Beyond at it
The Sky of Parts[27]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
「だからさ。
ダノン・イレンズくん。
そんな中途半端な話で、音声通話もらっても、軍としても、この竹内イチロウとしても困る訳だ。
たしかに、ルイーナ様の歌声は、神の力が宿っていると言っても過言ではないよ。
だがね、戦争がなくなるという事は、軍は、存在そのものを失うに等しい。
……ふーん。
そうだね。
君は、組織を解体するつもり。
あ、そう。
私は、この軍を放棄するつもりはないんだ。
返してもらえないか?
ルイーナ様を。
Lunaとして、軍属の籍が残っているんだ。
正当な理由をもって、お願いしよう。
軍に、Lunaを返してもらえないか?
私としても、ルイーナ様が、実権なしで世界の頂点という話は、とても魅力的だと思う。
権力をどうこうというのに、あの方が、向いていないのは知っているよ。
この竹内イチロウは、ルイーナ様が、お生まれになってすぐから御側で仕えてきたのでね。
だからといって、あの歌声の力は、お飾りでは勿体ない。
行政事務というか、軍の管理は、私でもできる――足りないのは、皆を盲目的に従えてくれるような理由だ。
世界を席巻するような軍の維持に欠かせない。
ほら、前任者が残していった『sagacity』。
あいつが、特異な資質を秘めた存在の代わりをしてくれているが、所属する人間のパーソナルを上書きできるような、絶対的で、誰もがそれを真だと信じる義務がほしい。
ダノン・イレンズくんも理解の上で、この音声通話をかけてきたんだろ?
ルイーナ様をトップに据えたところが、錦の御旗を掲げて、すべての行為を正当化でき、主張を貫けるようになる。
なんら、やましくない。
大義名分が立つ。
つまり、権威を得るという事だ。
君の話だと、軍を解体しようという話にもなりかねない。
分かっただろ。
軍としては、一日でも早く、ルイーナ様をお迎えしたい。
勘違いがあっては、困ると思い、念の為に言っておくが――私は、軍を維持したいとは考えているが、前任者みたいに武力行使で、世界を従えたい訳ではないんだよ。
今だって、君らのような反乱組織と、戦闘状態ではないだろ?
抑止だよ。
抑止。
前任者がいた頃に比べると、戦力は半減以下だが――ダノン・イレンズくんも、握ってみれば分かるよ。
強大な権力というものは、一度手に入れてしまうと、手放したくなくなるんだ。
私の一存で、いつでも戦争を再開できるし、抑制する事もできる。
だが、この竹内イチロウは、そんなに卑しい人間ではない。
ルイーナ様にだったら、この力を譲っても良いと言っているんだ。
それなら、ルイーナ様のさじ加減で、戦争のない世界を築いてもらえるだろ?
ダノン・イレンズくんの希望する行く末と、なんら変わりのないはず。
再三、同じ事を言わせないでくれ。
ルイーナ様を、こちらに渡してもらえないか?
保護者どもが、そっちにお世話になっているのは、知っているが、あいつらの説得もよろしく頼むよ。
この音声通話が終わったら、『否応なく』という言葉の意味を、思い出すなり調べるなりしてくれ。
じゃあ。
……はあ。
面倒だな……私は、忙しいんだ。
雑務もたまっているのに、なぜこんな長々と、茶番に付き合わないといけない。
金の巻き上げにもあっているし……。
全員、ふざけるなっ!
竹内イチロウを、これ以上怒らせると、MLRS鋼鉄の雨を降らせてやるからな!
多連装ロケット砲が放つ、弾幕の真の恐ろしさをみせつけ……ん?
……はぁあああああ?
このクソ忙しい時に、なんで、こんな連絡が入ってくるんだよ……マジでふざけるな……」
* * * * *
「うわーぁ! 悪いタケタケが来たぁ!
う、撃たれる……がくっ」
「天王寺アリス……アンタ……何をしにタワー『スカイ・オブ・パーツ』へ来た?
罵声を浴びせたいのは、この竹内イチロウの方なのだがな……。
分かっているか?
今、どういう状況か。
アンタが、分かっていないなんて事はないと思うが……ここさ、この部屋さ、内々が必要な時に、バーンってやるところだぞ?
で、アンタ。
明らかに手足を拘束されているが――これ以上、説明がいるか?
まあ。
ちょうど良いのか。
さあっ。
バーンが嫌なら、アンタのガキを、軍に差し出すという条件に同意しろ!」
「やはり、フルメタルジャケット弾を使うのか?
