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そろそろ、ダメ、なんだろ

The Sky of Parts[30]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点くてんルール」を使っています。


「あーあー。

 こちらコードネームAT。

 本名、天王寺アリス。

 そちらは、本名が、竹内イチロウのコードネームITSDNですか? 通信機、応答願います。あーあー」


『かはっ……』


「タケ、意外と律儀だな。

 私の指示通り、ルイーナとエルリーンがわの監視カメラのモニタ画面を、停止せずに見ていたのか?

 で。

 ヘビのぬいぐるみ――アナコンダ参号を見続けて、たえられず倒れたと。

 うん。

 モニタ画面を停止していたら、エルリーンはあげないつもりだったから、偉いぞ、IT!」


『い、いまいち、つかえん……で、ITと言う気だろ……かはっ』


「アリス。

 僕は、今ひとつ、使い道がないで、ITだと思うが、違うか?」


『あんたもいるのか……ざ、ざまぁみろ……こんにゃくに負けたくせに……はは……かはっ』


「ITの複数形は、Theyじゃないか。

 支配者側の人間とか、軍の権力者をあらわす時にも使う。私は、たまにはと思い、タケを持ち上げてやったのに!」


「……イット……itか?

 では、『アイティー』と発音しないでもらえるか、アリス。

 もし、これが文字だけの表現で、ルビもなく、しかも大文字で『IT』と書かれていたとしたら、出題者の君以外には、おそらく分からんぞ。

 Theyは、人物の塊をあらわすような時にも使う。

 だから、一般人どもとかでも使った気がするが……しかも、複数形か……まあ、この天王寺アリスの謎のクイズ話は、もうやめよう。

 くくっ。

 タケ!

 おもちゃのこんにゃくを、うちのマスターに提供するなどという、蛮行ばんこうを行ってくれたものだ!

 だが、許してやろう。

 お前も、ルイーナに世界を与えてやる為に、必要なのでな!

 ――そろそろ、ダメ、なんだろ?

 そんなお前に、我がマスター、天王寺アリスが慈悲を与えてくれるそうだ。

 そちらの回線を経由して、ルイーナたちが映る監視カメラの映像を中継する事、素直に応じるのなら、タオルでもかけて、画面を隠す許可を特別にやろう!」


『かはっ……SDN……そろそろ、ダメ、なんだろ。

 も、もう訳がわからん意味もないコードネームの話は、どうでもいい……ルイーナ様たちの映像を中継……タ、タオル……かはっ』


「しかし、ルイーナとエルリーンは、どこにいるんだ……この基地内にはいるはず。

 どうして、見つからない。

 場所は、分かっていたはずなのに……そこに到達できないなんて。

 建物だって、そんなに広くないはずなのに。

 二日酔いのダノンを部屋に送り届けたら、ジーンさんも二人をさがしてくれると言っていたが……」


「そうか、アリスは知らないのだったな。

 ルイーナは、幼い頃から大人しい子だったが――イタズラは、大好きだったんだ。

 本気でイタズラをする時は、目を輝かせていた! さすがは、このエリオット・ジールゲンの息子と頼もしく思ったぐらいだ!

 せっかく、イタズラをするんだ。

 成功させたいじゃないか。

 非力でいとけない自分ではあるが、イタズラは完遂させたい。ルイーナは、そう考えたのか、対象を確実に仕留める為に、まずは、罠にはめる事をおぼえた。

 落とし穴を使うと言った方がいいか。

 もちろん、タワー『スカイ・オブ・パーツ』の居住エリアに土などないので、地面を掘る事はできない。

 作るんだよ。

 落とし穴のような空間をな!

 先ほど、久々にルイーナの作り出した空間――こんにゃく廊下にはめられて、恐怖とともに、若干の懐かしさを感じたぐらいだ!」


「はぁ?

 えっと……エリオット……お前、何を言っている?

 ルイーナが、空間を作るって……はぁ?」


「ふ。

 その空間は、どうやってできているのか。

 いろいろ考えてみたが、僕ですら解明できなかった。

 ルイーナ本人に聞いてみた事があるのだが、余計に理解に困ったよ」


『時空の歪みは、密度高くて質量大きいと、光さえ逃げ出せないと、父上からうかがいましたので、それを参考にしました。

 でも、幼いボクが作ったので、軽すぎて目に見えないんです』


「――重力波じゅうりょくはか。

 その頃、僕が教えてやっていた、一般相対性理論を座学ざがくで理解できなかった。

 ルイーナ。

 自分で重力場じゅうりょくばを作って、勉強しようとした結果、ブラックホールのようなものを作れるようになったと言いたいのか……と、ツッコミを入れたかった。

 しかし、それは間違っているっ。

 ブラックホールは、重すぎて見えるようになった姿なんだ! いや、密度がとてつもなくたか――」


「HNE!

