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おいしいもの食べさせてやる

The Sky of Parts[24]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


『――ルイーナ。

 ルイーナ、起きるんだ。

 こんなところで寝てしまって――駄目じゃないか。

 玄関の扉の横で、眠ってしまうなんてな。

 外出先から、カメラで確認していて、スピーカーを通して、注意してやろうかと思ったが、やめておいた。

 ふふ。

 直接、お前を叱ってやろうと思ってな。

 ははは!

 一瞬で、目に涙をためたな。

 許しをこう言葉を口にするぐらいなら、最初からやらない方が良いのではないか?

 ルイーナ。

 お叱りは、いくらでも受けますから、抱きしめて下さい……そんな事を言うのが、お前の卑怯なところだ。

 ――おいで、父の胸の中へ。

 よしよし。

 昨晩は、父上が仕事で帰って来ずに、寂しかったのか?

 父上が、戻ってきたら、いち早く会えるように、玄関の近くにいたと。

 嬉しいね。

 そんな風に考えていてくれて。

 やはり、ルイーナは、僕のいとし子だ。

 だが、心配はかけないでくれ。

 仕事中に、遠隔で、エアコンや除湿、加湿器を、微妙な加減で操作するのは、それなりにわずらわしい。

 とにかく、風邪など引かなくて良かった。

 今日は、お前と一緒にいてやろう。

 だから、もう泣くな。

 朝食は軽く済ませるとして、カレーライスを食べたいか?

 あはは。

 たくさん、たくさん、うんうんとうなずいてくれたな。

 分かった。

 では、作ってやろう。

 野菜を、父上に一つずつ渡すやくをしてくれるか?

 さあ、こっちにおいで――』



* * * * *



「おはよう……してから、ずいぶん経つが、いまだにダンマリ。

 一言ぐらい、何か口にしたらどうだ?

 ルイーナ。

 窓の外が見えずに分かりにくいかもしれんが、もうすっかり夜だ。

 大人は、酒でも飲んで、ゆったりしたい時間。

 うまいものだが、お前には一滴もやる訳にはいかん。

 まだ十二歳のお前に、酒を飲ませるのは、法など、必要ならば作ったり変更してしまえば良いと考えている僕ですら、さすがにおくする。

 可愛い我が子の口に入るものには、気をつかってきたつもりだ。

 赤ん坊の頃のミルクも、離乳食の頃も、そして、食育に関しても、親としてしっかりと行ってきたという自負がある。

 なあ?」


「……さ、さっき……変な飴を……オレの口に入れただろうっ!

 見たぞっ!

 あ、しまった!

 って顔を、お前がしたところ!

 急いで表情を戻しても手遅れだっ。

 終わり悪ければすべて悪し!

 そういうのは、最後までやり遂げて、立派に締めくくれてから言わなければ、不要なただの失言だっ! って、母上なら言うはずだ!

 というか……母上はどうした!

 母上は、無事なのかっ。エリオット・ジールゲン!」


「やれやれ。

 再会の交流がてら、お前のおふざけにのってやったのに。

 僕の事は、相変わらずフルネーム呼び捨てなのか。

 ここには、僕ら以外に誰もいない。素直に呼んだらどうだ?

 『父上』と――。

 甘えた声で、許しをこうてほしいものだ。

 くくっ。

 ルイーナ。

 分かっているな?

 眠ったまま、どことも知らぬ場所に連れて来られて、目をさましたら地下室の柱にロープでふん縛られていた。

 ああ、先に言っておく。

 万が一、ここ一年で肉体を鍛えあげ過ぎて、超人的になっていたとしても、その柱を折ったりすると、この建物自体が崩壊する。

 木造建築は、もろいんだ……まあ、和ませる為の冗談だ」


「どうして……今さら、オレの前に姿を現したんだ」


「ふふ。

 不機嫌そうな表情だな。

 幼い頃から変わらず、可愛らしい態度だ――昔みたいに、抱きしめてやろうか?

 僕に、しばらく会えないと、お前は必ず、そう望んできた。

 本音ほんねでは、欲しているんだろ?

 この父を。

 典型的過ぎて、現実味に欠ける、防犯ポスター用に描いても却下されそうな誘拐犯ルックで現れたのに、すぐに僕だと気づいてくれたじゃないか。

 父上を、ずっと求めて、再会を待ちわびていたのではないのか?」


「ち、近づいて来るな……こっちに来るな……!

