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ハンドルエクス・ダーク  作者: 千代田 定男
第五章 白き亡者編
20/26

第20話 今よりあれへ

20・今よりあれへ


 誰もいない道を車が走っていた。道幅こそ広いが、人里離れた道だ。

 その車はずいぶんと速度が出ていて運転も荒い。かといって、暴走しているわけでもないようだ。

「大全堂におきます、アーロイドの襲撃という未曾有(みぞう)の事件。特殊国際任務機構であるナイトドリームの総司令、ゲイリー=ノーマン氏と、メディケイトマネージ社の設立者クライブ=アーロン氏が犠牲となったこの……」

 運転している青年は、聞こえてくるラジオの音も気にせず、しきりにバックミラーを気にしていた。

「もう来たのか! なんてバケモノだ!」

 バックミラーに巨大な獣が映っている。当然尋常(じんじよう)の生物ではない。意思をもって追いかけてきているのだ。

「くそっ、よく見えない……」

 青年は焦る。バックミラーに映っている景色が少し歪んで見えていた。その怪物のせいなのだろうか。

 怪物はかなり近づいてきていて、もうすぐ車に手が届きそうなほどだ。車の速度に追いつくのだから、それはとんでもない速度で走っていることになる。  

「うわっ! え?」

 急なカーブに差し掛かり、目を離した一瞬のうちに、バックミラーからその怪物が消えていた。

 青年が周りを見渡すが、視界の中には入ってこない。

 運転中には聞き慣れない音がした。何かを弾き飛ばすような音と、空気を切る音。直後、車の上に何かが落ちてきた。

「冗談!」

 衝撃で車が揺れる。怪物が車に飛び乗ってきたのだ。

 フロントガラスからその怪物の体の一部が見える。太く、毛むくじゃらの指だ。指先にある鋭い爪がガラスに食い込んでいる。ガラスだけではない。天井からもその先が見えている。

