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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第三章 調査団
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棺の滝

 

 白濁色に染まった木々の中を通り抜けていく。その中でやはり何体かの魔人と遭遇があった。シヅキ含めた調査団は1体も逃すことなく浄化と魔素の抽出を繰り返した。


 数時間程度歩き、ついに廃れの森を抜けた。18年間オドにて生活をしてきたシヅキでさえもこんなところまでやってきたのは初めてだった。


 眼前に広がったのは岩肌が剥き出しの拓けた土地。闇空が頭上へと姿を現し、突如として眼に映る景色が“不気味”から“鬱屈”へと変化した。


 先の方を見ると、高さ20mはありそうな高い岩壁がそびえ立っている。まるで自身が立つ地面だけが酷く凹んでいるような感覚に陥った。それほどまでに不自然な大地のズレがあったのだ。


 そんな岩壁を見上げ、シヅキは心のなかで呟いた。


 (ここが……“(ひつぎ)の滝”か)


 棺の滝。そこはつい最近まで不可侵領域として設定されていた未開拓の土地だった。滝という名が付いてはいるが、実際には水が流れていない。既に枯れたのか、それとも単に名前だけなのかはシヅキの知るところではない。ここには以前、コクヨが率いる新地開拓大隊が侵入し、数体の獣形ホロウと対峙。その中には植物形状の魔人である“絶望”の姿すらあった。


 では、なぜこの土地を調査団は訪れたのか。その答えは至極単純で、向こうに見える岩壁を超えた先にあるのが、目的地であるから風荒野なのだ。ただそれだけに過ぎない。


 間もなくして、縦に隊列をとっていた調査団全員が棺の滝へと足を踏み入れた。それと同時に先頭集団を歩いていたメガネの男性ホロウ……改めソウマが無駄にでかい声でその場を取り仕切り出したのだった。


「我々調査団が目指すから風荒野はこれより10kmほど北上したところにある! しかし、棺の滝を超えた先は結界が生み出した強力な魔素のノイズ反応の影響が強まる。よってここにベースキャンプを敷くこととする!」


 そう言ってバッと手を広げたソウマ。彼の背後には濃い緑色の布で包まれた大きな荷物類が積まれていた。野営用のテント類である。道中を進む中で浄化型で分担して運んできたのだ。戦闘時には一々地面に下ろす手間が面倒だったものだが。


 ソウマは続けざまにこう言った。


「それに伴い今から役割の分担を行う。各自持ち場にて作業を行うようにしろ!」


 威圧的でいて厳しい管理体制を敷こうとするソウマ。シヅキにはその態度が酷く傲慢なものに感じられた。エイガとは別の意味でこちらの神経を逆撫でるモノを持っていると感じる。


 それと同時に、シヅキの中に1つの疑念が生まれた。


 (こいつ……完全に“あっち”サイドか?)


 調査団なるものの、その事前情報がほぼほぼ0であるシヅキやアサギたちとは異なり、ホロウを仕切りたがるソウマは何かしらの情報を握っているように思われる。普段からコクヨと行動を共にすることが多いことも根拠の1つとしてあった。 ……そういう根拠の付け方には少しだけ抵抗があるが。エイガはともかくして、まるでコクヨの裏を探ろうとしているように感じられたものだから。


 ――まぁ、何はともあれだ。


 シヅキは鼻からゆっくりと息を吐き出して溜息を吐いた。今はソウマの指示に従う他ないだろうという諦めの溜息だった。



 

※※※※※




 ソウマから離れることが出来たのは幸いだったと思う。まともに会話でもしようものなら、確実に険悪な雰囲気になる自信があったから。


 そんなことをシヅキが考えていたところ、横を共に歩く図体のデカいホロウが、腕を空高く伸ばしながら大きく伸びをした。


「どうも絡みづらいホロウが多いよな。空気が固くて仕方ないよ。 ……な? シヅキ」

「……なぜ俺に同意を求める」

「別にいいだろう? たまには愚痴の1つにも付き合えって」


 そう言うと図体のでかいホロウ……改めアサギはハハハと小さく笑った。シヅキは細い目でその横顔を見上げた。


 (絡みづらいホロウって、俺も入ってねーのかよそれ)


