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The Sky of Parts[29]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点くてんルール」を使っています。



【※】子育てモノとして、コメディをどうしてもやらせて下さい。29章終了時に「なろう」側にシリアス短編を投稿します。


『……なんだったんだ?

 あの人。

 長々と話しかけてきて――なんで、こっちのプライベートな事情を知っていたんだ……。

 放っておいてくれよ。

 大学なんかで、誰かと、なれ合う気はないんだ。

 『やあ、君が、竹内イチロウくんか』と気安く声をかけてきやがって!

 昼飯ぐらい、一人でゆっくり食わせてくれ。

 しかも、連絡先のメモなんて、押しつけるように握らせるなっ。

 ――エリオット・ジールゲン?

 ふーん。

 完全な軍人を目指す学部か。

 軍医目指しの学生に、なんの用があると言うんだ。

 だが……なぜ、知っていたんだ?』



* * * * *



「ル、ルイ!

 ど、どうして、そんなものを手にしてるんだ……あ、あたしをどうする気だ……」


「エルリーン。

 オレが、これを、どこで手に入れたかなんて、どうでもいいだろ。

 立場、分かってる?

 自分の身の心配をした方が、いいんじゃないかな――」


「なんで……ルイ……なあ。

 ルイは、そんな事するやつじゃないだろ?

 学校帰りに、あたしと、何気なにげない話で盛りあがったりしてた事、思い出せよ。お金がないから、公園のブランコに腰をおろして、尽きないお喋りを……いやぁあああ。

 近づかないで……ルイ!

 それ以上、来ないで……あ、あたし、おかしくなっちゃう……っ」



* * * * *



『あーあー。

 通信機のマイクテストも兼ねて――こちら、コードネームAT。別名、天王寺アリス。

 そちらは、コードネームITSDNですか? あーあー』


「べ、別名って……天王寺アリスが、本名だろ!

 コードネーム?

 聞いていないが、ITは、竹内イチロウ。『Ichiro Takeuchi』なんだろ。

 SDN?

 『Software Defined Network』のりゃくではあるまい。

 ふん。

 前に私の事を、『仕事ができてもできなくても』ただの粗大ごみだとののしっていたな。『SD』はそれのつもりか?

 それならば、『N』は、なんだ?

 返答次第では、アンタのいる反乱分子の基地に、間接砲撃してやってもいいんだぞっ。

 頼まれた陽動作戦にはくをつける為、その近くに大型兵器を配備しているんだ。申し分ない計算ができる、弾道学専門の砲兵ほうへいだって派遣しているのだからな!」


『ん~、SDNか。失敗ばかりで、出来が悪い、値打ちもない』


「撃つぞ」


『うわーぁ! 悪いタケタケだ!

 う、撃たれる……がくっ。

 だが、有効射程圏内には、お前の求人対象もいるんだぞ。

 地図を広げて、わざわざ検討しなくても、キルゾーンから自転車で離脱できる訳がないと理解できるだろう。

 タケなら、徒歩で逃げるしかない』


「ああ。

 自転車の二人乗りは、いろいろおすすめできんからな……というか、なんで、こっちのプライベートな事情なんて、アンタが知っているんだ?

 ……この竹内イチロウが、自転車に乗る事ができないと知っていたのか!

 せ、戦車やヘリは大丈夫だ。

 もちろん、軍用トラックとて運転できる!

 船舶も操縦できるぞっ。

 軍医希望なのに、クーデターの際、ライフルと手りゅう弾を持たされ、最前線に投入された。

 渡されていた作戦書を現地で見たら『健闘を祈る』しか書いていないとか――いつか、あいつに対してクーデター起こして、フルボッコにしてやると誓うぐらい、軍人魂を鍛えられたからな!」


『叩き上げ根性があるのなら、三輪車から練習し直すといい。

 ここに来てから、基地の子供たちの三輪車に乗って遊んでみたが、大人が乗るには向かないぞ。

 私ですら、ペダルをこぐのが難しいからな。

 タケの体格では、まず無理だ』


「じゃあ、すすめてくるなっ!

