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『ここから』

それはそれは.........とても立派な筋肉でした。


物心着いた頃から俺、カノンは筋肉が好きになった。一度、熟練冒険者の筋肉を見てから、『自分もこうなりたい』と思い筋トレを始めた。それほどその冒険者の筋肉が美しかったのだ。


それからというもの俺は筋トレに尽くす日々を送った。


自分自身をひたすら追い込み、理想の筋肉を目指した。想像できるだろうか? 毎日毎日過酷なトレーニングを繰り返し、毎日毎日筋肉痛が襲ってくる日々を!!


.........しかし俺の筋肉はある程度肥大するとそれ以上大きくはならなかった。


いくら負荷を大きくしても筋肉は大きくならない。俺はそんな状況に絶望していた。


『しかし諦めない! 俺は必ずあの冒険者のような美しい筋肉を身につけるんだ!!』


そう自分に言い聞かせながら俺はトレーニングを続けた。だが、やはり筋肉は肥大しない。


さすがにおかしいと思った俺は自身のステータスを調べることにした。ステータスとはその者の能力を数値として表すこと。その数値が記載されたのがステータスカードだ。


俺は小さな村で暮らしているため、ステータスカードを発行するには大きな街まで行く必要があった.........。





「.........で、ここに来たと。長ぇよ!! 今の話必要あったか!? 『ステータスカードを発行しに来ました』だけでいいだろ!!」


そう怒鳴りつけたのは街のギルドマスター。ステータスカードの発行はギルドマスターしか出来ないらしい。


「ははっギルドマスターは声が大きいなぁ。しかしあなたはいい筋肉をお持ちのようだ.........。俺の大胸筋があなたの筋肉に惚れ惚れしている」


「.........はぁぁ、なんでこんなおかしな奴が来たんだ.........。発行は既に終わってる。あとはこのカードに魔力を流し込め。それで数値が出てくる」


「魔力.........気合いじゃダメですか?」


「なんでもいいから早くしろ!」


カノンがカードに手をかざし気合い(魔力)を流す。するとカードに文字が浮かんできた。


「.........ほら完成だ。数値の見方は分かるか?」


「ああ、はい。大体は.........分かりません!」


「はぁぁ.....。いいか? 『魔力』って書いてあるのが自身の保有魔力量の数値だ。その下の『筋力』は自身の筋力量、そして『知力』が自身の情報量や情報処理力を示している。頭のキレるやつとかは『知力』がかなり高い。多くの冒険者は『魔力』や『筋力』の数値が高い。お前もそっち系だろ」


『魔力』 100


『筋力』 999+


『知力』 250


カノンのステータスにはそう記入されていた。


「『筋力』999.....+? ギルドマスターさん、この+っていうのは?」


「ああ? +? .........ちょっと見してみろ」


カノンはギルドマスターにステータスカードを渡す。ギルドマスターは面倒くさそうにカードを見る。そして目を丸くする。


「お前.........これ、限界値超えてるじゃねえか!!」


「限界値?」


「バカ、知らねぇのか? 基本的にステータスは999で止まるものなんだ。まずその時点で俺は見た事ねぇが、さらに+ときた.........。兄ちゃん、ただ者じゃねぇな」


「そんなに凄いことなんですか? 」


「ああ。筋力値だけで言ったら、この国で右に出るものはいないんじゃないか? それぐらいの事だ、誇っていいと思うぞ」


「本当ですか!? ありがとうございます! ではステータスも分かったので帰ります!」


「おいおい! ちょっと待て!!」


ギルドマスターはカノンの肩をガシッと掴み引き止める。


「どうしました?」


「.........せっかくそんなステータスしてんだ! 冒険者にならねぇか兄ちゃん!? 俺が色々とサポートしてやるから.........」


「嫌です」


即答だった。


「.........こ、断る理由あるか? お前のその筋肉があれば直ぐに名をあげることができるだろう! 」


「.........それで? 名を上げてどうするんですか? 冒険者の仕事って基本は魔獣討伐ですよね。俺は命を取るために体を鍛えてるわけじゃないんです。それなら村に帰って牛なんかを育ててる方がよっぽどいいです」