 エリオット、もういい。

 結局、お前も、分からないという結論なんだろ!

 タケ!

 中継まだ~?

 私の端末の回線番号は、教えておいただろ」


『かはっ……。

 こ、この女……ひ、人使いが荒い……っていうか、私にヘビのぬいぐるみを見させ続けて、再起不能直前まで追い込んだのは、アンタだ……天王寺アリス。

 い、命で償わせてくれれば、楽だったのに……かはっ』


「画面中継きたっ!

 あ……。

 エルリーン、力が抜けて、本気で震えて、へたり込んでいる。

 ……目の前のルイーナが、アナコンダ参号を肩にかけて装備しているから」


「だが、アナコンダ参号をルイーナに授けたのは、君なんだろ?

 もうすぐ、本当の娘になるお嬢さんに対し、むごい仕打ちをするじゃないか、アリス!」


「タ、タケに、一泡吹かせる目的で、軍から資金だけもらって、タケにバレないように、アナコンダ参号を用意したんだが……ルイーナが、あそこまで本気で、エルリーンを制圧しにいくとは思わなかった。

 きょ、恐怖で、相手を支配しようとか。

 どこかの誰かでもあるまいし……だが、私の認識が甘かった!

 まさか、ルイーナがみずから通信機を切るとは……連絡を取り合いながら、エルリーンの本心を確認するつもりだったのに……おろおろ」


「ルイーナも年ごろの男子だんしなんだ。

 母親の君に、彼女と過ごす時間を邪魔されたくないんだよ。

 くくっ。

 しかし、ルイーナ。

 お前は、やはり僕の子だな!

 恋人を精神的に追い詰めながら、威迫いはくする。

 ははっ。

 僕とて、思春期真っ盛りに、お前の母――アリスがそばにいてくれたのなら、必ずそうしていた!

 父が、熱望したが、かなわなかった事を、息子であるお前がまっとうするさま、じっくりと見せてもらおうじゃないか!」


「黙れっ! エリオット!

 世間でも、家庭でも、リサイクルすら不可能な不用品っ!

 あの書籍は、なんだ!

 私は、その、あの……あれだ……思春期の男の子が、彼女と安易あんいに道を誤らないように……その……男親おとこおやとして、うまく伝えてほしいと言っただけだ。

 若いというよりも、幼いルイーナに、将来を約束する仲の女性がいるというのを、母親として少し憂慮したので。

 しかも、その相手が、私の大切なもう一人の子供、エルリーンだった。

 み、道を誤ってほしくないじゃないか……わ、私は……ルイーナを得られた事実は良かったと思うので、誤ったとは言わないが……安易あんいであったかもと、反省しているので……ね?」


「思春期に入り、親の手を離れ、いろいろおぼえていってしまう息子に、戸惑いを感じていた。

 はは!

 しかし、それは、正常な事。

 親からひとちさせてやりたい。

 息子の聖域に、母親として踏み込んではいけない――アリス、珍しく、ワイドショーの画面に釘付くぎづけだったな。

 君にしては、珍しかった。

 何もしてはいけないのに、親として、上手に振る舞え。

 どうしたんだ?

 君ほどの軍略家が、どうにも立ち回れなくて、困り果てるとは思わなかった。

 良かったな。

 息子の父親である、この僕がそばにいて。

 アリスから、僕に相談を持ち掛けてくれるなんて、それだけで喜ばしい事だったよ。

 だから、真剣に応じたんだ!」


「おろおろ……ご、ごめん、ルイーナ……こ、こんな男親おとこおやしか用意できなくて……おろおろ」


「うんうん。

 僕とて、ルイーナにいろいろ聞かれたら、『うん、まあ、どうしよう』。

 そう思っていた時期はあったが、それは、ルイーナがすべてを知らなかった場合だ。

 学校での集団生活は、人間の心の成長に必要な過程だな。

 ルイーナが、すべてではないが、年相応としそうおうの興味の延長上ぐらいに把握しているのは、聞いていたので、父親として力を貸すのは簡単だった。

 書籍だ。

 正しい道を歩めるよう、書籍を与えてやればいい。

 解放してやろうと思ったんだ。

 ルイーナをいましめる、俗識ぞくしきからな!

 当然だと思われている事など、本来は、前提にすらしてはいけない」


「うわーん!

 ルイーナ!

 私の可愛いルイーナ……そして、エルリーン……私の若き日のおこないのせいで、こんな男がそばにいるなんて!

 ご、ごめん!」


「アリス。

 そんなに、怒ったり、慌てたり、泣きそうになったり――感情を次から次へと変化させずに、見守ってやれ。

 どうせ、ルイーナには、君の叫びは届かない。

 あの子とは、僕の方が君よりも長い時間、一緒に暮らしていた。

 大丈夫だ――」


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