 くそっ。

 足までがっつり縛りやがって……男のオレでも、ちょっと恥ずかしくて、その部分を言わせるなって場所を蹴り飛ばして、撃退する事もできない……ちくしょー!」


「くくっ。

 その部分で、お前に負けるつもりはないっ! なにせ、お前を――」


「あぁああああああっ!

 言うなっ! それ以上、言うな……言うなっ! 絶対に言うなっ。エリオット・ジールゲン!」


「なるほど!

 理解している訳かっ!

 しばらく会わぬ間に、成長したな!

 これで僕は、親の義務をめでたく御役御免おやくごめんっ。

 だが、本当の使い方が分かっているのか?」


「……ん?」


「……ん?

 ルイーナ。

 なんだ、そのきょとんとした顔は。

 目が点になっている。

 思考が止まっているだろう……分かっていないな……興味がある程度か……同級生と話した程度か?

 こういう会話になったら、半ば本能的に、そういう反応をしてしまうと。

 ……まあ、いい。

 そこまで到達していれば、すべてを掌握するのは時間の問題。

 もう、親の僕が手を下す必要はないという事だ。

 ――そんな事よりも、ルイーナ。

 わざわざ神の歌い手のお前を、今日呼びつけた本当の理由をそろそろ話してやろう」


「オレをどうするつもりだっ!

 何を言われようとも、お前の手下にはならないぞ!」


「はは。

 ルイーナ。

 勇ましいのは顔だけだろ?

 なぜ、いろいろ認識しているお前が――お嬢さんにキスすらできなかった?

 ふ。

 一瞬で、目に涙をためたな。

 念の為に言っておく。

 口のあたりをモゴモゴさせながら泣く、その仕草しぐさは、幼い頃、僕に抱きしめてほしいとせがんできたものと同じだ。

 ――そんな事よりも、ルイーナ。

 わざわざ神の歌い手のお前を、今日呼びつけた本当の理由をそろそろ話してやろう。

 先ほどもこのような事があった気がするのなら、それは既視感きしかん――デジャヴだ。

 単刀直入に言おう、カレーライスを食べていけ」


「は?」


「においで察知していたのだろう?

 鼻の奥底まで届く、スパイスとハーブの薫香くんこうを!

 みじん切りにした玉ねぎは、甘みが濃縮されるまで炒めたっ。

 バターとオリーブオイルの両方を、玉ねぎを炒める際に使っておいたぞ。

 木べらでしっかりと、水分が飛ぶまでかき混ぜる必要があるじゃないか。

 重量が思い込みではなく、半分以下になったと確信できたところからが、本当の闘いの始まりだ!

 ここまでは、途中、他の材料を刻むぐらいの余裕を見せつける事ができる。

 だが、ここからは、一意専心いちいせんしんあめ色玉ねぎをこの手に堕とす事だけに、埋没まいぼつする必要がある。

 分かるか?

 完全なる注視が必要なのだっ。

 不熱心なさまわずかでも見せた瞬間、焦げる!

 火加減の調整をわずらわしいなどとは、一切考えてはならない。

 肉体も人格も、すべてを支配されたつもりで、ひたすら木べらを動かし続ける。

 そして、もろもろの準備なども含めて、小一時間のときを経て、あめ色玉ねぎが、我が手に握られている訳だ。

 ジャガイモを、よりおいしくするコツなども披露したいところだが――ルイーナ。お前の心はすでに、カレーライスを求めてまないのだろう?

 どうだ。

 この父の手作りのカレーライス、食べたくはないか?」


「い、いらない……オ、オレは、お前の作ったものなんて……」


「素直になったらどうだ。

 黙り込んでいたのは、僕と喋りたくなかったからではないと!

 腹が減った気持ちをごまかそうと必死だっただけだっ。

 知っているぞ。

 冷めた昼食の弁当よりも、夜に温かなまま食べる食事の方が、プライオリティが高くて、小さめの弁当箱を愛用している。

 ルイーナ。

 それは、夕食をたくさん食べる為の、お前の一つの戦略なのだろう!

 ちなみに、このカレーライスは冷めてもおいしい。

 ライスが少しかたくなってきても、それを上回るだけの価値を提供できる一品ひとしなだ。

 さあ、言えっ!

