Hibernation
The Sky of Parts[26]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
※ほぼ同時アップロードですが、26章(話)前半は長文なので、中途半端なところで2つに分割します。
『アリス。
今、整頓した通りで良いと考える。
ふふ。
お涙頂戴の三文芝居のネタで良ければ、僕は、それなりに用意できるんだ。
独裁演説を行っていた頃も、効果的だと思えば、隠す事なく、さらけ出していたよ。
ふ。
同意の一歩手前ぐらいで『不幸せ話』をしてやると、聴衆は、いとも容易く、心を差し出してくる。
材料として、好きに使いたまえ。
情に満ちた、温もりあふれる態度さえ見せれば、天王寺アリスですらも懐柔できる――あははっ。
嫌そうな顔をしないでくれっ。
あの時は、身重であったな。
戯れに、言ってみただけじゃないかっ!
君がプロデュースする劇、終幕まで楽しませてもらう予定だ。
しかし、君こそ、ルイーナを振り回しているのではないのか?
とても長い間。
はははっ。
否定しないのだな。
だが、心得違いしないでくれっ。
アリスが、手の平の上でルイーナを踊らせる事を、咎めるつもりはないが、あの子が、僕の手の中で、力を振るいたいと言い出す事があるとしたら――応じてやるつもりだ。
君が、演技上手なのは理解しているが、反乱分子どもの心を絡めとる程度をおすすめしておく。
タガが外れたように、邁進できる事は、僕自身、よく知っているが。
そうだな。
僕は、お嬢さんとでも仲良くなっておくか。
彼女の心を開かせて、ルイーナを、僕に差し出すように仕向けるのも、一興となる。
ルイーナを自由に動かせる者が、すべてを制せるのだからな。
親であるという、特権とも言うべき資格を利用して、本能を揺さぶるような甘くえげつない罠にかけてやろう。
……ん?
ああ、そちらは、先ほども伝えた通りだ。
使うこと自体を禁止させてもらう。
この件では、効果がないと判断している――アリス、それは互いに、後天的に得た能力の一つぐらいととらえないか?
君が、どうしてもと言うのなら、演目も無きこの舞台のすべてを、握りつぶさせてもらう。
いいなっ!』
* * * * *
「えっと。
あの。
ダノンさん、それは、どういう意味?
オレに、エリオット・ジールゲンの跡を継げとか……。
せっかく、親を空欄のまま書類を作ったのに、今さら、続き柄を埋めるって事?
というか。
母上は、どう思っているの!
ダノンさんが、今、この話をしてくるって事は、母上のご意志も同じって事だよね。
それとも――やっぱり、母上は……まだ、あいつに操られていて……まさか、ダノンさんとジーンさんも……っ」
「違うわ、ルイーナ。
落ち着いて。
たしかに、母さんとあいつは、タワー『スカイ・オブ・パーツ』にいた頃のような『敵対』関係ではないわ。
だからといって、何もかもを取り払って、一緒にいる訳じゃない。
私は、あくまで天王寺アリスとして、あいつ――エリオット・ジールゲンと一緒にいた。
互いの思惑が一致する範囲で、行動を共にしている。
――ルイーナを護りたい。
これに関しては、100%意見が一致しているから、最終的な形を含めて、あいつとは徹底的に話し合ったわ。
会議が長引いてしまって、そして準備もあったりで、あなたのところに顔を出せずに、ごめんね」
「母上。
捕まって、ひどい事をされていたとか、そういうのではないから安心してって意味で、受け止めていい?」
「うん。ルイーナ。
そんな程度の理由なら、母さんは、あいつのところから逃げ出して、すぐに会いに来ていたはずでしょ?」
「そうだね。
あいつに大人しく捕まっているなんて、母上らしくないもんね」
「そーよ。
母さんを誰だと思っているの。天王寺アリスなのよ」
「へへっ。
母上に、そんな優しい顔で、頷かれると、嬉しい気分になってくるな。
……そうだね。
昨日の夜も、何もされなかった。
あいつの前で、目を閉じちゃ駄目だって思ったけど――眠ってしまって。
朝起きて、また、いつものオレがいた事に、驚いたぐらい。
公園で、あいつに近づいて来られた時、もうすべてを諦めていた。
自由なんてなかったんだってっ。
自分から、従うつもりはなかったけど、どれだけ離れようとしても、連れ戻されてしまうっ!
