そもそも、大好き、なんだろ
The Sky of Parts[30]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点ルール」を使っています。
※ほぼ同時アップロードですが、30章後半は長文なので、中途半端なところで2つに分割します。
「僕とアリスになりたいなんて……ね?」
「エリオット。
あの話をしよう……というか、してほしい。
ルイーナの――いや、二人の母として、お願い。
天王寺アリスから、エリオット・ジールゲンに頼みたいの」
「……タケ」
『はい。なんでしょうか。
申し訳ありませんが、ルイーナ様とエルリーン・インヴァリッドさんの会話、この竹内イチロウもすべて聞いてしまいました。
ご自分で、御二人には、伝えた方がいいんじゃないですか?
私に、任せると、すべて伝えてしまいますよ――』
「タケ、お前がやれ。僕だと、すべてを伝えられなくなるかもしれないだろ――な?」
『やれやれ。
あなただって思っているんじゃないですか? 命で償えたら、どんなに楽だったかって――ねえ、先輩』
「そうだな、後輩。『いいから、とりあえず、言え。以上』」
『現在、軍を管理している身としても、御二人とは、お話したい事があります。
わだかまりが残るような、変なしこりがあると、この竹内イチロウがこれから、強大な軍事力を維持していく上でも問題になるんです。
いい機会をいただいたと思っておきます。
決して、先輩の為ではありません。あなたは、軍にとって、敵だから』
「ふん。
このエリオット・ジールゲンを、『敵対』相手だと言うのか。
竹内イチロウ。
今すぐ、軍を潰してやってもいいんだぞ」
『先輩の奥様が、先日、タワー『スカイ・オブ・パーツ』にお越しになった際、仰っていました。
エルリーン・インヴァリッドさんを、軍でいただくのと引き換えに、この竹内イチロウの口から、ルイーナ様に、すべて伝えるようにとね』
「タケ!
私は、その事は、エリオットには、黙っておけと言ったじゃないか!
約束違反だ!
エルリーンは、あげないぞっ」
『天王寺アリスさん。
貴女の想いを離れて、ルイーナ様と考えを合わせる意味で、エルリーン・インヴァリッドさんは、軍のトップに就任して下さると思います』
「ううっ!
タ、タケ!
もういい!
私は、エリオットの奴が、ずっと、ひた隠しにしてきたバカばかバカな事実が、ルイーナに伝わればそれでいい!」
『先輩。
と、奥様も仰っていますし、ルイーナ様が真実を知る事、後悔しませんね?』
「僕は、今や天王寺アリス軍の『三十二等兵』だからな」
『そっちは、勝手に、奥様と仲良くやって下さい。
ヘマするような事があったら、容赦なく、討ち取りますので、そのご覚悟をもって行動願いますが。
分かりました。
この竹内イチロウが、ルイーナ様にお伝えします。
――奥様のお気持ちを取り戻せたように、先輩のところに、ルイーナ様が戻る事を願って、全力で事に当たらせていただきます』
「タケ!
さっきから何度も、何度も……。
私は、独身だ!
天王寺アリスとこいつは、書類上、赤の他人だ!
というか、私は、書類すらない!」
『ルイーナ様に伝わりやすいように、書類で資料を用意しておきます』
「タケ、適当な事を言うのも、お茶を濁す行為だぞ!
天王寺アリスは、このままシングルマザーを貫き通すんだ!」
『どうぞ、貴女のお好きなように。
黙ったままのようですが、先輩も、お好きなように。
竹内イチロウは、もう、あなたなどいなくても、存在意義たる権力維持を遂げる事ができますので――書類の件で、私の邪魔が入る事は、二度とありません。
あ。
返事は、必要ありませんよ。
あなたの仰る事で、この竹内イチロウが行動しなければならないなんて……バカらしいじゃないですか。
ね?』
「……エリオット。
黙ったままでいいのか?
――ふう。
タケ。
お前たちの大学の大先輩の天王寺アリスが、伝えておいてやる。
エリオットは、タケに言う事はないそうだ。
顔にそう書いてある」
『大学の天王寺アリス大先輩。
了解。
まだまだ、やる事だらけでしょうが、貴女も一安心じゃないですか。
この竹内イチロウの口からは、多くを聞きたくないと思うので、それだけ言っておきます』
「悪いタケタケにしては、気がきく。
ふう。
本当に、私の子育ては、まだまだやる事だらけだ!
だ、だけど、良かった。
――あんな書籍を読んで、ルイーナがどうなってしまうのか、ひどく焦ってしまった。
ドキドキしてた。
け、今朝、お布団の中で、ルイーナが私の身体に……ドキドキ」
「なんだと!