 そんな突っ込みは喉の手前にしまっておき、シヅキは「あぁ」と適当な相槌を打った。アサギは特に気にする素振りも見せず、(おもむろ)に後ろを振り返った。そこには後ろを小さな歩幅で歩くホロウが1体いた。眼の端で白銀の糸が揺れる。


「数時間歩いた後だけど、体調とか大丈夫か? えっと……()()()

「ぇあ……はい。平気、ですよ」


 錫杖(しゃくじょう)を両手にギュッと握り締めつつ、アサギの問いかけにトウカはどもりながら答えたのだった。


 シヅキも眼だけで後ろを振り返る。強張ったトウカの表情には、若干であるが疲労の色が滲んでいるように見えた。肉体的なものか精神的なものか……あるいは両方か。


 (俺には関係ねぇことだ)


 特に声をかけることもなく視線を前方へと戻したシヅキは視界ではなく、自身の肌へと意識を集中させた。それは僅かなノイズのブレを察知するためである。


 ベースキャンプの設営における役割分担は大きく分けて2つに分けられた。1つは文字通りベースキャンプの設営である。具体的にはテントの組み立てや、その他オドから持ち込んだ装置(シヅキはよく知らない)の設置をする作業である。ソウマやコクヨ、ヒソラといったホロウがその業務に当てられていた。


 もう1つがベースキャンプ周りの魔人の浄化である。ホロウが放つノイズの振動は小さなものであるが、ホロウが多く集まる箇所には魔人が集まりやすい。現に廃れの森を進む道中においても頻繁に魔人に遭遇した。


 今現在シヅキたちが行っているのが、そんなホロウ達を(ころ)すために虚空から姿を現す魔人を逆に排除することだった。別に魔人だって無限ではない。一度魔人を刈り尽くした地帯には1日以上の単位で再び姿を現すことはないのだ。故に魔人の排除行為は意味のある行動である。


 ソウマは、そんな魔人の排除作業を行うチームでさえも名指しで指定したのだった。結果としてシヅキ、アサギ、そしてトウカ……その3体での行動を余儀なくされた。


首の後ろをポリポリと掻いた後にシヅキは言葉を吐いた。


「……勝手にチーム決めんなよな。こっちだって色々と都合があんだよ」

「だよなぁ! 戦闘での連携とか慣れがかなり重要になってくるのに、毎回メンバーを変えられたら溜まったもんじゃないって!」


 シヅキのソレは単なる独り言だったわけだが、アサギはその意見に強く賛同したのだった。無駄にデカい声をまともに聞いてしまい、シヅキは肩を竦めた。


「で、でも……色んなホロウの方とお喋り出来るから、そんなに、悪くもないかな、って……」

「まぁそういう側面もあるよな。俺もトウカと話すのこれが初めてだし」

「そ、そうですね!」

「……」


 クソが付くほどの違和感で話すトウカの調子に、シヅキは眉間に皺を寄せた。めちゃくちゃに愛想を良く見せようとしているのが見え見えだった。心の中でシヅキは「何だこいつ」を連呼していた。


 ……それからというもの、場はなんとも緩い雰囲気に包まれた。アサギとトウカがずっと話していたからだ。といってもアサギの質問にトウカが答えるばかりだったが。


 会話の内容も実にありきたりなものだった。好きな食べ物とか、趣味とか、休日に何をするか、抽出型の苦労など。トウカの返答の半分は、シヅキも初知りの情報だった。そして既知の半分は、真実3と嘘7で答えていた。


 (しれっと嘘吐くなよ、裏切り者)


 温情にて心の中で舌打ちを打ったシヅキだったが、その肩を大きくゴツゴツした手がポンと乗っかった。


「どうした? シヅキ。お前も会話に混ざろうぜ! トウカとは普段チーム組んでるんだろ?」


 悪い意味で屈託が一切無いアサギに、シヅキは辟易(へきえき)とした。ただでさえ今はトウカと距離を置きたいと考えているのに、その会話に参加を強制されるのは嫌でしかなかったのだ。


「うぜぇ……」


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