あの日あの場所で
注意書き
・本編(淡紅の街:http://ncode.syosetu.com/n7835g/)を知らなくても楽しめます。
・反社会的な描写が少し含まれます。
・陸の性格が本編と少し変わっているかもしれませんがそれは偶然ではなく故意的に変えています。
コメント・評価大歓迎です*
僕は人間が嫌いだった。
どいつもこいつも信用できなくて、嫌でしょうがなかった。
だから僕はいつも一人だった。
そう、あの日までは……。
季節は冬。
吐いた息が白くなる様な寒さだった。
僕がまだ六歳で、初めて陸と言う少年に会った。
会ったというか拾われたの方が正しいのかもしれない。
僕は捨て子だった。
家族も、友達も居ない。
ただ食料を盗んでひっそりと生きていた。
そんな生活が僕にストレスをかけていない訳が無い。
僕の精神はもう悲鳴を上げていて人格すらつぶれそうだった。
もう、自分が何をして、何を思っているかもわからなくなっていた。
絶望したその時、温かい目をした少年が声をかけてくれたのは覚えている。
「おい、大丈夫か?」
彼は冷たいぐちょぐちょした雨に濡れた地面の上で倒れている(正確には寝ている)自分を起こし温かい毛布でくるんでくれた。
僕はその温もりに体を預けてそのまま眠った。
起きたらどこか知らない部屋のベットに寝かされていた。
拘束等はされていなかった。
僕はむくりとベットから起きる。
早くこんな怪しいとこから逃げなければ、と思ったのだ。
部屋のドアをバチっと女の子みたいな顔の少年と目が合った。
彼は僕を見るなり慌ててベットに連れ戻す。
「駄目だろ、もっと休まなきゃ。今飯作ってるからさ」
僕はその言葉の意味が分からなかった。
僕は言葉を知らない。
だから喋れないし意味も解らなかった。
でもこの目の前に居る少年が僕にはとても悪い人には思えなかった。
だから僕は彼を信じてベットで眠ったのだった。
こんなに安心して寝れるのは初めての様な気がする。
いつも誰に見つかるか解らない恐怖と冷たい地面の寂しさ、寝心地の悪さで安眠なんてできなかったのだ。
気がつくとさっきの少年が目の前に居て自分を起こした。
「一応体、温めとかないとな」
彼が差し出したのは温かい湯気が出た焼きリンゴだった。
しかしこの頃の僕にはそれがどういうものかも知らなかったし、なにより腐った残飯以外の食べ物なんてほとんど食べた事が無かった。
甘いいいにおいが僕の鼻をつつく。
「どうした? リンゴ、嫌いか?」
僕はこの未知の食べ物を直視する。
きっといつもの食べ物よりは絶対おいしいだろう。
しかし、どうやって食べればいいのかわからない。
うーんと唸っているうちに視界に何かが入った。
銀色の枝(フォークという名称は知らなかった)だ。
(そうか、これで食べればいいのか)
そう思った時、
「嫌いなら、無理して食べなくていいから……」
なぜか少し悲しそうな顔をした少年が僕の目の前の皿を持っていくではないか。
「ぁあああああっ」
僕は必死にわめいて皿を取り返す。
少年は初めて僕の声を聞いたのはその時だった。
「お前、それ、食べたいの……?」
少年がジェスチャーで食べる仕草をするのでなんとなく意味が分かってこくこくと僕は頷く。
そして必死に枝(という名のフォーク)を使ってむしゃむしゃと食べる。
予想が的中して、それはとてもおいしかった。
僕の冷めきった心と味覚を一気によみがえらせた。
少年はそれを見て満足した様な笑みをうかべる。
「うまかったか?」
僕は皿の中にリンゴの蔕しか残ってない事に気づく。
自分が今食べてしまったのだった。
僕は彼の言った事がよく解らず首を傾げる。
彼はようやく僕が喋れなくて人間の言葉も知らないことを知ったのだった。
少年は褐色がかった色素の薄い目を細めて言う。
「解った」
彼が自分のために悲しんでいる事は僕にでも察する事ができた。
震える手で、少年の袖を軽く引っ張る。
少年は瞬間すごくうれしそうな顔をして思いっきり僕を抱きしめた。
温かかった。
「大丈夫、俺がなんとかしてやるから」