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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第三章 調査団
79/135

合理的


 間もなくして、シヅキたちに召集の命令が下された。


 切れ長の眼と縁の細いメガネが印象的なホロウ……ソウマ。彼が立っていたのは、シヅキがノイズの渦の元凶である“結界”の前だった。


 調査団の全ての面々が集まるや否や、ソウマは挨拶も無しに話を始めた。


「昨日、主にヒソラ先生の働きによりこの“結界”には脆弱性が発見された。抽出型による魔素の流れの操作により決定的な打撃を与えられ得る。そこで、本日以降は抽出型のホロウ全てを“結界”からの魔素抽出作業に充てる。浄化型は周囲の魔人を警戒し、出現次第討伐しろ」


 彼の耳障りな声をある程度聞き流しつつ、シヅキはその首を僅かに頭上に、その目線を彼の真後ろへとやった。そして、うっすらと怪訝な表情を浮かべたのだ。


(歪みが……酷くなってやがる)


 以前見た“結界”とは、磨りガラスを覗いているかのように向こうの景色が歪んで見えたものだが、現在その歪みはより酷く増していた。向こうの景色は“結界”へと掠め取られ、一部は反射され、随分とぼやけた景色だけが水底のように揺れ透けている。まるで、“結界”の奥には空間なんて無いかのように。


(抽出型が魔素を引っこ抜いた影響か? ……いやでも。“結界”の層が壊れ始めたのなら、むしろ景色の歪みはマシになるんじゃ……)

 

「ソウマくん、一ついいかな?」


 シヅキが黙々と思考を飛ばしていたところで、そんな声と共に調査団の中からひょっこりと手が挙がった。と言っても

、後方のシヅキから見えたのはヒラヒラと空を仰ぐ白衣だけだったが。


 ソウマはそのホロウを眼に捉えたところで、明らかに表情を変えた。


「ヒソラ先生! どうなさいましたか?」

「うん。今日ってボクは必要なのかなーって」

「と仰いますと?」

「別に深い意味はないよ。抽出型がメインで“結界”の破壊を行うなら、ボクは別に要らないよねって話」

「……いえ。ここに残ってください」

「どうしてだい?」

「元はヒソラ先生の発案です。何かあったときに解読型の貴方が傍にいないと――」

「その解読型のボクが抽出型であるキミの言うことを聞け、ってことかい?」

「それは……」


 常に高圧的な態度を振り撒くソウマだが、この時ばかりはやけにしおらしかった。 ……それはそうだ。奴は型によるホロウの区別を特に重要視している節があるからだ。浄化型であるシヅキ達を見下す言動が鮮明に思い出された。


「いい気味だな」


 頭上からそんな声が降り注いだ。その方向へと視線を振り上げると、口元を真一文字に結んだアサギが。こいつの中には、あの時の煮えきらない怒りが残っているのだろうか? そう、あの時……トウカがソウマに首を絞められた時のことだ。


「…………」


 シヅキはソッと眼を閉じた。

 

(そうだ……忘れんな。ソウマは危険なホロウだ)


 サユキ、アサギ、リーフ。彼らのようなホロウとの交流が多かったせいで、緊張を(ほど)いてしまう機会が程々にあった。しかしそれはあまり好ましい行動ではない。あまりにも突発的に組まれた調査団なるものは、今となっても“きな臭さ”が付き纏っているのだから。ソウマが指揮をとっていることもその根拠の一つだ。


 

(それに………………)


 

「ヒソラ。お前は抽出型のホロウの管理をしろ」


 突如として聞こえてきた凍つく声。それが誰が発したものかなんて考えるまでも無かった。


 大きな歩幅で近づいてきた彼女を見上げ、ヒソラは口元だけ笑った。


「コクヨか」

「ソウマの言う通りだ。稀有(けう)だなヒソラ、お前にしては実に不合理な発言ではないか」


 ヒソラの目の前に立ち塞がるように立ったコクヨ。彼らは一回りも二回りも身長が異なる。それに、シヅキはコクヨが有すその威圧感を嫌と言うほどに知っていた。


 しかしながら、ヒソラは彼女に臆することはなく堂々と言葉を紡いだ。


「はは。連日こきつかわれちゃったから肉体的にしんどいんだよね。ちょっと一体になりたい気分なだけだよ」

「そうか。すまんな、ならあと1日だけ頑張ってくれ」

「1日かい? ……今日1日だけでいいのかい?」

「お前が言ったのだろう。“結界”の破壊は間もなくだ、と」

「それもそうだね。ああ、頑張るよ。()()()()()()やるさ」


 はは、と軽く笑ったヒソラ。彼は呆気なく引き下がったようで、小さな歩幅にてシヅキ達の元へと歩き始めた。


「……あぁそうだ。コクヨ、君は一体どうするつもりなんだい」

「どう、というのは?」

「“結界”の前に残るのか否か、だね」

「ああ。ワタシは魔人を浄化するが。ワタシにはそれしか能が無い」

「ハハハ、謙遜にしては苦しいなあ」


 ヒソラはひとしきり笑った後、踵を返した。再び“結界”の前へと戻り、そして……コクヨの腕を掴んだのだ。



「コクヨ、君もここに残りなよ。君は何かが遭った時の切り札だ。戦闘能力の低いボクたちを是非守ってほしいなあ……そっちの方が合理的だとは思わないかい?」



 

 

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