 というか……十二歳の息子がいるアンタが、ガキの三輪車に乗るな!

 この竹内イチロウに、変な雑談をさせるな!

 それよりさ。

 ルイーナ様と、そっちの組織の責任者の人は、うまくやってくれそうなのか? 天王寺アリスの作戦を遂行するのに、問題はないな?」


『ああ。

 ルイーナの仕立ては、昨晩のうちに行った。

 朝食後、速やかに準備を済ませてくれた。さすが、この天王寺アリスの息子。

 手際が良かった。

 ダノン・イレンズを、手駒にするところまで、完璧にこなしたよ。

 通信機越しにダノンを操りつつ、エルリーンには自分で手を下すよう、ルイーナには指示を出してある』


「ルイーナ様……あの方の怖さは、よく知っている。

 幼い頃から、大人しそうな雰囲気を放っていたくせに、意外とやる事がえげつない。

 卑劣極まりない手段を、情け容赦なく選択するのは、やはり99.99%、あの非人道的な男の息子なんだろうなと、この竹内イチロウ、何度思わされた事か。

 くそ。

 記憶をめぐると、恐怖がよみがえり、冷や汗が出てきた……」


『……はっ!

 思わず、母親としていろいろ考えてしまったが、制圧と攻撃の対象が、タケなら良いかという結論が出た。

 私が、助けにいけない間も、ルイーナは独り、タケを倒す為に戦ってくれていたんだな。

 ほろり』


「ちっ。

 嫌な言い方をしておいてやると、あの鬼畜で無慈悲な父親の手先みたいなもんだったがなっ。

 単独犯でもだが、イタズラする時は、やたらと心がオープンになっていやがったんだ、アンタの息子!

 ……まあ、いい。

 それは、昔話。

 今現在が、大切だ。

 天王寺アリス。

 私の方は、そちらの監視カメラを盗み見する形にさせてもらう。アンタの立てた作戦なんだ。抜かりはないと思うが――期待させてもらうぞ。いろいろとな!」


『ああ。任せておけ。

 私としても、明確な結実けつじつがほしいからな』



* * * * *



「ぎゃぁああぁあわああああっ!

 て、天井……っ……天井から……あ……あ……」


「……こ、こんにゃく……こ、こんにゃくじゃないか。

 天井から、こんにゃくが垂れ下がっているだけじゃないか。

 おい。

 エリオット・ジールゲン……お前、なんでそんなに驚きすぎて、乱れているんだ。世界を恐怖で支配する独裁者だった過去が、まるで嘘みたいに……あ……あ!」


「『後ろの人』とて……いつもの威勢の良い様子が……失われているではないか。

 どうした?

 緊張した顔をして……ぼ、僕の事を言えたようなツラはしていないだろ」


「ジーン・インヴァリッドだ。

 毎度の定型文だが、お前はそう呼ぶな。

 いや、あれ……こんにゃくだろ……あれ……天井から吊るされてるやつ!」


「くくっ……どうしたんだ……『後ろの人』?

 そ、そんなにも、こんにゃくが怖いのか……ぼ、僕は……がは」


「お、お前……お前もか……エリオット・ジールゲン。

 こ、こんにゃくが怖いのか……こ、怖いんだろっ!

 がは……はあ……はあ……ヒ、ヒスタミン……ヒスタミンが、身体を……がは」


「ヒスタミン?

 好塩基球こうえんききゅう顆粒かりゅうなどから放出されるやつか?

 危険なアレルギー反応は、ヒスタミンが放出される事によって引き起こされると言われている。

 マクロファージ。

 サイトカインが過剰に産生さんせいされるのも、人間にとっては危険だ」


「エリオット・ジールゲン。

 お前……もう、自分でも何を言っているのか、分かってないだろ?

 ひざが笑って、がくがくしてるぞ……落ち着きがないって意味で。

 ぐはっ。

 く、食えないんだ!