普通に暮らす事なんてやめさせられて、人々を従わせる為の……道具にされるんだって。
でも、どうしても、本気で抗えない……逃げる事を、投げ出してしまうっ」
「ルイーナ、落ち着いて!
ふう。
やっぱり、一人でいろいろためて、隠していたのね。
母さんに、久々に会えて、思わず本音を言ってくれた。
うん。
嬉しいわっ!
抱きしめていい?
……こうして、ルイーナの温かさを直に感じられると、私も安心してくる。
二年ぶりだもんね。
まともに、母さんとお話しできたのは」
「……うん。母上」
「軍師殿、どうする?
やはり、俺では、伝えられるかな?
母親の貴女から言ってもらうべきではないか?」
「あら。
母親のあたしだって、複雑よ。ダノンったら、押しつけないで」
「まったく!
今、俺が一瞬ムッとした顔をしたとしたら、それは、貴女の――天王寺アリスの戦略的誘導に嵌まってしまったと、自身の技量の足りなさを、不甲斐ないと思ったからだ!
はあ……。
たしかに、俺が伝えて、ルイがそれを理解して、了承してもらい、実現しないと意味がない。
軍師殿、貴女は、あくまで中立の立場。
二人にとっての家族だからだ」
「ダノンさん、どういう事?
オレに、本当は何を伝えたいの?」
「ルイ。
戦争が終わったとしたら、嬉しいか?
俺も、少し前から考えていた事があったんだが、君のお母さんが、お膳立てをしてくれていたようだ」
「えっと……?
オレが、さっきダノンさんが言った――エリオット・ジールゲンの後継者になって……その……父親として、再び認めると、戦争が終わったりするって事?」
「口にしている俺も、変な話に聞こえてくるぐらいだが、そういう事だ」
「ダノンさん……オレも、変だと思うし、おかしな話だよ!」
「変な話だと思っているのは、俺が個人的に、エリオット・ジールゲンに対して憎しみを持っているからだ。
だが、今の世界の情勢を考えるのなら、とるべき行動の一つであるとは気づいていた。
そうだな。
感情など持たぬ、システムなら、ここまで条件が整えば、迷わず実行に移すんだろうな……今さっき、君のお母さんから『sagacity』の在り場所という、余計な話を聞いてしまったから。
俺の素直な感想としては――ふざけるなっ!
……だが、それは、ダノン・イレンズという人間の個の中にとどめておく。
この基地で寝起きを共にして、俺についてきてくれている連中や、そして、世界中の人々が求めている事を考えると……短気を起こす訳にはいかない。
天王寺ルイーナという最重要人物が、俺のところにいてくれているという意味でもな――」
「基地のみんなや、世界の人たちが求めているような事を、オレにしてほしいの?
それは、さっき聞いた内容もあわせると……結局、オレは、『支配者』とかになった方がいいって事?
独裁者の跡取りとして……やっぱり、生きていけって事……っ」
「いや、ルイ。
協力はしてもらうが、できる限り、君が普通の子供でいられるようにしてやるつもりだ。
――それは、俺の願いでもあるから。
むしろ、普通の子供に戻ってくれないか?」
「は……?
えっと、一年前にこの基地に戻ってきてから、オレ、学校にも行って……えっと、よく分からないんだけど……」
「ダノン。
簡単に、ルイーナに話が伝わるとは、思っていなかったけど、私も頑張るから……さっき、決めた作戦を実行しましょう。
天王寺アリスですら、かなりの拒否ものだけど……」
「……ジーンさん、さっき三人の時に話し合った通りでいいかな?
ルイの緊張を、解していってやる意味で。
もちろん、俺らだけに責任がある訳じゃないが、ルイに初めてこの部屋で、いろいろな話を聞いた日――それから、ずっとルイには、心の中ですら我慢させてしまっている事から解き放ってやろう」
「まあ、ダノンの口から『アレ』を聞くとな……いろいろ考えると思うが。
できれば、おれに話が回って来ないようにしてくれ。
エルリーンの父親代わりも続けるつもりなんで、そういう意味で、『先方のご家族』とは、いろいろ複雑なんでね!」
「母さんですら、言いたくないけど、頑張るわ」
「ん? 何?
