さようならを君に
別れを体験する2人のお話
終電前のホームに男女が1組。吐き出される言葉は、白く儚く消えていく。これからのことなんて考えられなくて、目がどうしようもなく熱くて、痛くて、ガンガンと耳と脳が悲鳴をあげる。はっきりしない視界に、見てられない程の笑顔が映って心が痛くなる。
どうしてこうなってしまったんだろう。何が原因だったんだろう。
子供みたいな我儘で困らせてしまったから?
「ありがとう」という感謝と、「ごめんね」という謝罪が足りなかったから?
だからこんな終わらないはずの夢が終わってしまったのだろうか。
なら遅すぎるかもしれないけれど、ありがとう、ごめんね。
そんな思いは白色と共に消えていった。
どうしてなんだろう、貴方の笑顔がとても遠いの。こんなにもはっきりと見えるのに、手を伸ばせば届いてしまう距離にいるのに、ここにはいないみたい。見慣れたはずの笑顔は、他人のように見えてしまって、これからはもう一緒にはいられない現実を、突き付けられたようだった。
こんなにも好きなのに、いつから一緒にいるのが辛くなっていったんだろう。話すのが苦しくなっていったんだろう。息もできない程近くにいた時なんて、今までたくさんあった。こんなに苦しくなったことなんてなかったのに。
それでも前を向かないといけない。進まないといけない。貴方と過ごした日々はかけがえのないものになっていて、とても美しくて、涙が溢れてしまうけど、許してね。
終電が無いって嘘をついて、少しでも一緒にいられるようにって、思ってしまって。
呆れられた、飽きられた、諦められた。
そんな嘘の思いを感じ取ってしまって、自分が嫌になる。きっとそんなことないのに。
終電が来るまでの少しの間だけでも、一緒にいられないだろうか。きっと、これから、出会うことはないだろうから。
「……あのね、出会わなければよかったとか、思ってないんだよ。今でも好き。でもね、別れてほしいんだ」
「ありがとう、元気でね」
彼女から言われたこの言葉は、きっとこれからもずっと、忘れられないだろう。
俺はね、好きだったよ。
なら、この幸せな夢から醒めないとね。
終電前のホームで、淡い明かりと点滅した光が、2人を照らす。いつもと同じテンポで会話をしている2人の表情は、いつもと違うタイミングで笑っていた。