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立つ鳥跡を濁さず

旅立ちを決めた女の子のお話。

ベランダに広がる吸殻とゴミ袋の山。部屋の中は埃が舞い、洋服や食べ物の残骸が転がっている。その中に身綺麗な女が1人、ぽつりと座っていた。


「あれもやらなきゃ、これも、片付けないと」


汚く暗い部屋を片付けるのは根気が入りそうだ。今までの私にぴったりだと思うけど、これからの私には似合わない。埃も塵も、そこら中に転がる食べ物の残骸も、腐った食べ物も、似合わない。


全てをゴミ袋に詰め込んで、ベランダに放り投げる。ベランダも、置くところが無くなりそうだ。仕分けなんてせず、ただ無心で詰めていく。どうせ誰も文句なんて言えなくなる。


「捨てるとしたら、深夜だよなぁ……」


饐えた臭いが広がる、仕分けされていない大量のゴミ。洋服は流石に無理だったけど。

輝く太陽の下にこんなもの置いたら、同じアパートに住む人達やご近所さんから文句しか言われないだろう。変な噂がたって、悪目立ちして、距離を置かれて。その噂がだんだん広がっていって、噂の中の私だけを見て、嫌がらせが始まる。たまったもんじゃない。だから深夜、大量のゴミ袋を持って、階段を下るのだ。


管理人になんか言われたって関係ない。断捨離をしているだけなのだ。昼間から始めて夜に終わる。それだけの量を処分したのだとゴミ袋が証明してくれる。文句は言わせない。


「よいしょっと、こんくらいかな」


丑三つ時に全てが終わった。掃除も終わって、あとは捨てるだけ。荷物運び道具が欲しい、切実に。この量は何往復すればいいんだろうか。さっさと終わらせたいのに。何日もずるずる引き摺るとか無理。この決意も揺らいでしまう。準備はもう、出来てるのに。



「お、終わった……」


捨て終わり、部屋に寝転がる。達成感と充実感で満たされる。汚かった部屋が片付き、すっきりしている。

元々家具も小物も必要最低限しか置いてなかったのもあるのだろう。一人暮らし用のアパートが広く感じる。これでもう、やり残したことは無い。


「立つ鳥跡を濁さず……ってね」


午前5時、始発の少し前。背の低い柵に腰掛け、こちらを見つめる女性が1人。朝日に焼かれながら、彼女は笑った。


その頬は、何かに濡れていた。

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