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『E・I』、『E・Z』

The Sky of Parts[25]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


「エリオット・ジールゲンっ。

 あんた、やっぱり軍のトップに戻る気満々だったって事だろ!

 ルイや軍師殿、そしてこの基地の子供たちや、他のみんなを利用する気で。

 今後は、みんなの半径四メートル以内に近づくな!

 配っていたのが、このお子様ランチ用の白旗だからって……元々が元々なんで、信用できない!

 うちの軍の旗って、なんなんだ!

 これっ」


「エルリーン。

 それ。

 母上が作った軍の旗なんだって。白旗じゃなくて、『何も書いていない旗』だそうです」


「そうだ。

 お嬢さんは、誤解している。

 今の僕は、天王寺アリスが作った軍に所属する人間なんだ。

 ちなみに正式に所属を許されているのは、現時点では、このエリオット・ジールゲンただ一人。

 マスターたるアリスが言うには、僕の階級は、『三十二等兵』だそうだ。

 万が一、お嬢さんが、アリスの軍に所属する事になった場合、階級は『エルリーン』と言っていたがな」


「意味の分からない雑談を、あたしにしてくるなっ!

 あたしとルイが駆けつけて、ノアやチビどもを逃がしてやれて良かった」


「エリオット・ジールゲン。

 どうして、部屋から出て行ったんだ!

 一緒にいなくなった見張りの人も……元は軍の人だったし。

 オレや母上がいなかったからって、やっぱり、何か企んでいたんだろっ」


「ルイーナも、お嬢さんも、疑り深い。

 やれやれ。

 手をあげて、地面にひざをつけば、少しは信用してもらえるか?

 まあ、僕なんかを信じるかは、君たち次第だが」


「……そこまでしなくていい。

 昨日の晩、ルイを連れ去ったりしなかったから、申し開きってやつぐらいは聞いてやる。

 なんで、ノアやチビどもと、庭で、キャッチボールなんてしてたか、あたしらに分かるように説明してくれ!」


「まず、一つ言っておく。

 部屋から出るなとは、僕は、言われていない。

 もちろん、社会通念に照らして、大人しくしているつもりではいたが、呼ばれたんだ。

 栗毛で、エプロン姿のご婦人に。

 会わせたい人がいるので、部屋から出てきてほしいと」


「え?

 ええっと?

 まさか、リリンさん?

 ノアもいたみたいだし……え?」


「さあ、ご婦人の名前は、聞きそびれてしまったからな。

 廊下に立っていた者、元は、僕の軍の人間だったみたいだな。少し慌てた様子のご婦人に、うやうやしい態度で接していた。僕の見張りのつもりだったのか、ご婦人の付き添いのつもりだったのか、どちらとも分からぬさまで、ここまでは連れ立って来た。

 だが、ノア君という少年と待っていてくれと言い残し、二人ともどこかへ行ってしまった。

 誰かを呼びに行くのに必死だったようで、栗毛でエプロンのご婦人と見張りの者が、何を言っているのか、今一つ理解できなかったが。

 ルイーナよりも、半年後に生まれた子だとか、どうとか言っていたな。

 そのうち、他の子供たちも集まってきて――。

 ああ。

 そうだ。

 ルイーナ。

 言っておく。

 お前とは、五歳ぐらいの頃に空中回廊で、キャッチボールをした事がある。あっさり、へばってしまい、部屋に戻ってピアノを弾くと言われたがな」


「は……えっと、オレとキャッチボールって……そういえばしたような記憶が……うーん。

 って!

 今は、そんな話をしている場合じゃないだろ!」


「あ。

 ルイーナ、いたいた。エルリーンも。

 ……ん?

 あれ?

 うちの『三十二等兵』が、こんなところにいるわ。

 まあ、いいわ。

 それよりも、ルイーナ。

 ちょっと、母さんと一緒に来てくれない? ダノンが、話があるって」


「母上、ダノンさんが呼んでるって事?

 あ、でも……こいつが、部屋の外に……エルリーンを残していけないよ!」


「え、ちょっと……軍師殿!

 こ、こいつを置いて、ルイの手を引っ張っていかないで……どうにかしていってよっ」


「エルリーンなら、なんとかできるでしょ?

 私とルイーナは、少し用事があるから、うちの『三十二等兵』を部屋に戻しておいて。

 ね?」


「マスターも、ルイーナもいってらっしゃい。

 僕は、お嬢さんとのんびり午前の時間を過ごす事としよう」


「ちょっと、待て……なんで、お前が、笑顔で手なんて振って……。

 は、母上……!

