オーバーキル overkill
The Sky of Parts[34]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点ルール」を使っています。
『……エリオット。
お願い……赤ちゃんを……必ず……私の手に……お願い』
* * * * *
「ダノンさん、ジーンさん。
……父上も、母上も、エルリーンも見当たらないんだ……どこにいるんだろ?」
「――ルイーナ。今は、歌う事に集中しろ。
三人には、歌い終わった後に会える……そういう話なんだよ……分かってくれ。俺から言えるのは、それだけだ」
「ダノンさん……何か、楽しい事を期待していいのかな? 今日、オレの誕生日だし!」
「ルイ……きっと、三人は来るよ。おれはこれからも、うちのエルリーンを、お前に任せたいから、きっと来る。
両親だって……子供を悲しませて、平気な親なんていない。
……おれだって……子供の為だったら……」
「ジーンさん、どうしたの?
今日は、奥さんとおなかの赤ちゃんと離れてしまって、不安なの? 泣きそうな顔をしないで。
うん。大丈夫!
オレ、歌ってくる!
ダノンさんも、緊張し過ぎだよ! オレが、露払いするから、世界の平和の為に、立派な統治者になってね!」
* * * * *
『アリス、ご覧。
月、出ている……ああ、今の君は、見る事ができないね。三日月だよ。空に、浮かんでいる。
中庭が、煌めいているようだよ』
* * * * *
「よし、対空ノイズ消滅!
および、タワー『スカイ・オブ・パーツ』の対空防衛システム停止確認!
ヘリに乗れっ!
小娘!
お前が、軍のトップになると宣言したら、以降は、しおらしい部下におさまってやるっ。だから、今は、この竹内イチロウについてこい!」
「くっ!
分かったよ! 整髪料のにおい振りまくスーツにネクタイ野郎! あたしを、ルイのところへ連れて行け! 必ずだ!
……あれ?
座席の下……何これ?
なんで、こんな邪魔な荷物が……空っぽ?」
* * * * *
『はいはい。父上も、母上も、ソファに座って。
へへんっ!
プロデューサーATも、主君エリオット・ジールゲンも、びっくりするようなLunaの新曲――いきます! 最初に発表するのは、二人の前だからね。並んで、一緒に聴いて。へへ』
* * * * *
「ルイを舞台に送り出したが、どう思う? ジーンさん」
「……どうって。
うちのエルリーンが帰ってきて、それで、最後は、ルイがいつも通りに笑っている。
今日が、そんな終わり方をしてほしい。それだけだ。おれが願うのは、それだけだよ、ダノン」
「ジーンさん、そうだな――ん?
端末に着信が……な、なんだと!」
『ああ、繋がった。
責任者の人というか、もうすぐ統治者の人。先に言っておこう。おめでとう』
「エリオット・ジールゲン!
お前……どこにいる! 今、何をしているんだ!
ルイを独りにして……軍師殿もいない! 天王寺アリス! あの女も、どこにいるんだっ!」
「てめぇ!
うちのエルリーンを返せ! てめぇが連れ去ったんだろ! 返せ!」
『『後ろの人』、心配するな。
舞台のそばに――外にいるんだろ? ほら、見えないか。
タワー『スカイ・オブ・パーツ』から、そちらにヘリが向かっているだろ。
うちの元側近中の側近、そして、もうすぐ、お嬢さんの側近中の側近になる竹内イチロウに送り届けさせている』
「……エリオット・ジールゲン。
お前……俺の端末に送ってきている映像は、なんだ……どうするつもりだ……答えろ!」
『おやおや。
僕は、大蛇との死闘の後でね。少し疲れているんだ。
受け答えができなかったら申し訳ない。
ん?
なんだい、統治者の人。
ああ、これかい。見ての通りだよ。なあ――思わないか? 小鳥のやつ、あさましく、許しを受け入れてもらおうと必死に願っているようだと』
「なんの話だ。俺らに、何を言いたい?」
『これ、今、流している映像。
統治者の人のコンピュータにも、勝手に録画させてもらっている。基地に帰ったら、データバックアップも用意して、大切に保管しておきたまえ』
「だから……どうしたい! どうしたいんだ! エリオット・ジールゲンっ。俺に……どうしろと!」
『くくっ。
おかしいんだよ、この世界は。それを、正常な状態にするだけさ。
小鳥のやつ、自分の神通力を使って、この僕を、世界の皆に受け入れさせようとしたんだ! 小鳥こそが、真の独裁者だと思わないか?
ふざけているんだよ! 小鳥は、人々の想いを捻じ曲げたんだっ』
「もう、いいだろ……エリオット・ジールゲン。
俺だって、ルイーナに弄されているって……薄々は、気づいていたっ!
だけどな、それでも許そうとしたんだ……お前を受け入れる事が、世界の平和に繋がると……神の子であるルイーナが言うのなら、仕方がないって……だから、やめろ……やめるんだ!」
『統治者の人。
自分の親を奪った僕を、同じ目にあわせたいという思い――捨てるなよ。自分の意思を貫けっ!
録画データ大事にしろよ。
小鳥に煽られないヤツとて、世の中にはいるんだ。
そういうヤツが、あんたが世界を統治する上で邪魔になると判断したら、この映像を使えっ』
「おれからも、頼む!
やめろ……エリオット・ジールゲンっ!
腹の中にいる頃から、ルイが、可愛かったんだろ?
