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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第三章 調査団
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ソヨとリンドウ④


「これ、何ですけれど……」


 自室からソレを手に入れて戻ってきたソヨは恐る恐るの手つきで机の上を滑らせた。リンドウはソレを手に取ると、その眼を丸くした。


「思っていたよりも随分と分厚いものなのね。想定だと少しでも小さくする細工が為されていると思っていたのだけれど」


 リンドウが手に取ったものは、とても片手では持つことができないほどの大きさと分厚さをした紙の束だった。そこには細かな文字がビシッと書かれている。


 彼女の問いかけに対し、ソヨはふるふると首を振った。


「いえ。それはわたしが凝らしたカモフラージュと言いますか。その紙束を横向きに立ててみてください。固定されてるのでバラバラにはなりません」

「? ええ」


 首を傾げつつも言われた通りに紙束を真横に傾けたリンドウ。間も無くして彼女は関心の溜息を吐いたのだった。


「なるほどね……蝶番(ちょうつがい)か」

「もともとは嗜好品をこっそりと自室に持ち帰るときに使っていたのですけれどね」

「雑務型のホロウが資料を部屋に持ち帰っていく様子なんて、茶飯事だものね。木を隠すなら森の中……とは少しだけ違うかしら?」


 ふふ、と笑ったリンドウは蝶番を横方向にスライドした。カチッと小気味の良い音が鳴る。それと同時に紙束は見事に開閉したのだ。


「あの、リンドウさん! ソレがあれば本当に……シヅキとトウカちゃんは……助かるのですよね……?」


 思わずその場に立ち上がったソヨから飛び出したのは、大きな大きな心配の声だった。リンドウが見上げたその表情は、先ほどのように崩壊してしまいそうだった。


リンドウは首を縦にも横にも振らず、ただ伏し目がちに述べた。


「確証はないわ。もしかしたら我々の想定が全て杞憂かもしれないし、或いはもうどうしようもないほどに手遅れかもしれない。ただその中間であれば……あるいは」


リンドウは作業的に手を動かし、紙束に装われたその箱の中身を取り出した。 ……ソレは、一冊の本だ。


「この本に……レインの遺書の中に決定打が書かれている可能性は大いにあるわ。他でもないトウカが教えてくれたもの」

「……どういう、ことですか」

「トウカとレインが中央区で行っていたことは、一部ホロウだけで共有されている情報を奪取する行為だったのよ。この遺書の中にはその情報の群れが書かれているということ」

「トウカちゃん、そんな事を口走っちゃったのですか!?」

「あら、さっきの体験を忘れちゃったかしら?」

「さっきの体験…………ぁ」


 

『解読型はホロウの心を読むことが出来る……なんてのは聞いたことがあるかしら?』



リンドウは不敵に笑みを浮かべた。


「そういうこと。トウカが“絶望”の一件で数日間昏倒をした時にヒソラが、ね」

「プライバシーの欠片もありませんね……」

「なんとでも言いなさい。 ――さ、開けるわよ」


 そして、一呼吸を置いたリンドウは “DIARY” と表記されたその本を徐に開いた。しかし、彼女はすぐに眉を潜めたのだった。


「白紙ね」

「恐らくは煤文字(すすもじ)で書かれています」

「特定の()()()の魔素を流し込むことで浮かび上がる文字ね。情報の保護機能に優れているもの」

「正攻法だと開示出来ません。 ……実はわたしも遺書の内容を閲覧しようとしたのですが、ここで弾かれてしまって。リンドウさん、どうしましょうか? このままでは…………え?」


 伏せた眼を戻したソヨはすぐに困惑の声を上げた。白紙だった筈の遺書に文字が浮かび上がっていたからである。


 リンドウは不敵な笑みを浮かべて言った。


「この世界の全ては魔素でできている。遺書だって例外ではないわ。そして……私は解読型。こんな防御は訳ないわ」

「め、めちゃくちゃですよ!」

「ふふ、冗談。注ぐ魔素の色と量についてはトウカちゃんの記録(きおく)で見ていたもの。私はそれを実行しただけ」

(どちらにせよ、すごいことやっちゃってるって……)

 

 口には出さず、シヅキ譲りの溜息を吐いたソヨ。それを他所にリンドウはレインの遺書の内容に眼を走らせたのだ。間も無くして、彼女は頬を痙攣らせつつ笑ったのだ。


「これはすごいわよ。世界を書き変えられ得るレベルの情報が羅列されているわ」

「なんですか……それ」

「目次だけでも色々とあるわよ? 原因不明とされていたホロウを苛む病『個の崩壊』について。魔素は人間の心から出来ている事実。伝承『人間とホロウの物語』における内容改竄と隠蔽の事実。(すす)を用いた人間技術(ロストテクノロジー)『魔法』の再現実験とその結果。革命組織『虚ノ黎明』利用における情報と印象の操作。そして…………これは」

「…………リンドウさん?」


 大きく眼を見開いたリンドウ。その時、遺書に挟まっていたナニカがぽろっと落ちた。小さな、小さなソレを拾い上げたリンドウはソヨへと差し出したのだ。

 

「ソヨ、単刀直入に言うわね。ずる賢いあなたなら分かっていると思うけれど、口外は厳禁ね。 …………わたしはダメ。あなたにしか出来ないことよ」

「ちょ、ちょっと待ってください……! わたしまだ何がなんだかで……」

「詳細は通心(つうしん)で送るわ。ただ……今はこれだけ分かって?」


 そう言うと、リンドウはソヨに耳打ちをした。それは酷く真剣な声色で。そして……酷く深刻な内容で。


「………………ぇ」

「急ぎなさい、ソヨ。それともリンドウが嘘を吐いているとでも証明してみる?」

「……っ!」


 それからすぐに、応接室の扉は勢いよく放たれた。ただ一体残されたリンドウは扉の先……オドの廊下を駆けてゆくソヨの背中をただ見送る。


「あぁ」


紫のその長い髪を掻き分けて、彼女はこう呟いたのだった。


 

「本当に……………胸糞悪いわね。何もかも」


 

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