 あいつとエルリーンを、二人にしていいの?

 というか、母上が、部屋に戻してよっ!」


「ん~。

 何かあったら、母さんが、全頭脳を使ってどうにかするから、別に構わないんじゃない?

 はい、この話は終わり」



* * * * *



『勘違いするなっ。

 おかげで、僕は、また天王寺アリスを手に入れたいと思った――そうして、『sagacity』に、彼女の戦略のすべてを食らわせてやりたい。

 そう考えるようになった。

 くくっ。

 結果として、ルイーナが世界を手に入れる事となる。すべてが、それに繋がったというだけだ!

 その褒美として、くれてやると言っているだけだろ!

 ああ。

 そうだ。

 ――99.99%の不完全モノで良ければ、ルイーナの歌声を無毒化できるプログラム適用もできるぞ。

 あははは!

 もう、お前がしがみつく権威が崩れる心配はないだろ、竹内イチロウ!』



* * * * *



「……あんた、なんで……あんな事をしたんだよ……っ」


「どうしたんだ。お嬢さん。

 部屋に戻って来るまでも、ずっと黙って下を向いていて、僕の雑談に対して付き合いが悪かったが――。

 ん?

 お嬢さんのお願いを聞いて、礼拝堂の床にひざをついて、君のお父さんに、謝意しゃいひょうした事かい?

 ふふ。

 しかし、僕は、そんなにも長い時間、頭を下げていたのかね?

 自分では、それほど意識していなかったよ――そろそろ顔をあげたらどうだと言う、お嬢さんの声がしたので、君の方を見たが、少し顔を赤らめていたように感じた。

 してくれ。

 たしかに、君の彼氏の父親ではあるが……僕が、心惹かれるのは、天王寺アリスただ一人なんだ。

 見惚みほれるなとは言わない。

 それは、きっと天国のお父さんよりも、目の前の僕の方が、男として優れていると考えてくれたからだと、嬉しく受け止めておくよ」


「は?

 って……蹴るぞっ!

 くっ……。

 小バカにしたような笑みを浮かべて……口元緩めて……ムカつく……違う!

 そ、そんなんじゃない……。

 あれだ!

 リリンのとこの話!

 なんで、ノアの父ちゃんを助けたんだ!

 かなり、残虐非道で、鬼畜で、血も涙もない、温かみゼロな行いしてた頃の話なんだろっ」


「お嬢さん。

 ルイーナと結婚したら、必ず『お義父さん』と呼んでもらうつもりだ。

 もう、将来の話をしているんだろ?

 今すぐ開始してくれないか。

 さあ、『お義父さん』と呼びたまえ」


「嫌だね!」


「まあ。

 そんなに不機嫌になるな。

 ふざけるのは、僕のつねだ。

 栗毛でエプロンのご婦人の夫君の事かい?

 名前も、そして顔すらおぼえていなかったが――彼は、僕の軍の一員だったみたいだな。

 この組織で、軍の離反者の取りまとめをしている人物であるという現状は、知っていたが」


「そ、そうだよ……リリンの旦那が、軍から移ってきた連中をまとめてる隊長だよ」


「昔の出来事。

 話自体には、記憶がある。

 取り回しの結果にもな。

 軍事施設内で、事実上の妻をかくまう奴がいるという話が、僕の出席を必要とする軍法会議まで回ってきた。

 彼、それなりの階級、つまり地位ある人間だったんだ。

 誰かに、おとしいれられたんだろう。

 僕の判断とか、この忙しい時に、手をわずらわせやがってと思い、サインの数が少ない方が良いと考えただけだ」


「で、『別に放っておけばいいじゃないか』って言ったと?」


「そうだ。

 その頃、僕は、早く業務を終わらせたかった。それ以上のやりとりはしたくなかっただけだ」


「……軍師殿のおなかに、ルイがいたからか?

 その時、リリンのおなかには、ノアがいたって……さっき、リリンと旦那が来た時に、あたしと一緒に聞いたよな?」


「軍事施設内で、事実上の妻をかくまう奴がいるという話を、僕にしてくること自体が下らない。

 そんな事を許すだけで、このエリオット・ジールゲンへの絶対の忠誠を終生約束し、相応以上の働きをすると言うのなら、誅罰ちゅうばつを加える必要はないだろ?

