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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第二章 “絶望”
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募る苛立ち


 結局その後、魔人と対峙することはなかった。


 真っ赤に染まっていた篝火の炎はすっかり色を褪せ、真っ黒に変貌してしまっていた。シヅキは何も操作をしていない。これは、管理部からの通達を意味していた。「戻ってこい」と。


 丘を抜け、白濁の森の中を帰る。大股で黙々と歩くシヅキ。その一方で、トウカの足取りは落ち着きがないように思われた。左右に揺れたり、立ち止まったり、突然速くなったり……まるで浮かれているようで。


 それを見て、シヅキは真っ黒のフードの奥で顔を歪ませた。喉の奥でくつくつと笑う。



 ――やがて彼らはオドに辿り着いた。昨日と同じ手順で昇降機を動かし、シヅキとトウカはそれに乗り込む。


 ギギギと軋んだ昇降機が大きく揺れ動き始める。


「お疲れさま、シヅキ」


 昇降機の端で意味もなく底を見下ろしていたシヅキ。そんな彼に、トウカは優しげに声をかけた。


「ああ」

「無事に帰ってこれて、よかったね」

「ああ」

「私……こんな少人数の任務って経験がないからちょっと緊張してたの。でも……上手く出来て良かった」

「ああ」

「シヅキも怪我がなくて良かった……魔素の活性化も、今日は身体に負担があまりなさそうだったから、安心した」

「……ああ」

「あと、あの丘の――」

「……おい」


 饒舌に喋るトウカを遮ったシヅキの声は、自身でも驚くほどに冷たかった。


「…………疲れてんだよ。ちょっと黙っててくれ」

「え……あ、ご、ごめん」


 真っ黒のフードの奥から覗くようにシヅキはトウカを見た。その表情は悲しみというより困惑だ。それを見てシヅキは小さく舌打ちをした。


「……シヅキ、帰り道でずっと黙ってたけど、もしかして……機嫌……悪い?」

「……別に。いつも通りだろ」

「そう……」

「ハァ」


 隠すこともなくシヅキは大きく溜息を吐いた。 ……昇降機に重い沈黙が漂う。


「…………」


 何も話すことなく、頬杖をつくシヅキ。彼の頭の中には一つの光景が思い出されていた。つい先ほどのことだ。



『もし……世界が命を取り戻して……遙か昔のように生命が芽吹くようになったらね……ここから観える景色はきっと……すごく、すごく綺麗だと思うんだ』



(くだんねえ。本当にくだんねえよ)


 シヅキは苛立っていた。何故なのか……それはシヅキ自身も分からなかった。とにかく、あんなセリフを言ったトウカのことが気に食わなかったのだ。


 ギギギギギギギギ


 やがて昇降機が軋んだ。甲高い歯車の音がやけに耳に残ってしょうがない。




※※※※※




 昇降機を降りたシヅキとトウカを迎えたのは1体のホロウだった。


「おかえり〜シヅキ、トウカさん」


 その右手をひらひらと振りながら笑みを浮かべるソヨ。シヅキにとっては、今現在会いたくない相手だった。


「……ああ」

「た、ただいま……帰りました」


 2体の態度を前に、ソヨはその眼を細めた。


「なんでシヅキ、そんな機嫌悪いの?」

「……別に、悪くねーよ」

「うっそだ〜めちゃめちゃ悪いじゃん」

「悪くねーっつーの」


 その腕を前に組み、目線を逸らしまくるシヅキ。ソヨは怪訝な表情を浮かべた。


「……トウカさん、シヅキと何かありましたか?」

「え……いやぁ…………」

「……」


 ソヨは首を傾げる他なかった。


「まぁ、何はともあれ2体とも無事で良かったわ。今日は負傷もないのね」

「ええ。そう、ですね」

「うん。じゃあ今日はもう身体を休めて……と言いたかったんだけどね」

「……あ?」

「ちょっとそういう訳にもいかなくてね」

「……何か、用事があるんですか?」


 トウカが恐る恐るの口調で聞くと、ソヨはコクリと頷いた。その表情は先ほどまでより少し引き締まっている。


「コクヨさんからオドのホロウ全体に話があるのよ。悪いんだけど、すぐに着替えてまた戻ってきてくれないかしら」

「コク……ヨ?」

「あーそうでしたね。トウカさんは会ったことなかったですものね」


 ソヨが簡単にコクヨというホロウについて説明すると、トウカは「なる、ほど」と一言。

 

「シヅキも参加ね」

「……ああ」

「それまでにちゃーんと機嫌を直しておくんだよ?」

「だから俺は――」

「あーじゃあ私はお仕事あるから。詳細は後で通心するね」


 捲し立てるようにそう言うと、ソヨはそそくさとロビーの奥まで引っ込んでいってしまった。


「あの女……」

「えっと、シヅキ」


 振り向くとそこには上目遣いで見るトウカの姿が。まるでそれは顔色を窺っているようだった。


「……なんだよ」

「えっと……私のせいだったら、ごめん。機嫌悪いの。でも……理由が分からなくて」

「…………」


 頬をポリポリと掻きながら謝罪の言葉を口にしたトウカ。本当に恐る恐るの口調だ。分からないから、少しだけ触れて感色を確かめようとする……そんなふうに確かめようとしているようで。


 しかし、そんな態度を取られると、余計に無気になってしまうのがシヅキというホロウだった。


「何でもねーよ。トウカには……お前には分かんねーよ」

「……どういう、こと?」

「……叶わねえ夢を見ようとして、虚しくなんねーのか?」

「夢……? ねえ、シヅキ、はっきりと――」

「俺は部屋帰る。一度着替えてーからな」


 トウカの返事も待たず、地下階層へと向かうシヅキ。トウカは何度も制止の声をかけたが、ついにシヅキは振り返ることはなかった。


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