前任者が、社会倫理ガン無視だったが、軍用弾として使うなら。
……ね?
貫通力が低いと、ほら、命中時に弾頭変形してしまったりして、面倒じゃないか――なあ、竹内イチロウ」
「知ってるけど、答える義務がないって意味とふざけるなって意味で、知らねえよっ!
人道とか、そういう話は、お家に帰ってから、人でなしで鬼畜で極悪人なアンタの旦那と、茶でも飲んで話し合ってくれ!
この竹内イチロウに、雑談を投げてくるなっ。
……アンタ、たぶん嵌められたぞ。
おつかいとか、頼まれなかったか?
天王寺アリスが、タワー『スカイ・オブ・パーツ』内の売店で、棒つき飴を買っているのが確認されたら、ここに連行しろって、『sagacity』に登録したのは、アンタの旦那だ。
あいつ、絶対におぼえていたぞ。
はあ……執行は、アンタの旦那本人がいないと不許可になっていたので、今は、軍の実権満載の私が呼ばれた訳だが……で、何をしに来た?
なんで、わざわざ監視カメラに映ったんだ」
「タケ。
しつこく何度も、エリオットの奴を旦那とか言うなっ!
天王寺アリスは、一生独身のシングルマザーを貫くつもりなんだ。
エリオットは、ヘリも船舶も操縦できるし、戦車も砲撃まで含めてOKらしい。
適当な作戦を立てても、銃器とダイナマイトを手渡しておけば、私が寝ている間に、劣化『sagacity』を、証拠も残さず破壊してきてくれる。
家事全般も完璧だが……その程度の男なんだ。
だから、結婚の対象ではない」
「ああ……気づいてはいたが、やはりアンタら夫婦が、劣化『sagacity』を壊して回っていたんだな。
ほとんど潰しやがって……これさ、普通に天王寺アリス。
アンタが首謀者って事で、バーンとやってもいいんだが――なんでアレ壊して回ってるんだ……?
いいのか?
バックアップ経路からの爆弾は、仕掛けられなくなるぞ」
「ん~。
天王寺アリスは、もっと恐ろしい爆弾を用意しようと考えているからな。
タワー『スカイ・オブ・パーツ』を、巨大な手筒花火にして、一度、世界を虚無にかえしてやろうと思っている。
皆、違う世界に旅立ち、幸せになりました。
めでたし、めでたし」
「ふん。
さすがは、極悪人の奥方様だな!
考える事が、えげつないっ。
カタストロフィばかり起こす、アンタら夫婦は、この竹内イチロウにガキを引き渡してからインフェルノに行け、とか横文字言葉並べて言ってやるから、その通りにしろっ!
本当に、バーンってやるぞっ。
『ルイーナ様』を渡せっ。
私は、必ず、軍の上に『ルイーナ様』を君臨させてやる!」
「あ。
ルイーナに会えない間に、パンダのぬいぐるみを手に入れたんだ。
名前は『ルイーナ様』。
そうか、タケは、パンダの『ルイーナ様』が欲しかったのか」
「いいかっ。
冗談では言っていないぞ。
私の決意――アンタは、分かっているんだろっ!
アンタら夫婦とやり合う事になったとしても、この竹内イチロウは、『ルイーナ様』を上に据えて、軍を盛り立てるっ!
それが、私が向かうべき唯一の道なのだからな!
退く理由は、私にはないんだっ」
「ライオンのぬいぐるみには、『ありすちゃん』と名付けた。
赤いたてがみが立派な、男の子みたいな女の子ライオンという設定。
普段は、大人しく寝てばかりだが、エリオットの奴が、たまに自分の方に向いて、牙を剥いている気がすると言うんだ」
「そろそろ決断してもらえるか?
事と次第によっては、ぬいぐるみなんぞ飾って、世間に内緒で同居を楽しんでいた旦那と、二度と会えなくなるぞ。
外部と通信できるような機器は、回収させてもらった。
今生での会話、かなわなくなったという事だ。
ふん。
軍の試作機ヘリを盗み出したのも、どうせ、あいつなんだろ?
あいつ、監視カメラに映らないみたいだが、さすがに、タワー『スカイ・オブ・パーツ』の手厚い警備の中、この部屋に助けに来れないぞ」
「監視カメラに映らないのを活かして、本屋で立ち読みをすると言っていたので、ここには来ないと思う。
エリオットの奴。
家庭内での存在意義が低く、そして影が薄いから、監視カメラに映らないんだ」
「もう、あいつを、上司として擁護する義務はないが……もうちょっとだけ、大事にしてやれ!
