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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第三章 調査団
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降り積もる疑問

不明点だけを残して組まれた調査団なるモノ。“結界”がある場所まで行けば様々な謎が明らかになると思っていたが、実際のところは疑問が降り積もる一方だった。


 シヅキは頭を抱えた。酷く大袈裟に抱えた。それは解けない問題に悩んでいるからではない。“結界”が放つノイズに当てられた後遺症に苦しんでいるのだ。


 ノイズに触れれば触れるほどに身体が感じる痛みは増幅していった。ノイズの中で歩くことはもちろん、立つことすらままならなくなってしまった。シヅキ1体だけではあの“結界”の地帯にはもう辿り着くことはもう出来やしない。


 “結界”の調査が始まった2日目。昨日に引き続き“結界”に向かって行った調査団の背中を、シヅキはベースキャンプから見送ったのだった。


 こちらに大振りで手を振っていたリーフが視認できなくなったところで、シヅキはハァと大きく溜息を吐いた。


「なんだシヅキ。随分と暗い表情をしているな」


 不意に後ろから掛けられた声は、いつもと同じように淡々とした声だった。シヅキが振り返るとそこには闇空と同じくらいに黒い眼が在った。


 シヅキはその名前を口にする。


「……コクヨさん」

「“溜息を漏らすと幸せが逃げる”とは、かつて人間が言っていた言葉らしいが」

「俺たちゃホロウですよ。人間とは違います」

「ハハ、それもそうか」


 コクヨは笑ってみせたが、眼は虚のままのせいか、不気味な印象の方が強かった。


「なに。何か不満があるのなら、ワタシであれば聴こう」

「不満は別に無いですよ。ただ……与えられたことをまともに(こな)せない自身に嫌気が差しているだけです」


 ノイズの渦を超えられないシヅキは、“結界”の調査における完全な“お荷物”となった。ベースキャンプに残ることだって、それは当然の結果で。当然の結果すぎて、何も言い返すことは出来なかった。


 昨日、軽蔑の視線を向けたソウマの表情が鮮明に思い出される。


「……」


 シヅキはどこか疲弊の色が滲んでいるその眼を再びコクヨへと向けた。


「コクヨさんにも迷惑かけちまって……申し訳ないです。わざわざベースキャンプに、コクヨさんが残るなんて」

「お前1体だけを置いていくわけにはいかないだろう。ヒソラが適切だったろうが、あいつは唯一の解読型だ。“結界”の調査には必須だろう」

「そう、ですね」

「なに。過剰に気にするな。どっちみち“結界”の調査において浄化型の優先度は低い。ワタシだって手を余している」


 そう言ったコクヨは小さく息を吸い小さく息を吐いた。棺の滝に吹いた空しげな風が、彼女の一つ括りにした髪を揺らす。


 その姿を見ながらシヅキは一つ思う。


(コクヨさんは……調査団のことについてどこまで知っているんだ?)


 そりゃあシヅキやトウカのように、理不尽に任命をされたホロウ達よりかは詳しいに決まっている。問題なのは、彼女がどこまで干渉をしているのかだ。


 シヅキの中では、コクヨが有す裁量権がどれほどのものかがハッキリとしなかった。もっとも、今作戦において最終的な決定権を持っているのは、普段は碌に姿を現すことのないオドの上層部だろう。


 対して、現場のホロウ達……シヅキ達へと直接的に命令を下すのは主にコクヨだ。ではこの“命令”の根源には誰の影があるのだろうか? 言い換えるならば、コクヨというホロウも結局は上層部の操り人形に過ぎないのか。それとも、この調査団には彼女の意志が大きく反映をされているのか…………。


(直接訊いて……答えてくれるのか?)


 きな臭さを感じる今調査団において、派手な行動を起こすことは避けようと主張をしたのは紛れもないシヅキだ。ただ、コクヨを相手に疑問をぶつけることは悪くない手だと思えた。彼女のことは信頼出来るからだ。


「……」



『へぇ、逆には考えないんだね。()()()()()()()()ソウマが近くにいるとは』




 ヒソラの言葉がふと頭の中に浮かんだ。もっとも、即座に振り払ったものだが。シヅキにはシヅキの思考がある。最も尊重するべきはそれである筈だ。


「どうしたシヅキ。また難しい顔をしているな」

「あの、コクヨさん。一つ……尋ねたいことがあって」

「ああ。言ってみろ」


 トクトクと早鐘を打つ心臓に気がついた。シヅキはいつものように胸元を強く握りしめると、(あらかじ)め言語化していたその言葉を放ったのだった。


「あの……この調査団ってコクヨさんが決めたのですか。決めたんなら……なんで俺たちを選んだんですか」


 まるで普段のトウカのように、詰まり詰まりに吐いた問い。喉が“閉まっている”感覚を憶えたのだった。


「……」


 コクヨは即答しなかった。答え方を考えているのか、あるいは答えるつもりが無いのだろうか? シヅキには一瞬分からなかったが、前者が正解だったことはすぐに明らかとなった。


 小さく口を開いたコクヨはこのように言ってみせたのだ。


「シヅキ。今お前は動けるか?」

「……え」

「鎌を生成し、問題無く振れるのか尋ねている」

「なぜ……あ、いや。まだ頭は痛いですけど、戦闘自体は問題ないです」

「そうか」


 コクヨはそのように短く返事をすると、シヅキへと背中を向けた。1歩、2歩、3歩……数歩進んだ彼女とシヅキとの間には近くも遠くもない距離が開いていた。


 次に振り向いたコクヨは、なんと腰に携えていた刀に手を添えていたのだ。


「な、なにを……」

「シヅキ、鎌を生成しろ。手合わせでもしようではないか」

「……は?」

「言葉が必要か? ……ただで教えはしないということだ」


 そう言って不敵に笑みを浮かべたコクヨ。まるで口元を歪ませたような笑みは、時よりシヅキが浮かべるものと似ている部分があった。


「……」


 突如、戦闘を持ちかけてきたコクヨの意図とは果たして何なのだろうか? やはり答えのない疑問は積もる一方だったが、既にシヅキの脳裏からは消え失せていたのだった。魔素の流れを制御することに精一杯だったからだ。


「来い」


 無骨で、漆黒で、つまらない大鎌が生成された。




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