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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第二章 “絶望”
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分かりきっている


「別にボクは見えない鍵穴を回したつもりも、複雑な迷路を突破したつもりもないよ。ただただ、誰の眼にも見えている事実を突きつけただけさ」


 ヒソラが小さく差し向けた人差し指が、コクヨに刺さる。


「だってそうじゃん。コクヨが初めて“絶望”と対峙した時に浄化していたら、(ころ)された3体の存在は助かっていたかもしれないでしょ? 僕の眼からは……いや、誰の眼から見ても、君の力の振るい方には大きな違和感があるよ」


 普段よりもずっと低い声で言い放ったヒソラ。コクヨは殆ど表情を変えることなく、ずっと黙っていた。


「ただ、そのことを指摘するホロウは少ないよね。結局のところ、君は強敵である獣形(けものがた)のホロウを浄化した英雄なのだから。結果を出している以上、仮定は言及されないものさ。まぁ、例外のホロウは居るけれど」

「……ヒソラは、そのことを訊きに来たわけか」

「まぁね」


 ハァ、と小さく息を吐いたコクヨ。ヒソラは彼女と古くからの付き合いではある訳だが、表情や仕草から彼女の感情や考えを探ることは出来なかった。それは十数年も前に、とっくに諦めたことだ。


「……」


 コクヨは暫くの間、その口を開くことはなかった。 ……病室内にはどこか重苦しい静寂が襲う。ヒソラがコクヨから視線を外すことは1秒たりともなかった。


 そして、数十秒の後に、コクヨは真一文字に結ばれていた口を(おもむろ)に開く。


「特に深い理由は無い。初めてだったか、二回目だったか。不意を突かれたか、突いたか。地形の問題、ノイズの有無……そういった戦闘状況下での違いが結果に現れただけだ」

「君が意図したものでは無い、って?」

「そういうことだ」

「へぇ」


 コクヨは再び口を固く閉ざした。もう話すことは話した、なんてふうにヒソラには見える。


 ヒソラは軽く息を吐いた後に言う。


「まぁボクは解読型だから、戦闘関連のことについて君に反論は出来ないよ。君がそう言うんだったら、少なくともこの場ではそれを信じることしか出来ない」

「やけに素直だな」

「言い方、気を付けたほうがいいよ? 嘘つきが言うセリフだ」

「……そうか」


 相変わらず抑揚の無いコクヨの声。募る苛立ちを押さえつつ、ヒソラは言葉を紡ぐ。


「ボクがこの話を持ち出した理由だけどね、何も君を問いただすためでは無いよ。忠告が目的さ。前々からだけど、君の大隊はホロウの帰還率が悪い。そりゃあ、“絶望”のような名が付けられるほどの魔人と何度も戦っているんだから、当然かもしれないけどね」


 ヒソラは順々に指を立てながら言う。


「ボクが知っている範囲で“怨嗟”、“残酷”、“嘲笑”、“憤怒”、“狂気”……過去に君が手をかけた魔人の名前だよ。そして、その戦いで存在を消したホロウの数が計58。いずれも、魔素の多量流出だ」

「……お前は、ワタシの力を買い被りすぎだ」

「だとしたら申し訳ないね。ただ、これだけは覚えておいて欲しい。ホロウは……ホロウという存在は、使い捨てていい訳じゃないよ。彼らは心があって、痛みを感じるんだよ」

「ああ。肝に銘じておこう」


 細く、どこか冷たさを感じるコクヨの真っ黒の眼がヒソラを刺す。彼は一つ首肯すると、その場に立ち上がった。


「とはいっても、君がホロウを無下にしているとは思っていないよ。現に、シヅキとトウカのことを救ってくれたのは君だからね。そのことについては礼を言いたいよ。ありがとね」

「ああ。 ……もう行くのか?」

「消灯が近いからね。まあ、ボクが言えるセリフじゃあないけれど」


 その口角を上げて笑ったヒソラ。一つ手を挙げた後に、病室の扉へと歩いた。ドアノブを回したところで、思い出したかのように言った。


「そうそう。最後に一つだけ。負傷した時だけじゃなくて、例の悪夢の症状が酷くなった時もまた医務室までおいでよ。気休め程度にはなると思うから」

「ああ、頭の片隅に入れておこう」

「ボクの言葉が届いていることを願うよ。じゃあ、お大事にね」


 バタン


 ヒラヒラと手を振ったヒソラ。ゆっくりと扉を閉めた後、(こも)った足音が小さくなっていき、やがて消えた。


「……」


 暫くの間、彼が出て行った扉を凝視していたコクヨ。やがてその口を小さく開いた。


「ああ、それくらい分かりきっている」


(うつろ)な目は、最後まで虚のままだった。





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