 『父上、今までの事をお許し下さい。これからは、父上のお言いつけは、すべて守りますので、早くそのカレーライスを食べさせて下さい』とな!」


「断固、拒否します」


「ほう。

 ルイーナ。

 自分でも分かっていると思うが、大粒の涙が頬を伝っている。

 先ほども言ったが、この建物は木造建築なんだ。

 そんなにボタボタとやられると、床が濡れる。

 そして、ここは、窓のない地下で、日中にっちゅうでもがさしこまない。

 困るな。

 湿気で床が傷むじゃないか。

 くくっ。

 柱に縛られて、なんの抵抗もできないが、せめて一矢いっしむくいるつもりで嫌がらせか?」


「い……いや、オレは、そんなつもりは……」


「ふふ。

 ぷるぷると、本気で首を横に振っている様子だが、僕が、聞き入れると思うか?

 そんなに、懲らしめられたいのだな。

 お前が、今、うちの親は言いがかりしかつけてこないと考えたのは、眉のあたりをピクピク動かしたので気づいているが――僕は、しつこいんだ。

 僕の本性など、もうすっかり分かっているのだろ。

 この父を、断固拒否するという発言は、本気か?

 それは、ルイーナ。

 お前が不快を感じるまで、執拗しつように攻撃してほしいと願い出てきたのと等しいと受け止めてやろう。

 発言の撤回を認めるつもりはないっ」


「……よ、寄るな。

 カレーを盛ったスプーンを持って、オレの方に来るな……そ、それをどうするつもりだ!」


「もちろん、僕の手で、ルイーナ。

 お前にカレーを食べさせてやるつもりだ。

 今さら躊躇ためらう事などないだろう?

 お前の人生で初めては、すでに僕がもらっている。

 それからも、何度、口に突っ込んでやったと思っているんだ!

 この行為が何にあたいするかを、理解したのちも、お前は、僕にそうされる事を渇求かっきゅうしてきた。

 ひとときの快楽に溺れたいが故に、お前の方から、得たいと願ったんだっ。

 さあ、いれてやろう。

 素直になれ。

 拒否して、さらに酷い目にあうのは嫌だろう?

 口に含んで、ただ、御馳走様ごちそうさまでしたと言うだけだ!

 ははっ。

 だがな、与えてやるのは、一度だけだ。

 それ以上が欲しかったら、お前の言葉で、その事を伝えてもらえるか?

 いいなっ」


「……や、やめ……こ、これ以上、刺激されたら……っ!」


「ほら、食え。

 カレーライスを食え!

 暴れるなっ!

 大人しく、口を開けろっ!

 僕は、この白い開襟シャツが気に入っているんだ!

 生地を適切に選べば、リラックス感を得ながら、気品あふれる印象作りも可能なんだっ。

 そして、デニムジーンズは、クラッシュ具合にまでこだわってみると、とても奥が深い。

 バランスまで含めて、ダメージの良さを独自に研究して、みずから手間暇かけて加工したんだっ。

 これにカレーがついたら、どうしてくれる!」


「じゃ、じゃあ、カレー持って近づいてくるな……あ、でも……カレーたべた……いや、いらないっ!

 オレは、お前の作ったものなんて、食べないっ!」


「自力では到底逃げられん状況だろっ。

 ルイーナ。

 このおよんで、暴れるな!

 父とは、このまま同じ屋根の下で暮らす事になるんだ。

 僕との日常生活についてを、思い出させてやるっ。

 なあ。

 幼い頃から教え込んできただろう!

 繊維へのダメージが少なく、シミや汚れに有効だと言われる粉末酸素系漂白剤。

 だが、時間の経ったカレーのシミには、対処しきれない場合がある!

 色落ちなど気にしないのであれば、塩素系漂白剤を使う手もあるが、それでも簡単には消えない。

 おぼえているかっ。

 幼いお前が、カレーライスの日なのに、お食事エプロンをどうにもつけないと駄々をこねた挙句に、お気に入りの服を汚した時の事を!

 失敗して分からせてやろうと思ったが、服が駄目になった事で、不機嫌の限りを尽くした。

 このエリオット・ジールゲンが、『うちの息子は、どれほどの暴君なんだ』と軽く怯えたぐらいだっ!

 いかれるお前をどうにか鎮める為、かなりの金額を投じて、プロのシミ抜きに頼る羽目になった!

 くくっ。

 支配者階級育ちで良かったな。

 あれなら、同じものを作れとオーダーメイドした方が安上がりだった!

 だが、これでなくては駄目だと、どうせすぐに着られなくなる、使用期間の短い子供服なのにおまえは――」


「うわあぁああああああああっ!

 カッコ、父親の尊称、カッコ閉じる。

 それ、食べますから、これ以上、長々と話すのやめてもらえませんかっ!

 素直に言います。

 おなか減ってます!

