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Beyond at it

The Sky of Parts[27]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


「だからさ。

 ダノン・イレンズくん。

 そんな中途半端な話で、音声通話もらっても、軍としても、この竹内イチロウとしても困る訳だ。

 たしかに、ルイーナ様の歌声は、神の力が宿っていると言っても過言ではないよ。

 だがね、戦争がなくなるという事は、軍は、存在そのものを失うに等しい。

 ……ふーん。

 そうだね。

 君は、組織を解体するつもり。

 あ、そう。

 私は、この軍を放棄するつもりはないんだ。

 返してもらえないか?

 ルイーナ様を。

 Lunaとして、軍属ぐんぞくの籍が残っているんだ。

 正当な理由をもって、お願いしよう。

 軍に、Lunaを返してもらえないか?

 私としても、ルイーナ様が、実権なしで世界の頂点という話は、とても魅力的だと思う。

 権力をどうこうというのに、あの方が、向いていないのは知っているよ。

 この竹内イチロウは、ルイーナ様が、お生まれになってすぐから御側おそばで仕えてきたのでね。

 だからといって、あの歌声の力は、お飾りでは勿体もったいない。

 行政事務というか、軍の管理は、私でもできる――足りないのは、皆を盲目的に従えてくれるような理由だ。

 世界を席巻せっけんするような軍の維持に欠かせない。

 ほら、前任者が残していった『sagacity』。

 あいつが、特異な資質を秘めた存在の代わりをしてくれているが、所属する人間のパーソナルを上書きできるような、絶対的で、誰もがそれをしんだと信じる義務がほしい。

 ダノン・イレンズくんも理解の上で、この音声通話をかけてきたんだろ?

 ルイーナ様をトップに据えたところが、にしき御旗みはたかかげて、すべての行為を正当化でき、主張を貫けるようになる。

 なんら、やましくない。

 大義名分が立つ。

 つまり、権威を得るという事だ。

 君の話だと、軍を解体しようという話にもなりかねない。

 分かっただろ。

 軍としては、一日でも早く、ルイーナ様をお迎えしたい。

 勘違いがあっては、困ると思い、念の為に言っておくが――私は、軍を維持したいとは考えているが、前任者みたいに武力行使で、世界を従えたい訳ではないんだよ。

 今だって、君らのような反乱組織と、戦闘状態ではないだろ?

 抑止だよ。

 抑止。

 前任者がいた頃に比べると、戦力は半減以下だが――ダノン・イレンズくんも、握ってみれば分かるよ。

 強大な権力というものは、一度手に入れてしまうと、手放したくなくなるんだ。

 私の一存いちぞんで、いつでも戦争を再開できるし、抑制する事もできる。

 だが、この竹内イチロウは、そんなにいやしい人間ではない。

 ルイーナ様にだったら、この力を譲っても良いと言っているんだ。

 それなら、ルイーナ様のさじ加減で、戦争のない世界を築いてもらえるだろ?

 ダノン・イレンズくんの希望するすえと、なんら変わりのないはず。

 再三、同じ事を言わせないでくれ。

 ルイーナ様を、こちらに渡してもらえないか?

 保護者どもが、そっちにお世話になっているのは、知っているが、あいつらの説得もよろしく頼むよ。

 この音声通話が終わったら、『否応なく』という言葉の意味を、思い出すなり調べるなりしてくれ。

 じゃあ。

 ……はあ。

 面倒だな……私は、忙しいんだ。

 雑務もたまっているのに、なぜこんな長々と、茶番ちゃばんに付き合わないといけない。

 金の巻き上げにもあっているし……。

 全員、ふざけるなっ!

 竹内イチロウを、これ以上怒らせると、MLRS鋼鉄の雨(スチールレイン)を降らせてやるからな!

 多連装たれんそうロケット砲が放つ、弾幕のしんの恐ろしさをみせつけ……ん?

 ……はぁあああああ?

 このクソ忙しい時に、なんで、こんな連絡が入ってくるんだよ……マジでふざけるな……」



* * * * *



「うわーぁ! 悪いタケタケが来たぁ!

 う、撃たれる……がくっ」


「天王寺アリス……アンタ……何をしにタワー『スカイ・オブ・パーツ』へ来た?

 罵声ばせいを浴びせたいのは、この竹内イチロウの方なのだがな……。

 分かっているか?

 今、どういう状況か。

 アンタが、分かっていないなんて事はないと思うが……ここさ、この部屋さ、内々(ないない)が必要な時に、バーンってやるところだぞ?

 で、アンタ。

 明らかに手足を拘束されているが――これ以上、説明がいるか?

