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静・動

The Sky of Parts[33]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点(くてん)ルール」を使っています。


「ほら、これ、アンタの旦那の追放先。

 ここだ。

 アンタから、旦那に資料を渡しておいてくれ。いいところだろ? 俺に感謝しろよ、天王寺アリス」


「ええ、もちろん。

 ダノンには、感謝の言葉しかないわ。あら、とてもイイところ。本当によくこんないい場所を見つけてくれたわね。ふふ」


「ふん。

 報告義務はつけさせてもらうが、日常行動は制限しない。

 廊下掃除で(つちか)わせた庶民感覚で、地元の畑を手伝わせたらどうだ? 軍隊あがりなんだ。体力は有り余っているだろ」


「大蛇と白兵戦(はくへいせん)できると豪語(ごうご)していたから、体力は有り余っていると思うわ。

 あら。

 うちの『三十二等兵』は、軍事政権のトップだったというだけで、庶民よ。極悪で兇暴(きょうぼう)で人でなしの非道な独裁者だったという過去があるだけで、今は、ただの民間人だわ。

 というか、ダノン。

 私が、『三十二等兵』についていく前提って事?

 もうすぐ、一人息子も全寮制のハイスクールに入学してくれて、やっと第二の人生をスタートできるっていうのに。

 私、独身なのよ」


「黙れよ。外道(げどう)な軍師の天王寺アリス。

 書類上のアンタは、息子の十三歳の誕生日の日に再び発効になる。

 出産していないし、結婚もしていない。

 エリオット・ジールゲンの見張りができる程で、しかも、俺との連絡が取りやすい世話役なんて、軍師殿。アンタしかいないだろ。

 そういう意味でだ。

 どうだ?

 世間から見ても、エリオット・ジールゲンの女だって疑われるようになる気分は。

 仲がいいなんて――あっちに行っても、すぐにバレるさ。

 だから、アンタにその役を(めい)じてるんだよ! アンタが押しつけてきた統治者の権限を使ってな! ざまぁみろ、天王寺アリス!」


「はいはい。

 ダノンが、いろいろ言ってくれる子で、嬉しいわ。ふふ」


「……手紙、たまに送ってこいよ。もちろん、定期報告という意味でだ!

 田舎暮らしのネット記事を書いたらどうだ? 俺も、読者登録してやるぞ」


「ダノンも、彼女ができたら、すぐに報告してね!

 あ、私よりも先に、必ず、ミューリーに教えてあげて」


「親ね……。

 ルイーナには、まだ話してないんだろ? アンタらが――両親が、遠くに行くって」


「うん。

 ダノンの就任あいさつの方が、あの子が歌うよりも(あと)だから――余計な事で、心をかき乱したくないじゃない。

 ね?」


「ちゃんと伝えなかった為に、最後の神の歌声になっても、俺は知らんぞ。

 (あと)でも、先でも、親がいなくなるのは、子供からしたら、心が壊れるような思いだからな!

 ……すまない。

 少し言い過ぎた……貴女もご両親は、もういないのだったな」


「いいえ。私は、大丈夫。

 今は、私が築いた、家族がいるから――」


「……縁があったら、俺も、家族を築くつもりだ。

 統治者なんて、何年やる事になるか分からないが、夫や親になった俺を、戦争で失う時代じゃなくなるんだからな。必ず、そういう世界にする」


「よろしくお願いします。ダノン」



* * * * *



「ルイーナ。

 普段、学校に行っているような服装で、みんなの前で歌うの? 世界の代表ですをするの?」


「うん、母上。そうだよ。

 エルリーンも、いつもの格好。ダノンさんは、着慣れた青い軍服みたいなのやめて、私服でいくって。Tシャツとチノパン。

 あ。

 パーカーのシワぐらいはのばしていくよ!