 鼻先のあたりに、そんなおいしそうな匂いを突きつけられて……でも、これは、カッコ、父親の尊称、カッコ閉じるに陥落した訳ではなく、母上が、捕まった時には、プライドに固執こしつするよりも、与えられた食事で、とりあえず生き延びなさいと仰っていたからです。

 だぁああああああああ!

 ふん縛られていて、手を合わせる事はできないが……『いただきます!』なら心を込めて、何度でも言ってやるから……食わせろ……いや、食べさせて下さい!

 子供のオレが、しかも空腹。

 確実に自分好みの味付けと分かっているカレーライスが目の前にあるのに、たえられる訳がない!

 お願いします。

 カレーライス食べたいです!」


「ルイーナ、よく言った!

 雛鳥ひなどりのように、自分で口を開くという態度を見せたので、『父親の尊称』でとどめた事は不問にしてやろう。

 さあ、食べるがいいっ!」


「……お、おいしい!」


「カレーライスを好むような、まだ子供のお前に一つ言っておく。

 ルイーナ。

 彼女とのお喋りが楽しい時期なのは分かるが、夜は、もう少し早く寝ろ。

 ……なぜ、眠った?

 普通の飴だったんだぞ。お前の口に入れたものは。

 はあ……。

 足として、車を用意しておいて良かった。黄昏たそがの公園になど放置できんからな」


「もぐもぐ……えっ?」


「まあ、いい。

 カレーライスを、食べてくれて良かった。

 ……ぎりぎりだったな。

 やれやれ。

 あと一分二十二秒で、ここに踏み込まれる。

 野菜を切ったり、炒めたり、もちろん調理のほぼすべてを担当したのは、僕だが、鍋をかき回したり、皿に盛ったり、そしてこの制圧のしるしの白旗を立てたのは――まあ、時間がない。

 とりあえず、食べろ」


「どういう事……えっ!

 あっ!」


「動くなっ、エリオット・ジールゲン! 小屋の周りは包囲させてもらった!

 無事かっ、ルイーナ!」


「ダノンさんっ」


「はい。いらっしゃいませ……お客様、申し訳ないが、そちらこそ一歩も動くなよっ!

 この小僧が、どうなってもいいのか!

 頭に、拳銃を突きつけさせてもらった!」


「え……あ……ちちう……エリオット……ジールゲン?」


「あああっ!

 あんた、やっぱり生きていたんだなっ!

 うちのルイを今すぐ、解放しろっ!

 あたしが来たからには、悪事を働くのはここまでだ、エリオット・ジールゲンっ。

 早く基地に帰って、とっとと夕飯の時間にしたいから、バカな真似はやめて、大人しくお縄につけ!

 っていうか、なんでカレーの匂いが、こんなにも充満してるわけ?

 空腹を刺激するだろう……って思ったら、机の上にカレーライスの皿が置いてある?

 お子様ランチみたいに、旗まで立ってるし。

 は、早く帰って、夕飯食べたいっ」


「エルリーン!

 小屋の外で、ジーンさんたちと待っていろと言っただろうっ!」


「ルイが捕まってるのに、彼女のあたしが外で、大人しく待ってる訳ないだろ。

 なんか、ダノンには考えがあるみたいだけど、ジーン叔父さんだって、みんなだって、外で待たされてソワソワしてるさっ!

 それにさ。

 ダノンが単身で乗り込むなんてどういう事さ!」


「エルリーン! 戻れとは言わないっ。俺の後ろで、大人しくしていてくれ!」


「……エルリーン! とりあえず、オレは無事だから。

 いったんダノンさんの指示を聞いて」


「良かったな。

 お嬢さん。

 僕と、知り合いで。

 ――言っておく。

 警戒などせずに、地下室への階段を降りてくるな。

 しかも、大声をあげながら。

 小僧を撃つべきだったか?」


「そんな事したら……このあたしが、あんたを――討ち取ってやる!」


「おやおや。

 お嬢さん、拳銃なんかを僕の方に向けて、いまだに、誰も討ち取った事がないくせに。

 彼氏の前で、僕を仕留しとめられるのかね?

 あはははははっ!

 この小僧には、今のいままで、最大限の恩情おんじょうをかけて説得を試みたが……僕の配下に戻る気はないと言うんだ。

 つまり、人質以上の価値はない。

 引き金を引くなど簡単な事さ。

 だが、君たちはどうなんだ?

 特に、お嬢さん。

 ルイーナが、この場でいなくなったらどうする?