 まあ。

 ちょうど良いのか。

 さあっ。

 バーンが嫌なら、アンタのガキを、軍に差し出すという条件に同意しろ!」


「やはり、フルメタルジャケット弾を使うのか?

 前任者が、社会倫理ガン無視だったが、軍用弾として使うなら。

 ……ね?

 貫通力が低いと、ほら、命中時に弾頭変形してしまったりして、面倒じゃないか――なあ、竹内イチロウ」


「知ってるけど、答える義務がないって意味とふざけるなって意味で、知らねえよっ!

 人道とか、そういう話は、お家に帰ってから、人でなしで鬼畜で極悪人なアンタの旦那と、茶でも飲んで話し合ってくれ!

 この竹内イチロウに、雑談を投げてくるなっ。

 ……アンタ、たぶんめられたぞ。

 おつかいとか、頼まれなかったか?

 天王寺アリスが、タワー『スカイ・オブ・パーツ』内の売店で、棒つき飴を買っているのが確認されたら、ここに連行しろって、『sagacity』に登録したのは、アンタの旦那だ。

 あいつ、絶対におぼえていたぞ。

 はあ……執行は、アンタの旦那本人がいないと不許可になっていたので、今は、軍の実権満載の私が呼ばれた訳だが……で、何をしに来た?

 なんで、わざわざ監視カメラに映ったんだ」


「タケ。

 しつこく何度も、エリオットの奴を旦那とか言うなっ!

 天王寺アリスは、一生独身のシングルマザーを貫くつもりなんだ。

 エリオットは、ヘリも船舶も操縦できるし、戦車も砲撃まで含めてOKらしい。

 適当な作戦を立てても、銃器とダイナマイトを手渡しておけば、私が寝ている間に、劣化『sagacity』を、証拠も残さず破壊してきてくれる。

 家事全般も完璧だが……その程度の男なんだ。

 だから、結婚の対象ではない」


「ああ……気づいてはいたが、やはりアンタら夫婦が、劣化『sagacity』を壊して回っていたんだな。

 ほとんど潰しやがって……これさ、普通に天王寺アリス。

 アンタが首謀者って事で、バーンとやってもいいんだが――なんでアレ壊して回ってるんだ……?

 いいのか?

 バックアップ経路からの爆弾は、仕掛けられなくなるぞ」


「ん~。

 天王寺アリスは、もっと恐ろしい爆弾を用意しようと考えているからな。

 タワー『スカイ・オブ・パーツ』を、巨大な手筒花火てづつはなびにして、一度、世界を虚無きょむにかえしてやろうと思っている。

 皆、違う世界に旅立ち、幸せになりました。

 めでたし、めでたし」


「ふん。

 さすがは、極悪人の奥方様だな!

 考える事が、えげつないっ。

 カタストロフィばかり起こす、アンタら夫婦は、この竹内イチロウにガキを引き渡してからインフェルノに行け、とか横文字言葉並べて言ってやるから、その通りにしろっ!

 本当に、バーンってやるぞっ。

 『ルイーナ様』を渡せっ。

 私は、必ず、軍の上に『ルイーナ様』を君臨させてやる!」


「あ。

 ルイーナに会えない間に、パンダのぬいぐるみを手に入れたんだ。

 名前は『ルイーナ様』。

 そうか、タケは、パンダの『ルイーナ様』が欲しかったのか」


「いいかっ。

 冗談では言っていないぞ。

 私の決意――アンタは、分かっているんだろっ!

 アンタら夫婦とやり合う事になったとしても、この竹内イチロウは、『ルイーナ様』を上に据えて、軍を盛り立てるっ!

 それが、私が向かうべき唯一の道なのだからな!

 退しりぞく理由は、私にはないんだっ」


「ライオンのぬいぐるみには、『ありすちゃん』と名付けた。

 赤いたてがみが立派な、男の子みたいな女の子ライオンという設定。

 普段は、大人しく寝てばかりだが、エリオットの奴が、たまに自分の方に向いて、牙をいている気がすると言うんだ」


「そろそろ決断してもらえるか?

 ことと次第によっては、ぬいぐるみなんぞ飾って、世間に内緒で同居を楽しんでいた旦那と、二度と会えなくなるぞ。

 外部と通信できるような機器は、回収させてもらった。

 今生こんじょうでの会話、かなわなくなったという事だ。

 ふん。

 軍の試作機ヘリを盗み出したのも、どうせ、あいつなんだろ?