 僕は、仕事を終わらせて、一刻も早く、すっかり大きくなったアリスの腹に、手をれにいきたかった。

 父親が、胎動たいどうを感じるには、時間をようするんだ。

 それだけの話だ」


「……分かった。

 じゃあ、ルイと軍師殿のおかげで、リリンもノアも旦那も助かった。

 そういう事にしておくよ――そのあと、流れぐらいで、父さんに頭下げろと言っただけだったんだけど……ふんっ!

 ジーン叔父さんにも、伝えておくよっ!

 ついに、このあたしが、エリオット・ジールゲンを謝らせたってね!

 天国の父さんも、きっと少しは喜んでるはずさっ」


「おいおい!

 勘違いするなよ。

 君のお父さんに、謝意しゃいひょうしただけだ。

 謝意しゃいには、二つの意味がある。

 一つは、お嬢さんが勘違いしていると思われる『びの心』。

 もう一つは、『感謝の心』だ。

 僕は、後者の意味で、頭を下げさせてもらったまで。

 くくっ。

 我が家の嫁に、こちらからぜひ頂きたいと思う、素敵なお嬢さんを誕生させておいてくれて、ありがとうという意味だ!」


「ふん……まあ、いいさ! なら、今度、絶対にあたしが、一発殴ってやるからなっ。

 ……あ!

 そうだ。

 あのさ……。

 そういえば、その机の上に並べてある白旗……なんだっけ?

 『何も書いていない旗』?

 それ、何?

 軍師殿が考えたって聞いて、興味があるんだけど」


「お嬢さんも、うちの軍に興味があるのかいっ。

 君なら、即、入隊可能だ。階級は、『エルリーン』が約束されている!」


「うるさいっ。

 まるで、あんたの軍みたいな言い方するなっ!

 『三十二等兵』の癖にっ。

 だけど、軍師殿が勧誘してくれるなら……入っちゃうかもしれない!」


「ふう。

 僕の軍に入れと言った時は、そんな、いつもよりさらに見目好みめよいと思えるほど、はにかむ様子を見せてくれなかったじゃないか。

 相手が、アリスでなければ、嫉妬してしまうところだ。

 お嬢さん。

 そんなに可愛らしく、天王寺アリス軍に入りたいなどと言われると、僕は、概要説明を担当するしかない。

 この『何も書いていない旗』は、実は、何も書いていない訳ではないんだ。

 『何か書こうとしてやめた旗』。

 ――僕は、心の中では、そう呼んでいる」


「は? 軍師殿は、何を書こうとしてやめたって言うんだい!」


「アリスは、どう見てもお子様ランチに立てる旗にしか見えないこれに、『A・T』。

 つまり、自分の名前のイニシャルを書こうとしていたんだ」


「ん?

 へ?

 なんで、それをやめるって言うんだ。

 自分の名前のイニシャルなんだろ?」


「『Alice Tennoji』で、『A・T』。

 そうか、アリス。

 僕と共通する、ジールゲンの『A』と、エリオットの『T』を使ってくれたんだね。

 嬉しいよ、アリス!

 君と僕は、やはり運命の赤い糸で結ばれていたんだね――と言われるのが、嫌だったのではないかと、僕は、推測している」


「意味わかんないよっ!

 頭文字以外を使っていいなら、『Luina Tennoji』もOKじゃないかっ。

 そっちの方が、しっくりくる。

 しかも、あんたの名前だと、姓と名が逆じゃないか!

 あれだ。

 あんたの軍が、『Eliot Zealgene』の頭文字を使って、『E』と『Z』を、ごちゃごちゃにしたような感じの軍旗ぐんきだったから、同じように思えてきて、嫌なら理解できるけど、いろいろおかしいだろっ」


「昨晩、『Elurin Invalid』の頭文字を使い、『E・I』とした場合、『Luina Zealgene』であろうと所属可能だ。

 お前が眠ってしまったあと、万が一だが、僕に何かされて、次に目がさめた時に、姓変更させられている展開があったとしても、問題がないので、ゆっくりお休み――と、ルイーナに優しく声をかけてやったら、安心したのか、平穏な様子で寝息をたて始めた」


「はっ?

 ルイのやつ。朝食中の話、班長のあたしに嘘ついたな。

 いや、こいつが嘘を言ってる可能性も高い……真偽しんぎをさぐるだけ無駄ってやつか。

 っていうか。

 『E』も、『I』も、両方母音だって、学校で習ったぞ!

 だったら、ほぼいけるだろうっ。

 ジーン叔父さんとか姓一緒だから、『Jean Invalid』でもOKじゃないか。

 軍師殿もOK。

 うわっ。

 あんたもか……。

 ニヤニヤ顔するな!

