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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第三章 調査団
82/135

エイガ


「ドゥ………………」


 魔人はか細く鳴き果てた後に、呆気なく浄化された。それを見届けたアサギはズンと大きな音を立ててその場に座り込み、空気を喘いだのだった。


「あァ、はァ、はァ……きっついな」

「アサギさん、お疲れ様でした。よく一体で頑張ってくれましたね」

「あぁ……だがお前たちが来なかったら危なかったぞ。あの魔人、他の者と比べて技術面に長けていた。ありゃあ知能が高いぞ」

「…………」

「シヅキさん? どうかしましたか?」

「別に何でも……いや」


 シヅキはどうするべきか迷っていた。つい先ほど対峙した短剣武装の魔人。奴と……奴らと以前に戦ったことをサユキ達に話すべきだろうか?


 シヅキの中には漠然とした予感があった。嫌な予感だ。彼の前に現れた、以前戦ったことのある魔人。同個体が何体もいることは、2体同時に出てきたことで確信出来た。それに――

 

 張り付いた喉を強引に開き、シヅキは問うた。


「なぁアサギ、サユキ。 ……エイガのやつ、どこ行った?」


 シヅキがそのように尋ねると、アサギとサユキは1テンポ遅れて訝しむ表情を浮かべた。

 

「そういやあいつ、何で居ないんだよ」

「……驚きましたね。何故気づかなかったのでしょう? 幽霊みたいにスッと消えてしまいました」


――エイガが消えたという事実。誰からも忘れ去られるように、忽然と姿を眩ませた。 ……このタイミングでだ。


 渇いた喉にて唾液を飲み込む。冷えきった汗が頬を伝う。身体に悪寒が走った。焦燥に駆られる。


 (落ち着け……一体じゃねえ。とにかく魔人の事実は共有だ)


 唇を強く噛みしめ、シヅキは彼らに向き直った。 ……アサギとサユキはシヅキの言葉を待っていた。特にサユキはメモ帳を取り出す始末だ。


早る鼓動を確かに感じながら、シヅキは発音を試みた。


「あのよ…………ぇ」

「……? どうしたんだよ、シヅキ」


 突然としてその声を止めたシヅキ。声だけではない。身体もだ。ピクリとも動かない。


 

 ――否。動けない。



 眼前の彼が卑しく嗤った。



「ん〜? シヅっちどーしたんすか? ちゃんと最後まで話してほしーっすよ。 ……娯楽には飢えてんすよね」

「なッ……!?」


 状況を理解したアサギが唖然の声を上げた。既にシヅキの表情は蒼白に染まっていた。


「あーまぁ、仕方ねぇんすかね。オレ、サプライズ得意なんすよ」

「な……………にが……………」

「あ? 聞こえねーっすよ。だから――」


 彼は右手のソレをいとも簡単に突き立てた。布切れでも斬るかのような………………そんな…………感覚で。



「ぐッ……………ァア………………!!!」

「お前ら全員、今オレの掌の上ってことすよ。分かる?」

「エイガおまええええええええええええええ!!!」


 魔人と戦っていた時とは比較にならないほどにアサギは吠えた。その大盾を片手に、もう一方の手を赤髪の男、改めエイガに向けて伸ばそうとした。 

 

「いーんすかぁ? コイツ(ころ)すけど?」

 

 ……が、それは叶わない。エイガが差し向ける先の尖った短剣は……その矛先が捉えていたのはサユキの首筋なのだから。


「一歩前に出てみてくだせーよ。さっき頬抉ったの、次は首でやるんで」

「テメエ………………エイガァ……!!」

「怒りしか言語化出来ねーんすかぁ? あーいいんすよ、いいんすよ。そーゆうの慣れてんすよね」


 そう言いつつアサギはサユキを拘束しつつ1歩、2歩、3歩と下がった。その間も短剣はサユキを捉えて止まなかった。しかし、彼女はその顔を歪ませながらも一言も言葉を発しなかった。


「………………」


 ただそれはシヅキも同じで。その光景を眼に焼き付けることしか出来ず、何も出来ず、その呼吸だけを荒くして。汗が伝うだけで……身体が震えるだけで……。


「シ……ヅキ……さん…………」

「――っ!」

「あー、そーゆう会話とかいーんで。本題入るっすよ」

「本題だぁ? ふざけたことを…………!」

「うるせぇなぁデカブツ。口慎めよカスが」


 チラっと映ったアサギの表情は凄まじいものだった。血管が隆起した額に紅潮した頬。シヅキとの再会を祝ったあの面影は見る影もなかった。


無言でシヅキの隣にアサギが立ったところで、エイガは一つ頷いた。驚いたことに、普段と同じ……あの軽薄な笑みで。


「まァ突然のことで驚いたと思うんすけど。お前たちがほざいてたように裏、あったんすわ。なに? 調査団とかゆー茶番には」

「…………」

「んでま、今日が()()()ってことで。地獄にでもなるんじゃねぇすかね」

「……サユキを、拘束したのは……」

「あーダメっすよシヅっちぃ。話の腰折んなよ」


 カラカラと喉を鳴らすようにして嗤ったエイガ。しかし彼の眼はありえないほどに冷めきっていた。

 

「……この女を(ころ)さずに縛ってるのなんて、お前たちの無力化のために決まってるじゃねーすか。都合わりーんすよ。浄化共が居ると」

「何のために……そんな……」

「ハハッ! 話す訳ねぇー! 話してもらえると思ったんすかね? 傲慢すねぇほんと」


 そうやって捲し立てたエイガの短剣がサユキの首筋に触れた…………いや、触れたじゃない。刺さった。刃先が首を…………ホロウの首を…………


「ガッ…………アァ゛!」

「サユキ……! サ、サユキ!!!」

「やべ。わざとじゃねぇんすよ? ま、いいや。とりあえずお前らにやってほしーのは? その武装解いてくださいよ。んで、地面に伏せてくだせぇ」


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