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灰色世界と空っぽの僕ら  作者: 榛葉 涼
最終章 空っぽの僕ら
109/135

リーフであろうがなかろうが

 

 リーフという抽出型が居た。居るではなく居た。


 見た目こそ、眠たげな眼とカールのかかった髪以外はいたって普通であったが、それ以外の面が特に印象に残るホロウだった。


 突拍子のない仕草、妙に語尾を伸ばす口調、そして緊張感に欠けた思考。それらがシヅキの理解が遠く及ばない所で繰り広げられていたのだ。特に口調は妙に鼻につき、苛立ちに似た感情が常にシヅキの根底で息を潜めていた……と今になって思う。はっきり言ってしまえば、アサギやサユキと比べて“苦手”なホロウだった。


 しかし、同時に彼女の良い面も知っていた。


 シヅキは(おもむ)ろに眼を閉じる。リーフの容姿がふわりと脳裏へ浮かんだ。

 

 ………………。

 

『そーそー。リーフちゃんだよ〜ん。仲良くしてね〜』

『かわいかったよ〜? お姫様抱っこ〜』

『あう〜〜〜ん!』

『シヅキく〜ん、よく言えたね〜かわいね』

 

 

「……碌な思い出が無ェな。碌な奴じゃ無かったからか」

「シヅ、キ? どうしたの? ぼーっと立ち止まっちゃって……」

「なんでもね。 ――それでどうだ? 手がかりとか」


 先ほどまで穴の中心にて錫杖を鳴らしていたトウカ。彼女はシヅキの問いかけに対して、ふるふると首を振った。


「前に、観測をした時よりもちょっとだけ魔素の気配は濃い……かな? でも、誤差の範囲、だと思う」

「時間経過で魔素は空気に溶け出して薄れてくものだろ? 気配が変わってねェってことはやっぱ近づいてるんじゃないか?」

「そう、かもね。 ……探してあげないと。リーフちゃんのこと」


 錫杖の柄を握り込みながらトウカは言う。ギュッと結ばれた彼女の口元こそ、その言葉が本心からのものだという裏付けだった。


「…………」

 

 そんな彼女の隣にてシヅキは穴の底から闇空を見上げる。


 から風荒野にてぽつぽつと出現するようになった直径10mほどの大穴地帯。その中で抽出型のトウカが探知をした魔素とは、魔人なんかのものではなく、コクヨに(ころ)された筈のリーフのものだった。


 空気中に融け出す前、魔素がその場に残留をする時間はあまり長くない。調査団が結成される以前に、何らかの方法でリーフがこの場へ魔素の痕跡を残す行為をしていたと仮定しても、時間経過を考慮するとそれは有り得ない事象だった。


 ということは、今もなおリーフは存在している? 


 (……いや、どうだろうか)


 「結界前にてリーフは(ころ)された」とトウカは確かに言っていた。嘘ではないだろう。何らかの方法で、第三者がリーフの魔素と見せかける為の痕跡を残すことは可能だろうか? 魔素の……操作。


 シヅキの脳裏に一体のホロウの姿が浮かび上がる。切れ長の眼と、メガネ。傲慢な態度。


(ソウマ……奴はエイガやコクヨの力を複製した魔人を造っていたようだが、どうだ?)


 ドゥと鳴く短剣武装の魔人と、植物形状の魔人である“絶望”。実際に刃を交えたそれらとは確かに魔人だった。しかし、“複製”という言葉がどうにも引っかかる。


 …………。


 シヅキは左手をギュッと握り込んだ。


「なぁトウカ――」

「シヅキ!」


 突如として鋭く自身の名前を呼ぶトウカの声。緊張を纏った表情と雰囲気。たったそれだけでも彼女が何を言わんとしているのか理解ができた。


 先ほどまでの思考をパッタリと打ち切り、すぐさま体勢を落としたシヅキは警戒を始める。


「数、距離、武装は?」

「ハッキリ、とは分からない。でも……魔素の感じとか、似てる、かも」

「似てるって誰にだ」

「リーフ、ちゃん」

「マジかよ」


 トウカを連れて大穴の底から抜け出す。相変わらず吹き荒れる風にシヅキは舌打ちを打った。


「どうだトウカ、何か感じるか?」

「うん。 ……居る。居る、よ…………」


 やけに語気が弱々しいトウカにシヅキは違和感を憶えた。横目を向けると、彼女は口を真一文字に結んでおり、片目の目尻だけが少し吊り上がっていた。疲弊している……だけではないようだ。


 シヅキは唾を飲んだ。

 

「……大丈夫か?」

「ちょっとだけ、頭が痛くて……でも平気」

「無理すんなよ」

「ノイズ、来る……」

「ああ」


 トウカの言葉は本当で、間もなくして痺れるようなノイズが肌をひりつかせつつ襲った。 ……トウカのことが第一優先であることは変わりない。しかし今はこのノイズへの対処だ。


 ノイズがじりじりと強くなっていく。その過程で確信をしたこととは、コレがリーフのものであるということだ。間違えるはずがない。シヅキは異形と化した右腕を構えた。


 目の前に現れる者がリーフであろうがなかろうが。どんな事情があろうがなかろうが。ソレが害を及ぼす存在であるならば、何をするのかはもう決まっている。


 トウカが震える口調にて言った。


「来た……!」


 急に景色の輪郭が曖昧になったかと思うと、空間が次第に歪んでゆく。ノイズが最大限に大きくなり、空気がすっかりと変わった。陰鬱に満たされる。


 やがてソレは姿を現した。足が2本、手が2本、体幹が1……人形(ひとがた)だ。


「……っ!」


 シヅキはその容姿を捉え、息を鋭く吐いた。思わず退きそうになる足をその場で留める。上歯と下歯を強く、強く噛み合わせた。


 目の前に映る景色とは現実か? 本物と決め打つことは愚かな行動か? 決めあぐねているということはそうなのだろう。


 …………。


 深呼吸の後に、シヅキは尋ねた。


「なぁ……お前、リーフか?」


 少し遠くからシヅキたちを見る少女。少女はシヅキの問いかけに対し、何も答えることなくただ不敵に笑った。

 

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