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side―ジェラルド

読みに来て下さりありがとうございます!

そしてそして大変ご無沙汰しております(;´・ω・)

 国家警備隊の取調室ではジュリエットを誘拐しようとした男の尋問が行われていた。

 男の目の前には以前、国家警備隊から紛失した魔封じの腕輪、それを男が使用したという鑑定書を添えた証拠書類が並べられ、男は目を泳がせている。

 取調室の中の様子は取り付けられた魔道具によって、隣の部屋に映像と音声が流れる仕組みとなっており尋問中の映像をジェットこと、ジェラルド・オーレナイが険しい表情で眺めていた。


「魔封じの腕輪の鑑定とは……流石だなジェラルド」


 そこにジェラルドと共に尋問の様子を見ていた男が、感心した様子で話しかけてきた。


「恐れいります閣下」


 ジェラルドは組んでいた腕を解き、寄りかかる壁から体を離すとその人物に向かい軽く会釈をした。そして、鑑定した証拠書類を興味深く読んでいる熊のような大男にチラリと目線を向ける。


――レイモンド・スワロフ公爵

 王国騎士団の騎士団長であり、スワロフ公爵の称号を与えられた現王の弟だ。

ヘリオドールの王族が持つ鮮やかな橙の髪色に自然と目が行き、大きな体に騎士団の白い軍服がよく似合う美丈夫であるが、その存在感と威圧感にレイモンドを初めて見た者は思わず後退りしてしまうという。


 王国ギルドの印章が押された鑑定書には、魔封じの腕輪を使用する際に流した魔力の残留と犯行グループ一人一人の血液検査を照合した鑑定結果や、腕輪の内側に付着していた血痕がジュリエット・セレスタインのものだという鑑定結果などが記されている。

これらの鑑定から現在尋問中の男がジュリエット・セレスタインに腕輪を嵌めさせた人物で誘拐の実行犯であると導き出された。

取調室では捜査官の淡々とした説明する声が響いており、男の顔面はどんどん真っ青になっていくのであった。


「しかし、魔力の素となる血液の解析をして魔道具を使用した者を特定するなど、よく思いついたな」

「実は弟から頼まれていた依頼だったので、私の思いつきというわけではないのですよ」

「なに、ラインハルトからだと?」


 不可解な面持ちをしたレイモンドに対し、ジェラルドは魔封じの腕輪を持ってきたライに鑑定を依頼された時の事を説明する。

ちなみに血を採取するのに牢に侵入し、ジュリエットを殴った男をついでに吹っ飛ばした事は伏せた。


「ほう……」


 レイモンドは興味深げに顎をさすった。とその時、尋問中の男の声が部屋に響き渡る。


『違げぇ!!脱走しようとしたんじゃねぇ!!いきなり男が入って来て俺達を襲ったんだ!俺らは被害者だ!!』


 魔法学院の警備塔での脱走騒動についての話になったのか男が必死に弁明している。

ライがわざと牢の扉を開けて騒動を起こした事により男達の拘留期間は長くなり、その間魔封じの鑑定をする時間稼ぎとなった。


「なるほど、ラインハルトの仕業だな?なかなかにやりおるな」


 男の話を聞いてピンときた様子のレイモンドが小さく笑う。


「何のことでしょうか」


 レイモンドが本気で調べればすぐに分かる事であると理解しているが、ジェラルドは感情を読み取らせない笑顔を浮かべた。


「別に咎めるつもりはない。ジェラルドのお陰で今や我が国の鑑定技術は大陸一を誇っている。今回証明された血液で個人を特定する鑑定に至っては、犯罪捜査の早期解決に繋がる大きな一歩となるだろう。それを考えれば――」

 