……おれだって、今、腹の中にいる子が……もう可愛いんだ……妻の事だって愛しているっ。
天王寺アリスさんを、愛しているんだろ!
愛されているんだろっ!
お前なんか、助からなくてもいいんだっ! 助かってほしいのは……ルイと軍師殿の心……だから、戻ってこいって! なんとか言えよ!」
『うるさいな、『後ろの人』。
すべては僕が決めるルール、元独裁者という仕事を家庭に持ち込んでしまった。職業病なだけじゃないか。とても、一般的な事だ。
ふ。
二人の事は、愛している。大切な家族だからな。
アリスとルイーナを助けるのさ。
考えてみろよ。
ルイーナが、神通力を失う事があった場合、どうなると思う?
ははっ。
答えは、簡単だろ?
うちの義理の娘とて、どうなるか分からんぞ。
お嬢さんは、心の底から、ルイーナを愛してしまっている。父親の仇である――この僕を、受け入れてまでな!』
「分かってるなら帰ってこい!
……おれだって……兄貴の仇のお前を、どんな想いで受け入れようとしたと思っているんだ!
ルイの気持ちを代弁してやる!
親の手に、これからも触れたいんだ! 鳥カゴの格子がなくなって、これからは、伸ばされた手を握る事が許される未来が約束されているんだ!」
『ルイーナの気持ちか――。
あはははっははっ!
……おかしいだろっ。
たった一人の戦争を目の当たりにした子供が押しつけてくるイデオロギーが、果たして、正当でリベラルな世界を創ると言えるのか?
他人の意思を歪曲させる力を用いて、迎合させ……従属を強いているだけだ! ルイーナがやっている事は、単なる独裁政治なんだっ!
何もかもが自由であると思い込ませるような……悪魔の歌声を悪用しているにすぎない!
当たり前を勝手に作っているんだっ。
エリオット・ジールゲンの命が続くべきだという自己主張を、普遍化させようとしたんだ!
この僕にすらな!』
「ガキの気持ちが、そんなに分かっているなら、帰ってこいよ!
もういいじゃねえか……ずっと、みんな、ルイに騙されたままでも。
……おれだって……そんな事で、戦争がなくなるのなら、いいんだっ!
おれの――ジーン・インヴァリッドの妻子を戦争から護れるのなら、エリオット・ジールゲンが存在する世界でもいいんだよっ!」
「ジーンさんの言う通りだ。戻ってこい、エリオット・ジールゲン。
統治者としての命令だ」
『ん?
あれ。まだ、ぎりぎり統治者になっていないと思うがね? だから、その命令は無効だ。
くく。
このエリオット・ジールゲンが、たった十三歳の小僧に従う?
冗談じゃない。
いくら実の息子とはいえ、これが理念だと強いてくるというならば――僕は、それに反逆の意を示す。それだけだ』
「やめろ……火を消せば……間に合う。やめるんだ。
……統治者ではない。
あんたの妻子の顔見知りであるダノン・イレンズとして、頼む。
その大量のダイナマイトに向かっている、火を消せっ! 消せよっ! 消せぇええええええ!」
* * * * *
【―これは、小鳥が心―】
引き離される事なく、小鳥は、母の胸の中。
隔たるもの失せて、小鳥は、父の腕の中。
母の温かさを感じた小鳥は、歌いたかった。
父の元へ帰り着いた小鳥は、歌いたかった。
世界のすべての命の為に、歌いたかった。
鳥カゴの中のすべての人々が、希望を持つ為に歌いたかった。
鳥カゴに繋がれたすべての人々が、飛び立つ為に歌いたかった。
鳥カゴから巣立つすべての人々を祝福する為に歌いたかった。
鳥カゴに繋がれ生い育つ、火種の燃えあがり知らぬ小鳥。
小鳥は、歌いたかった。
父の為、母の為。
鳥カゴから巣立ち伸び育つ、火種の燃えあがり知る小鳥。
けれども、小鳥は、歌いたかった。
父の為、母の為。
鳥カゴに繋がれ覚め育つ、火種の燃えあがり隠す小鳥。
小鳥は、飛び立ち、大地を足で踏みしめる。
小鳥は、歌いたかった。
父の為、母の為。
けれども、父と母は、鳥カゴ格子の向こう。
世界を知った小鳥は、歌いたい。
真実を知った小鳥は、歌いたい。
小鳥は、世界の為に歌いたい。
小鳥は、世界に歌を捧げたい。
親鳥の愛を確かめたい小鳥は、歌いたい。
小鳥は、歌いたかっただけ。
小鳥は、歌を聴いてほしかっただけ。
親鳥の愛を得たい小鳥は、歌いたい。
叶いて、父と母は、小鳥のそば。
親鳥の愛を許された小鳥は、歌いたい。
希望あふれる未来を歌いたい。
火種失せる向後の為に、歌いたい。
小鳥は、許しの果報に応じたい。
小鳥の誓いは、希望の証となる。
小鳥の願いは、新たな世界となる。
小鳥の想いが、人々の想いと重なる。
小鳥は、自由と平和の意を体し翼賛する。
自由と平和を欲するが、救い人だから。
そうして、小鳥は、父と母のそば。
そうして、小鳥が求めた世界の創世。
果たして――。
【※】
連載再開です。最終話までの投稿スケジュールは、次の投稿前後に「活動報告」に書きます。
(体調不良で再開の事前連絡が間に合いませんでした。申し訳ありません)




