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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第二章 “絶望”
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『人間とホロウの物語』

 

 白濁とした廃れの森を抜け、緩やかな曲線を描く丘を下ったその先に在るは、相も変わらず騒々しい港町だった。


 群衆でごった返した屋台通りを見るや否や、シヅキは眉間にシワを寄せた。


「暇かよあいつら……いつ来たって群がってやがるな」

「活気に溢れてるよね。みんな、元気」

「うるせーだけだ」

「静かすぎるよりは私、好きだよ?」


 横目でチラッと見たトウカは、その口に微笑みを浮かべていた。


「変なやつだ」

「え?」

「なんでもねえよ。 ……んで、どこ行くとか決めてんのか?」

「あ、うん! ソヨさんからね、色々と聞いたの」

「またあいつの名前かよ」

「シヅキと港町に行くって言ったら、色んなことを教えてくれたの」

「……デートってのもか」

「ん? うん」


 シヅキは自身の首の後ろを掴んだ。そして、ハァ、と溜息を吐く。


「一つ訊くけどよ、お前、デートの意味分かってんのかよ」

「単語の意味は、分かるよ? 男女でどこかへ行ったりすることだよ……ね?」


 恐る恐るの口調で答えたトウカ。シヅキは眼を細めた。


「恋仲のな」

「恋……」

「アレだ。かつての人間同士に起きた現象だよ。俺たちホロウに適用できる言葉かって言われたら、疑問だろ」


 例外はあるかもしれないが、人間は男女間で“恋”と呼ばれる現象を起こしたという。いや、人間に限った話ではない。生命を有す者たちは、互いに恋をすることで新たな生命の糧を得たのだ。


 しかし逆に考えると、新たな生命の糧を得られないならば、恋なんて現象は不必要ではなかろうか。 ……まさに、ホロウのことだ。


 その存在の全てを“魔素”に委ねるホロウには生命が無い。生殖行為を必要としない。つまり、好き合うことに価値は無いのだ。


 小さくトウカが呟いた。


「恋、か」


 恋という言葉を何度も反芻(はんすう)する(さま)は、何かを考えているようだった……間も無くして、言葉を溢す。


「私は……まだ、分かんないや」

「だろうな。俺もだ」

「ねえ、いつか私たちにも分かるのかな? 恋って、何なのか」


 そう言いながら、こちらを見上げるトウカ。シヅキは出来るだけ琥珀色の瞳を見ないようにしながら答えた。


「知らねえよ。 ……あぁ、話が脱線した。結局お前、どこ行きたいんだよ」

「あ、ごめん! えっと……あった! あそこ」


 斜め上方向を指したトウカ。つられてシヅキもその指先を追う。そこには大きなドーム状の屋根が見えた。魔素を燃料にした(きら)びやかな装飾が点滅を繰り返している。


 シヅキはあの建物を知っていた。


「あそこは」

「劇場、だよ。ソヨさんに薦められて、ちょっと調べてね? どうしても行きたくなったの」

「……一回だけ行ったことがあるな。そのソヨに連れられてだが」

「うん。私ね? 今日の劇の内容を、どうしても観たかったの。シヅキと一緒に」

「俺と?」


 コクリと頷いたトウカ。彼女はスッと息を吸うと、一息にこう言ってみせた。



「『人とホロウの物語』。誰もが知っている、古い、古い、伝承だよ」 




※※※※※




 遠い昔のお話です。まだ、生命(いのち)が世界にあふれていた頃のお話です。


 陸地、海、空。世界のありとあらゆる場所を、思うがままにした存在が居ました。人間です。


 多種・多様の人間たちには、他の生命が持たない特別な力がありました。人間はその力のことを、“魔法”と呼んでいました。


 魔法は、人間の生活を豊かにしました。


 炎の魔法は、人間の食生活を変えました。

 水の魔法は、枯れた大地を潤しました。

 植物の魔法は、無限の資源を与えました。

 太陽の魔法は、夜の暗さを打ち消しました。

 星の魔法は、近い未来を観せました。


 数多(あまた)の魔法を使って、人間は繁栄を続けました。


 しかし、そんな人間を大きな脅威が襲います。流行病(はやりやまい)です。


 世界の一点から広まった流行病は、瞬く間に世界全体へと広まります。


 流行病は生命を奪いました。人間だけではありません。動物や虫といった、生きとし生ける者たちからです。


 急激に数を減らす人間。人間は様々な手を尽くしましたが、流行病は収まることを知りません。


 人間は必死に考えました。どうすれば、この脅威を脱することが出来るのでしょうか? 必死に、必死に考えました。そして、一つの考えを思いつきます。


 一人の人間が言いました。


「生命が生きられない世界であるならば、生命ではない存在を創ればいい」


 魔法に長けた人間たちは、失敗を繰り返した後に、生命が無い存在を創ることに成功しました。人間の姿にそっくりの存在です。


 一人の人間が言いました。


「君たちは生命が生きられなくなったこの世界でも、存在を続けることが出来る。我々、人間が居なくなってしまった後、この世界に残るのは君たちだけだ。君たちは、人間にとっての最後の希望なのだ」


 残りわずかな人間たちは、生命の無い存在を前に、両手の指を絡めて祈ります。


「いつの日か我々、人間の復活を。あらゆる生命の復活を託す。それが生命無き君たち……ホロウが達するべき使命だ」


 間も無くして、残りわずかな人間たちは滅んでしまいました。この世界に残ったのは、ホロウだけです。


 ホロウは覚えています。ずっと、ずっと覚えています。人間たちの願いを。自らが、人間にとっての唯一の希望であることを。



 ――私たちは、ソレを決して忘れてはならないのです。


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