 エルリーンも、髪の寝グセは直していくって! えへへ……どっちかって言うと、それは、恥ずかしいからだけど。

 気張っていない方が、いいかなって。

 また、みんなを押さえつけるような世界は作りませんって意味でね。

 ハイスクールに入学したら、制服でいいかなって、エルリーンとは話している。

 ダノンさんも、これから、適当に自分の制服代わりをさがすって」


「そっか。

 あ。

 言い忘れていた。ルイーナ。短い髪、似合っているわよ」


「ありがとう、母上。

 エルリーンが、マントが欲しいと言っているけどね……オレにつけろとか……まあ、それはまた相談する。

 む、息子のオレと、娘のエルリーンが、みんなの前で……キスしちゃうつもりですが……母上は、大丈夫ですか……?」


「ええ。

 もちろん! だって、子供の結婚式に出席したら、どうせ見せつけられるじゃない。早いか遅いかの違いだわ。

 結婚式か……私には、一生縁がないわ」


「……着てあげたら?

 父上と二人の時でいいから、ウェディングドレス」


「うーん。あれだ。『おひとり様でOK、ソロウェディング』写真撮ろうっていうサービスがあるらしいから、今度やってみようかな。

 エリオットも、やりたいって言い出したら、独りで着て、独りで写真を撮ればいいわ。

 別々で撮ったのに、無断で、写真をコンピュータ合成していたら、天王寺アリス軍の軍法会議行きだけどね」


「ふーん。じゃあ、ダノンさんにお願いして、命令してもらおうかな。

 父上と母上で、揃ってウェディング写真を撮れって。

 ちゃんと、並んで撮ったやつ。世界の統治者さまの権限でさ!」


「うわ……ダノン……喜んで命令してきそう……。

 そ、そんな事にならないように、ルイーナのご機嫌取っておかなくちゃ……か、母さん、白旗でーす! がくっ」


「うん。母さんをイジメてみただけ。

 ――『母さん』って呼ぶのも、意地悪の一つだからねっ。

 そういえば、どうして白旗なの? 天王寺アリス軍の旗って」


「……嬉しい意地悪だわ。

 ああ。あの旗が、何もないのは――私が、いつか、平和の象徴にしたいものを表現していたの」


「何もない――廃墟、混沌、破壊。

 だけど、これは『ゼロ』であり、『全ての出発点』という想いを母さんは込めた。あってる?」


「そう。

 全てが消えたと思っても、必ず希望は生まれてくる。生まれたばかりで、頼りないほどだけど、世界は照らされて、もう光を浴びているの。

 『Luna(ルナ)』は、『Luina(ルイーナ)』から、あなた自身をあらわす『(アイ)』を抜いたもの。

 世界のみんなが、戦争のない喜びを(しん)(いだ)く為、天王寺ルイーナという人間が必要だわ。でも、あなたの意思を必要としている訳じゃない。あなたの『(アイ)』は、平和を『愛』する心を表現するものになるのよ。

 自分では輝く事ができない月だけど、世界を(きら)めく空間に変化させる事はできる。

 静かに、優しくね。

 そういう存在として、これからも生きていって」


「うん。分かったよ、母さん。

 そして――了解しました! 母上っ! あはは」


「ふふふ。

 ルイーナ、どんなに恥ずかしがっても、今日は、母さんの気が済むまで抱きしめちゃうから!」


「いいよ! 覚悟はできているから、たくさん抱きしめて。

 母上。

 ずっと、ずっと……一緒にいてね――ずっと」



* * * * *



『天王寺先輩、大丈夫だから。

 僕が、ずっとそばにいる。

 もうすぐ会えるからね。君と僕の赤ちゃんに。ありがとう。僕と二人で、その時を迎えてくれると言ってくれて。

 ……あの……。

 出産までの間だけでいい……アリス姉さんって呼んでもいいかい? いや、できれば呼び捨てで、アリスって……』


『エリオット。どうして、そう呼びたいの?』


『協力者であるという、(あかし)として。

 我が子を迎える、その為の仲間として、今は、君と共にありたいと願うから』


『分かったわ。いいわよ。

 でも、この子に会ったら、私は、母さんになるからね。おぼえておいて』


『ありがとう、アリス。

 僕は――父さんになるね。一緒に迎えよう。僕らの子をね』



* * * * *



「お誕生日おめでとう、ルイーナ!