はあ……で、用事は?
アンタ。
最初から捕まる気で来たんだな。旦那とも、完全に別行動で。
この竹内イチロウに、何の用だ?」
「あのな。タケ。
私は、金をせびりに来ただけだ」
「は? ……な、何を言っている? アンタ……」
「外部と通信できないという事は、エリオットの奴に聞かれないように細工しなくていい。
タケ、お手柄だ。
ナイス……と、高評価の意味で、サムズアップしたつもりなんだが……真上に、手を吊り上げられているせいで、親指が横にしか向かない。
それは、許せ。
あー。
それにしても、ここにいると肩が凝りそうだ。
足は、開いたまま固定だから、腰の負担は、若干少ないかもしれん……たぶん。
ふう。
身体に疲れが残ると、明日の仕事に影響が出そうだな」
「言いたい事が、まったく意味が分からん。
……だいたい、ここに連れて来られるヤツは、明日どころか、今日のその後もないという話だから……って、変な雑談で、私の興味を引くなっ。
くそっ。
ニヤニヤしやがって……天王寺アリスの作戦ってやつか?
そんな状況で、余裕に満ちた顔しやがって。
ちっ。
気味が悪い!
言えよ……本当の目的はなんだ?」
「タケ。
私のコートの右のポケットに入っている紙を出してくれ。
それを、読み上げてほしい」
「これか?
『彼女いない』。
『整髪料のにおいがきつい』。
『支配者オーラが出ていない』……って、なんだこれっ!
おいっ!」
「うわっ。タケが怒ったっ!
護身用の拳銃を、私の頭に突きつけてきた!
――というか、どこにもタケの事って書いていないのに、認めたぞ! ルイーナやエルリーンと、遊びがてらに書いただけじゃないか。
ああ。
間違えた。
左のポケットだった!」
「次やったら、絶対に、引き金を引くからな!
……ん?
は?
これ……いいのか?
アンタさ、あいつ――旦那を裏切るつもりか?
息子を使う気って事だよな!
後、いいのか?
あの反乱組織の責任者。ダノン・イレンズも、騙す事になるぞ。
ははっ。
天王寺アリスって女が、なんであの基地に入り込んだのか、やっと意味が分かった。
息子がいるとはいえ、オママゴト家族劇場のつもりじゃないとは思っていたがな」
「天王寺アリス軍は、たった一人だった頃から、ずっと白旗を掲げてきた」
「アンタのやり方は、いつでも背信行為だ。
誰がどう見ても、もう打つ手がないところから、仲間になって大人しくしてますって顔で、敵の内部に入り込んで――チッ。
とうとう、この竹内イチロウまで巻き込みにきたって事か?
軍が維持できるように――アンタの大切なガキをくれるって事だよな? その過程として、資金や人材協力を、内々に要求にきたと。
それであってるか?」
「タケは、どれだけ仕事ができても粗大ごみだが、とりあえず認識を共有できたようだ」
「私の要求通りのネタがあるのなら、最初から出せよ。
ふふ。
しかし、怖いな……さすが、あの極悪人の奥方様だ。
……天王寺アリス。
この最後の項目は、本人と話せって事だよな……。
なあ――。
本当に、この竹内イチロウが求めるような、権威を与えてくれるんだろうな?
私が、この世に存在する意味が保てるような――そういった根拠となるような絶対的権力」
「ああ。私を、誰だと思っているんだ。
エリオットにも、すべては話していない。タケ、伝えるのは、控えてくれないか。
ふ。
奴も、騙す対象だと、伝わっただろ?」
「まあ、これは言えないな――。
いいだろう。
この条件ならば、協力してやる。
私も、雑務三昧でストレスがたまっていたんだ。アンタの作戦が実行されるのを、少しばかり楽しみにさせてもらおう」
「天王寺アリスと竹内イチロウの間で、交渉成立だな」
「あ。
おい。
天王寺アリス」
「ん? タケ、なんだ?」
「さっきも言ったが、軍の試作機ヘリ……勝手に入手するなと、旦那に言っておいてくれっ」
「エリオットの奴は、旦那じゃない!