 取調室で激昂して暴れる男にレイモンドは冷ややかな目を向けた。


「多少の犠牲は些末な事だ。それに、この連中は未遂であれ貴族の令嬢を誘拐しようとしたのだ。重い罰は逃れぬだろう」


 捜査官に飛びかかる男を警備隊の兵士達が取り押さえ、ジェラルドのいる室内には男を殴る蹴る音が怒号と共に響き渡っていた。


「ところでジェラルド、失踪中のジュリエット・セレスタインだが無事なのか?そっち(ギルド)で保護しているのだろう?」


 含みのある笑みを浮かべたレイモンドに、やはりこの人に隠しだては無駄かとジェラルドは小さくため息を吐いた。

魔道具で防音されている特別な部屋にはジェラルドとレイモンドしかおらず、レイモンドが話さない限りここでの会話が外部に漏れる事はない。

ジュリエットに関し何かしらの情報を掴んでいるレイモンドから、はぐらかすなと言わんばかりの無言の圧をジェラルドはひしひしと感じ取った。


「えぇ、ひとまずジュリエット嬢は無事です。保護しているといいますか、諸事情からギルドの依頼人となっております」

「ふむ、身の安全の為に未だ失踪中という事にしている――といった所か。ラインハルトが急にコランダム帝国へ向かったのもジュリエット・セレスタインの依頼と関係があるのだな」

「そこまでご存知でしたか」

「まぁな、いずれは俺の娘婿にと思って狙っている男だからな」

「ふふ、それは難しいかもですね。なぜなら我が弟は、ジュリエット嬢のために龍を倒すと飛び出して行きましたからね」

「なっ、龍!?一体どういう事だ?」


 驚いて聞き返すレイモンドに、これ以上話す気はないとジェラルドはニコリと笑みを深める。

レイモンドはそれ以上言及する事はなく、まさかラインハルトはジュリエット・セレスタインに夢中なのかとぶつぶつと呟いていたが、唐突に何かを思い出したかのようにジェラルドに向き直った。


「ジュリエット・セレスタインは悪女なのだろう?ラインハルトは――大丈夫なのか?」


 レイモンドの顔からはお気に入りのラインハルトが、噂の悪女に騙され弄ばれているのではという表情が見て取れる。


「閣下、ジュリエット嬢は悪女などと言われるような女性ではありません。噂はセシリアという淫魔の娘の虚偽であり、ジュリエット嬢を貶める為に意図的に流されたものです」


 実際に会ったジュリエットからは、悪女どころか好感しか抱かなかったとジェラルドは続けた。

サファイヤに叩き込まれた美しい所作、それに礼節をわきまえた言動と行動は貴族令嬢の模範として敬われるべきであり、悪女と言われるような要素は何一つない。

逆に多くの人々にジュリエットを悪女だと思い込ませたセシリアの持つ淫魔の魅了と闇魔法は、国家にとって危険因子であるとジェラルドは告げる。


「高位貴族の子息令嬢と講師らを骨抜きにした淫魔の娘の事だな。報告は聞いていたが、ラインハルトが気がかりでひねくれた見方をしてしまったようだ」


 レイモンドは少しでもジュリエットの噂を鵜呑みにしてしまった自分に対し反省をすると、ガシガシと豪快に頭を掻きながらバツの悪い顔をした。


「しかし、その奇妙な娘のせいで学院を封鎖せざるを得なくなったと聞く。学院長らの首は飛ぶかもしれんな」


 物理的にと、冗談か本気か分からないトーンでレイモンドが呟いた。


 魔法学院を封鎖する事態へと追い込んだセシリアの力を王国の安全を脅かす危険な能力だと判断したジェラルドは、国家機関である公安組織を調査に介入させ組織でセシリアをマークする決定を下した。

さらに学院に潜入していたライの調査報告と合わせ、渦中にいたセシリアと取り巻き達、さらに不審な行動をとった者達の洗い出しも始まった。

 それによりジュリエットの断罪劇が起きた日、学院の警備兵数名が職務を放棄していた事が判明した。さらには、学院中に仕掛けられた爆発物の設置も一部の学生達による犯行であると発覚し、そのいずれもセシリアに傾倒していた者達とストーン侯爵家のウイリアムによる計画的犯行である事が分かった。


