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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第三章 調査団
56/135

エペ武装の魔人


「どりゃああああああああああああ!!!」


 ガァァァン


 猛々しい雄叫びと鈍い金属音がいっぺんに走った。横目で様子を窺うと、大槌の武装をした魔人の体勢が完全に崩れきっていた。シヅキはその光景に素直に舌を巻く。


 (アサギ、あんだけのパワーがあったのか)


 どうやら向こう側は問題が無さそうだと思い、シヅキは目の前の魔人に意識を集中させる。 ……無論、常に気を抜いてはいなかったが。


「リリリリリ………………リリリリリ」


 シヅキの目の前に立ち塞がっていたのは、甲高い声で鳴く魔人だった。細身であるコクヨや、以前に戦った短剣を武装した魔人なんかよりもよっぽど痩せている。それこそ周りに生えている白濁の木々が伸ばす枝のような体躯だ。


 武装にしたって、まるで針のように細い剣を携えている。魔人はそれを斬るために使うのではなく、常に突いてくる。剣の中でもいわゆるエペと呼ばれる代物(しろもの)だ。


 シヅキは大鎌の柄を出来る限り短く持った。隙を見て、懐に潜り込んだところで魔人の身体を抉るように斬る算段だ。


「リリリ……」


 短く鳴いたかと思うと、エペ武装の魔人が接近をしてきた。タチが悪いのが、身体よりも先に剣を突き刺してくるところで、腕が伸びきったと同時に胴が付いてくるのだ。なかなか間合いを縮ませない攻撃のせいで長期戦が余儀なくされた。


「ダリぃな!」


 苛立ちの声を漏らしながら、シヅキは突き続けられる剣を捌き続けた。執拗に胴を狙い続けるために剣の処理自体は簡単だ。しかし動きが速い。剣を弾いたかと思うと、第二の突きが始まっている。もしかすると、消耗戦に持ち込むことがこの魔人の目的か? なんて邪推を繰り広げる。


 そうやって対峙する魔人にシヅキが手を焼いていたところ、斜め後方から声がかけられた。


「シヅキさん! 魔人との距離を開けてください!」

「……っ!」


 返事をする以前に身体が動いた。全身に高速循環させていた魔素の流れを今度は遅める。代わりに脚先に魔素を集めた。急速に熱を帯びてくる感覚……言い換えれば、それは無茶だ。


「ラァ――!」


 魔人が繰り出す剣撃を弾いた瞬間に、左脚を軸としたかなり豪快に右の回し蹴りを繰り出した。


「リリ」


 剣を突き出すよりも更に短い鳴き声が聞こえたかと思うと、シヅキの蹴りは見事に空を切った。エペ武装の魔人が後方に距離を取ったのだ。あんなに細身の剣で受けて躱すことは不可能なのだから、当然の行動である。


 しかし魔人側からすれば、またとないチャンスだった。なにせ相手のホロウは咄嗟に大振りの蹴りを繰り出したせいで、大きく体勢が傾いていたのだから。こうなれば魔人の行動はただ1つに固定される。


 魔人は剣を自身の身体に寄せた。溜めの動作である。


「リリリ………」


 間もなくして、渾身の突きがシヅキを襲った。細くしなやかに、確実に肉薄をしてくる。それは確かに良いシヅキを(ころ)そうとしてきた。



 ――その隙を彼女は許さなかった。



 フッと空を斬るような音が耳元を掠めたかと思うと、シヅキが認識した時は魔人の右肩を群青色の矢が貫通していた。


「リリリリリリリリリリ」


 喚くように鳴くエペ武装の魔人。速やかに矢を引っこ抜こうとしているが、上手く抜けない。どうやら矢には返しが付いているらしい。


「シヅキさん、あとは――」

「わーってる!」


 この瞬間を逃すほどにシヅキは愚かではない。鋭く息を吐くと同時に、遠心力に任せた横振りの大鎌を魔人にぶち当てた。


 ドゥゥゥン


 両手へと確かに響く振動と共に、エペ武装の魔人は大鎌を振りきった方向へ派手にぶっ飛んだ。白濁の大木に背から激しくぶつかり、そのまま地面へと倒れ込んだ。


「リリ……リリ……」


 どうやら先程の攻撃では細すぎる体躯を分断することはできなかったらしい。しかし、大きすぎる損傷を加えたことは違いなかった。痙攣を続ける魔人の姿には、シヅキの手を焼かせた面影はもう残っていない。


「……」


 その惨状に激しい罪悪感を覚えつつ、シヅキは大鎌を再び振り上げた。シヅキの体勢は大きく隙があるくせして、魔人は剣を振ろうとはしない。否、振れない。



 (すまんな。今ラクにしてやる……)


 心の中で呟いたシヅキは、重力に身を任せて大鎌を一気に振り下ろした。さながら、かつての人間史の中で処刑に用いられたというギロチンのように。


 間もなくしてシヅキの大鎌は、エペ武装の首元を捉え…………


「よっ!」


 ……ようとしたところで止められた。突如として、眼前に魔人以外の影が映り込んだからだ。


 ズシュ


 間もなく聞こえてきたのは、そんな肉を剥ぐような音だった。喉の奥から掻っ切り、確実に魔人を(ころ)す手法……短剣武装のホロウがトドメを刺す時の常套手段だった。 ……既にエペ武装の魔人は鳴けなくなっていた。


「よーっし! これで5体目すね。順調で何よりっすね〜」


 汗をかいていないにも関わらず、額を拭う素振りをした短剣武装のホロウは(おもむろ)に立ち上がった。シヅキの方を振り向いたところで眼があった。 ……薄明の丘で初めて会った時から感じる軽薄な印象の眼だ。


「シヅキっちおつーっす! さっきの蹴り良かったすよ。上手く機転が効いてた感じで!」


 ニッと歯をむき出しにして笑ったホロウ……エイガがそう言いつつグッドサインをシヅキへと向けた。


「ふあぁぁぁぁ……」


 そんなシヅキたちの後方では、抽出型のリーフが魔素の抽出を気だるそうに始めたのだった。


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