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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第三章 調査団
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マメサユキ


 つい昨日に組まれた即興の調査団。彼らはかつてまともだった頃の人間が大都市を造ったとされる“から風荒野”を目指して前進をしていた。


 目的はから風荒野への侵入経路の確保である。というのも、から風荒野の周辺には魔素ノイズが渦状に流動をしているのだ。この渦状のノイズは結界と命名された。


“結界を破壊できるかどうか。” そこにこの調査の命運が託されているのだ。


 (………まぁ、んなことはクソほどどうでもいいんだが)


 心の中でそう吐き捨てたシヅキは、改めて自身がこの調査とやらには向いていないことを自覚をした。


 第一に士気の低さである。ホロウの悲願である人間の復活にツユほどの興味が無いシヅキが、結界の破壊という得体の知れない調査へ躍起となる理由がある筈無かった。今はただただ、“言われたことを愚直に行うようにする”という今までの自身の在り方へやはり愚直に従っているに過ぎない。


「どしたすか? シヅっち〜なんか思い詰めた顔してるっすね〜、ん? ん?」


 廃れの森をただ黙々と歩いていただけなのに、エイガはわざわざこちらに駆け寄ってそんなことを訊いてきた。シヅキは軽く舌打ちをした後にこのように応えた。


「るせーよ、幻覚だ」

「幻ではないっしょ……」


 ケタケタと貼りついた笑みを浮かべるエイガを、シヅキは嫌悪を隠さない表情で見た。


 第二に集団での任務。シヅキは自身が他者に対して辛辣である自覚が大いにあった。ちょうど先ほどエイガにとった態度のように。明らかに集団行動には適していないタチなのだから、やはり調査団には向いていない。


 手で払い除ける素振りを何度か行って、ようやくエイガは持ち場へと戻っていった。シヅキは溜息を1つした後に、前方を歩く1体のホロウへと視線を寄越した。その横顔が見える。


(……トウカ)


 そして最後にトウカのこと。先日トウカが吐いた彼女の正体……ソレが静かに、しかし確実にシヅキの思考を蝕んでいた。否応もなく思考せざるを得ないのだ。他のナニカに打ち込むなんて出来る筈なかった。


 そんな思考の最中で、シヅキは自分自身のことをちっぽけな存在だと思った。小心者なのだ。ソヨやヒソラ、コクヨであれば気持ちに折り合いなんかを付けられるのかもしれないが、シヅキにはそれが出来ない。自分の中で抱え込んで、抱え込んだモノは濃度が高くなりやがて毒へと変わる……そんなイメージが頭の中にあった。


 そんなシヅキのことを知ってか知らずか、調査団の隊列において先頭付近を歩くトウカの面持(おもも)ちは至って平常だった。ただ淡々と誰とも話すことなく前進を続けるのみだ。一見するとそれは、緊張をしているようにもあるいはリラックスをしているようにも見えた。


 (前者だろーけどな)


 トウカが片手に持つ錫杖(しゃくじょう)。その揺れる鈴を見ながらシヅキはそのように考えていた。


「シヅキさん、シヅキさん」


 先ほどのエイガのように再び声がかけられた。今度は背後からだ。移動の最中は余計な会話をしないのが原則じゃないのか? と呆れつつもシヅキは振り返る。


「んだよ、サユキ」


 ぶっきらぼうにシヅキがそのように声をかけると、同じ浄化型のサユキはメガネをカチリと上げつつこう言った。


「先ほどエペを武装した魔人を浄化したじゃないですか。その時の感想を率直にお願いしたいですね」

「あ? 感想?」

「ええ。私が近くの木の上から魔人を狙撃しましたよね? 私の立ち位置や矢を飛ばすタイミング、あとは指示についてシヅキさんが思ったことを教えて欲しいです」

「……あぁ、そういうことか」


 シヅキが思い返したのはつい先ほどの戦闘のことだった。シヅキが対峙したエペ武装の魔人の肩を1本の群青色の矢が貫いたのだ。あれはサユキが放った一撃だった。


 浄化型の武装は各ホロウで様々だ。シヅキは大鎌、コクヨは刀、アサギは大盾、エイガは短剣を同時に2本用いる。サユキは弓矢だった。戦闘時には魔人の足止めや隙作りといったバックアップを行う。


 道中では計3回魔人と対峙をした。その中でサユキが放った矢の数は1本だけだった。なぜならそれ以外はシヅキとエイガで事足りたからである。


 なので、シヅキはたった1回の狙撃のことを頭に浮かべながら、ぶっきらぼうに答えた。


「正直あの一撃は助かった。俺1体じゃあ消耗戦にでもなってたろうしな」

「ほうほう。して、改善点はありましたかね」


 コクコクと素早く頷きながら、サユキは懐から取り出したメモ帳とペンを準備した。


「……お前、マメな」

「ふふ、当然ですね。私のアイデンティティーですから!」

「アイデ……は?」

「アイデンティティーですよ! 個性ですね!」

「……」


 ドヤ顔でメガネを上げるサユキは随分と鼻についたが、流石にそれを口には出さなかった。溜息混じりにシヅキは言葉を口にする。


「……そうだな、距離感がいまいち掴めねぇとこか。背後にサユキが居ることは分かるが、どれほど距離が空いているかが曖昧だ。声の調子だけじゃ理解に時間かかるから、他に合図をくれると助かる」

「ほうほうほう」


 ザーッという調子でメモをとるサユキ。シヅキが眼の端に捉えたメモ帳はびっしりと黒で埋まっていた。


「分かりました。とりあえず木を移った際は脚で幹を叩くようにしましょう。それが聞こえづらければ他に案を考えてみます」

「ああ」

「質問は以上です。ご協力感謝ですね」


 やはり最後もメガネをカチリと上げたサユキは、ペコリと頭を下げた後にスキップでもともと居た隊列の位置へと戻っていった。


 それを眼で見送った後に視線を戻すと、こちらを見ながら後ろ歩きをするエイガと眼が合った。


「ふーん」

「……んだよ」

「シヅっち、意外と喋るんだ〜と思っただけすよ」

「お前には関係ないだろ」

「あるっすよ! オレはシヅっちと仲良くなりてーっすもん!」

「俺は思ってねぇよ」

「え〜ひどいすよ!」


 そう言いながらわざとらしくその場で地団駄を踏んだエイガ。その光景を、トウカと同じ隊列の先頭を歩くソウマがギロッと睨んでいた。


 そんな2体のを眼に捉えつつシヅキは考える。


 (エイガとソウマ……こいつらがコクヨさんと一緒に“絶望”から救助したんだよな)


 赤毛で軽薄な態度を崩さないエイガと、堅物な態度をとり続けるメガネをかけたソウマ。一度救助されたからかどうかは不明だが、2体にはアサギやサユキといった他のホロウとは()()()()()が異なると漠然と感じていた。


 顎を2度さすった後にエイガがおどけた口調で言った。


「シヅっちってば、まーた思い詰めた顔してるすよ? よければ相談乗るっすよ? ん?」

「……」


 個体差があるのだから纏う雰囲気が異なるのは当然だろう。だが、それとは別にシヅキの中には2体に共通する“違和感”があった。なぜ自分の中にそんなものがあるのか分からない。 ……ただ、存在するのだ。そして、それはシヅキの思考を蝕みつつあった。


 静かに、しかし確実に。




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