「その肝心の娘は捕えたのか」


 レイモンドの問いかけにジェラルドは神妙な面持ちで首を横に振る。


「ストーン侯爵が王都を離れたタイミングを見計らい、子息のウィリアムがセシリアとセレスタイン夫妻を侯爵家で匿いました。彼等の周辺を私兵に守らせる徹底ぶりで、任意同行を求めた際には侯爵家の客人を侮辱したと騒ぎ立て同行を拒否されました」


 代々、国政の中枢を担う重要なポストにいるストーン侯爵家は貴族社会においても影響力が強く、国家組織の公安であっても強く踏み込む事が出来ずにいた。


「そうか。件の娘、身も守るのに打ってつけの相手(侯爵家)を堕としたというわけか。なまじ王命を下したとして、侯爵派の派閥貴族達が黙っていないだろうな」


 政界に影響ある多数の家門を敵に回す事態を懸念し、レイモンドは強面の顔をさらに歪める。

いくら子息の暴走であろうと〝王命〟を使えばストーン侯爵家に対する不適切な対応だと、揚げ足を取りたい貴族達からの反発が起きるだろう。


 何でもいい――侯爵家からセシリア達を引っ張り出す()()()がないかと、ジェラルドは未だ続く取調室の尋問に耳を傾けた。


『女を馬車に乗せるだけの仕事だって言われたんだ。ちょうど博打で大負けしちまってた所でよ、しけた金額だったけど背に腹はかえられねぇし引き受けた』


『あぁ?目的地だと?国境のとこに女買う奴が不定期で現れんだよ。そこで売っぱらっちまうって言ってたぜ』


『この中にか?おっ!こいつだこいつ!いかにも貴族って感じのエラそーなオッサンだったぜ』


 言い逃れできないと諦めた男は、先程とは打って変わり捜査官の質問に素直に答えていき、机上に並べられた数人の顔が写った紙を眺めた男は迷わずにセシリアの父親――ジュリエットの叔父の写る紙を指さした。


♠♡♦♧


 ライは室内の明かりを点けずに、ジプサムから受け取った小さな魔道具から浮かぶジェラルドの映像を見ている。筒状の先に対となる魔道具を差し込むと、魔石に記録された映像が浮かび上がるという魔道具だ。


『セレスタイン伯爵と誘拐実行犯の男達が通っていた裏賭博の現場を閣下が先陣を切って摘発したよ。オーナーや従業員の事情聴取で、セレスタイン伯爵と思われる男が女を攫って来いと話しているのを聞いたとの証言も得た。今、裏を取っているが十中八九セレスタイン伯爵で間違いなさそうだ。彼は負けがかさんでかなりの額の借金があり、借金のカタにジュリエット嬢を国境で売る手筈をとっていた。次期当主が失踪してしまえば伯爵位を正式に継げ、さらに借金も無くなり一石二鳥というわけだ。ちなみにうち(公安)が撒いておいた餌に大口を開けて食らいついてきた人身売買の請負人も逮捕できたよ。まだ取調べ中だけど、うちの取調べはちょっとキツイからね。セレスタイン伯爵が人身売買に関与した証拠はすぐに出るだろう』


 ジェラルドの報告を聞きながらライは自身の拳を強く握りしめた。


(実の姪だろ!?何でそんな酷い事が出来んだよ!ジュリエットが何したってんだ――)


 身勝手な理由でジュリエットの全てを奪い人生をめちゃくちゃにしようとした腐りきった男に、ライは怒りを抑えられず魔力が無意識に放出してしまう。バチバチと音を立てて溢れ出た魔力は魔道具にも干渉してしまい、ジェラルドの映る映像に砂嵐が走った。