タケが忙しそうなので、無断でヘリをもらってきたと言っていたが。
今日は、対空ノイズのない場所で着陸して、後は、公共交通機関で来たんだ」
「アンタと協定を結んだって事で、旦那の悪事を、今回は見逃してやるが――今度やったら、拳銃ではなく軍用ライフル向けるからなって、あいつに言っておけ!」
「だから、エリオットは、天王寺アリスの旦那じゃないし、軍用ライフルぐらいならOKじゃないかと思うので、言わないでおく」
「アンタの計画で、あいつは、ぶっ倒す対象だが――とりあえず、言っておけっ!
まあ……そこから解放してやるから、とっとと帰って、この作戦を決行しろ!」
* * * * *
「基地に帰りたくないのか? ルイ副班長。
うわ……っ!
そんな、あからさまに、不満たまってる顔するなよ!
理由は分かってるけど……。
う~んと。
軍師殿とは、仲良くしたいじゃないか。
あたしとしても」
「……エルリーンは、タワー『スカイ・オブ・パーツ』で捕まっていた頃よりも、かなり仲良くなってるよね。
きっと、絶対。
うちの『カッコ、父親の尊称、カッコ閉じる』と」
「仕方がないだろ。
軍師殿やルイと遊ぼうと思って、お前の部屋に行くと、あいつがいるんだから。
あ。
まだ呼んでやってないんだ。『カッコ、父親の尊称、カッコ閉じる』って」
「みんな、昔は、あいつが、すごく嫌いだったじゃないか?
好きじゃないけど、嫌いじゃない――どうして、その程度になっちゃったんだろ……」
「あたしは、嫌いだぞ。
父さんの仇だって、今でも、ちゃんと認識しているし。
まあ、いいじゃないか。
えっと……。
ルイだって、あいつが、世界の憎しみの対象だったら……その……危ない事も、あったかもしれないし。
憎いけど、ルイに何かある方が、あたしは嫌だな――」
「エルリーン……。
そうなんだけどね。
それにしても、愚痴ソングのつもりだったのに……どうして、世界の皆様は、戦争を中止して、さらにオレを崇めたりしちゃったんだ?」
「ルイの歌声が、きれいだからかな……お、思い出して……ほ、惚れ直したりしてないからな!
あー。
あれ、また、生で聴きたいな。
基地に帰ったら、歌ってほしいかも?
あたし一人が、観客でもいいからさ。
うん。
むしろ、あたし一人が独占で、デ、デートのつもりで、聴きたいかもなんて……思ってないぞ。
嘘。
少し離れた位置にはいてくれるけど、しっかり聞かれると恥ずかしいから、小声で言う。
通学や外出は、ボディーガードの人たちいるから、せめて基地にいる時ぐらいは、二人きりになりたい。
ダメかな……?
録音は、あれからも聴いてるけど、やっぱり生で、しかも、作者の気持ちっていうか、意図とか説明してもらいながら聴いてみたいかな」
「キスしてくれたら、いいよ」
「ちょ……ルイ……お前……ええっと、真剣な顔するな。
突然、あたしの耳に口を近づけてきたかと思ったら……そ、そんな囁き予想してなかった。
ルイ、本当に性格悪い!
えっと……」
「半分、嘘だよ。
歌を聴いて、オレに惚れ直したら――成功報酬って事で。
オレの好きな時に、最初の一回目をもらっていいなら、エルリーン一人の為に歌うよ」
「はぁ……?
ん……。
まあ……はははは。
ほ、惚れ直したらな!
ふ、雰囲気とか……シチュエーションを……エスコートっていうか、なんていうか、そういう時の用語の使い方がよく分からないけど、並べてみた……だけ」
「エルリーン班長。
顔、真っ赤だよ。
気をつけないと、今から前払いになっちゃうよ?
後、挙動不審な様子は、ボディーガードの人たちに見られているから、オレみたいに冷静にしてた方がいいよ。
耳打ちで、ないしょ内緒で喋らないと聞かれちゃうんだよ?」
「え……っと……あの。
ル、ルイくんも、顔がちょっと赤いですよ……視線、そらしちゃったりして……そ、そのまま、そらしておいて下さい。
こっち見られてると、あたしが、たえられません……」
「エルリーン、耳貸して。
決めとく。
どうやって、ファーストキスもらうか。
今日は、エルリーンの部屋に行ってもいい?
壁が薄いから、外に聞こえてしまうかもだけど。独占コンサートかどうかって意味で」
「……ああ、いいよ。
決めておいて……シチュエーション。
ルイに、任せる。うん」




