻って来ているかもしれない。



 そう思った私はキリのいい所で、スピンにまた来る約束をして今日は帰ることにした。




 玄関で見送ってくれているスピンに別れを告げて歩き出し馬車の止まっている方を見ると、こちらを指差している御者さんとナジェがいるのが見えた。


 あ、ちょうど今戻ってきたのかな。


 その様子を見つめていると、ナジェは私に気づきほっとした顔をした。


 突然いなくなったらびっくりするよね、急いで戻ろう。

 ふと振り返るとスピンはまだ私を見送り手を振っている。



 可愛い……!

 思わず顔が綻びつつ、手を振り返し前を向こうとした、その時。



 横から先ほどの詐欺師の大男が私を目掛けて走ってきているのが見えた。

 その手にはキラリと光る鋭利な短剣が握られている。



 えっ!!!なんでまた戻って来たの!?


 さっきの『警備隊が来た』と言ったのが嘘だったとバレてしまったのかもしれない。

 


 そんなことを考えていると同時にスピンが私の方へ走って来る。


「おねえちゃんあぶない!!」


 い、いや、あんたも来たら危ないから!!


 声を上げるスピンに気づいた大男はなんとスピンを捕まえようと標的を変え、短剣を振り上げた。


 それを躱すように、私は咄嗟にスピンに腕を伸ばし抱きかかえて思わずぎゅっと目を瞑った。



 それと同時だった。


「リシャ!!」


 ナジェの叫び声が聞こえて、私は何かに強く引っぱられた。




 気づくとナジェが私を胸の中に庇い、大男を蹴り倒したところだった。



 た、助かった……。


「ありがとう……」

 私が呆然としながらお礼を言うと、ナジェはふうっと息をついて私が抱えているスピンを見つめて言った。


「この子供は誰だ?」


「うーんと、さっき友達になったの」

 私が答えていると、スピンがもぞもぞと動きながら私に訴えかけてくる。


「おねえちゃん、くるしいよ……」


「あ! ごめんごめん」

 私は力を込めていた腕を緩めると、スピンはぷはーと私の両腕から顔を上げた。


「でもありがとう!」

 そう言って満面の笑顔を浮かべている。


 なんて可愛いのだ。




 私はナジェに事情を説明すると、彼は大男を街の警備隊に引き渡し、一緒にスピンを家まで送ってくれた。


「おにいちゃんもありがとう!」


「あぁ」

 スピンの頭に軽くぽんと手を乗せて撫でるナジェの表情はとても柔らかで優しかった。


 こんな表情もするんだ……。

 その優しい表情から思わず目が離せなかった。



 スピンが家に入るのを見届けてから、私たちは馬車へ戻った。


 馬車へ乗り込むためにエスコートしてくれるナジェの手を取った瞬間、彼は目を見開いて小さく叫ぶ。



「怪我してるじゃないか!」


 あ、あれ?ほんとだ。

 見ると腕の部分が切れて、皮膚まで到達したのか少し切れている。


 そういえば気づいてみると、なんかヒリヒリするような……。

 さっき腕を伸ばしてスピンを抱えたときに、大男の短剣が掠ってしまったようだ。




「今日はリボンはつけていなかったのか」


 あぁ、ローブと一緒に支給された髪飾りのことだよね。


「うん、洗濯しちゃって。なんで?」


「あれは保護魔法がかかっているんだ。この程度の怪我なら避けられる」


「そうなんだ」


「俺の魔法で治そう」

 そう言ってナジェはエスコートした手に少し力を込めた。

 そして、もう片方の手で私の頭を撫でるように髪に優しく触れる。


「えっっ?!」


 不意に与えられた優しい感触に、私は思わず慌ててしまう。




「っ……。治癒魔法をかける時は触れないといけない」


 ナジェは一瞬俯き、いつもと変わらず冷静な声でそう言った。


 あっ、そいうことか。び、びっくりした……。

 そういうことは、先に言ってほしいのよ。



「これからは必ずリボンをしておくんだ。エメラルド塔の外に出るときは特に」



 いつもの素っ気ない言葉や態度とは裏腹に、私の手や髪に触れるその手はとても優しかった。


 その事実が、私の心をぽかぽかと温かくした。

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