「この!」

 青年は振り落とそうと車を左右に振る。しかしその努力は、凶悪な爪をより車体に食い込ませるだけに終わった。完全に取り付かれている。

 このままでは車ごとやられるだけだ。しかし、停めたところで逃げ切れはしないだろう。

「もう逃がさんぞ狸め! 頭から塩かけて食ってやる!」

 爪でできた隙間から咆哮(ほうこう)にも似た怒声が聞こえる。

「そんなら青梅でも食ってろ!」

 青年は懐からスタンガンを取り出し、見えている指に押し付ける。

「ぐふふ、子ども騙しもいいとこよ!」

 人間であれば体を貫く鋭い痛みを感じるところだが、まるで通じず、怪物は紙細工を丸めるように車の屋根を()いでゆく。

 その時、空気が破裂する音と光があって、怪物がぐらりと傾いた。

「ん!」

 青年が運転を立て直そうとした時、バックミラーに歪みが再び見えた。この歪みは怪物のせいではない。鏡の不具合でもない。歪みが自ら動いているのだ。

 歪みの中に鉄パイプのようなものが浮いている。視界の端で、それが横に並んでくるのが見えた。

 目を()らして見ていると、併走する揺らぎに輪郭が浮かび、色が付き始めた。

「おいおい……」

 それは奇天烈な乗り物だった。

 タイヤのない流線型の機体が滑るように走っていて、その中央あたりに人が乗り込んでいる。

 白い服に白いヘルメットの何者か。その手にあるのは、鉄パイプと見間違えた物。長大な、おそらくは銃。

「前を向いていろ!」

 白い服の者が叫んだ。男の声だ。

 はっとして青年は運転に集中する。再び先ほどの音と光。あの銃の音だ。

 白い男のいる側とは反対の道に、怪物が転がり落ちるのが見えた。

 流線型のマシンが吹き飛ぶように、視界の後ろに消えていった。

 青年が車を止めてバックミラーに目をやると、乗り物から白い男が降りるのが見えた。

 肩は大きく、(すそ)の長い奇妙な服で、そこらかしこにプロテクターをつけている。角のある、飛び出たゴーグルをつけたヘルメット。額には円盤状の部品。

「……ベタナークの宣戦布告ともとれます。これについて各国の首脳宣言が未明に出される予定との……」

 どの局もラジオは同じ内容ばかりだ。青年はまるで耳に入らないラジオを放置して車から降りた。

「あれは確か……希望隊の、ストライド何とかってやつについているキベルネクト? あいつは何者なんだ……?」

 青年はカメラを撮りだした。


 怪物が起き上がり、白い男を睨み付ける。 

「ぐうう、携行式HEカノンだと……貴様、希望隊か?」

「何者でもない」

 白い男の声を聞いて、怪物が目を見開いた。

「ほ! これはこれは、その装備のせいか気がつきませんでしたよ。(うるわ)しきご尊顔(そんがん)(はい)恐悦至極(きようえつしごく)(ぞん)(たてまつ)ります」

 うやうやしく怪物が頭を下げる。

「顔など見えてないだろう。答えろ、委員長はどこにいる」

「や、御勘弁ください」

「なら『核付き』の居場所だ」

「……雪隠詰(せつちんづ)めになっておられるようで。不憫(ふびん)には思いますがお教えしかねます」

「わかった、もういい」

 白い男が銃を向けると同時に撃つ。

 怪物はそれをあっさりと避けてしまった。避けたというよりは攪乱(かくらん)が正解だ。縦横無尽に動き回り、狙いをつけさせない。

 白い男の背後から爪が振り下ろされる。しかしそれは不発に終わる。

 白い男は銃を捨て、怪物の腕をすり抜けていた。そして、そのまま肩に組み付き、締め上げる。

「ベテランだな、恐ろしいまでだ」

「そちら様こそさすがの業前」

 怪物は余裕の表情をしている。

「種は?」

「レオノクルツ種」

 怪物の腕から白い男が振りはらわれる。怪物、レオノクルツ種アーロイドは、飛びのいて壁に張り付いた。その爪で壁にしがみついているのだ。

「いやはや、その程度では」

 金属音がして、白い男が手にしようとした銃から火花があがった。

「電撃か……」

「子供騙しでして、お恥ずかしい限り。しかし、これは違いますよ」

壁を踏み台に、直線に怪物が突っ込む。

「ぬん!」

 動きに合わせて白い男が走り、飛び上がる。大きく体をしならせて拳を繰り出す。

 レオノクルツ種のあまりに鋭い体当たりは、白い男をその攻撃ごと持っていった。

 コンクリートの壁が砲弾を受けたが如く砕け、レオノクルツ種が飛びのいた跡で白い男がぐったりとしていた。

「なるほど、電撃は補助。その速度こそが最大の武器か」

 ダメージのせいでおかしな動きをしながら、壁の窪みから白い男が出てくる。

「恐れながら、ここいらが潮時かと。手前の目的はあそこにおる出歯亀を血祭りにあげること。御憐憫(ごれんびん)沙汰(さた)があり次第そちらに向かわさせていただきたい所存で」

