表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
第一章 灰色世界
16/135

今日もまた


『マソチュウシュツ スタレノモリ セントウキロクテイシュツ ツギ』

『バショジョウホウツイキ マーク アカ ツギ』

『ジョウカタイショウ ヒトガタ ツギ』

『ケモノガタ ニゲロ イジョウ』


ギギギと軋む昇降機の中で、シヅキが受け取ったのは一連のメッセージだった。それらに目を通した後、彼は『4件を受け取った。承諾』と返す。


「シヅキ、どうしたの?」


トウカが首を傾げながら訊いた。やりとりは全てシヅキの体内で行われていたため、端からはただボーッと突っ立ってるように見えているのだ。


「……管理部からの連絡だ。浄化対象の位置とターゲットの情報。お前には届いてねーのか?」

「届かないというか、届けられないの。“コネクト”が済んでいないから」

「……あ? コネクト?」

「えっと、魔素媒介の意思やりとりのこと」

「通心か。 ……ああ、そうか」


魔素を介して任意の相手とやりとりを行う……通心。汎用性と利便性ともに優れているが、これは誰もが行えるわけではなかった。シヅキも詳しくは知らないが、確か()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。 ……つまり、辺境を訪れたばかりのトウカには通心を行えない。


「しばらく不便だな」

「……だから、シヅキには結構頼るかも」


自身の顔の前で両手を合わせたトウカ。眉を潜めたその表情を見て、シヅキは溜息を吐いた。


「都合よく扱いやがってよ」

「ご、ごめん……そんなつもりは……」

「いいって。そうするべきだろうしな。俺が面倒ってだけだ」


自身の後ろ首を摩りながら、シヅキは管理部から届いた情報をトウカに伝えた。コクコクと頷きながら聞いていたトウカが、口元に手を当てながら言う。


「やっぱり、獣形(けものがた)は大人数じゃないと難しいよね」

「中央部は獣ばっかだったんだろ。こんな少数での任務は初めてじゃないのか?」

「……うん」


小さく首肯したトウカは背負っている錫杖の柄をギュッと握った。


「別に、やることは変わんねーよ。基本的に戦闘は俺がやる。トウカは索敵と魔素の抽出……これを頼む」

「うん」

「トウカから何か言っておくことは?」

「え?」

「俺が全部決める権利はねーだろ」

「そ、そっか……うーん」


今度は顎元に手を添えるトウカ。しばらく考えて、考えて、やがて彼女が口に出した言葉は――


「……あまり無理はしないようにしてね」


ギギギギギギギギ


昇降機が大きく軋んだ。地上は近い。ポッカリと空いた穴を見上げながらシヅキは言った。


「……互いにやれることをやろう。今日はそれで及第点だろう」




※※※※※




黒を黒で塗りたくったような闇に覆われた空の下。そこには相も変わらず白濁に染まった森が広がっていた。


オドを出てすぐに飛び込んだそんな景色に、シヅキは辟易(へきえき)の溜息を漏らした。生きていないくせして、かつての自然と同じ形であろうとするこの森のことが、シヅキは嫌いだった。


一方で――


「やっぱりすごいな……」


バカみたいに森を見上げながら口をポカンと開けるホロウが一体。やはりこちらにもシヅキは溜息を漏らした。もはや、指摘を遠慮する理由はないだろう。


「こんなもの見て何が面白いんだよ」


それを聞いたトウカがやっと顔を下げた。その表情はムッとしている。


「こんなに自然の形が残っているんだよ? すごく感動するし、観てて全然飽きないって」

「形だけな。形だけ。所詮生きてなんかいねえ紛いもんだ。くだらねえ」

「くだらないって……」

「もういいだろ。今日の任務は観光か? ……ちげえだろ」


シヅキがそう言うとトウカは口を噤んだ。それを確認したシヅキが淡々と言う。


「マークは赤だ。今日の任務はその付近にいる人形(ひとがた)の魔人を浄化して、その魔素を回収することだ。ここまではいいか?」

「うん」

「そうか。じゃあ行こう」

「……あのね、シヅキ」

「んだよ」

「ちょっと言いたいことがあって。その……」

「いいから。話してみろよ」


いつも以上に恐る恐るな様子のトウカ。自身の白銀の髪を触りながら彼女は言った。


「昨日は結構危なかったから……シヅキだけでも大丈夫なのかなって……」

「……」


昨日の記憶をシヅキは思い浮かべた。ハッキリと思い出されるソレは……肉薄の距離まで迫ってきた魔人だった。ドゥという独特の鳴き声は未だに脳裏へこびりついて離れない。


………………。


「いや……」


やがて首を大きく横に振ったシヅキが口を開いた。それはまるで、自分に言い聞かせるように。


「あいつは特殊な個人(こたい)だった。毎回、あんな奴とやり合うわけじゃねーよ」

「そうかも、しれないけど……」


未だに心配そうにするトウカを尻目にシヅキは言う。


「……まぁ見てろって。俺はそんな(やわ)じゃねーよ。 ……魔人を刈るくらいしか俺に出来ることはねぇんだ」


真っ黒のフードを被ったシヅキは、大きな歩幅で廃れの森を歩いていく。


「ま、待って……」


トウカがそんなシヅキの後を追う。魔人刈りが今日もまた始まる……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