みんな、何で、そんな複雑そうな顔をしているの?」
「……俺から、いくぞ。
ルイ、たぶん君は、この後、その……お父さん……が、どうなるのかを、気にしているんじゃないか?」
「えっ!
あ。
はい。
そうですね!
きっと、気にしていると思う。
その……あの……呼んだ方がいい?
ダノンさんが、いろいろ複雑な思いがあるのに、そうやって声をかけてくれたのは理解しているつもりだけど、オレの方も、複雑で……今さら、呼べなくて……」
「ルイーナ。
ダノンが言った呼び方が、呼びやすい?
あなたが生まれてすぐは、最初の『お』を除いて呼ばせるつもりだと言っていたけど。
……まあ、私が『母さん』と呼ばせるつもりだと言ったから、あわせていたのかもしれないけどね」
「うーん……。
それなら呼べない事はないけど……普通の子供って……オレの心の壁を取り払いたいとか、そんな話がしたいんだよね?
――三人とも、首を縦に振るタイミングがぴったりだったよ。
そういう事なら、意味がないかも。
それさ、エルリーンに過去の話を、情報として聞かせてくれって言われた時に、試した事があるんだけど、どこか他人の話をしてるモードになったから」
「ん~。
……よしっ!
母さんも、頑張って使うぞ!
おー。
もちろん、この話は、私が独断で決めて、ダノンたちに話した訳じゃない。
い、いくわよ……父さん……とも相談して、決めたのよ。
ダノンたちに話したという事から、理解してほしいのだけど、単に家族だからそうした方がいいという理由ではないの。
あいつ……父さんは、私の故郷も滅ぼしてる。
私にとっても、仇だわ。
息子の父親というだけで、見逃す訳にはいかないような、悪行を重ね続けてきた。
罪は、必ず償うべき」
「母上……」
「心配そうな顔をしないで、ルイーナ。
母さん、少し真剣な表情を続けてしまうかもしれないけど、心の中ではあなたに、笑顔を向けているから。
贖罪のさせ方を、誤れないという意味。
――戦争の火種は、人々の目に触れにくくなっただけで、維持されたまま。
ずっと長い時間、このままなら、いずれは、自然と消えるのかもしれない。
だけど炭火に、灰をかけておくと、意外と長持ちするの」
「母上。
それは、どういう意味なの?」
「火種は、一度火をつけたら、できる限り保持される事が望まれるから。
そういうものなのよ。
悪逆無道な振る舞い、人の道に外れた行いを続けた、エリオット・ジールゲン――あなたの父さんがいなくなっても、誰かが、その様子を見ていて、同じ事を考える。
こうやって、力で、すべてを解決すればいいのだと。
彼自身が、そうであったように」
「……戦災孤児なんだっけ……? あの人。
アイドル活動していた頃に、母上が作った、Lunaの設定書上の話じゃないんだよね」
「そう。
戦争によって、何もかもを失った子供が、私の知るエリオット・ジールゲンのすべて」
「母上、そんなに真剣な顔をしないでよ。
ただ、静かに、首を縦に振ってくれればいいのに……」
「ルイ。
なんというか、コンセプトのような話は、今、君のお母さんが言ってくれた通りだ。
エリオット・ジールゲンの身柄を確保できたのだから、一体どうすべきか。
……君のお母さんの表現をお借りしよう。
現状は、ルイの歌声によって、灰がかけられ、みんなの目に、火種が触れにくい状態だ。
灰で覆う行為は、同時に、君が火種を護ろうとしている――とも受け止められている。
今ある火種は、君にとって懇意の人間が、燃え始めさせたものだからだ。
Lunaが、父親擁護の立場であるから、惹かれている。Lunaの手綱を握れば、火種を正当に使う事ができる。そういう考えの連中もいる事は、念の為、おぼえておいてくれ」
「ダノンさん!