 白い男が青年を見る。手にはカメラをしっかりと握っている。

「え……」

 青年は視線を受けてうろたえているが、なるほど根性はあるらしい。

 青年はアーロイドかベタナークに関する何かを掴んだのだろう。とはいえ、少々嗅ぎまわられた程度で尻尾を掴まれるほどベタナークが抜けているわけもない。

 時勢が変わっただけか、あの青年に何かがあるのか。 

 白い男が左腕に装着した手甲に手をやった。スイッチらしきものを押して操作をすると、その服から小さな駆動音が聞こえ始めた。

「駄目だ」

「ならば……御首級(みしるし)あげさせてもらうまで!」

 再びレオノクルツ種が跳ねる。先ほどよりも速く、後に像が伸びるほどだった。

 白い男が前に躓いたように見えた。それはあまりに唐突だった。

 白い男の上をレオノクルツ種が過ぎていった。白い男は攻撃をすべて避けてゆく。唐突な動作は回避行動なのだ。

 避けていた白い男が消えたかと思うと、あさっての方向で巨大な音がした。何かが爆発したかのように地面が抉れている。

 レオノクルツ種が頭から地面にめり込んでいた。上半身の殆どが地面に入り込んでいる。その体には白い男がしがみついていた。

「あの速さを捕えて体勢を崩したのか! あの大きさの怪物の軌道を逸らすなんて、どういう力をしてるんだよ……」

 青年がシャッターをきりつづけていると、白い男が立ち上がり、こちらを向く。

「まだ終わってない! はやく逃げろ!」

 叫ぶ白い男の足元の地面が割れ、出てきた手が足を掴んだ。

 逆さ吊りにされながら、白い男はなおも叫ぶ。

「はやく行け! 邪魔だ!」

 白い男は上下逆さまのまま器用に背中あわせになると、相手の腋の下から通した足を首へとかける。腋をとられた形となったレオノクルツ種の体勢が沈む。さらに腕で相手の股関節を取り、レオノクルツ種の折れた膝から足首へと手が走った。

 レオノクルツ種が前へと崩れ、勢いで逆さまになる。白い男は胡坐をかくようにレオノクルツ種に絡まり、頭に上乗りとなった。

 白い男の動きは、レオノクルツ種の派手な動きに比べればあまりに地味と言える。しかし、そのレオノクルツ種が身動きひとつとれなくなっていた。

「き、筋力が上昇していますね……」

「おまえたちはまだ人間と戦い続けるつもりか。委員長の思惑は貴様らも知らないんだろう? 何をさせられているかわかっているのか?」

「んぬ……ふふふ……」

「なにがおかしい」

「いや、失敬。しかし大将とはそういうもの。そうでなくては。我らが大将は一流。ならば、策もなく、略もなく、ただ空前と構えておられるわけがない」

「大した忠誠心だ」

 いくつもの音がした。

 大木が折れるような音や、何かが千切れる音。かすかに金属音にも似た音。それは、白い男がレオノクルツ種の全身を破壊しつくす音だった。

 一呼吸置いて、爆音のように怪物は()えた。

「口は達者だが、ずいぶん簡単に鳴く」

 白い男はそう言い放つと、壊れた銃を拾い、分解してゆく。バラバラにされ、中心部の筒状の部品だけとなった銃を、痙攣(けいれん)するレオノクルツ種の(かたわ)らに置いた。

 白い男が歩きながら再び腕輪に手をやると、鈍く聞こえていた駆動音がおさまっていった。そして、乗っていた機械に近づくと、トランクルームから別の形の銃を取り出した。

「まだいたのか」

 近づいてくる青年に気付き、白い男が声をかける。

「あんたは……?」

「下がっていろ」

 白い男が先ほどの筒に銃を放つと、筒が爆発し、燃え上がった。ただそれは、通常の爆発と呼ばれる現象のような無制限に衝撃が広がるものではなく、その場に火球が留まるものだった。

 レオノクルツ種は断末魔をあげる間すらなく、死体も残さずに蒸発してしまった。

「あんた、どこで、何を知った?」

 白い男が銃をしまいながら問いかける。

「ん? あ、ああ。俺はこういうもんだ」

「情報社……」

 渡された名刺には香月文彦という名と、東西広域情報社という会社名が書かれていた。

「記者なんだ。フリーの」

 ヘルメットの下から含み笑いが聞こえた。呆れたのか興味が失せたのか、白い男はマシンに乗り込もうとする。

「待て! 聞いてくれ! そうだ、あんたソーラ研を知っているか?」

 動きを止めて白い男の首が動く。

「先日の大全堂会議にも関わっていて、被害者面しちゃいるが、あそこはどうも臭い。何か知っているようだな」

 畳み掛けるように、香月は白い男に言葉を投げかける。

「…………」

「あの研究所はこの国の政治家の天下り先だ。ベタナークなんていう犯罪組織が、それと無関係にスパイしていたなんてことがあるものか。この国は、俺たちが思っているほど平和じゃない」

「……よく調べたな」

「もともとはその天下りについて調べていたんだ。金を積んで協力者から探った。せいぜいゴシップ程度が掴めれば関の山と最初は思っていたさ。だが、相手の方がずいぶんと乗ってきてな、かなりのことを話したんだ。そして、思いもよらない名前にたどり着いた。昔、消えてしまった友人の名前だ」

「失踪した人間がソーラ研にいたのか?」

「違う! 失踪なんてもんじゃない! あいつがこの世にいたあらゆる情報が、ある日突然、丸ごと消えてしまったんだ! 俺は八方手をつくしたが、誰も取り合っちゃくれなかった!」

