家族(前編)
少年と生活して半年が過ぎた。
季節もあの冷たい冬から春が来て夏になり蒸し暑い空気が漂う。
少年の育成トレーニングの効果は抜群で僕はかなり喋れる様になっていた。
少年の名前は陸。
三月三日生まれの魚座の十三歳と聞いた。
そして陸は僕にも名前をつけてくれた。
「和佐ー、スイカ切りたいんだけど手伝ってくれるか?」
キッチンの方からお呼びだ。
そう、陸は僕に"和佐"と名付けた。
「はいっ」
僕はハイテンションでキッチンに向かう。
陸は僕になんでも教えてくれた。
どうやら彼によると僕はイタリア生まれらしい。
どうやって調べたのかはしらないが赤みがかった焦げ茶の髪や青っぽい目の色はどう見ても日本人ではない。
キッチンにつくと大っきなスイカと格闘している陸が居た。
そういえば彼は髪の色が栗色で目の色が褐色なのに『俺は純血腫の日本人だ』と言っていた。
僕は全く無知だったので陸の言う事はなんでも信じていたが、今思えば不思議である。
「ごめん和佐、スイカ固定して」
「了解ですっ」
僕は少し離れた場所でスイカに向かって体に力をこめる。
僕は生まれつき"念力"という能力を持っていて半径二メートル前後の(自分を含めた)物を自由自在に動かせるのだ。
もちろん固定もできる。
陸は僕がスイカを固定しているうちにでっかい鉈でスイカを真っ二つにした。
(あれ? 鉈って木とか切る為にあるんじゃなかったっけ?)
そんなことをふと思ったが、それを否定してしまうと陸自身も否定してしまう様な気がして悪いと思った。
陸は要領よくスイカを切ると僕に一切れくれた。
「ん、味見してみろ」
僕はそれを受け取る。
そういえばスイカは図鑑では見た事はあるが食べた事はなかった。
「ありがとう」
僕は決心してスイカにかぶりついた。
シャクっと水分の多い果肉が僕の喉を潤わせる。
「これ……気に入りました」
残りの部分もつい全部食べてしまう。
それくらい、おいしかった。
(スイカ……覚えとこう)
陸はスイカに夢中な僕の頭を撫でる。
「お前本当甘党だな」
「甘党?」
初めて聴く単語を連呼する。
(甘い……のはわかるけど「党」ってなんだろう? お砂糖の仲間かな)
陸は笑って答える。
どうやら考えている事が解ったらしい。
「甘いのが好きだってことだよ。だってお前ポテチ系のスナックよりケーキやスイカの方が好きだろ?」
こくこくと頷く。
ポテチみたいに脂っこくて塩辛いのよりとろけるように甘いケーキや今食べたばかりの完熟した甘いスイカの方が好きだった。
「陸は甘党ですか?」
気になるので聞いてみる。
陸は難しそうに眉根を寄せる。
「あー……俺は……あんまり甘すぎるのも辛すぎるのも好きじゃないんだよな。普通のがいい」
本当に微妙な答えである。