それが俺の言い分だ。しかしギルドマスターは食い下がる。


「なら! 腕相撲で決めるってのはどうだ!?」


ギルドマスターは立ち上がりカノンにそう言った。何故そうなるのかは全くわからない。


「.........面白そうですね。いいですよ! でも俺が勝ったらすぐに帰らせてもらいますね」


「ああ、それで結構だ! (俺は腕相撲で負けたことがない! これは瞬発力の勝負でもある。あいつが筋肉に力を入れるコンマ数秒の間に決着をつけてやる)」


ギルドマスターは自信に満ち溢れた表情をしている。そして受付のカウンターに肘を置いた。


「勝負は一本勝負だ。お前が負けたら冒険者になってもらう。いいな!」


カノンがギルドマスターの手を握る。


「分かってますよ。それで合図はどうします?」


すると、受付の奥の扉からギルドの従業員が出てきた。


「こいつにやらす。ほれ、準備はいいか?」


「いつでも!」


.........二人は静まりかえる。その姿は命をかけた殺し合いのように見えるほど。


「では始めます。よーい.........」


心臓の鼓動が強くなる。


「始め!」


従業員の合図がなった。その瞬間、ギルドマスターの腕の筋肉が膨張し衣服が敗れた。


「先手必勝! これで決まりだァァァ!!」


バキバキと筋肉が唸りを上げている。その間わずか0.01秒。普通なら既に勝負は決まっているだろう。


しかしカノンの手の甲は机についていなかった。


「な、なにぃぃぃ!?」


ギルドマスターが鼻血を吹き出すほど力を込めるがカノンの腕はビクともしない。机につかないギリギリのところでカノンの腕は止まっているのだ。


そしてギルドマスターは気づく!


はなから勝ち目などなかったことに!!


アリが人間に勝てないよう、己もカノンに勝てないことに!!


「この筋肉.........まるで山!!」


そしてカノンが少し力を入れる。


「ぐぁぁぁぁああ!!」


ギルドマスターの抵抗は虚しく、直ぐに勝敗は決した。カノンの圧勝だ。


「.........では約束ですので。俺は帰ります」


「.........ああ、約束だしな。また気が向いたら来てくれ」


「.........では」


カノンはギルドの建物を出ていく。


これ以上街に滞在する理由もないカノンはこれから村に帰ることになる。村までは遠いため馬車を使う。しかしその馬車も村まで行くという訳では無いので途中からは徒歩だ。


「今昼だし、家に着くのは深夜かな〜」


幸い天気もいいので早く着くだろう。


カノンは街の外へと出る。馬車は街の外で乗ることになっている。行きの時と一緒だ。


馬車を見つけた。カノンは荷台で寝ている馬車の御者に挨拶をする。


「おっちゃーん。 待たせて悪いな。直ぐに帰......ろ.........う.........」


荷台を覗くとそこには血まみれで倒れた御者の姿があった。御者は首を後ろから刃物で抉られている。


「..................」


しかし、カノンは驚く声ひとつも出さなかった。


そして、カノンの背後から不穏な影が近付く。黒いフードを被った男だ。手にはナイフを持っている。カノンは男の存在に気づいていない。


そして男はカノンのうなじ目がけてナイフを突き立てる。そしてナイフの先端がカノンのうなじへと突き刺さる。


ガイィンッッ!


突き刺さる......ように思えたがナイフは刺さっていなかった。刺さるどころか鈍い音をたて弾かれた。


「お前か」


カノンはグリンと振り返りフード男の首を掴む。


「.........ぐっ!」


フードの男は必死にカノンの手を振りほどこうとするが、カノンの手はビクともしない。


「な、なぜだ! 何故ナイフが刺さらない!?」


「.........ナイフごときが俺の筋肉に刺さるわけないだろう」


カノンは指に力を入れる。カノンの指はフード男の首にめり込んでいく。


「がぁっ.........ぁッッ!」


フード男はカノンの手を何回もナイフで刺す。しかしナイフの刃は通らない。全て弾かれる。


「何が目的でおっさんを殺した?」


「..................言えるわけねえだろ、馬鹿が!」


フード男はそう言った。この状況でよく言えたものだ。


「お、おい、このままだと.......お前.....人殺しになるぜ.........今は見逃してやるからよぉ.........この手を離せよ.........なぁ.........」


しかしカノンは手を離さない。それどころかより強くフード男の首を握り締める。


「何言ってんだお前? お前が一人殺したんだったらお前が死ねばプラマイゼロじゃねえか。それにお前が死んだところで誰も悲しまないと思うぞ」


カノンはさらに強く握る。


「がぁ.........お、お前......ははっ........壊れてるな..................ぐっ.........」


「.........ああそうさ。俺はあの時から.........」


フード男の首が極限まで細くなる。


「.........ずっと壊れてる」


グシャッッ!


カノンに握られていた首がちぎれる。そしてゴトンという音をたてフード男の頭が地面に落ちた。


カノンは死んだ魚のような目でフード男の頭を見ていた。















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