 あいつ、監視カメラに映らないみたいだが、さすがに、タワー『スカイ・オブ・パーツ』の手厚い警備の中、この部屋に助けに来れないぞ」


「監視カメラに映らないのを活かして、本屋で立ち読みをすると言っていたので、ここには来ないと思う。

 エリオットの奴。

 家庭内での存在意義が低く、そして影が薄いから、監視カメラに映らないんだ」


「もう、あいつを、上司として擁護ようごする義務はないが……もうちょっとだけ、大事にしてやれ!

 はあ……で、用事は?

 アンタ。

 最初から捕まる気で来たんだな。旦那とも、完全に別行動で。

 この竹内イチロウに、何の用だ?」


「あのな。タケ。

 私は、金をせびりに来ただけだ」


「は? ……な、何を言っている? アンタ……」


「外部と通信できないという事は、エリオットの奴に聞かれないように細工しなくていい。

 タケ、お手柄だ。

 ナイス……と、高評価の意味で、サムズアップしたつもりなんだが……真上に、手を吊り上げられているせいで、親指が横にしか向かない。

 それは、許せ。

 あー。

 それにしても、ここにいると肩がりそうだ。

 足は、開いたまま固定だから、腰の負担は、若干少ないかもしれん……たぶん。

 ふう。

 身体に疲れが残ると、明日の仕事に影響が出そうだな」


「言いたい事が、まったく意味が分からん。

 ……だいたい、ここに連れて来られるヤツは、明日どころか、今日のそのあともないという話だから……って、変な雑談で、私の興味を引くなっ。

 くそっ。

 ニヤニヤしやがって……天王寺アリスの作戦ってやつか?

 そんな状況で、余裕に満ちた顔しやがって。

 ちっ。

 気味が悪い!

 言えよ……本当の目的はなんだ?」


「タケ。

 私のコートの右のポケットに入っている紙を出してくれ。

 それを、読み上げてほしい」


「これか?

 『彼女いない』。

 『整髪料のにおいがきつい』。

 『支配者オーラが出ていない』……って、なんだこれっ!

 おいっ!」


「うわっ。タケが怒ったっ!

 護身用の拳銃を、私の頭に突きつけてきた!

 ――というか、どこにもタケの事って書いていないのに、認めたぞ! ルイーナやエルリーンと、遊びがてらに書いただけじゃないか。

 ああ。

 間違えた。

 左のポケットだった!」


「次やったら、絶対に、引き金を引くからな!

 ……ん?

 は?

 これ……いいのか?

 アンタさ、あいつ――旦那を裏切るつもりか?

 息子を使う気って事だよな!

 あと、いいのか?

 あの反乱組織の責任者。ダノン・イレンズも、だます事になるぞ。

 ははっ。

 天王寺アリスって女が、なんであの基地に入り込んだのか、やっと意味が分かった。

 息子がいるとはいえ、オママゴト家族劇場のつもりじゃないとは思っていたがな」


「天王寺アリス軍は、たった一人だった頃から、ずっと白旗をかかげてきた」


「アンタのやり方は、いつでも背信行為はいしんこういだ。

 誰がどう見ても、もう打つ手がないところから、仲間になって大人しくしてますって顔で、敵の内部に入り込んで――チッ。

 とうとう、この竹内イチロウまで巻き込みにきたって事か?

 軍が維持できるように――アンタの大切なガキをくれるって事だよな? その過程として、資金や人材協力を、内々(ないない)に要求にきたと。

 それであってるか?」


「タケは、どれだけ仕事ができても粗大ごみだが、とりあえず認識を共有できたようだ」


「私の要求通りのネタがあるのなら、最初から出せよ。

 ふふ。

 しかし、怖いな……さすが、あの極悪人の奥方様だ。

 ……天王寺アリス。

 この最後の項目は、本人と話せって事だよな……。

 なあ――。

 本当に、この竹内イチロウが求めるような、権威を与えてくれるんだろうな?

 私が、この世に存在する意味が保てるような――そういった根拠となるような絶対的権力」


「ああ。私を、誰だと思っているんだ。

 エリオットにも、すべては話していない。タケ、伝えるのは、控えてくれないか。

 ふ。

 奴も、だます対象だと、伝わっただろ?」


「まあ、これは言えないな――。

 いいだろう。

 この条件ならば、協力してやる。

 私も、雑務三昧でストレスがたまっていたんだ。アンタの作戦が実行されるのを、少しばかり楽しみにさせてもらおう」


「天王寺アリスと竹内イチロウの間で、交渉成立だな」


「あ。

 おい。

 天王寺アリス」


「ん? タケ、なんだ?」


「さっきも言ったが、軍の試作機ヘリ……勝手に入手するなと、旦那に言っておいてくれっ」


「エリオットの奴は、旦那じゃない!

