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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第三章 調査団
52/135

きな臭さ


「よっすー! ……お、けっこう集まってんじゃないすか!」


 バタンと力強く開かれた扉の先から現れたのは、赤毛が印象的なホロウだった。その後ろからアサギがひょっこりと顔を出す。


「待たせてすまんな。結局、エイガしかつかまらなかった」

「ってことで、アサギっちにつかまったエイガっす! 以後よろってことで!」


 挨拶もそこそこに、赤毛のホロウ……エイガはズカズカと談話室内を歩き、ドカっと空席に腰を下ろした。 ……そこはシヅキの隣の席である。


「シヅっち調子どうすか? そろそろ治ったすかね?」


 シヅキの肩をパンパンと強く叩きながらそんなことを尋ねてきたエイガ。唐突に近すぎる距離感に、シヅキの表情が歪んだことは言うまでもない。


「……いきなり何だよお前」


 その言葉と共に肩を叩く手を強引に振り解くと、エイガはわざとらしく自身の手を押さえ込んだ。


「そりゃあヒドいっすよ! オレたちゃダチじゃねーっすか!」

「ダチだと? 知らねーよ、お前なんて」

「えーー会ってるじゃないすかオレたち! ほら、この顔覚えてないっすか? ん?」


 眉を潜めた自身の顔を何度も指差すエイガ。ふつふつと沸き上がる嫌悪感を隠すことなく露わにしていたシヅキだったが、エイガの表情には見覚えがあった。


 (この軽薄な雰囲気は……そうだ、薄明の丘で……)


『そっすよねー! 初めてコクヨさん見たらそうなっちゃうすよねぇ!』


 “絶望”にやられる寸前に、シヅキとトウカはコクヨによって助けられた。しかしあの場に現れたのはコクヨ1体だけじゃなかったのだ。眼鏡のホロウと赤毛のホロウ……彼らもまた、あの場には居た。


 恐る恐るの口調でシヅキは言った。


「……俺の救助に来ていた」

「そっすよー! あん時は大変だったんすからねー」


 ケラケラと笑うエイガ。周りに眼を向けると、サユキとリーフと視線が合った。不思議そうにこちらを見ていることが分かる。


 (クソ……どう説明すりゃあいいんだ)


 眉間に皺を寄せながら適当な説明する文句を考えていると、「よし! じゃあ聞いてくれ!」と大きな声が聞こえてきた。振り向くとそこには、全体を見渡すアサギの姿があった。


「全員とは言わないがそこそこの数が集まったし、そろそろ話し合いを始めようか。 ……とは言っても、いきなりのことすぎてどこから手をつければいいのかって話だけどな」

「まずは出席確認からしましょう。今この場にいるのがアサギ、リーフ、シヅキ、エイガ、そして私ことサユキですね。逆にこの場に来ていないのがコクヨ、ライカ、クロウ、ソウマ、ヒョウ、トウカ、チコ、フィア、ヒョウ、ヒソラですね。 ……あ、敬称は略です」


 サユキが配られたリストの名前を淡々と読み上げた。


 (そうか、これでも半分以上は来ていねえのか。 ……まあ、急に呼び掛けたのならこんなもんか)


 アサギは腕を組み、難しい表情をしながら言った。


「コクヨ隊長とヒソラ先生はいいだろう。おれたちより上のホロウだし、そこで色々と伝わってるんじゃないか? ……その他のホロウは」

「あーそれなら大丈夫っすよ」


 アサギの言葉を遮ったのは先ほどまでシヅキにウサ絡みをしていたホロウ、エイガだった。


「ソウマっちも調査団に選ばれたホロウを何体か、集めているらしいっす」

「そう、なのか? すまん、全然把握出来ていなくてよ」

「さっき通心で連絡あったっす。集めている理由は、一緒じゃないっすかね? とりあえず情報を共有しておきたいって感じで」

「……まあ、だったらいいか。じゃあ、おれたちも話を始めようか。 ――正直、おれは特殊作戦だの調査団だのを今日初めて聞いた。だから、なんっっっも分からん。誰か何か知ってることあったら、遠慮なく教えて欲しいと思ってる。頼む!」