ルイーナの奴、エディプスコンプレックスというやつかっ。
まったく。
いけないじゃないか!
アリス。君には、今すぐ、お仕置きが必要のようだ」
「黙れっ。
『三十二等兵』!
しばらく、何も言わなかったくせに、急に、イキイキとした顔をして、私の方を見るな!
ニヤニヤ顔やめろっ!」
『あれ、ルイ。
あたしへのお願いって、三つなんだよな。もう一つって、何?』
「ん?
そういえば、ルイーナの三つ目の願いは、私も気になっていたんだ。
ふう。
エリオットが、タイトルも、内容も怪しい書籍を渡していたから……どうなるかと心配していたが、本当に、変な出来事がなくて良かった」
「くくっ。
それは、どうかな。
アリス。
僕は、君よりも、ルイーナと長く暮らしていたんだ。
ルイーナの事は、母親の君よりも理解している。
同じ男としてもな!」
『エルリーン。
結婚は、確約でいいよね! オレの奥さんになってくれるって事でいいよね?』
『ああ。
ルイ、もちろん。
あたし、ルイの奥さんになるよ……って、恥ずかしい事を言わせるな!』
『あの……新婚生活で、エルリーンにお願いしたい事が、あります』
『え?
か、顔赤いよな、あたし……きっと赤い……えっと、何?』
「うわっ!
モニタ画面消すぞっ!
こ、これは親として、私たちが見たり聞いたりしては、絶対にいけない。
タケも、音声だけとはいえ、すぐにOFFに……こ、こら!
私の端末だ!
エリオット! か、返せっ!
お、親として、これは、き、聞いてはいけない!」
「さあ、本番の始まりだっ!
父親として、ほろりともさせてもらったが――僕は、この時を、待ち望んでいたっ!」
『――エルリーンを、鳥カゴに入れて眺めてもいい?』
『は?』
「は……?
ル、ルイーナ……私のルイーナ……ちょ、ちょ……ちょっと!」
「くく」
『え?
あ?
ルイ?
真顔……冗談ですかって、あたしが聞き返せないような雰囲気を、作らないでくれるかな……ね?』
『オレが、本気の本気で話している時は、適当な発言でも、お茶を濁すの禁止。
いいって言ったよね?
オレが、オレである為に必要なら、拒絶しない。
遠慮せずに言ってって。
これは、言論封殺した上での強圧的な手段だから……ね?』
「うわわあぁあああ……ル、ルイーナ!
私のルイーナぁあああ! ……な、何を言って……」
「ルイーナ。
お前は、やはり僕の愛し子だ。
ふふ。
まずは、アナコンダ参号で威圧する。相手が、話し合いに応じる姿勢を見せたら、いったんは、精神的支配から解放する。これは、非常に有効な手段だ!
できれば、他人の邪魔が入らない環境を用意するといい。
完璧だなっ。
そうして、もっともらしい話をする。
この時、主張の正当性を、相手に認めさせながら、密かに自分の本心を入れる事が重要だ。
託言は、全体的に駆使する。
内容を繰り返すように話しかけられると、聞き手は、だんだん飲み込まれていく。
その場に存在しない、他者の的確な意見を加えながら、雄弁をふるう。
自分は、悪い事をしているわけではない。
そう思い込むのも、話を続ける為の推進力となる」
「エリオット!
や、やはり、お前が、この書籍の著者だな!
私が、手にしている本を見ろ!
HN:E!
タイトル『!”ぼくを拒む彼女” を作り出す』」
「聴衆が、壇上の演説者の意思を、己のものよりも優先すべきであると考え始めたら、もう、こちらが主導権を握っていると言ってもいい。
このあたりで、わざと戯れてやるのも、信服させ、魅了し、民衆を継続的に惹きつけておくには効果的だ。
イニシアティブを握られているにもかかわらず、話し手と対等、いや、聞いている自分の方が優位なのだと思い込ませる為だ。
自分の方が、壇上から見下ろす立場になったと誤想した聞き手は、そこから逃げ出す事ができない。
壇上という牢獄に、囚われたからだ。
ははっ。
これで、仕組みの中に、完全に、相手を閉じ込める事ができる!」
「はは……じゃない!
わ、私のルイーナが、ルイーナが、おかしい事になっているじゃないか!」
「うんうん。
刷り込みにも似た、非可逆的思想に追い込んだら、反逆の意を断ち、話し手のいかなる思惑を知ったとしても、必ず、服従する事を約束させる。
そうだ!
あらかじめ伝えておいた真義の開示が始まる。
くくっ。
お嬢さん。
ルイーナは、何度も言っていたではないか!