「落ち着けカツキ、よくあることだ」

「よくあることだと!? よくあってたまるか……! いや、まあいい、問題はソーラ研じゃないんだ。問題なのは、ソーラ研と関わりのあった、ある軍事産業だ」

「ゼノアームド社……」

「そう! そうだ! そのゼノ社がベタナークと繋がっていたのを知ってるんだろ? ソーラ研はゼノ社と繋がりがあった。それを知って喜んださ。ここまで具体的な情報は誰も掴んじゃいかったからな。でもそれだけじゃない。ナイトドリームとゼノ社の戦いの切っ掛け、根拠になったものを手に入れたんだ」

「ベタナークがゼノアームド社宛てに出した、ナイトドリームの監査に関する連絡状だな。よくそこまで調べたもんだ」

「……あんた凄いな。そう、俺はそれを読んで驚いた。連絡状の差出人の名前は、俺の探している人間と同じだったからな」

「まさかな……ただの同姓同名じゃないのか?」

 白い男は連絡状の出どころを知っていた。差出人とはおそらく出どころとなった人間のことであろう。しかし、それを青年が知っているとはどうしても思えなかったのだ。

「かもな。それで、それを確認するために希望隊に揺すりをかけたんだ。奴ら、ソーラ研経由で日本からサイホ介入の後押し受けてたからな、癒着だの談合だのがあったはずだ」

「大胆だな。無駄だが」

「そう、返事すらなかったよ。それどころか、あんな怪物に狙われる始末だ」

「ハッ、そうか。それは災難だったな」

「あんた何か知らないか? なんでもいいんだ」

「無理だな。それだけのことがわかっただけ儲けものと思った方がいい。わかったら、もう手をひいてひっそりとしていろ、死ぬことになる」 

 白い男はマシンに乗り込む。青年の情報はどうせノイズまみれだろうと考えたからだ。

「待ってくれ! 有賀陽太郎という名に聞き覚えはないか? 本当にどんなことでもいいんだ!」

「……アリガだと!?」

「やっぱり知っているのか! なんでもいい! 彼のことを教えてくれ!」

「その前に答えろ、それを誰から聞いた? おまえの言う差出人、連絡状の出どころを知ってる奴は限られている」

「よし、よし、いいだろう、教えてやる。だが情報は交換だ。あんたが教えてくれたら俺も全部教えてやる」

「チッ……乗れ」

 白い男が顎で後ろを指す。マシンを見てみれば後部座席があった。

「そうこないと。あ、それで、あんたの名前は?」

 香月は嬉しそうに笑うと、飛び込むように座席へ乗り込んだ。

「……名前なんてない」

 機械が浮き上がると同時に、透過偽装で姿が薄れてゆく。

 わずかに歪んだ景色だけがその存在を匂わせていたが、それも動き出してしまうと、あっという間にわからなくなった。


***


重い扉が開いて、光が入り込む。薄暗い、倉庫のような場所だ。

 扉が閉まって、その中を白い男に連れられた香月が進んでゆく。

「こっちだ」

 白い男が進む後を、香月は黙って追いかける。

 香月は不安ではあったが、とりあえず、今すぐに命の心配はいらないだろうと考えていた。少なくともアーロイドに追い掛け回されるよりは安全そうだった。

 鉄板でできた階段を上がり、簡素な廊下を進む。乾いた空気の中、冷たい音だけが響く。

「ここは?」

 さすがに少し気まずく思って香月は訊ねた。というのも、人の気配が全くないのだ。

「秘密基地ってところだ」

 ここは本拠地ではないのかもしれない。どこかに仲間がいるのだろう。香月はそう考えた。

「いいのか? 軽々しく案内して。あんたも身元がバレたらまずいんだろ?」

 香月は、下手をすれば自分もこういった場所に身を潜めることになるのだろうかと思った。お世辞にも居住性が高いとは言いがたい場所だ。

「心配しなくていい。知られたところで、ここにはもうなんの価値もない」

 この白い男は、自分などより、ベタナークの遥か近くにいると香月は確信した。しかし、何者かは皆目見当もつかなかった。

 ベタナークが個人で争える相手でないことは明白だ。この白い男の装備も、到底民間人のものとは思えない。

 無法者ではあるのだろうが、なにか背景があるはずだ。好奇心もあって、香月はそれを知りたくなった。