 タケが忙しそうなので、無断でヘリをもらってきたと言っていたが。

 今日は、対空ノイズのない場所で着陸して、あとは、公共交通機関で来たんだ」


「アンタと協定を結んだって事で、旦那の悪事を、今回は見逃してやるが――今度やったら、拳銃ではなく軍用ライフル向けるからなって、あいつに言っておけ!」


「だから、エリオットは、天王寺アリスの旦那じゃないし、軍用ライフルぐらいならOKじゃないかと思うので、言わないでおく」


「アンタの計画で、あいつは、ぶっ倒す対象だが――とりあえず、言っておけっ!

 まあ……そこから解放してやるから、とっとと帰って、この作戦を決行しろ!」



* * * * *



「基地に帰りたくないのか? ルイ副班長。

 うわ……っ!

 そんな、あからさまに、不満たまってる顔するなよ!

 理由は分かってるけど……。

 う~んと。

 軍師殿とは、仲良くしたいじゃないか。

 あたしとしても」


「……エルリーンは、タワー『スカイ・オブ・パーツ』で捕まっていた頃よりも、かなり仲良くなってるよね。

 きっと、絶対。

 うちの『カッコ、父親の尊称、カッコ閉じる』と」


「仕方がないだろ。

 軍師殿やルイと遊ぼうと思って、お前の部屋に行くと、あいつがいるんだから。

 あ。

 まだ呼んでやってないんだ。『カッコ、父親の尊称、カッコ閉じる』って」


「みんな、昔は、あいつが、すごく嫌いだったじゃないか?

 好きじゃないけど、嫌いじゃない――どうして、その程度になっちゃったんだろ……」


「あたしは、嫌いだぞ。

 父さんの仇だって、今でも、ちゃんと認識しているし。

 まあ、いいじゃないか。

 えっと……。

 ルイだって、あいつが、世界の憎しみの対象だったら……その……危ない事も、あったかもしれないし。

 憎いけど、ルイに何かある方が、あたしは嫌だな――」


「エルリーン……。

 そうなんだけどね。

 それにしても、愚痴ソングのつもりだったのに……どうして、世界の皆様は、戦争を中止して、さらにオレをあがめたりしちゃったんだ?」


「ルイの歌声が、きれいだからかな……お、思い出して……ほ、惚れ直したりしてないからな!

 あー。

 あれ、また、なまで聴きたいな。

 基地に帰ったら、歌ってほしいかも?

 あたし一人が、観客でもいいからさ。

 うん。

 むしろ、あたし一人が独占で、デ、デートのつもりで、聴きたいかもなんて……思ってないぞ。

 嘘。

 少し離れた位置にはいてくれるけど、しっかり聞かれると恥ずかしいから、小声で言う。

 通学や外出は、ボディーガードの人たちいるから、せめて基地にいる時ぐらいは、二人きりになりたい。

 ダメかな……?

 録音は、あれからも聴いてるけど、やっぱりなまで、しかも、作者の気持ちっていうか、意図とか説明してもらいながら聴いてみたいかな」


「キスしてくれたら、いいよ」


「ちょ……ルイ……お前……ええっと、真剣な顔するな。

 突然、あたしの耳に口を近づけてきたかと思ったら……そ、そんなささやき予想してなかった。

 ルイ、本当に性格悪い!

 えっと……」


「半分、嘘だよ。

 歌を聴いて、オレに惚れ直したら――成功報酬って事で。

 オレの好きな時に、最初の一回目をもらっていいなら、エルリーン一人の為に歌うよ」


「はぁ……?

 ん……。

 まあ……はははは。

 ほ、惚れ直したらな!

 ふ、雰囲気とか……シチュエーションを……エスコートっていうか、なんていうか、そういう時の用語の使い方がよく分からないけど、並べてみた……だけ」


「エルリーン班長。

 顔、真っ赤だよ。

 気をつけないと、今から前払いになっちゃうよ?

 あと、挙動不審な様子は、ボディーガードの人たちに見られているから、オレみたいに冷静にしてた方がいいよ。

 耳打ちで、ないしょ内緒で喋らないと聞かれちゃうんだよ?」


「え……っと……あの。

 ル、ルイくんも、顔がちょっと赤いですよ……視線、そらしちゃったりして……そ、そのまま、そらしておいて下さい。

 こっち見られてると、あたしが、たえられません……」


「エルリーン、耳貸して。

 決めとく。

 どうやって、ファーストキスもらうか。

 今日は、エルリーンの部屋に行ってもいい?

 壁が薄いから、外に聞こえてしまうかもだけど。独占コンサートかどうかって意味で」


「……ああ、いいよ。

 決めておいて……シチュエーション。

 ルイに、任せる。うん」


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