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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第三章 調査団
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クセの強い面々


「おいシヅキ、ちょっといいか?」


 どこか覚束無い足取りで大ホールを後にしようと歩いていたところ、後ろからそんな声がかけられた。


「よっ! 久しぶりだな!」


 振り返るとそこに居たのは、気の良さそうな男だった。随分と長身で、少し見上げないと頭のてっぺんが映らない。 ……シヅキはその男のことを知っていた。


「……アサギか」

「おうよ! 覚えられていたみたいで良かった」

「何の用だよ。俺はこの後――」

「ん? なんか予定ある感じ? いやぁさ、調査団の対象になった面子で一度集まろうと思ってさぁ」

「調査団……あぁ、そうか。お前の名前もあったな」

「そうそう! 流石に色々と急すぎるだろ? 明日いきなり現地集合ってのもいただけないからさ。情報の共有がしたくてな」


 そう言いながらも、彼は屈託ない笑顔を浮かべた。 


 ……アサギは気のいいホロウだ。多分それが彼の素なのだとは思う。否定的に物事を見る傾向が強いホロウ達の中では珍しい性格だった。故に、彼の周りにはホロウが多く集まる。要はシヅキと真逆のタイプだ。


 (だから調査団に引き抜かれたのか?)


「? どうかしたか?」

「いや、何でもねーよ。 ……集まるって、どこにだよ?」

「7Fの談話室だ。今んとこリーフとサユキには声をかけた。シヅキで3体目だな」

「……トウカは居ないか」

「トウカって、確かシヅキのチームだったよな? 実はさー、俺まだ顔分からないんだよね。今どこに居るとかって分かる??」

「……いや」

「あーそっかそっか。とりあえず、シヅキは参加してくれるってことでいいよな? な?」


 顔元に両手を合わせ少しだけ腰を曲げたアサギ。そこには「頼むから来てくれ」という強い意志が滲み出ていた。


 …………。


「俺の用ってのも、調査団関係のことでヒソラと相談をしようとしていただけだ。情報の共有をしたいのは俺も同じだ」

「ってことは……」

「わーった。7Fだな」


 シヅキがそう返事をすると、アサギの表情がパッと明るくなった。


「良かったあああ、助かるぜ。俺は他の奴らにも声を掛けてみるからさ、先に向かっておいてくれよ! じゃ」


 捲し立てるようにそう言い終えると、既に大ホールを出ていったホロウを追いかけて、アサギは小走りに行ってしまった。


 その場に残されたシヅキはハァと溜息を1つ吐いた。アサギとの会話を経て、自身が相当面倒なことに巻き込まれたことを改めて自覚する。


 (いや、俺だけじゃねえか。ヒソラとトウカの名前もあった……。どうなってんだよほんとに)


 小さく舌打ちを打ったシヅキは、重い足を動かし始めた。気が乗らないのは確かだが、とにかく今は情報が欲しい。




※※※※※




「あ〜また誰かやって来た〜。よろよろ〜」

「こんにちは、シヅキさん。あなたで3体目です」


 焦げ茶色をした木製の扉をくぐると、すぐにそんな声が掛けられた。両者とも女性だ。


「ああ。サユキと……お前がリーフか」

「そーそー。リーフちゃんだよ〜ん。仲良くしてね〜」


 自身をリーフと名乗るホロウは、こちら側に手の甲を向けた独特のピースサインを作ってみせた。しかしながら、その視線は一度たりともシヅキを捉えることはない。彼女はひたすらに自身の指を見つめていたのだ。


(ネイル? 今かよ)


 邪魔しちゃ悪い、なんて気持ちは一切なかった。しかし、近くに座るのは何となく億劫で、シヅキはもう一体のホロウの向かい側の席に腰を下ろした。


「こうして会話を交わすのはちょうど28日前、すれ違い際に肩がぶつかった時以来ですね」

「……全く覚えが無えんだが。よくもまぁ覚えてんな」

「ふふ、当然です。記録(きおく)は私たちホロウを形成する重要な要素ですから」


 メガネをカチリと上げたサユキは見事なドヤ顔を浮かべてみせた。シヅキは思わず眼を細める。


(クセのつええのが揃ったな)


 リーフは初対面だが、サユキとは顔見知りだった。同じ浄化型のホロウというのが大きい。時たまにある浄化型だけの集まり(大抵は、そそくさと談笑やら酒盛りに切り替わるほぼ無意味なイベント)にて、何度か会話を交わしたことを覚えている。確か彼女は6体のチームにて、魔人からの魔素回収に当たっていた筈だ。 ……逆に言えば、それ位しか知らない訳だが。強いてもう1つ挙げるならば、ドが付く几帳面さか。


 ほんの小さく溜息を吐いたシヅキに、サユキが尋ねた。


「シヅキさんは調査団に抜擢されたことについて、心当たりはありますか?」

「……。お前はどうなんだよ」


 シヅキがそう聞き返すと、サユキは口元を真一文字に結んで、(かぶり)を振った。


「残念ながら、分かりかねますね。リストのラインナップを分析した結果、唯一の共通点は、私たち皆がホロウであるという点のみです」

「……笑うとこか? それ」

「ウケる〜」


 いつの間にか爪の手入れを終えていたリーフは、組んだ脚を机に乗せて、こちらをニヤニヤと見ていた。それを見たサユキはムッとした表情を浮かべた。


「リーフさん、また机の上に脚を乗せているじゃないですか。あなたの悪癖ですよ」

「え〜別にいいじゃん。湯呑みや紙束を乗せられるより、リーフちゃんの脚の方が、机だって喜んでそうだし〜」

「……確かに、一理ありますね」


 (無えよ。なんだこいつら)


 ボケでいってるかと思いきや、サユキは顎に手を添えて真剣な表情を浮かべているし、リーフは気怠そうに欠伸を漏らしていた。


 (こいつら知り合いか? ……同じチームか?)


 深く被ったフードの中で怪訝な表情を浮かべたシヅキ。何とも言えない居心地の悪さを感じたところで、談話室の扉がコンコンと2回鳴った。


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