オレ、そんな事は考えていない……考えていないと思う。
戦争の火種っていうのを護ろうなんて、してないはず……たぶん」
「ルイ。
そう受け止めている者もいるという話だ。
ふう。
君と繋がるのが、エリオット・ジールゲンでなければ、俺だって、もっと気楽に考えられた。
だが、逆に、繋がっていたからこそできる事もある。
包み隠さず言う。
君のお父さんを自由にしてもいいなんて――火が見えていた頃の出来事なら、処して償わせていた。
それは俺だけでなく、反意を持つ人間なら、同じ事をしていたと思う」
「はい……そうだよね……。
それは、最初にこの部屋に来た時、ダノンさんにはっきり言われた事だし、オレも認識してる」
「だがな、ルイ。
君のお母さんが、さっき言った通りなんだ。
――火種を、本当に消したいのなら、取り違えた手段となってしまう。
主の仇討ちだと、都合の良い理由を得た連中は、火傷など恐れず、灰を乱暴にどけ、消えていなかった火種を再び燃えあがらせる。
それは、炎となって、世界中の人々にまた襲いかかるだろう。
君のお父さんが残した火種を使って、新たな火種が焚きつけられたとしたら、とても厄介だ。
ルイ。
君が、どれだけ灰をかけても、隠す事すらできなくなる可能性の方が高い。
しかも、新たな火種は、今と違って一つとは限らない。
数が多くなった場合、規模が大きいよりも恐ろしい。
禍災をもたらし、いつか、世界のすべてが焦土と化す」
「……あ。
ダノンさんっ!」
「……ルイ、一瞬で、真っ青にならなくても大丈夫だ。
俺が話しているのは、そうはさせたくないからだと、受け止めてくれ。
軍師殿。
ルイを、一度、強く抱きしめてやってくれ。
貴女が安心したいんじゃなくて、ルイの心を落ち着けてやる為に、尽くしてくれ。
自ら認めてくれているが、貴女にだって償ってもらうべきなんだから」
「ええ、ダノン。
分かってる。
天王寺アリスという女は、咎人でしかない。
ルイーナ。
大丈夫だから、ダノンの話を、しっかり聞いてあげて」
「うん。
母上が、そう言ってくれるのなら――ダノンさん、オレが思い違いをしていたり、受け止め損ねしていたら、正しい道が見えるように、手伝ってね。
戦争とは、どこかで、向き合わなきゃいけないとは考えていたよ。
だけど、オレ……言い訳だけど、やっぱりまだ子供で、どうしても自信が持てないところがある」
「ははっ!
ルイ!
それな、ダノンが昔、同じ事を言っていた。
ダノンは、十五の時に、この反乱組織のリーダーになった。
亡くなった母親の跡を継いでな」
「ジーンさんの言う通り。
その親を奪ったのは――ルイ、君のお父さんだ。
何度も言わせてもらうが、許したつもりはない。
そして、ルイのお母さんが、親の仇と懇意な間柄であるとも知っている。
だが、ルイーナという人間は、この二人の間に生まれた。
それだけだ。
その理由だけで、何を償わせるというのだろうか。
君が、お母さん、そして……お父さんを大切に思う気持ちを持つ事、諦める必要はないと思う。
そこは、独立して考えてほしい。
ルイが、あの男を許せないと思うところがあるのなら、それはそれで好きにしてもいい。
……ただ、それが、子供の意地張りであると言うのなら、仲直りしろっ! 俺は、母さんと永遠に、仲直りできなくなってしまったから――」
「ダノンさん……」
「親の仇である、君たち親子に、なんで俺がこんな事を言わなければならない……そう、怒りが込みあげてくる気持ちは、正直とても強くある。
俺の顔を見れば分かるだろ?
言葉で、伝える必要もないと思う。
だけどな。
俺と母さんが、仲直りできるように、自分のすべてを投げうってくれたのが、君のお母さん――天王寺アリスさんなんだよっ。
何度も、何度も。
俺に、母さんと仲直りをするように、言葉や態度で伝えてくれていた……だが、子供だった俺は、意地を張り……結果として、母さんを失う事になった!
君のお父さんを、母親の仇にしたのは……俺自身なんだっ。
そして、母さんも、反乱組織を起こしていた。
明確に『敵対』を表明した上での出来事なので……俺が、ルイ。君に、母さんの事で恨みがましく思うのは、筋違いなんだっ」
「ダノンさん」
「ルイ。
兄貴がいなくなった時に、すでに大人だったおれも、心の奥底では、見当違いな事をしていると分かっていた。
力を使って……ああ、おれも言わないと駄目なのか……。
くそっ!
ルイの父ちゃんに、刃先を向けていたんだから、斬り捨てられて当然だったんだっ。
あんなに小さかったのに、エルリーンの方が……よく分かっていたんだ!