 懐かしいな、あなたを産んだ日。もう十三年前なんだ」


「ありがとう! 母上。

 うん、十三歳になったよ。でも、まだ三回目」


「ん? 何がかしら」


「父上と母上が、一緒にいてくれて、誕生日を迎えるのだよっ!

 九歳と十歳の時と、今日だけ。

 ……八歳の誕生日は、前日に母上の体調が悪くなって、会えなかったから――ほら、やっと三回目っ。

 まったく!

 二人とも、親なんだから、もっと子供のオレにいろいろ配慮してよね!」


「ルイーナ、四回目だ。

 おぼえていないと思うが――お前が産まれた時、その瞬間も、父上と母上は一緒にいた。

 お前を取り上げたのは、父親である僕自身だからな」


「あ、そっか。

 でも、さすがにおぼえていないよ……当たり前っ。

 それを入れても四回だけしかない! 今日は、残りの分まで、オレに最高の誕生日をください!

 これは、命令だからね!」


「YES、ルイーナ。これでいいかしら?

 ふふ。

 にっこりお顔してくれたわね。

 あー。

 でも、ルイーナとエルリーンとダノンの就任式を、あの山の(いただき)でやるとは思わなかったわ。私が、ブロガー時代に、タワー『スカイ・オブ・パーツ』をよく撮影していた山。

 ……そう、タワー『スカイ・オブ・パーツ』がよく見える場所……」


「父上からも、(いと)しいルイーナには、最高の誕生日プレゼントを与えてやるつもりだ。

 最高のな――。

 僕にも、にっこり嬉しい顔を向けてくれたな。

 あははは。

 本当に、大きくなった……赤ん坊の頃も、幼い頃も、タワー『スカイ・オブ・パーツ』で暮らしてもらっていた頃も、僕がそばにいないと、ルイーナの命は護れないと思っていたのに。

 ……すまなかった。

 『スカイ・オブ・パーツ』に連れ戻した時、タケの薬を使って、世界の頂点に据えようとした事だ。お前の一部を否定しなくとも、『今日という未来』に辿(たど)り着く事は、可能だったんだ……許してくれ」


「もう、いろいろ分かっていたんだよ! オレにだって、こうしたい、ああしたいは、いっぱいあったんだ!

 無視すんなよ、うちの父親って思ってた。

 だから、復讐で、十三回目の誕生日は、三人一緒にいてもらっているんだ!

 ――普通の父親としてね」


「ふ。

 いいのか? ルイーナ。

 僕は、今でも、お前とアリスの人生を自由に決める事ができる! それでも、反逆の()を示すか?」


「そうしたら、また、母上と連合を組んで、父上に、イタズラで仕返しするから――その覚悟があるなら、やってみろ!」


「……あはは!

 ルイーナ! 分かった! お前は、もう十分に強い。

 僕がそばにいて護ってやる必要もないし、お前を護る為、『スカイ・オブ・パーツ』に隠しておく必要もないという事だ」


「うん。

 本当に分かっているんだったら、母上と二人で、オレを抱きしめてほしいな――これからも、ずっと、ずっと」


「父上は、お前を、ずっと護るよ。ずっとな。

 母上だって、同じ気持ちだ。二人とも、ずっとお前を護ってやるから、ルイーナ、今日は、しっかりやってこい。

 ……一つだけ言っておく。

 本番で、絶対に泣くな。みっともない真似だけはしないでくれ。

 歌い終わっても、舞台をおりるまで頑張れるか?

 約束しろという話じゃない。これは、命令だ」


「……エリオット……。

 そんな言い方をしなくても……舞台の上で泣きたくなったら……泣いてしまえばいいじゃないか……。

 ルイーナは、まだ十三歳なんだから……その……あの……」


「アリス、黙っていてくれ。

 十三歳なんだ。もう十分に大人だ。ルイーナ。答えは、どうなんだ?」


「命令なんだろ。いいよ。

 ずっと、父上に命令されて生きてきたんだ。今日、誕生日で機嫌がいいから、特別に聞いてやる!

