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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第三章 調査団
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心を揺するノイズ

「ぐっ…………ガ…………!」


 強烈なノイズのブレを感じた直後、シヅキは襟の後ろを強く掴まれる感覚に襲われた。


「シヅキ! 引っ張るぞ!」


 すぐに後ろから聞こえてきたのはそんな太い声だった。シヅキは何も抵抗することなくずるずると引き摺られていく。揺れ続ける視界の中に調査団の面々の姿が映った。サユキ、リーフ、エイガ……そしてトウカ。早足でシヅキが引き摺られてきた方向へと進んでいる。シヅキとは異なり、皆が自分の足で歩いていた。


(こいつら……なんで、平気…………なんだよ)


 朦朧とする意識の中で、シヅキはそんな疑問を吐いたのだった。




※※※※※




 ノイズのブレが収まり切ったところで、シヅキの襟を掴む手が離された。シヅキは立ち上がることもままならず、その場で大の字となった。


 荒い呼吸に苛まれる中で、頭上に1体のホロウの顔が覗く。


「おいシヅキ、大丈夫か?」

「…………助かったアサギ。お前だろ? 俺を……引っ張ったのは」

「いや、まぁそれはいいけどよ。シヅキはノイズが苦手なのか?」


 虚勢を張る気力もなく、シヅキはただ首肯した。


「シヅキさん、初めよりもお疲れの様子ですね。あのノイズの中では歩けませんでしたか?」

「…………あぁ」

「不覚でしたね。どうやら内側からノイズの渦の中に突入をすると、その影響が一気に出るみたいです」

「ジリジリ〜する〜」

「す、すみません。抽出型の私が……もっと気を張っていれば……」


 顔を俯けながらそのように言ったトウカの肩に、アサギはポンと手を置いた。


「気持ちの問題で解決が出来たらいいけどな。どうも俺はあのノイズの渦が普段のものとは“違う”感じがしてならない」

「違う、すか? 一体どーいうことすかね?」


 突如割り入ったエイガの問いかけに対し、アサギはそっと眼を閉じた。


「なんとなくだが……身体のノイズの捉え方がヘンなんだよ。そりゃあ渦状に流れを作っているノイズだから、捉え方が普段とは異なるのは当然だとは思う。しかしな? それを差し引いても違和感があるんだよ」

「へぇ。ちなみにソレってどんな感覚すか?」

「ううむ……何と言えばいいだろうか……こう……身体の内側が……内側から何かが来る……みたいな……」

「“心”が〜ジリジリする〜?」

「そ、そうだ! そんな感覚だよリーフ!」


 その言葉に合点がいったのだろうか、アサギは勢いよくリーフに同意したのだった。


「へぇ……()()すか。面白いことを言うんすね。ホロウのくせに」

「ん? あぁ、まあな。あのノイズを浴びると不思議な感覚があったんだよ。リーフが言うように、心が揺れて……懐かしい記録(きおく)が思い出されたんだ。仲間と街まで遊びに出掛けたことを」

「わ、私もそうでした! あの……辺境区に来る前のことが思い浮かんで……偶然だと思ったんですけれど」

「おお、トウカもか! サユキとリーフはどうだった?」


 アサギがそのように問いかけるとサユキはどこか訝しげな表情にて答えた。


「実はわたしもそうでしたね。本を読んでいる自身の姿が見えた気がします」

「リーフちゃんも〜、アグリ〜的な」

「驚きましたね。少なくとも4体はあのノイズの渦の中で、何かしらの記録(きおく)を思い出す体験をしたみたいです」


 サユキが今までの発言をそのようにまとめてみせた。おそらく彼女は今、明らかとなった謎の共通点について考えていることだろう。


(心を揺するノイズ……記憶の想起……)


「な、なぁ。シヅキとエイガはどうだったんだ?」

「…………俺は」


 やはりというか予定調和のように尋ねられたその問いに、シヅキは自身の胸にそっと手を添えつつ答えた。

 

「俺は…………何も。そういうことは無かった。ただノイズが痛かっただけだ」

「そ、そうか」


 心なしか、アサギの「そうか」にはどこか残念に思う色が滲んでいた。


「エイガはどうだった?」


 そして最後に尋ねられたエイガ。彼は自身の赤毛を指に何度か巻き付けた後に、茶化すように笑った。笑いながらこのように答えたのだ。


「さぁ? どーだったすかね。わっすれちゃいましたね!」


 シヅキは地面に張り付いた身体を起こすことなく、ただ闇空を眺めた。


 不確定なエイガはともかくここにいるシヅキ以外のホロウには、ノイズの渦を通じて記録(きおく)を思い出すという事象が起きた。シヅキにはそれが単に“偶然”という言葉で片付けられるとは思えなかったのだ。


 心の中の片隅でシヅキは思う。


(調査団に指名されたホロウ、ノイズへの耐性、そして記録(きおく)の想起。何か関係性があるのか?)


 根拠なんて何も無い。そんなものは持ち合わせていない。だからきっとこれは邪推の類だ。そうやって否定をしようとしたが、その思考は脳裏にこびりついてならなかった。


そして同時に浮かび上がるもう一つの問い。


(なぜ俺には……()()()()()()何も無いんだよ)


 漠然とした不安感が煙となり、自身の心に()みようとしていた。自分だけが他者とは異なる……異質である。随分と悲観的な考え方をしたものだが、仮にソレを突きつけられたとしても、シヅキの中には反論できる材料なんて何も無かった。




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