制・動
The Sky of Parts[33]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点ルール」を使っています。
「ジーンさん! エルリーンはいたか!」
「いや……ダノン。
エルリーンのやつには、何度も音声通話をかけているんだが、繋がらず……ついには圏外だ!
ただ……不審なヘリの目撃情報が……いや、みんな見てたと思うが!」
「ああ。
タワー『スカイ・オブ・パーツ』に向かって飛んで行ったやつだよな。
対空ノイズは、どうなっているんだ……」
「ダノン。
おれにも、分からん。
今日は、都自体が完全封鎖中だ。新体制への移行の為に、女子供も、病人まで含めて、いったん都からすべての人がいなくなっている。
久々に軍の本気の圧力を見た気がする。
……今も、都周辺は、軍によって、厳しい封鎖が続いていて、対空ノイズがどうなっていたか、調査できる状況とは思えない」
「どう思う? ジーンさん。
タワー『スカイ・オブ・パーツ』に向かったヘリに乗っていたのは、エルリーンとエリオット・ジールゲン。
後、軍師殿が見当たらなくなった」
「……嫌な予感しかしねぇよ。
エリオット・ジールゲン。
あいつ、今日の今日まで大人しい振りをして、息子のルイの歌声で、世界をひれ伏せさせて、軍を再び手に入れる気じゃ。
うちのエルリーンを人質にしてな……」
「ルイは、ここに残っているようだが、世界中の人々の手前、こっちも何か事でもない限りは、手を出せない。
……くそっ。
ルイ自身も、所詮は、天王寺アリスとエリオット・ジールゲンの傀儡である可能性が高い!
そうさせられている可能性が高い!
だから、最初にルイを歌わせる……そういう腹積もりだったって事か!」
「ダノン……おれ、今、悪い事を考えがちだが、ルイが、何も知らなかったとしてもだ、ルイの歌声で、みんなが、ルイを神だと崇めた直後に、エリオット・ジールゲンが独裁演説をしたら……どうなると思う?
世界を再び制圧するのは、ルイの実父である自分だと……軍が総出で、ルイを奪いにやってきて、軍のものであると言わんばかりに担ぎ上げられたら……どうしたらいいんだ!
血の繋がりっていう、正当性を語るなら十分な材料が、向こうにはあり過ぎる!
しかも、エルリーンを連れ去られていて……。
どうしたらいいんだっ。
ちくしょー!」
「今のルイは、ヤツに懐柔されている状態だ。
揺すぶられたら、親の愛欲しさに、伸ばされた手を迷わず握り返してしまう。
……やられたかもしれん。
自分の権威のすべてを奪ったとはいえ、世界から神と崇められたのが自分の息子だったのは、逆に都合がよかったと思い、最初から抱き込むつもりで、俺らの基地に潜入してきた。
無理強いするのではなく、本能を呼び戻す形で手なずけ、自分の思い通りに従わせる手段をとったにすぎない。
この方法で、ルイを取り戻された場合……エリオット・ジールゲンは、心身のすべてを捧げるような絶対的忠誠を誓う全知全能の神を手に入れる事になる。
くそっ!
軍師殿!
天王寺アリスは、どこへ行ったんだっ!
あの女もおそらく共謀者だっ。
世間にルイの存在を知られてしまった以上、あの女も、エリオット・ジールゲンの計略に身を委ねるしかない!
お得意の背信行為だったという事だっ」
「ダノン……今は、しまったと思うが……ここに来た時に、控え場所にルイとエルリーンを案内する役を、軍師殿にお願いしてしまったんだ……」
「今、ルイは、控え場所にいるのか? ジーンさん」
「……いてくれると信じたいが……」
「ルイに、会いに行くこと自体が、なんらかの罠かもしれんが、今できる唯一の行動だ。
俺が行ってくる。
戻ってこない場合、ジーンさん……可能な限りでいいから、後は頼む。
ただし、ジーンさん。命を最優先に考えてほしい。父親になるんだ。そこは、冷静に判断してくれ。必ずな」
「ああ……ダノンも気をつけてな」
* * * * *
『エリオット……雨は、止んだ?』
『ちょっと、待って。
窓の外を見てくる――雨はあがっているようだ。アリス。むしろ、晴れている』
『本当、よかった。今夜は、月が見えるのかな――』
* * * * *
「あれ? ダノンさん、どうしたの?
あっ!