 ――そういう答えでいいの?」


「ああ。命令だ。

 これからも、ずっと、護ってやるから。父上に、絶対に逆らうなよ」


「うん。任せておいて……母上っ! きゅ、急に抱きついてこないで! び、びっくりした! 父上も……う……そうか、オレが抱きしめてほしいって言ったからだった……ははは……うん。

 ずっと、護ってね」



* * * * *



『アリス!

 僕がそばにいるから……僕が、君とおなかの子を護るから……ずっと、ずっと。

 だから、頑張って……これは、命令だよ……だから、頑張って……三人でいる、未来へ行こう』



* * * * *



「ちょ……ちょっと、待って!

 こ、これって、あたし、誘拐されているんじゃ……ど、どういう事だよ!

 しゅ、就任式に行かないとダメなのに!

 こら!

 おいっ。聞いてるのか!

 就任式前で緊張して、一人で森の空気を吸っていたら……いきなり、気配もなく近づいてきたあんたにさらわれるなんて……今日は、半ズボンにしておいてよかった!

 あんなに勢いよく担ぎ上げられたら……は、恥ずかしい事になるところだった……って、そういう問題じゃない!

 普通の父親になるんじゃなかったのかよ!」


「お嬢さん、落ち着くんだ。

 身体をロープでぐるぐる巻きにされて、ヘリに無理やり乗せられて、どこかへ連れて行かれそうになっているだけじゃないか。

 僕は、人生でこういう事を何度もやってきたので、別に普通だと思うがね。

 義理の娘とヘリでドライブしてみようと、突然思っただけだ。

 誘拐なんて、我が家からしたら、日常茶飯事ぐらいな事さ!」


「普通じゃないよ! 日常じゃない! 異常だっ!

 あんただって、ルイの歌を聴くんじゃないのか!

 え。

 ちょっと、今、窓の外に……見えてしまったんだけど……あ、あれって……タワー『スカイ・オブ・パーツ』?

 た、対空ノイズ!

 墜落するんじゃ!」


「さあ?

 中層階に、不時着(ふじちゃく)できるポイントがある。

 もちろんだが、対空ノイズがないのが前提だ。

 そして、寸分の狂いもなく操縦できる、僕の腕前が試される時だ!

 いくぞっ!

 ぐるぐる巻きで、『しっかりつかまっていろっ』は、無理だから、シートベルトとお義父さんを信じるんだっ。お嬢さん!」


「い、いやぁあああああ! 助けてぇえええええ!」


「……ふう。到着。

 五十パーセントの賭けに勝つ事に成功だ! さあ、『お義父さん、すごい!』と言ってくれ。これは、命令だ!」


「うるさいっ! 黙れ!

 五十パーセントの確率で……あたしごと、さようならだったって事か! ふざけるなっ!」


「くく。

 僕の人生は、いつでも、ふざけているのでな!

 さ、早く降りよう。

 ぐるぐる巻きは、ここで終わりだ。はい、これ」


「……け、拳銃!

 な、なんだよ……あたしに、何をさせようっていうんだ!」


「ふふ。もちろん、お嬢さんには、撃ってもらうのさ」


「何をだよ……あたしに、何を撃てっていうんだ……」


「お嬢さん。今の君は、僕に逆らう事なんてできないさ。

 さあ、大人しく、この銃を受け取るんだ」


『……先輩、聞こえていますか?

 ああ。

 監視カメラの方をチラッと見てくれたので、大丈夫そうですね。

 おかえりなさい。

 成功率三十パーセントの賭けに、よく勝ちましたね。感心して、思わず拍手させてもらいました。

 あっ。

 エルリーン・インヴァリッドさんも、タワー『スカイ・オブ・パーツ』へ、ようこそ』


「ちょ……!

 さ、三十パーセントって……ってか、整髪料のにおい振りまくスーツにネクタイ野郎……いや、竹内イチロウもグルなのか!

 あたしを誘拐して、拳銃を渡そうとして……あんたたち、何を企んでいる?」


「くく……知りたいか?

