ひどい既視感
結局のところ、緊急で集まったはいいものの収穫らしい収穫は無く、その場は解散となった。
帰り際にアサギとサユキは管理部の方に寄ると言っていた。しかし、開示された情報が過剰に少な過ぎることから、「行けば分かる」の一言で一蹴される気はするが。 ……あるいは、管理部すらまともに分かっていない可能性もあるだろうか? なんにせよ、情報を得られる可能性は低い気がする。
「ハァ」
時間が経つごとに、調査団への抜擢に対する「困惑」は「不安」へと侵食されつつあった。それを自覚してからというものの、どうも身体が重い。その感覚は、病室で目覚めてから間も無くのモノに近かった。
居住スペースまで降りる昇降機の壁に、シヅキは全体重を預けた。頭の中にこびりつく懸念の大きさに舌打ちをする。
(調査団のこともあるし、それに……)
間も無くして、昇降機はガタンと揺れた。鉄製の扉が不快な金属音と共に開かれる。
……開かれて、シヅキはぎょっと眼を剥いた。
「シヅ、キ」
扉の向こうに立っていたのはその懸念の筆頭であるトウカだった。彼女もまたシヅキと同じように、眼をパチクリとさせてその場に立ち尽くしていた。
そのまま少しだけ時間が流れた後、シヅキはそそくさと外套のフードを被り、早歩きにて昇降機を後にしようとした。
「ま、待って! シヅキ!」
ちょうど昨日の去り際のように制止の声がかけられたが、シヅキは従うことなく、自室に続く廊下をスタスタと歩いて行く。
そのまま振り切れると思ったのだが――
シヅキは唐突にその脚を止めた。
「んだよ」
「ご、ごめん…………引き止めちゃって」
角を曲がろうとした時、シヅキの袖元がギュッと握られたのだ。すぐ後ろからはトウカの早い呼吸が聞こえてくる。
「その……シヅキと少し、話したくて」
「俺はお前と話をするつもりは無ぇよ」
袖を掴む手を振り解こうとしたが、トウカは思った以上に強い力で握り込んでおり、離れやしなかった。何度も何度も袖を引っ張る。しかしそれでも振り解けなかった。
痺れを切らせたシヅキ。眉間に深く皺を寄せた表情で後ろを振り向いた。
「……調査団、のこと。教えて欲しいの」
弱々しく呟いたトウカが浮かべていたのは、かなり切羽の詰まった表情であった。それと同時に、袖を掴む手がふるふると震えているのを見つけた。 ……明らかに普通の様子ではない。
「私……“特殊作戦”に急に任命されてて……意味が分からなくて……ソヨさんに詳細を聞きに行ったけど、ソヨもさんも今日初めて聞いたって言ってて……明日から作戦を始める、って……結界の破壊?……意味が分からない。話が急すぎるし、辞退を申し出たけど、合理的な理由が無い場合は不許可だって……上層部のホロウが既に決定した……ことらしくて……」
「トウカ、お前――」
「だんだん不安になってきて……もしかしたら、私のことが……私の過去のことが明るみになったから……私はそんな得体の知れない作戦なんかに選ばれたのかなって……だとしたら、私は……」
「トウカ!」
シヅキが強く呼びかけると、トウカはハッとした表情でシヅキを見た。
「シヅキ……私、どうしたら……」
「よくもまぁそんなことを俺に聞けたな」
「だって――あだっ!」
トウカの額を指で軽く弾くと、彼女の顔はすぐに仰け反った。
「……お前、なんだかんだ言ってそのバカみたいな臆病さは“素”なんだな。安心したよ」
「いたい……」
額を両手で押さえつつその場に蹲ったトウカ。ひどく既視感のあるその光景に、シヅキは呆れる他なかった。わざとらしい大きな溜息の後に、シヅキは出来るだけ淡々と言葉を並べた。
「とりあえず場所を変えるぞ。誰かに聞かれるのはお前が一番不都合だろう? トウカ」




