鎖と真実
「やぁシヅキくん、トウカちゃん。2体とも無事みたいで良かったよ。君たちが1番の懸念だったんだ。まだ少しだけ役者が足りないけれど、あの子もすぐに来るだろうし。 ……あぁそうだ。肉体も精神もたくさんすり減ったろう? 少しだけでも腰を落ち着けたらどうかな?」
シヅキとトウカが“結界”前へと辿り着くやいなや、ヒソラは捲し立てるように言った。いつものように朗らかな笑みを浮かべており、魔素で塗れたぶかぶかの白衣以外は普段と相違ない状態だ。
シヅキはその光景を前にして、すぐにトウカを下がらせた。1歩、2歩、3歩。その足音を確かに確認した後に右手を前に突きだす。間もなくして大鎌が生成された。
刃先をヒソラの方向へと突き立てる。
「急だねシヅキくん。そんな呆気なく武装を始められると少し怖いな。ほら、解読型なんてのは原則的に戦闘を行わないからね。こういうシチュエーションにボクは慣れていないんだ。 ……あぁ、ところでさ」
ヒソラは徐に自身の左手を持ち上げると、自身の真後ろを指差してみせた。
「シヅキくんが突き立てたその大鎌って、ボクのことを狙ったもの? それとも、こいつらのことかな?」
「…………」
シヅキは返事をすることなく、ただその光景を見上げた。 ……複数の赤黒い鎖で繋がれた彼らの光景を。
“結界”を中心とした少し開けた空間に、見覚えのない不自然なオブジェクトが立っていた。地面を穿ち生える赤黒に塗りたくられた5本の鎖。そのどれもがアサギの腕回りほどの太さを誇っていた。鎖は闇空へと向かって重苦しく伸びており、最後には、1つの頂点に集結されているものであった。
しかし、鎖が頂点に結ばれる過程……そこには2体のホロウが巻取られていた。鎖は彼らの両腕と片脚をキツくキツく拘束しており、酷く痛々しい。普段のシヅキであれば簡単に眼を逸らせてしまえただろう。今日に限っては、そういう訳にもいかない訳だが。眼の前に広がるコレは、確固たる真実なのだから。
「…………」
一つ息を吐き、口内の唾液を飲み込んだ。大鎌の柄を持ち直し、ゆっくりと瞬きを。
そうしてシヅキは、鎖に繋がれた2体のホロウの名前を口にした。
「ソウマ……コクヨ、さん」
切れ長の眼と縁の細いメガネが印象的な男性ホロウ、ソウマ。ホロウを“型”ごとに徹底的に差別していた男だ。この調査団なるものにおいて指示役を果たしていた。
そしてもう一体が……コクヨ。闇空よりも漆黒の長髪と、右眼に装着されている眼帯が、確かに彼女であるとシヅキに教えてくれた。ただ一つ、異なる点があるとするならば腰に差されている刀が1本足りていない。
「ソウマの杖とコクヨの刀は事前に回収しているよ。万が一に備えてね」
そんなヒソラの声にシヅキは目線を落とす。 ……確かに、彼のすぐ真横にはそれらしき棒状のモノが2本、横たえられていた。
「コレは……この惨状はお前がやったんだな、ヒソラ」
「うんそうだよ。ボク一人でやった。そう認めたら、君はどうするつもりだい?」
「…………」
シヅキが答えることなく沈黙をしていると、彼の外套がクイと引かれた。
「シ、シヅキ! ヒソラ先生は――」
「わーってる。 ……分かってるよ」
掴んだトウカの手を優しく払ったシヅキは再びヒソラに向き直る。
「ヒソラはトウカを逃してくれたんだろう? それにその鎖は初めて見たが、臭いは知っている。すげえな。煤魔法ってのは鎖を造ることだって出来るのか」
「トウカちゃんが煤を分けてくれてね。事前にトウカちゃんの記録から煤魔法の存在について知っていたから、後は簡単だったよ」
「……サラッとエグいことを言う」
「ははは、同族を消す選択を取るホロウには言われたくないけどね。 ……さて、と」
ヒソラはパチンと手を鳴らした後、地面に生える鎖の一本に近づくと、それをギュッと握ってみせた。
「今のボク達に必要な行為……それは情報の共有だ。肩の力を抜いてなんて言いたいところだけれど、実際問題そういう訳にもいかないからね。手短に済ませよう」
そう言いつつ丸みを帯び、くりくりとした瞳をシヅキ達へと向けたヒソラ。それは柔和な眼つきではあるが、奥底に光はなかった。
ヒソラはやはり、淡々と語る。
「まずは結論から。ソウマとコクヨ、こいつらは何百という単位のホロウを消す計画を企ている。それは長い月日をかけて既に実行されているんだよ。この調査団なるものも…………選別された消去対象のホロウを、秘密裏に消すための偽装工作として結成されたんだ」