 おれは、こんにゃくが小さい頃から嫌いで……なのに、親が無理やり食べさせようと、いろいろ努力を押しつけてきたせいで、大人になって、彼女の腹には子供がいるっていう歳になっても。

 はあはあ……。

 こ、こんにゃくを見ると、トラウマなのか、ストレスを感じて、じんましんが出るんだ!

 ……か、かゆい。

 医者が言うには……『食ってるワケでもないのに、じんましんが出る場合、精神的なもので、ヒスタミンが出てるから、気になるほどのひどい症状なら薬飲んでおけ』」


「く、食えない方か。

 はあ、はあ。

 ぼ、僕が診察しても、同じような診断をするな……じんましんの原因は、かなりの確率で原因不明。

 ストレスや疲れ、体調の変化によるものだ。

 検査をしても、分からない。

 抗ヒスタミン薬を使用しつつ、質が良い休養をとれと言うのが、だいたい正しい処置の仕方だ。

 発汗を伴うじんましんは、アセチルコリンが関与している場合もある。

 ちなみに、寝つきが若干悪いとか、眠りの質が良くないとかの時に有効な睡眠改善薬も、抗ヒスタミン剤の一種を配合している。

 ああ。

 肺などで起こると、致命的となる、サイトカインストームというのが、本気できけん……HNEは、もういい!

 そんな話は、今はどうでもいいだろっ。

 な、なぜ。

 こんにゃくが、天井から吊るされて……ろ、廊下全体が、まるで、ホラーハウスのようになっている……ど、どういう事だ!」


「た、たしかに、お化け屋敷みたいだ。

 エリオット・ジールゲン。

 お前、まさか、お化け屋敷ダメか?

 人の命をなんとも思わないような、非人道的、悪逆征服者だったお前が、作り物のお化けが無理だとか、ふざけた展開なのかっ!

 おい!

 ……か、かゆいっ」


「ち、違う。

 安い赤ペンキで塗られた、明らかに偽物そうな頭顱とうろが転がっていようが、怖くなどない!

 僕は、最前線に出て、戦争をしていたんだぞ!

 頸部けいぶより下のみが、並んでいようが恐れなどいだくものかっ!

 軍のトップを、長年やっていた僕だぞっ。

 だがな……。

 て、天井からこんにゃくが吊るされているのは……怖いんだ。

 あ、あれが、僕の首の後ろに、れたらと思うと……ぎゃぁああぁあわああああっ!」


「ぎゃぁああぁあわああああっ!

 こ、こんにゃくが……ぷるぷる震えている……ま、まるで……生きているかのように……はっ!

 誰か……誰か、いる!」


「細長い、先端が鋭くとがった……レイピア?

 ぼ、僕の目には、そう映るが……」


「お、お前……ダ、ダノン?

 どうして、ダノンが……こ、こんにゃくを……」


「……ツンツン」


「ぎゃぁああぁあわああああっ!

 ダ、ダノン……や、やめろ!

 レイピアの先で突くな……お、おれは、こんにゃくが震えるのを見ると……か、かゆい」


「ぎゃぁああぁあわああああっ!

 せ、責任者の人……な、なぜだ……こ、この僕に、なんの怨みがあると言うんだ……はあ、はあ」


『怨みなんて、いっぱいあるに決まってるだろ。

 ね?』


「な……ル、ルイーナの声?

 つ、通信機からか……ま、まさか。

 息子のお前が、僕をおとしいれる為に、こんにゃくを天井から吊るしたとでも言うのかっ!

 というか、なぜっ。

 なぜ、お前が知っている……父親の僕の秘密を……こんにゃくが首筋にれるのを、何よりも恐れている事を――なぜルイーナが知っている!

 ……ま、まさか……」


『そう。

 たぶん、正解。

 母上のご指示さ――』


『お、叔父さんっ!

 ……ジーン叔父さん!

