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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第一章 灰色世界
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素直じゃない


「終わったよ、シヅキ。 ……どうしたの? 眠い?」


 額の汗を拭う仕草をしながらトウカが近づいてきた。彼女が手に持つ錫杖、その鈴の部分は淡く緑に光っている。どうやら魔素の抽出は上手くいったみたいだ。


「……」


 それを普段よりずっと細い目で捉えた後、シヅキは眼を閉じた。


「シヅキ……え、ほんとに平気?」


 シヅキの眼前にしゃがみ込むトウカ。彼女が心配そうに覗き込む一方で、シヅキは眼を閉じたままだ。


「シヅキ?」

「…………」

「……シヅキ?」

「…………」

「えい」


 呼吸が止められる感覚に、シヅキはその眼を大きく見開いた。見ると、トウカの小さな手がすぐ傍にある。 ……傍というか、ゼロ距離。鼻を摘まれているのだが。


「あ、起き……いてっ!」

「……てめぇ何やってんだよ」


 軽く指を弾いてトウカの額を小突くと、トウカは大袈裟に押さえ込んだ。


「だって、身体に異常もないのに起きないから……」

「自分で言ってたろ? 眠いのってよ」

「言ったけど! 言ったけど、ここで眠るのはどうなの……」

「……ちょっとそういう気分だっただけだ」

「き、気分で寝ないでよ」


 未だに額を抑えているトウカを余所にシヅキは立ち上がった。小さく息を吸って、吐く。 ……胸の締めつけはもう無くなっていた。


(何だったんだ、あれ)


 そんな疑問が頭の中に浮かんだが、シヅキはそれを振り払うように首を振った。今はこの疑問に固執する時では無いだろう。


 外套についた皺を伸ばしながらシヅキは言った。


「ここでの刈りは終わりだ。篝火の指示に従うが……トウカは動けるか?」

「……痛い」


 不貞腐れた声で呟くトウカ。


「そんな強く弾いてねーだろ」

「……釈然としないんだけど」


 トウカは琥珀の眼を細めながらシヅキを見上げた。その顔は「謝ってくれ」と言っている。まるで分かりやすかった。


(随分とまぁ、表情を出すようになったものだ)


 自身を取り繕っていたことを差し引いても、昨日の面の皮の厚さに比べればトウカはかなり砕けたように思う。別にそれが悪いことだとは思えない。シヅキからしてみても、へんに気を遣われるよりよっぽどマシだった。


「ハァ」


 小さく溜息を吐いた後にシヅキは言う。


「……悪かった。次からしねーようにする」

「ん、分かった!」


 シヅキの言葉を聞いたトウカは、何事もなかったかのように勢いよく立ち上がった。


「じゃあ次の場所に移動……だね」


 得意げに笑ってみせるトウカ。してやったりの表情を前に、シヅキは眉間に皺を寄せた。


「撤回するか」

「え」




※※※※※




 真っ赤に炎を灯す篝火。本物の“炎”とは異なり、全く熱くもないソレの後を追いシヅキとトウカは白濁の森の中を歩いていく。


 膝下まである木の根を跨いだところで、すぐ後ろを歩くトウカが呟いた。


「さっきまでよりも樹が大きくなってる……」

「……俺も、ここまでは久々に来たな」

「シヅキでもそうなの?」

「この辺りは魔人の数が結構多いんだよ。単独だとな、多少荷が重いんだ」

「え……それ」


 不安げに辺りを見渡すトウカ。無論、シヅキも警戒は怠ってはいなかった。


「……多分、今は大丈夫だけどな。魔素の濃度だって下がっている。こういう時は魔人は出づらい」

「でも、ゼロじゃないから……」

「出たら出たで刈るだけだ。むしろ、雑務型のホロウ共はそれが目的で俺たちを寄越してるだろ」


 後続のシヅキとトウカをお構いなしに篝火は前を進んでいく。


「シヅキ……ちょっと消耗してるから、できれば慎重に行きたい」

「あ? 俺は訊いたぞ。動けるかってな。トウカお前、行けるっつってたじゃねーか」

「そうだけど……」


 ギュッと錫杖を握りしめるトウカ。どこか煮えきらない態度のトウカを見てシヅキは小さく溜息を吐いた。


 怖気づいた……とまでは言わない。ただ、トウカが臆病な性格だということは、ほんの短い付き合いだが十分に分かっていた。後はまぁ、経験が無い極少数の任務ということもあるかもしれない。


(面倒だ)


 シヅキ1体なら何も躊躇うことはないのに。現れた魔人共を大鎌で打尽するだけだ。そこで傷つこうが、腕の1本を失おうが……浄化型としての責務を果たせたのなら及第点だろう。


 シヅキはゆっくりと振り返った。


「な、なに?」


 トウカと眼が合う。琥珀色の綺麗な眼だ。だからどうしたって話だが……ああ。


 シヅキは眼を伏せて言った。


「……少しルートを外れるが、この辺りに拓けた土地がある。起伏も少ねえ丘だ。完全に安全地帯ってわけでもねーが、森の中よりは身を休められる筈だ」


 最後にハァと大きく息を吐いたシヅキ。彼は意味もなく自身の後ろ首を右手で掴んだ。


「シヅキ」

「んだよ」

「ありがとね」

「……行くぞ」


 篝火を身体に戻したシヅキ。彼の歩幅は先ほどよりも少し広がっていた。


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