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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第二章 “絶望”
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帰還作戦

今話、少しだけ過激な描写があります。ご注意ください。


 それから(しばら)くの時間が過ぎた。 ……暫くと言ったって、十数分程度だが。


 流石にそれだけ時間が過ぎれば、ある程度体力は回復する。未だに虚脱感はあるが、シヅキは何とか上体を起こした。


 それに気づいたらしいトウカがシヅキの方を向いた。


「もう、大丈夫そう?」

「あぁ」

「無理はしてない?」

「してねぇよ」

「……ほんとに?」


 琥珀の眼はジトっとこちらのことを見ていた。


「……まだ心が(だり)ぃ。でも、戦える」

「うん、良かった」


 そう言って小さくグッドのポーズを作ったトウカ。心無し、その表情は得意げに見える。シヅキは怪訝な表情を彼女に向けた。


「調子乗りやがってよ」

「え、いや……ごめん! そんなつもりは……」

「本気で言ってねぇよ。小心者がよ」

「しょ、小心者……」


 ぶつぶつと言葉を溢すトウカ。それを全無視して、シヅキは話し始めた。


「……身体も心もある程度は休めたんだ。俺たちは次の行動に移るべきだ。“絶望”が付近にいるであろう現状で、何とか帰還しなくちゃいけねぇ」

「う、うん!」


 トウカは自身の姿勢を正した……何故か正座だ。


「その為に考えられる選択肢が3つあると思っている」


 トウカは返事の代わりに、首を大きく縦に振った。シヅキも頷きを返した。


「まず前提として、この丘は魔素のノイズが無い特殊な土地だ。だからよ、魔人特有の魔素のノイズ反応から“絶望”の位置をあぶり出す方法は取れねえ」

「……“絶望”に限った話では無いんだけど、外側の魔人からは分かるのかな? ホロウがこの丘に居るって」

「視認以外の方法は取れねえだろな。奴らがどうやってホロウを見つけているのか、正確には分かってねーだろ?」

「うん……一応、ホロウが出す魔素のノイズを感じ取っているなんて仮説はあるけど」

「まあな。でも、その方法は無理だろ。ここにいる限りはノイズが0だ」

「そうだね」

「……よし、前置きが長くなったが、この前提を元に話すぞ。手短にな」


 シヅキは左手の人差し指を立てた。


「一つ目に、今すぐ丘を抜け出す方法。もちろん、俺たちが入ってきた方向とは別からだ。“絶望”に発見される以前に速攻帰還してやる」

「ここからだと走って1時間くらいかな?」

「トウカの脚だとな。俺が背負って、身体強化すれば15分は切る」

「せ、背負われるの……私」

「あ? さっきもやったろーが」


 それを聞いたトウカはぎこちなく頷いた。


「ただ、色々問題が多い。身体強化……つまり魔素を強引に走らせれば、俺が出すノイズは強まっちまう。“絶望”にノイズを探知される可能性は上がるだろうな。それに、今ならそんなの関係なしにバッタリ出会(でくわ)すリスクだってある」

「あと……私もそうだけど、“絶望”の魔素のノイズにまともに当てられたから、シヅキの身体が上手く動かせる保証も……ちょっと」

「あーそれもあるか。 ……とにかく、不確定事項が多すぎる。賭けの選択肢だ」

「……うん。私は、取らない方がいいと思う」

「ああ」


 慎重派というか、臆病なトウカであればそう言うことは想定されていた。シヅキとしてもこれは下策の部類だった。


「だから、二と三どちらかを取りてえってのが本音だ」


 そう言いながら、シヅキは中指を伸ばした。


「二つ目。丘でひたすら待機する。“絶望”に見つかるリスクは低いだろうな。それに、管理部からの通心を待つことも出来る」

「遅いもんね。アークの外と中に居ると、伝え合うのに時間が掛かっちゃう」


トウカが言う通り、言語を魔素へと圧縮して意思をやりとりする行為……通称、“通心”には時間差(タイムラグ)という弱点が存在する。特に、対象の距離が離れていたりするとその影響は顕著だ。


 シヅキは小さく溜息を吐いた。


「不便なところだな。つべこべ言ったってどうにもなんねーけどよ。 ……続けるぞ。この方法だったら、“絶望”と急に対峙することが防げる。仮に、奴がこの丘に入ってきたとしても、ある程度の距離は保証されているだろうしな」


 トウカが眉を潜めて言った。


「……逃げきれるかな?」

「どうだろうな。“絶望”と接触したコクヨの大隊は撤退できたんだ。完全に不可能って訳じゃねえだろうよ」

「でも、2体は消されちゃった……」

「……対峙してから逃げんのも不確定要素が多いな。ただ、1つ目の案よりはマシだろ」


 トウカは自身の顎に手を当て、考え込む素振りをした後にコクリと頷いた。


「よし。 ……で、まぁ、3つ目の選択肢だ。思うに、こいつが一番帰還率が(たけ)えやり方だ」


 シヅキは薬指を立てた。

  

「どうするの?」

「あぁ……3つ目、だが……」

「……シヅキ?」

「いや、すまん」


 長く息を吸って、吐いた。ジトリと掻いた汗が頬を流れていく。 ……気持ち悪い感触だ。


 ソレを右手で強引に拭ったシヅキ。乾いた唇を舌で舐めて、声を出す。


「……言うぞ。俺が、“絶望”と――」




 ザシュ




 ……突然、そんな音が走った。後から感じる、鋭い風。そして鼻につく臭い。



「………………は?」


 理解が追いつかなかった。それは、感知できなかったからでは無い。五感はちゃんと機能している。 ……原因は脳のほうにあった。入ってくる情報の全てを、脳は拒絶したのだ。



 ――拒絶せざるを得なかったのだ。



 間も無く、彼女が吐いた。言葉では無い。


「ゴハッ…………………!」


 赤い液体が飛び出た。ソレは後ろへと派手に飛び散っていく。 ……俺はソレを震える眼で追ってしまった。


 1本の、細長い、まるで、枝のような、ナニカ。


「植物…………」


 震える顎が勝手に呟いた。言語化して、現実が追いついてくる。白々しいほどに、情報の理解が始まる。


「トウ、カ……?」


 シヅキの呼びかけに彼女は答えない。その代わりに再び吐いた。


 ビシャビシャと音を立てて、飛び散る。似非血液(魔素)が、飛び散る。


 ――それを見て、シヅキはやっと理解しきることが出来た。伸ばされた枝が、トウカの身体を貫いたと理解出来たのだ。


 叫んだ。


「トウカァァァァァァァァ!!!」



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