『……い……ラインハルト。どうせお前の事だからキレて魔力出してんじゃないか?』


 映像の中でジェラルドは頭をふる。


「っ!?」


 前もって撮影されていたものだがライがこうなる事を予想しての発言であり、図星をつかれたライは一気に冷静になるとジェラルドの次の言葉を待った。


『セレスタイン伯爵の犯した罪は重い。証拠が揃い次第逮捕状を請求して執行する』


 逮捕状には強制力があり、いくら影響力のある上位貴族であっても犯人の逮捕執行を妨害する行為や逃亡の手助けをする一切の行為は罪になり、現行犯で逮捕する事が出来る。


『事情聴取は家族も含まれるからね。侯爵家に隠れているセシリア嬢と夫人を引き連り出す。だからこっちの事は気にせず、クリスタロスの討伐に集中してくれ。君らが戻ってきた時には良い報告が出来るように俺の方でも尽力する――』


 ライは魔道具の起動を止めると簡素な椅子の背もたれに背を預けた。そして息を吐きながら天を仰いで目を瞑る。

目の裏に浮かぶのは小さな体を震わせ泣いているジュリエットの姿だ。胸が締めつけられるような切なさに、ぎゅっと眉をよせて握った拳を額に当てる。

とにかく今はジュリエットの体を元に戻すため、シゲル遺跡の攻略に集中しなければならない。ライは瞼に浮かび上がるジュリエットの姿を振り払うように首を振って目を開けた。


「う……あ……やめて」


 その時、寝台からうめき声が聞こえてきた。


「ジュリエット?」


 異変に気付いたライは寝台に近付くと、眠りながらうなされているジュリエットを覗く。

ハァハァと荒い呼吸を繰り返すジュリエットの額からは玉の汗が噴き出ている。

汗で張り付いた髪をライはそっと指先で払いながら、ジュリエットが熱が出ていないか確認しようと額にそっと触れた時であった。


「いや……た……たすけ……」


 悲痛に満ちた絞り出すような声と同時に、ジュリエットは片手を上げて助けを求めるように虚空を彷徨わせる。


「どうしたジュリエット……ジュリエット!?」


 ライは慌ててジュリエットに呼びかける。その瞬間、ジュリエットの手は力なく落ち、先程まで聞こえていた荒い呼吸音がピタっと聞こえなくなった。

ライはジュリエットの顔に耳を近付て息をしているか確認し同時に胸の動きも見る。


「うそだろ」


 全身の血がサーっと引いていく。ライは混乱する頭の中で必死に応急処置を考えていた。が、どれもジュリエットの体が小さすぎて身体に負担がかかってしまう。


「ジュリエット――息をしてくれ!お願いだ……ジュリエットを助けてくれ――頼む」


 ライは力なく落ちたジュリエットの手を持ち上げると指先でしっかりと握りしめ、そして藁にもすがる思いで胸にぶら下がるミスリルの腕輪を握りしめながら必死に願った。


 すると、ぽうっとシャボン玉のような小さな淡い光がジュリエットの体に集まり始めた。


「この光は――」


 妖精の森でジュリエットを見た時と同じ黄金色の光。あの時ほど強くはないが、同じ光であるとライの直感が働く。


(何でもいい……!ジュリエットを助けてくれ)


 ライは目を閉じてジュリエットの名を何度も何度も呼んだ。戻って来いと懇願するように。

その時、暗い闇の中にジュリエットの姿を見つけた気がして、ライは咄嗟に手を伸ばすイメージが浮かんだ。


「ジュリエット!」


 ライの必死の一声に呼応するようにジュリエットの瞼が動いた。


「っはぁ――!」


 ジュリエットは酸素を求めるように息をし始めた。止まっていた呼吸を再開しようと胸が激しく上下している。


「……ライ……?」


 涙で潤んだ翡翠色のジュリエットの瞳と目が合った。

ライは咄嗟に声が出ず自分の体が震えている事に気付く。そして、しっかりと自分の気持ちを自覚した。


(もう俺は――ジュリエット無しでは生きられない)

最後までお読み下さりありがとうございます。

書いた分こっそり投稿していきます。


次話、2/25 0時更新します。

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