 こいつは、お前たちが敵意をいだいた眼差しを向ける、この僕――エリオット・ジールゲンがいなければ生まれてもいない存在だ。

 責任を果たして、なかった事にするのも、創造してしまった人間のつとめだと思わないか?」


「やめろっ。

 それ以上、引き金に力を入れるな!

 ル、ルイだって……怯えてる……やめろ……やめろって……」


「うん。お嬢さん、素直でいい。くく」


「エリオット・ジールゲン。何が目的だ?

 なぜ、今さら、俺らの前に現れた。

 軍を、再び盛り立てる為にルイを、いや、神の歌い手と世界からあがめられるようになった息子を利用するつもりか?」


「やれやれ。

 うまく伝わっていないようだ。

 責任者の人とは、面と向かうのは初めてだが、若いのにもう少し理解があると思っていたが」


「普通に、親として息子を迎えに来た。

 ただ、それだけだと言いたいのか?

 それとも――。

 依頼主でもいるのか?」


「……ああ、良かった。

 責任者の人は、普通に、世間からも認められるような人物のようだ。

 さて――」


「……な、なんだよ。

 あんた、いきなり拳銃捨てて、両手あげて……あ、あたしに言われたから、恩着せがましく降伏するとか言わないだろうな……」


「ああ。

 お嬢さんの功績にしておいてやろう。

 今すぐ、両膝りょうひざをついてやってもいいが、持ち物検査をするなら、立っていた方がいいだろ?

 責任者の人、お嬢さんが来てくれて良かったな。

 拳銃を、僕に向けたまま、ボディーチェックができる。

 危険と判断されるような物は所持していないが、済んだら、床にひざをつく事を約束しよう」


「……エリオット・ジールゲン?

 あの、オレっ」


「ルイーナ、少し黙っていてくれるか。

 ああ、責任者の人。

 たぶん気づいていると思うが、その拳銃――贋物がんぶつだ。

 念の為、確認してくれ。

 見かけはよくできているだろ?

 だが、重さ加減が微妙だ。丁度良いものが用意できなかった」


「エリオット・ジールゲン。

 人の心など持たぬ、お前に言う事自体が間違っているのかもしれんが、それは、俺ではなく、ルイーナの方に言ってやってくれ。

 ……はあ。

 しかし、やはり、投降する目的で姿を見せたのか」


「えっ! 本当に!

 ダノン。

 こいつ、本当にお縄につきに来たわけ。

 あたしに言われたからとかじゃなく!

 だったらさぁ。

 ルイをとっ捕まえるなんてせずに、普通に出て来い!

 謝れよっ。

 どれだけ、ルイが辛かったって思ってるんだっ!」


「謝る?

 この僕がか?

 ふふ。

 言葉でならいくらでも表現してやるが、どんな心がこもっているかは分からんぞ。

 それに、ルイーナが、僕に心を開く事があれば、そのまま共に連れて行ってやるつもりだった。

 ふ。

 お嬢さん。

 反省などしていない僕に、謝罪をさせて意味があるのかね。

 だが、残念だ。

 依頼を受ける条件として、このままルイーナを加えて、余生を過ごすというのを選択肢に入れさせてもらっていたのだが」


「……オレを加えて?

 エリオット・ジールゲン。依頼って、なんだ?」


「ルイーナ。

 勘づいているのなら、もう少し、素直な言葉を口にしたらどうだ?

 ははっ。

 責任者の人は、気づいていて、小屋の中にはたった一人で入ってきたようだな」


「ああ。

 正直、世の中というものが、どう変化してしまったのか、俺にもよく分からない事になっている。

 だが、意味もなくエリオット・ジールゲン。

 あんたを討ち取ったりしたら、そこで戦争再開だ。

 俺の組織が、原因となるのは、御免ごめんだからな」


「ええっ。

 ダノン? あたし、もう、本気で分からない? どういう意味なんだ?」


「エルリーン。

 それは、現在の他の反乱組織や軍、民間人の思惑を理解していないと、分かりにくい話になる。

 あとで、俺からゆっくり話すつもりだ。

 ――まあ、エリオット・ジールゲンの依頼主が、俺なんかよりも分かりやすく説明してくれるかもしれんがな。

 なあ。

 そろそろ、出てきてくれないか。

 黒幕さん。

 俺の勝手な決めつけだったら悪いが、奥に見える倉庫か何かの扉。それが開いた時、何が起こるというんだ?」


「――あら。

 さすが、ダノン。

 私が、隠れている場所まで、バレてるなんて。

 ふふ。

 直接会うのは、七年ぶりかしら――」


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