 では、先に、僕らの仲間になると誓ってもらおうか。お嬢さん、銃を受け取りたまえ」


『先輩。ちょいと軍の連中に、申し渡しタイムしますよ。

 皆、あなたが乗ったヘリが、タワー『スカイ・オブ・パーツ』到着したのを目撃していますので。

 こっちの回線も、このままにしておきます。

 ――全総軍(ぜんそうぐん)および隷下部隊(れいかぶたい)、全軍に告ぐ!

 こちらは、最高指揮官代理の竹内イチロウだ。

 『sagacity』を経由して、全軍に告ぐ!

 エリオット・ジールゲン閣下が、戻られたっ。

 正統な後嗣(こうし)たるエルリーン・インヴァリッド閣下と共にな!

 この旨意(しい)に関して理解できぬ者など、我が軍にはおらぬと考えている!

 まもなく、すべてを統べる神、ルイーナ様が世界の支配者となられる。ルイーナ様が、宣言されると同時に、御内儀(ごないぎ)であるエルリーン・インヴァリッド閣下と共に、我が軍を総轄(そうかつ)される事になる!

 ルイーナ様が、誰の御子(おこ)であるか、知らぬ者はいないはず。

 神の歌声が、地上すべての民衆を制する時がやってきたのだ! ルイーナ様のお血筋の意味するところ、我が軍にとって、どれほどに大きなものをもたらしてくださるか……もはや、これは、如何(いか)なるものにも崩す事ができない、強大な威光が与えられると言ってもよい!

 従えっ。

 新世界を築く神に!

 神の歌を、その耳で聴き、神の歌声によって(おの)が心を滅した(のち)、ルイーナ様にその()を捧げよ。すべてを(ゆだ)ねよ!

 (おもんぱか)るなっ。

 盲従(もうじゅう)せよ!

 忘我(ぼうが)こそが、忠誠の(あかし)

 神たるルイーナ様を(あが)めよ! (あるじ)たるエルリーン・インヴァリッド閣下を(たた)えよ!』


「ま、待て……!

 あんたら……軍をどうするつもりだ……あたしとルイを使って、何をするつもりだ!」


「何をしたって、僕の勝手じゃないか。元々、僕によって生み出されたオーガナイズだからなっ。

 お嬢さん、知ったところでどうする?

 逃げ出す事、かなわないぞ。

 ――ここには、誰も近づく事ができないのだから。

 お嬢さんは、僕の手から、この銃を受け取る事だけを考えればいい。

 くく。

 やめておけよ。()を投げるなどという事もなっ。

 スピーカーを通して聞こえただろ?

 軍の連中が、君とルイーナに対して、礼拝するがごとくに敬礼したんだ! ただの一人も乱れる(さま)を見せずに、連中は、満腔(まんこう)の敬意を(ひょう)したんだ!

 上に君臨する者として、答礼(とうれい)してやったらどうだ?

 この意味が分かるかっ。

 君とルイーナには、もう、地上のどこにも失せて隠れる場所などない!

 お嬢さんが、早まった事をすればどうなると思う?

 ルイーナは、ただ一人、存意をなくした傀儡(かいらい)どもから、その操り糸を握るよう()いられる事になる。

 力で(くっ)させられながら、力を振るう為の剣をその手に渡される事になる。()に絡まった数多くの操り糸が、やがて蜘蛛の巣のようになり、ルイーナは自由を奪われたまま、生き長らえさせられ、(きっ)される事になる。

 どうする?

 君の愛する者に、そんな行く末を望むかっ」


「そ、そんな事はさせない!

 あたしが、させないさ!

 ルイも、あたしも、平和な明日が欲しいだけなんだからっ」


「ならば、このエリオット・ジールゲンに従うんだ。

 そんな怯えた顔をするな。

 どこかに流されないように、心に繋ぎとめを作るのもやめろ。

 後世にはばかる為に、この銃を握れ! 今の僕から見て、君は、『道具』の一つにすぎない!

 僕と想いを合わせるんだ!

 さあ、ついて来い! エルリーン・インヴァリッドっ」


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