とある酒場での出来事①
「チヨ、あそこのテーブルに料理運んでー」
「はいよー」
テーブルを拭いていたチヨが料理を運び始める。
ここは居酒屋ガロン、小さな酒場だ。
そしてチヨに指示を出したのは私、エレンだ。
ここには私含めて5人の従業員がいる。
チヨと私とアスカは料理運びやテーブル拭き等の接客を主にしている。
残り2人、アヤセとミアは厨房に入り料理を作っていた。
普段はのんびりと仕事が出来るほどに、人が来ないのだが。
今日は遠出していた冒険者達が、一斉に店に雪崩れ込んできていた。
「おい、酒持ってこい!」「飯はまだか!」「酒のおかわりお願いねー」
そこかしこで怒号が飛んでいる、はっきり言って忙しい。
「アヤセ、あそこのテーブル料理が来てないって怒ってるわ。早めにお願い」
「わ、分かった」
確かあそこのテーブルは、ベーコンを主とした炒め物だったはず。
そう考え終わると、アヤセは調理を開始した。
しかし調理の終盤、アヤセはおかしなものを見ていた。
「炒めたベーコンの一枚に何か付いている・・・何だろ?」
まるでモヤシの様な細く白い物がベーコンに付いていたのだ。
本来なら疑問に思い、それを捨てるのが当たり前なのだが・・・。
しかし、今回に限りアヤセはそれをそのまま盛りつけたのだ。
何故ならアヤセは
「アヤセ、そういえば今日眼鏡してないよね?」
「うん、昨日転んで眼鏡割っちゃった」
ミアが心配そうに聞いてくる。そう、アヤセは目があまり良くなかったのだ。
それに炒めていた物も悪かった、炒めていた物の中にはモヤシも含まれており。
調理中にベーコンにくっ付いた位の認識しか無かったのだ。
「エレン、出来た。持っていって」
「了解、行ってくるわ」
そう言い終ると、エレンは料理を運び始めていた。
エレンはアヤセやミアが作る料理を信じており、皿の中身を一切確認してはいなかった。
「お客様、お待たせしました。ベーコン炒めになります」
「おぉー良いねぇ!ついでに酒のおかわりくれ!」
かしこまりました、そう告げると店員は下がっていった。