 パン、と両手を合わせて拝む仕草をするアサギ。シヅキとしても口には出さないが、ほぼほぼアサギと同じ立場だ。故に情報なんて一切持ち合わせていない。


 そんな中で唯一手を挙げたのはリーフだった。


「リーフか! 何か、知ってるのか?」

「ん〜ん。リーフちゃんも〜急に呼ばれたから何も知らないんだけ、ど〜。急すぎっていうか〜? きな臭さみたいな〜? 感じるよね〜」

「? どうゆうことだ?」

「特殊作戦って言っても〜、いきなりすぎて〜困っちゃうよね〜」

「……もっとまともに喋れねーのかよ」


 シヅキがそう口を挟むと、リーフは「だぁ〜」と言いながら机に突っ伏した。


「シヅキさん! リーフさんも一生懸命に喋っているのですから、そういう口の利き方はメッですよ! メッ!」

「……これ俺が悪ぃのかよ。意味分かんねえ」


 後頭部を掻きながら困惑の声を漏らしたシヅキ。彼が横を見ると、先ほど注意をしてきたサユキは「うー」と項垂れるリーフの頭を撫でていた。


「ま、まぁリーフが言いたかったことは大体分かったぞ。特殊作戦なんて大層な名前をつけていて、おまけにその中身だって、人間の復活に大きく影響するかもしれない重要なものだ。それを即興で作ったチームに丸投げするなんて、どう考えてもおかしいよな」


 アサギの要約に対し、リーフはグッドマークを作った手を挙げてみせた。


(……まぁ、一番気になるところだな。それが)


 椅子の手すりの上で頬杖をついたシヅキ。アサギの言葉には全面的に賛同できた。


「はいはいはーい! でも、今回おれたちが選ばれたのは、大都市があったっていう“から風荒野”での魔素回収任務じゃなくて、あくまでそこに辿り着くための結界の問題を解決する調査団っすよね? だったら、とりあえず適当に面子を集めて向かわせるのも説明つくんじゃないすか?」

「……確かにエイガさんの言う通り、結界の問題解決に向けたメンバーを揃えて調査をするだけであれば、特殊作戦の本筋でもありませんし、失敗を生む可能性は低いでしょう。即興で調査団を結成して派遣することも頷けます。しかしながら、そのメンバーを名指しで固定するという行為はよく分かりませんね。何故、わたし達は選ばれたのでしょうか?」


 結局のところ帰結するのは、調査団のメンバーに選ばれた理由である。サユキが少し前に言っていたが、調査団に抜擢されたホロウの間には共通点らしいものは見られない。型が統一されているわけでもないし、能力の高い者を集めたという訳でもないだろう。少なくともシヅキ自身の実力は並程度の自覚はある。


 少しの沈黙の後、ポツリと溢すようにアサギが呟いた。


「……解せないよなぁ。まさか無作為に選んだのか?」

「そんなに深い理由とかないんじゃないすか? アサギっちが言ったように、適当にホロウを引っこ抜いただけで、メンバーが名指しで固定なのも辞退させにくくさせるためーみたいな? そんな程度じゃないすか?」


 頭の後ろで腕を組み、気楽な様子で発したエイガの発言に否定の言葉を重ねる者は居なかった。皆(机に突っ伏したリーフを除く)が神妙な面持ちで考え込むだけだ。


(無作為……か)


 (おもむろ)にその眼を閉じたシヅキ。エイガの言う通り、共通点が見られない以上、そのように考えるのは自然なことだろう。 ……しかしながら、シヅキには1つ引っかかる点があった。


(ヒソラ、それにトウカ。この2体が居るのは本当に偶然か?)


 他ホロウとの交流が極端に少ないシヅキ。そんな彼と定期的な交流があるトウカとヒソラが、両方ともリスト上に存在するのを、偶然という一言で片付けることになんとも言えない気持ち悪さを感じた。


『ん〜ん。リーフちゃんも〜急に呼ばれたから何も知らないんだけ、ど〜。急すぎっていうか〜? きな臭さみたいな〜? 感じるよね〜』


 リーフは“きな臭さ”なんて言葉を口にしていたが、なるほど、シヅキも漠然とソレを感じざるを得なかった。


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