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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第三章 調査団
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鎖と真実


「やぁシヅキくん、トウカちゃん。2体とも無事みたいで良かったよ。君たちが1番の懸念だったんだ。まだ少しだけ役者が足りないけれど、あの子もすぐに来るだろうし。 ……あぁそうだ。肉体も精神もたくさんすり減ったろう? 少しだけでも腰を落ち着けたらどうかな?」


 シヅキとトウカが“結界”前へと辿り着くやいなや、ヒソラは(まく)し立てるように言った。いつものように(ほが)らかな笑みを浮かべており、魔素で塗れたぶかぶかの白衣以外は普段と相違ない状態だ。


 シヅキはその光景を前にして、すぐにトウカを下がらせた。1歩、2歩、3歩。その足音を確かに確認した後に右手を前に突きだす。間もなくして大鎌が生成された。


 刃先をヒソラの方向へと突き立てる。


「急だねシヅキくん。そんな呆気なく武装を始められると少し怖いな。ほら、解読型なんてのは原則的に戦闘を行わないからね。こういうシチュエーションにボクは慣れていないんだ。 ……あぁ、ところでさ」


 ヒソラは(おもむろ)に自身の左手を持ち上げると、自身の真後ろを指差してみせた。


「シヅキくんが突き立てたその大鎌って、ボクのことを狙ったもの? それとも、こいつらのことかな?」

「…………」


 シヅキは返事をすることなく、ただその光景を見上げた。 ……複数の赤黒い鎖で繋がれた彼らの光景を。

 

 “結界”を中心とした少し開けた空間に、見覚えのない不自然なオブジェクトが立っていた。地面を穿ち生える赤黒に塗りたくられた5本の鎖。そのどれもがアサギの腕回りほどの太さを誇っていた。鎖は闇空へと向かって重苦しく伸びており、最後には、1つの頂点に集結されているものであった。


 しかし、鎖が頂点に結ばれる過程……そこには2体のホロウが巻取られていた。鎖は彼らの両腕と片脚をキツくキツく拘束しており、酷く痛々しい。普段のシヅキであれば簡単に眼を逸らせてしまえただろう。今日に限っては、そういう訳にもいかない訳だが。眼の前に広がるコレは、確固たる真実なのだから。


「…………」


 一つ息を吐き、口内の唾液を飲み込んだ。大鎌の柄を持ち直し、ゆっくりと瞬きを。


 そうしてシヅキは、鎖に繋がれた2体のホロウの名前を口にした。


 

「ソウマ……コクヨ、さん」



 切れ長の眼と縁の細いメガネが印象的な男性ホロウ、ソウマ。ホロウを“型”ごとに徹底的に差別していた男だ。この調査団なるものにおいて指示()を果たしていた。


 そしてもう一体が……コクヨ。闇空よりも漆黒の長髪と、右眼に装着されている眼帯が、確かに彼女であるとシヅキに教えてくれた。ただ一つ、異なる点があるとするならば腰に差されている刀が1本足りていない。

 

「ソウマの杖とコクヨの刀は事前に回収しているよ。万が一に備えてね」


 そんなヒソラの声にシヅキは目線を落とす。 ……確かに、彼のすぐ真横にはそれらしき棒状のモノが2本、横たえられていた。


「コレは……この惨状はお前がやったんだな、ヒソラ」

「うんそうだよ。ボク一人でやった。そう認めたら、君はどうするつもりだい?」

「…………」


 シヅキが答えることなく沈黙をしていると、彼の外套がクイと引かれた。


「シ、シヅキ! ヒソラ先生は――」

「わーってる。 ……分かってるよ」


 掴んだトウカの手を優しく払ったシヅキは再びヒソラに向き直る。


「ヒソラはトウカを逃してくれたんだろう? それにその鎖は初めて見たが、臭いは知っている。すげえな。煤魔法ってのは鎖を造ることだって出来るのか」

「トウカちゃんが煤を分けてくれてね。事前にトウカちゃんの記録(きおく)から煤魔法の存在について知っていたから、後は簡単だったよ」

「……サラッとエグいことを言う」

「ははは、同族を(ころ)す選択を取るホロウには言われたくないけどね。 ……さて、と」


 ヒソラはパチンと手を鳴らした後、地面に生える鎖の一本に近づくと、それをギュッと握ってみせた。


「今のボク達に必要な行為……それは情報の共有だ。肩の力を抜いてなんて言いたいところだけれど、実際問題そういう訳にもいかないからね。手短に済ませよう」


 そう言いつつ丸みを帯び、くりくりとした瞳をシヅキ達へと向けたヒソラ。それは柔和な眼つきではあるが、奥底に光はなかった。


 

 ヒソラはやはり、淡々と語る。

 

 

「まずは結論から。ソウマとコクヨ、こいつらは何百という単位のホロウを(ころ)す計画を企ている。それは長い月日をかけて既に実行されているんだよ。この調査団なるものも…………選別された消去対象のホロウを、秘密裏に(ころ)すための偽装工作として結成されたんだ」


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