そろそろ、ダメ、なんだろ
The Sky of Parts[30]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点ルール」を使っています。
「あーあー。
こちらコードネームAT。
本名、天王寺アリス。
そちらは、本名が、竹内イチロウのコードネームITSDNですか? 通信機、応答願います。あーあー」
『かはっ……』
「タケ、意外と律儀だな。
私の指示通り、ルイーナとエルリーン側の監視カメラのモニタ画面を、停止せずに見ていたのか?
で。
ヘビのぬいぐるみ――アナコンダ参号を見続けて、たえられず倒れたと。
うん。
モニタ画面を停止していたら、エルリーンはあげないつもりだったから、偉いぞ、IT!」
『い、いまいち、つかえん……で、ITと言う気だろ……かはっ』
「アリス。
僕は、今ひとつ、使い道がないで、ITだと思うが、違うか?」
『あんたもいるのか……ざ、ざまぁみろ……こんにゃくに負けたくせに……はは……かはっ』
「ITの複数形は、Theyじゃないか。
支配者側の人間とか、軍の権力者をあらわす時にも使う。私は、たまにはと思い、タケを持ち上げてやったのに!」
「……イット……itか?
では、『アイティー』と発音しないでもらえるか、アリス。
もし、これが文字だけの表現で、ルビもなく、しかも大文字で『IT』と書かれていたとしたら、出題者の君以外には、おそらく分からんぞ。
Theyは、人物の塊をあらわすような時にも使う。
だから、一般人どもとかでも使った気がするが……しかも、複数形か……まあ、この天王寺アリスの謎のクイズ話は、もうやめよう。
くくっ。
タケ!
おもちゃのこんにゃくを、うちのマスターに提供するなどという、蛮行を行ってくれたものだ!
だが、許してやろう。
お前も、ルイーナに世界を与えてやる為に、必要なのでな!
――そろそろ、ダメ、なんだろ?
そんなお前に、我がマスター、天王寺アリスが慈悲を与えてくれるそうだ。
そちらの回線を経由して、ルイーナたちが映る監視カメラの映像を中継する事、素直に応じるのなら、タオルでもかけて、画面を隠す許可を特別にやろう!」
『かはっ……SDN……そろそろ、ダメ、なんだろ。
も、もう訳がわからん意味もないコードネームの話は、どうでもいい……ルイーナ様たちの映像を中継……タ、タオル……かはっ』
「しかし、ルイーナとエルリーンは、どこにいるんだ……この基地内にはいるはず。
どうして、見つからない。
場所は、分かっていたはずなのに……そこに到達できないなんて。
建物だって、そんなに広くないはずなのに。
二日酔いのダノンを部屋に送り届けたら、ジーンさんも二人をさがしてくれると言っていたが……」
「そうか、アリスは知らないのだったな。
ルイーナは、幼い頃から大人しい子だったが――イタズラは、大好きだったんだ。
本気でイタズラをする時は、目を輝かせていた! さすがは、このエリオット・ジールゲンの息子と頼もしく思ったぐらいだ!
せっかく、イタズラをするんだ。
成功させたいじゃないか。
非力で稚い自分ではあるが、イタズラは完遂させたい。ルイーナは、そう考えたのか、対象を確実に仕留める為に、まずは、罠にはめる事をおぼえた。
落とし穴を使うと言った方がいいか。
もちろん、タワー『スカイ・オブ・パーツ』の居住エリアに土などないので、地面を掘る事はできない。
作るんだよ。
落とし穴のような空間をな!
先ほど、久々にルイーナの作り出した空間――こんにゃく廊下にはめられて、恐怖とともに、若干の懐かしさを感じたぐらいだ!」
「はぁ?
えっと……エリオット……お前、何を言っている?
ルイーナが、空間を作るって……はぁ?」
「ふ。
その空間は、どうやってできているのか。
いろいろ考えてみたが、僕ですら解明できなかった。
ルイーナ本人に聞いてみた事があるのだが、余計に理解に困ったよ」
『時空の歪みは、密度高くて質量大きいと、光さえ逃げ出せないと、父上から伺いましたので、それを参考にしました。
でも、幼いボクが作ったので、軽すぎて目に見えないんです』
「――重力波か。
その頃、僕が教えてやっていた、一般相対性理論を座学で理解できなかった。
ルイーナ。
自分で重力場を作って、勉強しようとした結果、ブラックホールのようなものを作れるようになったと言いたいのか……と、ツッコミを入れたかった。
しかし、それは間違っているっ。
ブラックホールは、重すぎて見えるようになった姿なんだ! いや、密度がとてつもなくたか――」
「HNE!