 一応は部屋らしい場所に着き、白い男がテレビ番組をつけた。

「希望隊の大規模な拡張と編成が各国共同して行われ……」

「サイホ軍部はこれに反対を示し、会合から離脱しました。ロイ=アッキス司令は先の……」

「特報です。希望隊のタルタ=エル氏をトップとした国際軍の結成が決定いたしました。以前から一連のベタナーク関係の事件に対し議論が進められていましたが、大全堂事件を境に大きく進展し、史上初の……」

 白い男は立ったままニュースを見ている。

 大全堂で起こった事件は世界を震撼させた。燻っていたアーロイドに対する恐怖が、現実の事件として白日のもとに晒されたことにより、噴出したからだ。

 また、これを期に、日本は対ベタナーク活動を率先して行い、希望隊を支持した。

 これは、日本という国が世界に打って出るためという側面があった。むしろ、そういう見方が一般的には強かったが、人々は歓迎した。

 香月は適当に座り込み、白い男の様子を見ていた。

 白い男は別の画面を覗き込んでいる。情報端末らしいそれに、はずした腕輪を繋いでいるのだ。

「それ、なんなんだ? 戦っている時に触っていたが」

「……メタルプレートだ。こいつで力を引き出している」

「力、ね。特殊な力? 超能力とか? そう、そうだ。あんな化物を組み伏せるなんて大したもんだよな。それ、キベルネクトだろ?」

 香月はまた無視されるかとも思ったが、特にひっかかることもなく白い男から答えが返ってきた。

「そうだ。キベルネクトでこのメタルプレートを制御している。完全じゃないがこれで抽出できる」

 どうやら話をしてくれる気はあると見て、青年は質問を続けることにした。

「抽出? 何を?」

「純エネルギー」

「ふん……?」

「あまり気にしなくていい、戦いに必要な燃料のようなものだ。アーロイドと戦うには一般的なパワーアシストだけでは不足ということだ」

「ストライド云々とは違うのか?」

「ああ、SZUか? 同じようなものだが、そうだな、類似品ってところだろう。違いがあるとすれば、おそらく……」

「おそらく、なんだよ」

「俺たち専用なんだろう」 

「俺たちって? 仲間か?」

「いや、仲間はいない」

「うんん……いや、信じられないな。一人で戦っているのか? あんた何者なんだ?」

 どういうことだろうと香月は思った。個人のわけがない。仲間がいるはずだ。それとも、どこかから支援を受けているだけということなのだろうか。または単独行動を命じられているのか。

「あれだ」

 白い男は椅子に深くもたれかかると、テレビを指差した。

「ハンドルエクスはまだ国内に潜伏していると思われます。非常に危険です。見かけた場合は警察などの公的機関、または希望隊関係機関に連絡を……」

 ハンドルエクスと言えば、アーロイドのボスのようなものと喧伝されている。

「あれって……嘘だろ! あんたがハンドルエクスだってのか!?」

 香月はまさかと思った。この白い男はアーロイドと敵対しているのだ。なにか裏があるのだろう。だが、考えがまとまらない。

 香月が何も言えないでいると、白い男が自分のヘルメットに手をやる。

「教えてやる。アリガのことも、ベタナークのことも。そして、『霊物』のこともな」

「……ああ!」

 ヘルメットの下にあった顔を見て、香月は少なからず驚愕した。

「俺はハンドルエクス・ダーク。裏切りの博徒(ばくと)

 『解像』機能に異常をきたし、人間に擬態することも、アーロイドの姿にもどることもできなくなったその顔を、画面から出る人工的な明かりが照らしていた。

「今、新しいニュースが入ってきました。黄流通信のルアン=クララベルン氏が何者かに殺害されました。ルアン氏は……」

 ニュースの声を聞いたダークの顔は、さらにおぞましいものになっていた。

証明せよ、その完全性。

立証せよ、その健全性。

いよいよ秒読み開始。


次回、ハンドルエクス・ダーク第21話『孤独』

暗闇への審判が、今、下される。

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