おれは、兄貴がいなくなってから、食堂のリリンと息子のノアが、ほんの少し目に障るようになった。
前の基地を放棄して、逃げる先でのテント生活。
リリンやノアと仲良くしているエルリーンを、おれは引き離そうとした!
そうしたら、言われたんだっ」
『ノアは、リリンのおなかの中にいるうちから、戦争で父さんがいないのに、頑張って生きてる。
だから、あたしはどうやったら、こんなに力強く生きられるのか、教えてもらおうと思う。
まだシーツ濡らす事あるけど、ノアは、大人なんかよりも、スゴイやつだよ』
「おれは、何も言い返せなかった……。
自分を恥じたよ。
他人のせいにするっていう、安易な方法で、自分の心を落ち着けようとしたんだ。
悪者を勝手に作るなんて、最低な事をしたんだよっ!」
「ジーンさん……。
うん。
エルリーンは、本当にすごいよね。
オレが、お父さんの仇の息子だと知った時、もちろんショックは受けていたと思うけど、やっぱりノアの話をしてくれた。
そして、オレがオレならいいって言いながら、受け入れてくれた。
ノア。
最近、ちょっと羨ましかった。
軍にいたお父さんが、この反乱組織に籍を移してきてくれて、リリンさんと正式に結ばれた。
……生まれて初めて会ったはずなのに、お父さんの事を大好きだって甘えていたんだ」
「ノアの父親も、戦災孤児らしい。
いちおう、俺は、この反乱組織のリーダーなんでね。
面接は、直接したよ。
Lunaの歌声が、『スカイ・オブ・パーツ』から響いた後、軍からの移籍者は、俺――ダノン・イレンズではなく、ルイを信奉して集まってきているのは承知の上だ。
俺についてきてくれる訳ではなく、Lunaの親衛隊を買って出てる連中。
うちの組織の力では、いざという時に、ルイを護れるか不安なところもあったので、人材として信頼が置けるかを、しっかりと確認して、受け付けさせてもらった。
ノアの父親だと知らずに、何気なく、聞いてみたんだ。
なんで、軍にいたんだってね。
そうしたら、戦争で両親がいなくなった境遇が同じ、エリオット・ジールゲンについていきたかったと教えてくれた。
ただ、自分のせいで、同じ境遇にしてしまった女性――つまり、リリンを愛してしまって、それからはよく分からなくなったらしい。
なのに、どうして軍に残り続けたのか、理由を聞いてみたら……少し驚いたよ。
リリン共々、処されるところだったのに――君のお父さんが、処分を取り消したらしい」
「え?」
「もちろん、おなかの中にいたノアの命も助かった。
助命の条件が、生涯忠誠を誓えというものだったので、軍を離れた後は、リリンをさがしていたのではなく、元の主の息子であるルイ。君に代わりに仕えようと考えて、ここに来たらしい。
そして、リリンとの再会を果たし、ノアの顔も見る事ができた」
「……そ、そうだったんだ。
でも、なんで……だって……あいつが……なんで!」
「軍師殿。
俺が言っていいのか?
……やれやれ、頷き一度で、押しつけないでくれ。
ルイが――軍師殿のおなかの中にいたからじゃないかな。
当時のその他の行いは、この場で、詳しい話を避けておく。
慈悲のかけらもない極悪人だったよ。
――残虐独裁者を抑えつけるものがあったとしたら、父親であるという実感だったんじゃないかな」
「……あ……」
「ルイーナ。
母さんは、父さんから――エリオット・ジールゲンから、『父親であるという実感』を、何度も奪おうとした。
……あなたが宿ったと分かった時、とても嬉しかった。
でも――。
同時に、変な感覚に襲われたの。
軍人になったという事は聞いていたけど、妙なの。
あいつの事を思うと、必ず、その後ろには、ぼやけた何かが見える。それが、第六感と呼ばれるものだったのか、単に妊娠による精神不安定だったのかは、今になっても分からない。
そして、毎晩のように、戦争の夢を見た。
戦火で血の色に染まった空の下、煙り漂う街角。
ふふ……完全に日常を失った、街」
「戦争に、巻き込まれた街の夢を見たって事?
……オレが、おなかの中にいる時……」