君を独占したい。
自分の思い通りにしたい。
閉じ込めておきたいとなっ!」
「最初についている『!』は、命題の真偽反転――否定か……『N』、Notだなっ!」
「ほう。アリス。
学生の頃は、コンピュータなど触る気もしないと、『私は、超並列でどうにかして、バイト先のハンバーガー屋に寄与できるぐらいに、自力で気象予測に関するシミュレーションできるからいいんだ!』などと、つかみどころが難しく、ツッコミのポイントを考えるのすら、若干煩わしく感じるような、不明確発言が目立っていたが――『sagacity』に対抗する為に、基礎の基礎から勉強したんだな。
その通り!
著者は、僕だっ!
都に行った時に、本屋で入手してきた。
同じ大学に入学したが、アリス姉さんが振り向いてくれなくて、僕も、いろいろ考えたんだ。
HN:Eの名で、雑記程度に、ネット発表をしていたら、書籍にしないかという話が舞い込んできた。
『sagacity』システム試作の為にも、金が必要だったのでな。
いい収入源になったよ」
「な、内容が怪しすぎる、この本、売れたのか……というか、これが、クーデター成功の資金に……せ、世界を混乱に陥れた『魔の書』じゃないか!
天王寺アリスでも思いつかないような、変なタイトルのこの本が、売れたのか!」
「タイトルについて、一つだけ断っておく。
数理論理学で語るのであれば、『ぼく以外の他者』も含む事になってしまう。
だが、これは教科書ではない。
エクリチュール。
そう、書籍は、タイトル自体が、書く事の一つの表現となると、僕は思うんだ。
考えてくれ。
この書籍を手にする者の心を。
著者である僕がそうであるように、世界には、彼女と自分以外にいないっ!」
『エルリーン。
あのさ。
できたら、ストレッチャーや柱も、お願いしたいんですけど、い、いいよね?
も、もちろん、オレと結婚した後って事だから……今すぐじゃないから!』
「ぐっ……草食系男子すぎるっ!
ルイーナっ。
父上としては、今すぐ、お嬢さんを押し倒すぐらいの勢いがほしかった」
「エリオットぉおおおおっ!
お前、私のルイーナの中に……変な遺伝情報を潜ませたな!」
「はははっ。
アリス!
すべては、手遅れだ!
ルイーナが、思春期の階段を駆け上がる事、今の君に、阻止する手立てはない。
無意味な自責の念に駆られない方がいいぞ。
たまたまルイーナの口から聞いてしまっただけで、アリスが見ている事に関係なく、定められていたんだ!」
『ル、ルイ。
落ち着いて。
えっと……。
そんなに、積極的になるほど、そういうのに興味があるの?
あたしを、閉じ込めたり、縛ってみたいの?』
「ああああああっ!
私のエルリーンがぁ! ル、ルイーナ……落ち着いて!」
『……うん、エルリーン。オレ、すごく、興味があります』
「ルイーナ。
僕の息子!
実に素直で、可愛らしい!
父上は、気づいていたぞ。
そういうのに興味がある事を! だから、この書籍の事を思い出して、お前の手に握らせてやったんだ!
あはっはっははっ。
この父の言いなりになって、あの時、お嬢さんを手に入れておけば良かったのにな!
そうしたら、圧政を強いる若き支配者として、誰に気兼ねする事なく、お嬢さんを自由にできただろ!
鳥カゴだろうと、ストレッチャーだろうと、柱だろうと、我が家には用意があったんだ。
どれでもすぐに与えてやれたものを」
『落ち着け。
ルイ、落ち着いて……あたしは、普通でいい……普通がいい!』
『で、でも。
きっと、エルリーンが憧れる母上は、興味があると思うよ!
鳥カゴとか。
ストレッチャーとか、柱とかっ!
オレ、見たんだ!
父上と母上が、柱で遊んでいるの! 目撃しちゃったんだ!』
「ちょ、ちょっと……ルイーナ?
そ、それは、ルイーナが『スカイ・オブ・パーツ』から、逃げ出せた日の事を言っているの?
ま、待って。
はは……。
どう考えても、私とエリオットは、遊んでいた訳ではないじゃないか……」
「アリス、そうだったのか!
では、今宵は、そのように過ごさないか?
思い出話でもしながら――なあ。
タケ!
お前も、アリスは、興味があると思うだろ」
『ええ、竹内イチロウといたしましても、天王寺アリスには、そういう趣味があると思います。
先輩に早く会いたいから、手錠と目隠しと鎮静剤注射を持って、私に迎えに来いとか――まあ、天王寺アリスは、間違いなく興味があるんでしょう!』
「な……ない!
私は……そんな」




