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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第三章 調査団
54/135

曖昧な関係性


「おらよ、これ」

「あ、ありがと……」


 いつかの日と同じようにベッドの上に座ったトウカにシヅキは特製のコーヒーを振るまった。


 火傷をしないようにするためか慎重にカップを傾けるトウカ。少しの後、カップを下ろした後のトウカの顔は酷いものだった。


「お前、それは不安に駆られてるのかコーヒーの苦味に苦しんでいるのかどっちなんだ?」

「り、両方だよ……」


 顔を極限まで顰めたトウカを見てシヅキは鼻で笑った。


「ありがとシヅキ。ちょっと落ち着いた」

「……なんだったか。自分が同族消しとバレたもしんねーってか? それとも、虚ノ黎明と絡みたがってる方か?」

「ハ、ハッキリ言うね」

「なんで俺がおめーに気を遣うんだよ。昨日言ったろ? 裏切り者に優しく出来るほどに、俺はオワってねえってな」

「なら、シヅキは“オワってる”ね」

「……あ?」

「デコピン、さっきしてくれた。すごく優しかったよ。痛いけど」


 少し赤くなった額をトウカはさすった。それに対してシヅキは大きく舌打ちをうった。


「お前さ。話し相手を逆撫でる才能あるよ。ちょうど“絶望”を相手にしたときと同じ気持ちになった」

「……ごめん」

「謝んな。立ち回り下手かよ。 ……呆れて怒りを通り越した」


 ハァと大きく溜息を吐きつつ、シヅキは机にドンと頬杖をついた。ちょうどその目線の先には秒針の進み方が狂っている柱時計が見える。指している時刻はまだまだホロウの活動時間帯であった。


 トウカは再びコーヒーに口をつけるとポツリポツリと話し始めた。


「えっと……その。私けっこう本気で怖くて……その、私の過去が上層部にバレているかもっていう話、なんだけど」


 口を真一文字に結んだトウカ。その手はシヅキのベッドのシーツをギュッと掴んでいた。


「よく分からねえ調査団なんかに任命されたからか? だがよ、それは別に――」

「私だけじゃない……のは分かってる。でもシヅキとヒソラさんがいるのが……」

「……」


 つまるところ、トウカが懸念していることはシヅキと同じだったということだ。


 (なんで思考回路が一緒なんだよ、クソ)


 後ろ髪をわしゃわしゃと掻いた後、シヅキは不機嫌そうな声で言った。


「なぜ調査団なんかに選ばれたのか、5体で集まって話したが結論なんか出なかった。お前に教えられる情報を俺は持ってねえよ」

「そう、なんだ……」

「得体の知れねぇ調査団は確かにきな臭さを感じる。何かしら俺たちに不都合あるんじゃねぇか、なんてな。邪推かもしんねーけどよ」

「……」

「だが……だが、そのこととお前がどこで繋がんだよ。お前は俺以外の誰かに自分の過去がバレるようなボロを一度でも出したのか?」


 シヅキがそう尋ねると、トウカは自信なさげに頭を振った。


「私は……私の計画は、辺境区に来てから狂っちゃってて……上手く、動けていない」

「なら問題はねぇだろ。中央区でやらかしたことが公に知られているなら、既に中央区で裁かれている筈だろ?」

「それはまぁ……そうだね」


 シヅキが言葉を連ねても、トウカの声から不安の色は消えることがなかった。


「……別によ。上層部だって深く考えずに調査団を結成したかもしれない。俺たちが思っていること全部が杞憂って可能性の方が高いくらいだ。後は……コクヨさんか。俺とお前を“絶望”から救ったホロウが同行する」


 シヅキは“絶望”と対峙した時のことを思い出した。長身の刀を携えたコクヨがシヅキとトウカのことを助けてくれたのだ。そして“絶望”すらを浄化してみせた。


 聡明で力があるコクヨが同行する時点で、大抵の不都合は全て跳ね除けてくれそうではある。それほどまでに頼りになるホロというのがシヅキの認識だ。いわば、“最強の味方”である。


「気にしすぎなんだよ。俺も、お前も」


 シヅキがそこまで言ったところで、トウカはようやく笑みを浮かべてみせた。


「……ありがと、シヅキ。少しだけ元気でた」

「俺はただ、考えられる可能性を口にしただけだ。他意は無えよ。実際のところは明日になってみねえと何も分からねえ」


 座り込んだ椅子から立ち上がったシヅキはトウカに向かって手を2回払った。


「話は済んだろ。ならとっとと出て行ってくれ」


 酷く冷淡な対応である自覚はあったが、トウカは素直に頷くと玄関扉に手をかけた。


そして、小さな声でこう言ってみせた。


「シヅキ。明日からもよろしくね」

「……俺は、お前のことを既に信用なんかして無えよ。少しでも変な動きを見せてみろよ。そん時は……覚悟しとけ」


 未だどうトウカを扱えばいいのか分かってはいない。でも今まで通り軽口を叩く仲というのは確実に出来ないし、だからって敵意を剥き出しにし続けることも憚られた。どう扱えばいいのか分からない。


 これからのトウカ次第……なんて言い方をすると聞こえはいいが、とりあえず様子を見ることにした。罪のない他者を犠牲にするやり方をシヅキは認められない。もしトウカが語ったような動きを辺境区(ここ)でもしたならば……それを目撃してしまったならば、シヅキは大鎌を振り下ろすのだ。


 だから今は、仲間とも友ともチームとも敵とも他者とも形容できない関係に落ち着く他ない。酷く酷く曖昧な関係性……さながらホロウのように。




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