エリオット、もういい。
結局、お前も、分からないという結論なんだろ!
タケ!
中継まだ~?
私の端末の回線番号は、教えておいただろ」
『かはっ……。
こ、この女……ひ、人使いが荒い……っていうか、私にヘビのぬいぐるみを見させ続けて、再起不能直前まで追い込んだのは、アンタだ……天王寺アリス。
い、命で償わせてくれれば、楽だったのに……かはっ』
「画面中継きたっ!
あ……。
エルリーン、力が抜けて、本気で震えて、へたり込んでいる。
……目の前のルイーナが、アナコンダ参号を肩にかけて装備しているから」
「だが、アナコンダ参号をルイーナに授けたのは、君なんだろ?
もうすぐ、本当の娘になるお嬢さんに対し、惨い仕打ちをするじゃないか、アリス!」
「タ、タケに、一泡吹かせる目的で、軍から資金だけもらって、タケにバレないように、アナコンダ参号を用意したんだが……ルイーナが、あそこまで本気で、エルリーンを制圧しにいくとは思わなかった。
きょ、恐怖で、相手を支配しようとか。
どこかの誰かでもあるまいし……だが、私の認識が甘かった!
まさか、ルイーナが自ら通信機を切るとは……連絡を取り合いながら、エルリーンの本心を確認するつもりだったのに……おろおろ」
「ルイーナも年ごろの男子なんだ。
母親の君に、彼女と過ごす時間を邪魔されたくないんだよ。
くくっ。
しかし、ルイーナ。
お前は、やはり僕の子だな!
恋人を精神的に追い詰めながら、威迫する。
ははっ。
僕とて、思春期真っ盛りに、お前の母――アリスがそばにいてくれたのなら、必ずそうしていた!
父が、熱望したが、かなわなかった事を、息子であるお前が全うする様、じっくりと見せてもらおうじゃないか!」
「黙れっ! エリオット!
世間でも、家庭でも、リサイクルすら不可能な不用品っ!
あの書籍は、なんだ!
私は、その、あの……あれだ……思春期の男の子が、彼女と安易に道を誤らないように……その……男親として、うまく伝えてほしいと言っただけだ。
若いというよりも、幼いルイーナに、将来を約束する仲の女性がいるというのを、母親として少し憂慮したので。
しかも、その相手が、私の大切なもう一人の子供、エルリーンだった。
み、道を誤ってほしくないじゃないか……わ、私は……ルイーナを得られた事実は良かったと思うので、誤ったとは言わないが……安易であったかもと、反省しているので……ね?」
「思春期に入り、親の手を離れ、いろいろおぼえていってしまう息子に、戸惑いを感じていた。
はは!
しかし、それは、正常な事。
親から独り立ちさせてやりたい。
息子の聖域に、母親として踏み込んではいけない――アリス、珍しく、ワイドショーの画面に釘付けだったな。
君にしては、珍しかった。
何もしてはいけないのに、親として、上手に振る舞え。
どうしたんだ?
君ほどの軍略家が、どうにも立ち回れなくて、困り果てるとは思わなかった。
良かったな。
息子の父親である、この僕がそばにいて。
アリスから、僕に相談を持ち掛けてくれるなんて、それだけで喜ばしい事だったよ。
だから、真剣に応じたんだ!」
「おろおろ……ご、ごめん、ルイーナ……こ、こんな男親しか用意できなくて……おろおろ」
「うんうん。
僕とて、ルイーナにいろいろ聞かれたら、『うん、まあ、どうしよう』。
そう思っていた時期はあったが、それは、ルイーナがすべてを知らなかった場合だ。
学校での集団生活は、人間の心の成長に必要な過程だな。
ルイーナが、すべてではないが、年相応の興味の延長上ぐらいに把握しているのは、聞いていたので、父親として力を貸すのは簡単だった。
書籍だ。
正しい道を歩めるよう、書籍を与えてやればいい。
解放してやろうと思ったんだ。
ルイーナを戒める、俗識からな!
当然だと思われている事など、本来は、前提にすらしてはいけない」
「うわーん!
ルイーナ!
私の可愛いルイーナ……そして、エルリーン……私の若き日の行いのせいで、こんな男がそばにいるなんて!
ご、ごめん!」
「アリス。
そんなに、怒ったり、慌てたり、泣きそうになったり――感情を次から次へと変化させずに、見守ってやれ。
どうせ、ルイーナには、君の叫びは届かない。
あの子とは、僕の方が君よりも長い時間、一緒に暮らしていた。
大丈夫だ――」




