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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
最終章 空っぽの僕ら
111/135

住処

 

 不思議な輪の中を潜るとすぐに、その魔素濃度の高さに意識がクラっとした。急に来たものだから、体勢を崩すことはなかったが、シヅキは多少よろけてしまう。


「こっちに来る」


 くぐもった場所で声を出しているかのように、シーカーの声が反響をして聞こえてくる。それは不規則な方向からかかり続けるノイズの影響だろうか? 何にせよ、この輪の近くに滞在を続ける意味はない。


「……ああ」


 空返事気味に答えたシヅキは恐る恐ると歩みを始めた。


 シーカーの声を頼りに視界の悪い闇の中を進む。それは永遠に続くかと思われた……なんてこともなく、すぐに奇妙な匂いが鼻を付いた。


「……土?」


 から風荒野に充満していた乾いたソレでも、廃れの森の白濁したソレでもない。その匂いとはより濃いものだ。なんと言えばいいだろうか? 


(もっと……内面的な……………あ? 内面?)


 この匂いに対して、なぜそのような言葉が思い浮かんだのだろう? 疑問が頭を()ぎった時だった。


「着いた。僕の住処(すみか)


 いつの間にかシーカーの声は反響を止めていた。思考へと意識が引っ張られていたシヅキは、ハッと顔を上げる。


 

 ――そこには見たこともない、奇妙な光景が広がっていた。



 最初に視界へ入ったのは随分と背が高い建築物だった。スラリと細い形状であるソレの全長はどれ位だろうか? 見上げる角度が悪いせいか、測りかねるが優に100mは有りそうだ。その色彩は白を基調としており、黒のラインが所々に入っている。とても住むための建物では無い、とシヅキは直観的に感じた。


 そのような塔(らしき建築物)が建つ土地の周りには芝生の地面が広がっている。そして、そこを敷き詰めるように花々が咲いていた。かつて“絶望”と対峙をした薄明の丘を彷彿とさせるソレを前にして、シヅキは静かに息を飲んだ。


(花……花か)


 視界が下がり、自身の胸元に抱かれたトウカを映す。虚ノ黎明と花畑……彼女にとってなんと都合の良い巡り合わせなのだろう、そう思わざるを得ない。 ……ただ。


 その視線の意味を悟られないように、シヅキは慎重に眼を向けた。そこに映るのはリーフの姿。リーフの姿をした得体の知れないナニカ…………。

 

 上歯で下唇をゆっくりと噛む。

 

シーカー(こいつ)は……何を企んでやがる?)


 そのようなシヅキの思考に呼応をした訳ではないだろうが、シーカーの眼がゆっくりとこちらを向いた。


「魔素量を常に固定化している空間がある。今の彼女には最適。ついてくる」

「……分かった」


 塔へ向かい、規則正しい足取りで歩き出したシーカーの後ろをついていく。その中でもシヅキは不審にならない程度には視線を動かし続け、情報を得ようとした。


 闇と、塔と、芝生と、花畑で満たされた空間。そもそもここはどこだろうか? シーカーは空間を捻じ曲げたその狭間(はざま)、なんて評していたが、現実味がまるで無くてイメージなんて付かない。


 シヅキは小さく溜息を吐いた。


(これに関してはこいつに訊くしか無ェ…………ん?)


 静かに歩みを続けていたシヅキの足が止まる。その視線はとある一点に集中していた。彼はぱちくりと瞬きをする。


「どうした」

「いや……アレって」


 シヅキが顎で方向を示した先……塔のすぐ横に在ったのは、芝生と花畑の光景に突如として現れた石の群であった。それは明らかに自然物ではない。石は表面が平べったくて、まるで地面に挿しているかのように埋められている。それらが無造作ではなく、一定の距離感覚を保ち並べられていた。


 ソレを見たシーカーは小さく「ああ」と言う。そしてこのように続けた。


 

「あれはホロウ達の、墓」

「墓……そうか。墓ってこういうものなんだな」

「墓を知っている。驚いた。人間の営みの中でも、最も早い時期にホロウは切り捨てたのに」

「切り捨てた? よく知らねえけどよ。 ……墓って、消えちまった奴らへのケジメみたいなものだろう? 取り返しなんて付かねえけど……俺はせめて…………」

「是非そうして欲しい。やっぱり、君達をここに呼んで良かった」

「……え?」


 意味深なシーカーの言葉に顔を上げたときには、既にソレは歩みを再開していた。


 シヅキもまた、墓を一瞥(いちべつ)した後に歩き始める。


 …………

 …………。


 塔の入り口にて、振り返り際に彼は呟いた。

 

「……後でな」


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