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11.ラガの街


 恥ずかしさや気まずさなど、次々と湧いてくる様々な気持ちを押し隠しながら耐えていると、馬車の外から賑やかな音が聞こえ始めた。


 どうやら街へ着いたようだ。



 窓からそっと外を眺めると、多くのお店や建物が立ち並び、人がたくさん行き交っているのが見える。

 その様子は活気に溢れ、見ているだけで楽しい。




 ギルドの前に到着してから一旦馬車を降り、受付を済ませた。


 私がギルドの大きな建物や賑わいに圧倒されているうちに、ナジェは沢山の書類に目を通したり、代わる代わるやってくる役人達と話しをしながらテキパキと手続きを終え、魔法石を受け取った。


 そうしてナジェを筆頭にして、従者の人たちと一緒に受け取った魔法石を馬車へ積み込んだ。




 一応これで目的は果たしたのよね。


 本当は街で色々なお店を見てみたかったけど、黙々と働くナジェを見ているとあまり我儘を言うのも気が引ける。



 今日は街に出て様子を見れただけでも充分だ。


 先ほどの恥ずかしさを引きずっていたこともあり、もうあまり余計なことを言うのはやめようと大人しく馬車に乗り込むことにした。




 少し走らせたところで、ナジェが馬車を止める。


 なんだろう?



「寄りたい所がある。少し待っていてくれ、すぐに終わる」


「うん」



 窓から覗いてみると、そこは先ほどいた街と比べて随分と寂しげだった。

 建物も古く、お店も閑散としていて活気がない。



 あ、ここって最初にこの世界に来た時に迷い込んだところだ……!

 ナジェと初めて出会った場所ってことだよね。

 

 ラガの街って言うんだっけ。



 あの時もそうだし、ここにはよく来てるってことなのかな。


 何してるんだろう……。




 そんなことを考えながら出ていったナジェを大人しく待っていると、しばらくして外から大きな声が聞こえてきた。


 見てみると、小さな男の子が大柄な男にしがみつきながら必死に何かを訴えている様子が見える。



 親子のようには見えないけど、どうしたのかな。


 次の瞬間、その大男はしがみついていた男の子を引き剥がした。

 すると小さな男の子は衝撃で後ろに弾き飛び尻餅をついた。


「!!」


 さらに男は足を上げて男の子を蹴り上げるような素振りを見せる。



 大変……!!


 私は咄嗟に身体が動いて馬車から転げ落ちるように降りて叫んだ。



「あ、危ない!」


 その声に気づいた大男は足を上げたままこちらをギッと振り返った。


「何だお前は!!」


 その剣幕に怯みそうになりながらも、勇気を振り絞って声を出す。


「あ、あなたこそ、その子に何しようとしてるのよ!」


「ああ?!」


 大男がこちらに向かってやってくる。



 うわっ

 なんか怖いよ!


 

 咄嗟に御者さんに助けを求めようと顔を向けると、大男の迫力に青ざめてカチコチに固まっているのが目に入った。



 ダメだ、頼りになりそうにない……。


 どうしよう!何とかしなくちゃ……!

 私は必死に頭を回転させて叫んだ。


「わ、私は王宮の魔道士です! 私に危害を加えれば王宮の騎士に捕まってしまいますよ!」


 大男は私の主張に怯みもせず、ずんずんこちらにやってくる。


「あ! 王宮の警備隊だわ!」


 大男の後ろを指差し叫んだ。



 その瞬間、大男は顔色を変えて逃げ出した。



 ふう、良かった…………。

 嘘も方便てよく言ったものね。



 ホッとした私は男の子に駆け寄り声を掛けた。


「大丈夫?」


「うん……」


 彼はひどく落ち込んだ様子だ。


「何があったの?」


 私が聞くと、そのつぶらな瞳に涙を浮かべて話し始める。


「あのね、あのおじさんからお父さんの病気をなおすクスリを買ってたんだけどちっともなおらないんだ」



 どうやら父親の病気を治すために何度も買った薬が全く効かず、男に聞いてみると突然怒り出しあんな扱いを受けたという。


 それってまさか詐欺なんじゃないの……?



 大体さっきも王宮の警備隊の名前を出した途端に顔色を変えて逃げ出したりして、かなり怪しいじゃない。


 後ろ暗いことをしている証拠よ!



「とにかく、またあのおじさんが来たら危ないから家に帰ろう。お家どこ?」


「すぐそこだよ」


 彼はすぐそばにある赤茶色の屋根の建物を指差した。



 私は御者さんにちょっと行ってきますと声を掛けてから男の子に向き直った。


「立てる? 名前はなんて言うの?」


 彼は私の差し伸べた手を取って、よいしょと立ち上がりながら答えた。


「ぼくはスピン」


「じゃあスピン、そこまで送るね」


「ありがとう。おねえちゃん魔道士なの?」


「うん、見習いだけどね」


「へーすごいね!」



 そんな話をしながら手を繋いで歩き、スピンを玄関の前まで送ると、彼は俯きながら振り絞るように私に問いかけた。


「おねえちゃん……。お父さんの病気、おねえちゃんの魔法でなおせない……?」


 心がぎゅっと掴まれたような気分になった。


 

 今の私には治癒魔法は使えない。

 多分、これからもずっと……。



「ごめんね、私、治癒魔法が使えないの……」


「そっか……」


 目の前で項垂れているスピンを見ているといたたまれない気持ちになる。

 私は少しでも何かをしてあげたくて彼に言う。


「でも、魔法道具の研究をしてるから状況が分かれば何か少しは役に立てるかもしれない。もし良かったらお父さんの症状についてもっと詳しく教えてもらってもいいかな?」


「じゃあ家に入って!」


 スピンはパッと顔を輝かせて私を家に招き入れた。



 古いその家は、薄暗くあちらこちらに埃が積もっていた。


 奥の部屋のベッドではスピンのお父さんが寝息を立てている。

 その寝顔はとても苦しそうだった。



 家の中は汚れが目立ち、着る服もベッドも古い。

 経済的に逼迫している状況であることは明らかだった。


 そんな時に父親は病気で、しかも詐欺に遭うだなんて。


 目の前の現実に心が痛かった。




「スピンはいくつなの?」


「7歳だよ」


 やっぱり、年の割に体が小さい。


 私は目の前の小さな身体を見つめ、どうしようもないもどかしさで心がいっぱいになった。


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