そういえば、その灰色のTシャツ似合ってるよ! ベージュのチノパンも。
私服姿も、とってもカッコいい。
でも、ダノンさんといえば、青色! 青色のシャツを前開けで羽織っているのもいい感じだよっ。
ジーンさんは、いつもとあんまり変わらずがよいと言って、ニーパッドを外しただけだったね。エルリーンの話だと、赤ちゃんが生まれる予定があるから、お金の節約なんだって!
ジーンさんの赤ちゃん、オレにとってもイトコになるから、たのしみ――」
「ルイ。雑談で和ませてくれてありがとう。
少し話がある。
……ずっと、ここにいたのか? たった一人で」
「うん。
母上に案内してもらって、それからずっと、ここにいたよ。母上は、そのままどこかに行ってしまった。
最初は、エルリーンと一緒だったけど、緊張するから外の空気を吸ってくるって。
オレ、やりたい事があったから、静かで集中できていいやって……き、緊張はしてるけどね。もちろん!」
「――ルイ。
タワー『スカイ・オブ・パーツ』の方を見たか?」
「え?
何かあったの?
ダノンさんも緊張してるの? 表情がかたいよ」
「……ずっと、ここに、こもっていたと言っていたな。
ルイ、一人で何をしていた?」
「作文を読み直していたんだ」
「作文?」
「前に、学校の宿題で書いたものなんだけど……結局、提出しなかったやつ。
あの頃は、こんな事を言っていいか分からなくて、オレの意見を押し通していいかって意味でね。
エルリーンには、違うって言われたけど、書いてから見直していたらまるで独裁演説。
――込められているものがね。
でも、今なら、言ってもいいのかもしれない。
だから、みんなの前で読み上げるか迷っていたんだ。何度も何度も、自分で読み直してね。
今日歌うのは、これと、ほぼ同じ意味だと思うから」
「ルイ。
ここに来てから、お父さんとお母さんから、何か連絡があったか?」
「え?
父上と母上から……うーん……着信履歴は、ないみたいだよ。ほら、これ、オレの端末画面見て」
「……警護上理由での質問だ。
ルイ。他に誰か、接触してきた者はいなかったか? 大丈夫だったか?」
「うん。
ここには、誰も来ていないよ。ダノンさん、何かあったの?」
「いや、何もない。
――何かあってはいけないので、念の為、気を抜かない事にしているだけだ。
ルイ。
歌に込める想いと同義だと言ったな。
その作文は、俺が見せてもらっても大丈夫なものなのか?」
「あ、いいよ。
何度読み直しても一緒かなって思っていたから。
ダノンさん。
字が汚いとか、読めないところがあったら言ってね」
「ありがとう。預からせてもらう――ルイ」
「ん? なあに?」
「これ、本当に自分一人で書いたんだな? 念の為程度の質問だ。
そして、これを歌うつもりなんだな――」
「うん。どうかな?
今さらだけど、ダノンさんがダメって言うのなら……やめておく。
変えた方がいいなら、即興で、詩やメロディ作ってみるけど」
「世界の為に、俺は、これを止めるべきなのか……それとも、これは、世界を救う唯一の術になるのか――」
「だ、ダメかな! じゃあ、もう一曲作るよ!
大丈夫!
オレ、土壇場で曲作るの意外と頑張れるから!
一年前は……言葉の綾じゃなくて、本当に、土壇場で即興したから。
……あはは。
そうしたら、世界のみんなの心に届いてしまった――。
っていうか、うちの父親は本当に、人でなしで鬼畜で極悪人だよね。可愛いとか、愛しいとか、口では言う癖に、息子のオレの人格を本気で抹消しようとするとかさ。
だから、今回の歌で、ただの普通の何でもない父親にしてやるんだ。
その程度のクダラナイ理由で作った歌だから……イマイチだよね」
「……ルイ。
本当に今言った理由が込められているのか? 今日歌うつもりの歌には――」
「え。
あ。うん。
そうだよ、ダノンさん。オレとしては、そういうつもり。世界の人たちに、どう届くかは分からないけど」
「歌ってくれ。
だったら――歌ってくれ。それを、ルイの口から発して……必ず、父親の心に届けるんだ。必ずな」
「は、はい……。
ダノンさん。さっきも言ったけど、とても緊張してるんだね。ずっと表情が強ばったままだよ」
『Luina』の最初の『L』を『R』にして、『ruina』とした場合、ゼロのような意味だと作中で描いていますが、エルリーンの『Invalid』も、無に近い意味。
ルイーナとエルリーンが、月と太陽という話がかなり前にありましたが、ダノンの『Ilens』から『I』を除くと『lens』となり、光を扱うものになります。
かなり余談です。
ちなみに『Alice Zealgene』であれば、『E・Z』に入れます。
さらに余談です。




