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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第三章 調査団
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心を混ぜて


「魔法はね、生き物の中で、人間だけが進化の過程で得ることができた術なの。記憶と感情の紐づき……一言で表せば、心だね。心を自分の中だけで留めるのではなく、ある種の力として外へと解き放ったモノ、又は解き放つ行為そのもの……それが魔法、だよ」

「ちょ、ちょっと待てって!」


 シヅキが焦燥を孕んだ声で叫ぶと、トウカは一つ頷いた後にその場に立ち止まった。


 …………。


「……あ、喋るのを止める、ほう?」

「どう考えても分かるだろ。ここでボケるなよ」

「ご、ごめん」


 ぎこちなく謝ったトウカが再び歩みを始めたところで、シヅキは大きく溜息を吐いた。


「今の話、マジなんだな」

「マジ、だよ。確かに私たちは、辿り着いたもの。その旨が記載された資料もあったから」

「……ホロウが、人間の心で出来ているだと? 俺たちの中には人間が居る……」

「人間の心から造ったからこそ、人間の模倣たりうるんだと、私は思う」

「……でも、でもよ。本当に人間の心から造られたのなら、ホロウは人間の記憶を引き継いでいないとおかしいんじゃないか?」


 魔素には大きく2つの性質がある。1つは形成の性質。魔素の形を変え物質を作り出すというものだ。ちょうどシヅキが自身の魔素から大鎌を生成することがこれに該当する。


 そしてもう1つが記憶情報を有していることだ。魔素を適切に加工することで、魔素からその魔素が有す記憶を抽出することが出来る。通心(つうしん)はこの性質を応用したものだ。


 シヅキは言わんとしているのは、後者の性質のことだった。魔素が記憶情報を有している以上、その記憶情報で満たされているホロウは、わざわざ人間の末路である魔人から魔素の抽出を行う必要はない筈なのだ。どう考えても不合理的な行動である。


 トウカは口元を一瞬だけ真一文字に結ぶと、どこか神妙な面持ちでこのように語り出した。


「……それについては、()()も少し疑問だったの。これはあくまでも私の予想、なんだけど、ホロウは記憶喪失をしているんじゃないかな」


 聴き慣れない単語にシヅキは首を傾げた。


「記憶喪失?」

「え、っと。有している記憶情報が欠けちゃうこと……だよ。病気の一種、かな?」

「……ホロウがその記憶喪失とやらを起こしている根拠は?」

「初めに、人間がホロウを魔法で創り出す時に、一人(いったい)が頑張ったわけじゃないと思う。伝承の内容から考えても、何人(なんたい)もの人間が魔法を合わせたのかな、って」

「まぁ、そっちの方が自然だな」

「だとしたらね? 複数の人間の記憶が、ホロウの中には混濁している筈なの。たくさんの記憶が混じって、薄れて、私たちは覚えられないんじゃ、ないかな?」

「……なるほどな」


 トウカがデタラメを言っているとは思えなかった。そりゃあこの状況下でそんな凝った嘘を吐く理由が思いつかないこともある。しかしそれ以上に、トウカの主張は筋が通ったものに思えたのだ。


「ハァ」


 大きく溜息を吐いたシヅキは、ゆっくりと眼を閉じた。かなり衝撃的な事実ではあった。しかしながら今はより優先することがある。そこの優先度は履き違えてはならない。


「……んでよ。んな話を今持ち出したってことは、このノイズの渦を超えることに関係があるってことだろ?」


 シヅキのそんな問いかけに対し、トウカは小さく頷いた。


「思うに、このノイズの渦はね、私たちの中の心に一定の負荷を与えるものだと思うの。そして、どんな基準かは分からないけど、通すホロウと、弾くホロウを選んでいるんじゃないかな?」

「…………」



『調査団のメンバーを選出したのは他でもないワタシだ。信念があるホロウを選んだのだよ。誰かを、ナニカを犠牲にしてでも叶えたいモノを有している……そんなホロウをな。だがシヅキ、お前だけは例外だ』



 (……そういうことなんだろうな)



「……シヅキ?」

「いや、何でもない。つまりお前は通されるホロウで、俺は弾かれるホロウなんだろ?」

「……ごめん。弾くって言葉はちょっと違うかも。シヅキ、初めの時は“結界”まで来れたもん、ね」

「どっちみち今は進入できねーんだ。変わんねえよ」

「……分かった。えっと、ね? 今のシヅキは“結界”に弾かれちゃうから、“結界”を誤魔化すことが、私の作戦」

「あ? 誤魔化す?」

「私の心は、“結界”を通ることが出来るから、それを今からシヅキの中に流し込むの。……もちろん、一時的にね。魔素中毒が起きるかも、だから」


 トウカの言葉にシヅキは大きく眼を見開いた。


「心を流し込むって……んなこと出来るのかよ」

「出来る、よ。通心の応用だから。それに……私は抽出型。魔素の中身を参照することはできないけど、魔素の流れを操作することは得意、だから」


 そう言ったトウカは、今までずっと繋いでいた手をギュッと握り込んだ。彼女の体温がひどく伝わってくる。


「手を繋いでいたのはね、触れていた方が魔素を操作しやすいから。私の心も、シヅキに伝わりやすいはず」

「……そういうことだったのか」

「うん。そういう、こと。 ……そろそろノイズくる」


 先にノイズの渦を感知していたトウカが強張った声でそう言った。近いうちにシヅキも感知してしまうことだろう。 ……どうしようもなく痛く、苦しいノイズを。


「シヅキ、今から私の魔素をシヅキに流すよ。私の心が、シヅキのことを守る」

「……んだよその言い方。トウカのくせに格好つけやがって」

「シヅキには返しきれない恩があるから。これはその……えっと、その助け?」

「返答になってねえよ。 ……あぁ、流せよ」


 ぶっきらぼうに言い放った後にシヅキは自身の指をトウカの指に絡めた。そこまですることに意味があるのかは知らないが、触れ合う手の面積が広いことに越したことはないだろう。 ……それに。



(……きた)



 その瞬間、シヅキは確かな()を得た。自身の中の魔素濃度の高まりを感じたのだ。


 異物が流れ込んでくる感覚。明らかに“自分”以外の者が自分の中にある。それがひしひしと伝わってきた。



(そうか。これがトウカの…………………)



 しばらく口を半開きにしていたシヅキは、最後には小さく笑みを浮かべたのだった。


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