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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第三章 調査団
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オドに戻れたら


「では、わたしは木の上から援護をしますね」


 軽く敬礼をしたサユキが身軽に跳躍をすると、その身体は簡単に数メートルも頭上へと跳んだ。そしていつものように太い枝へと着地をした彼女は、その手に群青色で澱んだ弓を生成した。彼女の武装である。


「以前、シヅキさんからあった指摘を取り入れますね。木を移ったときには幹をコンコンと叩きます。判別が難しければ、弓を撃たずに待機か、或いは手信号を出してみましょう」

「おう、サユキ頼むぜ! お前のサポートは(かなめ)だからな」


 アサギが調子良くグッドサインをサユキに送ると、彼女も小さくそれに応えた。そして、やはりメガネをカチリと上げたのだった。


「うし! シヅキ、エイガ! おれたちも一仕事しようぜ」

「……ああ」


 流すように素っ気なく返事をしたシヅキ。しかし一方で普段は元気なエイガはというと、全く異なる方向をただただ向いていた。まるでそこに何かがあるかのように。


「エイガ? どうしたんだよ?」

「ん? あーごめんごめん! なんすか?」

「いや、心ここに在らずって感じだったからさ。なんか気になるものでもあったのか?」

「エイガさんの視覚方向には特に何も見えませんね。視力5.0を超えるわたしが言うのだから間違いありません」

「……視力の問題か? それ」

「はは、サユっちは面白いすね〜。 ……何もねすよ。行きましょ」


 エイガはいつも通り軽薄な笑みを浮かべると、軽い足取りで先を歩いてゆく。シヅキ達はそれを追うように彼に続いた。


「なあシヅキ。さっきのよ、ヒソラ先生の話だけどよ」

「ああ」

「ありゃあ本当なのか? “結界”がもう壊れちまうって」

「んなの俺が知るかよ」

「そうか……シヅキはヒソラ先生と仲が良いから何か聞いていると思っていたが」


 アサギはその大きな図体を縮こませながら「ぬぅ」と溜息混じりに唸ったのだった。どうやら彼の中には何か引っかかるものがあるらしい。シヅキだって、それは同じだが。


「まあ、無事に帰れるのならそれに越したことはないな。おれも早くパーティーの奴らに会いたいぜ」

「パーティー……お前は4体で組んでたか」

「ミスト、ドギー、トア。みんな気の良い奴でよ? 一緒に居てすげえ楽しいんだ」


 そう言うとアサギは随分と優しげな笑みを浮かべてみせた。


「ミストはしっかり者の浄化型でよ。作戦とか段取りとか、そういうのを考えるのが得意なんだ。たまに抜けてるとこあるけどよ。ドギーも浄化型なんだが、こいつは調子者でな。ムードメーカーだがやらかしも多い。んで最後はトア。トアは抽出型でバックアップが得意だな。引っ込み思案だが色々と器用なんだ。気がついたときには助けられてたりする」

「よく見てんだな」


 シヅキがそのように返すと、アサギは「まあな」と首の後ろで両手を組んだ。


「帰ったらよ、あいつらと果実酒でも飲みてえな。ドギーがよ、港町で買ったのがあるらしいんだ。 ……ああそうだ! シヅキも一緒にどうだ?」

「は? んで俺が……」

「お前は戦友だ。一緒に酒が飲みたいんだ」

「さっきは言いそびれたが、別にお前と友達になった気はない。そもそも、“友達”っつったって定義が分かんねーし」

「定義? そんなの簡単だ。一緒に居たいと思えるかどうかだ」

「……何とでも言えよ。雑談もほどほどにしろ」

「ああ、そうだな」


 最後にシヅキの肩を軽く叩いたアサギは、軽い足取りにてシヅキの前を歩き始めた。その大きな背中がシヅキの視界の中で揺らぐ。


 シヅキは真っ黒のフードを深く被った。


(友達か)


 縁遠い言葉だと思っていた。自分の弱いところをひた隠す為に取り繕った威圧的な態度と言動……それらはいつの間にか取り繕わずともシヅキの()となっていた。出来る限り一体であろうとした結果、それ相応の孤独を獲得できた。


 それでも交流のあるホロウは存在する。でも、ソヨは昔馴染みで“友達”というのは違う。ヒソラだって、あいつは“先生”だ。トウカは……………どうだろう?


 何にせよ、何にせよだ。“友達”と言えるホロウはシヅキの中に居なかった。言ってくれるホロウだって居なかった。


(アサギは良い奴だ。俺なんかは釣り合わない)


 そう思えてしまうから、シヅキの方からアサギを“友達”なんて呼ぶことは出来ない。 ……ただその逆なら。


(俺がどう思うか、か)


 アサギだけじゃない。リーフと、サユキ……あいつらも一緒で。良い奴で、一緒に居ても別に悪い気はしない。そんなことを考えながらシヅキは少しだけ眼を閉じた。


(ああ、そうだ。オドに戻ったら、そうしようか。友達かどうかなんて分かんねえけど……少しくらいなら酒とか一杯くらいだったら…………)



 ――そうやって、考えて、僅かに頬を緩めた時だった。



「――――っ!!!!!」


 

 ノイズ。ノイズ。ノイズ、ノイズ、ノイズ。全身が痺れ、肌がひりついた。この感覚は“結界”が纏うノイズの渦ではない。…………魔人が顕れるサインだ。


「皆さん! 応戦態勢を!」


 サユキのよく通る声が走る。数秒前の空気が文字通りに一気に変わった。緊張の糸が張り詰める。シヅキは鋭く息を吸った。


「来い」


 大鎌を生成。姿勢を落とし、眼を見開いた。ノイズが強まる。 


「来るぞ! おれが前に出る!」


 自身と同程度ある大盾を生成したアサギ。体躯いっぱいを使ってソレを持ち上げ、ノイズの出所に向かって突き出した。


それから間も無くして空間が歪み出した。闇空が解けるように融け、捻れ、壊れたとまで錯覚する。


 そうやって、奴らは姿を顕すのだ。


 ガギィン


「ぬっ……!」


 けたたましい金属音が響き渡った。魔人が繰り出した斬撃が、アサギの大盾を捉えたのだ。


(…………? んだよこの既視感は)


「シヅキ! 一体はおれが食い止める! だから……!」

「――っ!」



 アサギの叫びと共に一人の影が近づいてきた。小柄な体型のそいつは、姿勢を大きく屈め、細い腕を振り上げ、遠心力を利用して……その手に持つ短剣を振り上げた。


 魔人が鳴く。


「ドゥ……ドゥ……ドゥ」


 やはりシヅキもアサギと同じで、その短剣を捉え、弾いた。短剣武装の魔人は大きく退き、シヅキと距離をとった。


 魔人が鳴く。


「ドゥ……ドゥ……ドゥ」

「てめえ…………覚えているぞ」


 肉薄し、声を聞き、そこでシヅキの記録(きおく)はようやく辿り着いたのだ。今目の前に在るこの魔人をシヅキは知っていた。


(トウカ、オド、帰り道に居た……短剣武装、狡猾、仕込み刃…………!)


「ドゥ」


 漆黒の、細かな灰を無数に纏った姿にて魔人は鳴いた。シヅキのことを(ころ)さんと、高らかに宣言した。


「どういう因果か知んねーけど……まだ浄化しきれていなかったみたいだな」


 シヅキは小さく息を吐いた。今目の前に居る魔人は……対峙したことのある個体だ。



 ――ソレの存在の裏にある意図を、この時のシヅキは知る由もなかった。

 

 

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