 き……気持ち悪いっ!

 ……あれ。

 ダノンが、どうにも無理じゃないか?

 『Danon Ilens』だと名前側に、『E』も、『I』もない!

 しかも、姓側に『T』がないから、軍師殿の方でも無理だ!

 母親のミューリーさんは、『Murie Ilens』だから、あたしの方にはOK。だけど、軍師殿の方には入れない。

 あれ?

 ジーン叔父さんも、軍師殿のところには……って、あたし自身が、軍師殿のところには入れないじゃないかって……何の話だよっ!

 どうして、無駄に話が広がった!」


「お嬢さんが、アリスの軍に所属するのは、所詮は仮初かりそめだ。

 いつかは、自分で軍を作るといい。

 ははっ。

 お嬢さん以外の反乱分子の連中なんぞは、アリスの軍に入れやしない。

 嘆願書持参で入隊希望してきたとしても、このエリオット・ジールゲンが阻止してやるつもりだ」


「あんたが、そんなに心が狭いからだな。

 今、名前が出た全員が、『E・Z』に入れない!

 『Ichiro Takeuchi』も入れない。あ、こいつ、軍師殿のところにも入れない……ぎゃー!

 ……あ、あたしのところには、入れるじゃないか!

 あれ?

 そういえば……。

 この前、ルイが、オレみたいに『存在が限定される子』っておぼえろとか言って、『E』を、ごちゃごちゃにしたような感じにしろって。

 『Z』は、ぐんの中心とかにも出てくるよねって言ってたが……ルイの奴、まさか裏切る気じゃ――」


「ん。

 ……それは、たぶん、『ぐんの中心』の話をしているのではないかと思う。

 まだ十二歳だが、ルイーナは、なんだかんだ言っても、僕とアリスの息子なんだ。

 代数学だいすうがくか。

 代わりの文字――『L』を反転して『R』にすれば、『R・T』だ。それならば、『IT』は、所属できるのか。

 裏輔翼うらほよく

 なるほどな。

 やはり、あいつは、『E・Z』には、いられない人間だったという事だ」


「なに? それ?

 まあ、いいや。

 きっと、お勉強の難しい話をされているんだろうから。

 ……今日は、教科書とは会うつもりがないんだ。

 学校行くのは楽しいけど、座って勉強以外の時間が好き。

 あ~。

 なんで、あたしが、部屋に閉じこもって、あんたなんて見張ってないとダメなんだよっ。

 今日は、天気がいいから、外で思いっきり遊べる期待大の日なのに!

 ルイでも、軍師殿でもいいから、早く帰ってきてよっ」



* * * * *



「ルイ、学校が休みで、ゆっくりしたかったり、遊びに時間を使いたいと思っているところ、呼び出して悪いね」


「それは、大丈夫だよ。

 ダノンさん。どうかした? 母上と、お話して、何かオレに伝えたい事ができたの?」


「ジーンさん。

 うまく言えてなかったら、フォローしてくれ。軍師殿もな」


「ダノンがそう言って、おれのフォローが必要だった事は、数えるほどしかねぇ。

 伝える内容が重大だから、不安な気持ちを、少しもらってくれって事だろ?

 いちおう、おれの方が年上なんだ。

 任せておけよ。

 ずっと、そうやってこの組織を、一緒に支えてきたんだから」


「ありがとう、ジーンさん。

 軍師殿も、黙ってはいるが、冷静な顔で、うなずいてくれてありがとう。

 気持ちは、しっかりと伝わったよ」


「何?

 みんな、オレに何を伝えたいの。重大……なの?」


「そうだな。

 君にとっては、ルイが負っているものを考えると、おそらく重大だ。

 世界を見る目が変わってしまうと、思い込みじゃなくて、悩んでもいいと思う。

 ――ルイ。

 余計な前振りはやめて、いきなり本題に入らせてもらう」


「う、うん。

 オレ、何を聞けばいいの? ダノンさん」


「緊張した表情をしているようだけど、ルイが、うなずいてくれて、助かったよ。

 ずばり言う。

 ルイ、いや、ルイーナ。

 跡を継いでほしい。

 エリオット・ジールゲンを父と認めて、正式な後継者になってほしい」


「……え」


 数学で、『E』を逆向きにしたような記号を、存在限定子そんざいげんていしと言います。


 同じく数学で、『Z(G)=...』みたいなのを、ぐんの中心と言います。


 まあ――筆者がよく分からないネタに走ってしまった程度に受け止めて下さい(この作品にありがち……)。


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