 た、助けて……あ、あたし……ルイに……きゃぁあああああああああああっ』


「な、何っ。

 エルリーン! エルリーン! 無事なのか! ル、ルイ……うちのエルリーンに、何をした!」


『ダノンさん、黙らせて』


「……ツンツン」


「ぐ……は……こ、こんにゃくが……ふ、震えている。

 ……ぐはっ。

 食えないものは、食えないで、親も諦めてくれればいいのに……お、おれは、どうにも、こんにゃくを食べたくなかったんだ。

 がは……と、というか……な、なぜダノンが、ルイの手先に」


「この香り、たるが並ぶ様子が想像できる。

 空気にまじってしまい、はっきりと感じるのが難しい。口に含んでみたら植物や土をイメージするような味わいなのかもしれない。

 だが、僕は、ナッティなものが好みだ。

 責任者の人。

 一杯飲んでいるのかね?

 ほのかに、ウイスキーの香りがするようだが?」


『正解。

 タケにもらった、普通のウイスキー。

 お高いやつ。

 母上が、事前に得ていた情報では、ダノンさん、ほんの少しアルコールが入るだけで、自制できなくなるらしいから――それを、利用させてもらった。

 オレが、あおったんだ。

 復讐したいでしょって』


「……ツンツン」


「ぎゃぁああぁあわああああっ!

 ル、ルイーナ……ぼ、僕は、お前の父親だぞ……!」


『うん。そうだね。

 ダノンさんの怨みの深さを、しっかり味わって。

 じゃあ、オレは、エルリーンの制圧を続けるから――頑張ってね。父上』


「……ルイーナ。

 僕の事を、再び、父上と呼んでくれたのは、嬉しいが……か、感動とか、そういう展開ではないぞ」


「……ツンツン」


「ぎゃぁああぁあわああああっ!」


「ぎゃぁああぁあわああああっ!」



* * * * *



「ぎゃぁああぁあわああああっ!

 あ、あの女……て、天王寺アリス……よくも、この竹内イチロウをたばかったな……っ。

 送られてくる監視カメラからの映像を、一つでも、私の手で停止したら、軍の安定維持に協力するという話、反故ほごにしてやると言いやがって!

 はあはあ……。

 し、しまった。

 あいつが、こんにゃくで追い込まれるところが見たいというのに、食いつきすぎて……がは……む、無理だっ。

 お……おい!

 天王寺アリス!

 通信機、応答しろ! おいっ」


『タ、タケ。

 私は、忙しいんだ……し、心理的に……な。

 今、息子に、ベッドの下に隠しておいてもらった書籍を見て……あっははは』


「は?

 ご家庭の事情なんて、この竹内イチロウは、いまさら知らねぇよ!

 ルイーナ様も、いい年ごろなんだから、勝手にベッドの下の書籍を、母親のアンタがあさるなって! っていうか、やめてやれ!」


『し、しまった。

 私とした事が、恥ずかしく感じすぎて、確認を怠ってしまったのが失敗だった……エリオットの奴に、本の購入を押しつけたのがいけなかった……ははは。

 エルリーン……ご、ごめん!

 今朝、ルイーナが、お布団の中でごそごそしてたり、ブツブツ言っていた様子を思い出しても――あの子……あははは……ど、どうしようっ!』


 29章は、区切りが多いので分割しますが、なるべく短い間隔で投稿して、終了させます。


 【※】「まえがき」で書いた通り、29章終了時に「なろう」側に、短編を投稿します。

 ここに書くと長くなってしまうので、活動報告に詳細を書いておきます。活動報告に書くとネタバレと言われそうなので内容についてのお知らせ。


 エリオットが『首筋にれるこんにゃくを恐れるようになった理由』の話です。


 『こんにゃく』のネタですが、

 [18]ますかるぽ~ね

  ・家族で一丸となって…?

  ・竹内イチロウの叫び

 で、チラっと出てきています。


 18章では、カタカナのコンニャクになっています。統一していなくて申し訳ないですが、あの章では、カタカナの方が目立つと思います。


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